| □ Genre menu bar □ はじめに ゲゲゲの鬼太郎 DRAGON BALL 3.3.7.ビョーシ 犬夜叉 GAME | ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■ |
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32 猫の秘密
] 猫が齢を重ねると猫又になる。 猫又が不老の力を得ると猫ショウになる。 巨大妖怪・猫ショウを越えるのは……。 「く……っ」 若さのエキスを吸い巨大な体を得た猫ショウの前、鬼太郎が立ちはだかる。 お得意の髪の毛針もリモコン下駄も効果はなく、先祖の霊毛を編みこんだちゃんちゃんこでさえ敵わない。 (参った…な) 人間を襲った猫ショウはやがて更なる力を求めて妖怪を襲い、その能力を得るごとに体を膨張させていった。 鬼太郎の体の数倍はあろうという猫ショウの姿。その尻尾は猫又の頃のまま二つに分かれていた。 「どうした鬼太郎…。来ないようならばこっちから行くぞ!」 図体に似合わぬ俊敏な動き。猫族妖怪特有の能力のひとつだ。 鋭い爪を寸前で交わし、キッと睨み上げる。 (こんなことならば…猫仙人に相談しにゆくべきだったか) 累々と地に並ぶ、倒された仲間たちが視界に入り、鬼太郎の胸は酷く痛んだ。 (砂かけ…子泣き…一反…ぬりかべ…ねずみ男も……ごめんっ!) けれど、猫仙人に助けを求めればいずれ猫娘の耳にも届く。 誇り高い猫族妖怪の中に、不老不死への欲望に取り憑かれた同族が現れたと知ったら、猫娘はどれほど胸を痛めることだろうか。 そして、たとえ悪事をはたらいたとはいえ、その同族を退治すると聞いたら……。 「もう…やめるんだ! 猫ショウ!!」 再びリモコン下駄で急所の猫目を狙うが効果はない。先刻の攻撃で、もう鬼太郎の間合いは見切られてしまっていた。 固く閉じたまぶたを開くと───化け猫特有の黄色く光った鋭い眼がにやりと笑った。 「やめろだと? 誰がそんな説得をきくか!」 一回転して広げた距離がじりじりと埋まる。 「誰にも邪魔はさせない。貴様の霊力を奪って、わしは最強の猫ショウに……!」 その時。 ちりりーん…と、鈴の音が響いた。 大きな三角耳をぴくりと動かした猫ショウは、その鈴の音を追って視線を走らせる。 「お前は…っ!」 「?」 森にかかる霧の中。目を凝らすと、赤いスカートが揺れた。 分からぬはずはない。よく、知っている。 「猫…娘……?」 鈴のついた首輪を指先でくるりと回し、まっすぐに歩み寄ってきた。 「だ…駄目だっ! 猫娘っ! 逃げて…っ」 近付く猫娘の前に立ちはだかり、猫ショウを睨みつける。 許さない。この娘に危害を加える者は何人たりとも許せない。 人でなくとも、許さない。 「…大丈夫よ…? 鬼太郎」 「え…あっ!」 鬼太郎の肩を押し退けて、猫ショウの元へと進んでいく。 ちりりーん…と、また鈴の音が響く。 まるで頭の中で鳴り響くようなその音に、鬼太郎は両手で頭を抱えた。 思わずひざから崩れ落ちる。力が入らない。 (これは…一体……) どんな幻術も効かないはずの体に直接響いてくる。 (体が……意識が……) 地に這いつくばった鬼太郎を背に、猫娘は猫ショウを見上げた。 「不老の力が欲しいの?」 「……あぁ…そうだ」 「なんで?」 怖れずに近付く猫娘を訝しがりながら、猫ショウは答える。 「永遠を生きるのだ…。可弱く、短い一生はもう沢山なのだよ」 猫娘は瞬きもせずにじっと見つめている。 いつの間にか、その目をそらすことができない。金縛りにあったように猫ショウは硬直していた。 「最強の力を得て…永遠の命を手にするのだ。そして…永久なる君主の座に君臨する」 「…ふうん…」 くすりと口元を上げて猫娘が笑った瞬間、金縛りが解けて猫娘に襲いかかった。 (猫娘───っ!!) 地に伏した鬼太郎はもう声も出ない。 震える手を伸ばしたが、起き上がる力などない。 「お前の力も奪ってやるっ!」 猫ショウの鋭い牙が猫娘の首筋に咬みつき、今まで人間や妖怪にしてきたように若さのエキスを吸い取り始めた。 「やめ…るんだ…っ」 力なき鬼太郎の言葉は届かない。 ただ、目の前で猫娘の妖力が吸われていくのを見つめているしかなかった。 こんな悪夢は今まで何度でも見てきた。 けれど、これは今、現実に起きているのだ。 鬼太郎がずっと、怖れて、怖れて、怖れてきたことが目の前で行われている。 (猫娘…っ) 恐怖心は鬼太郎の精神に触れ、正気を手放すきっかけとしては充分だった。 辺りにたちこめた霧が濃く、黒ずんでいく…… 鬼太郎の内に秘めた、巨大な力がざわついた。 「…あたしの…力?」 ちりりーん…。また鈴が鳴ると、鬼太郎はハッと正気を取り戻した。 「あたしの力を吸い取れると思ってる…の?」 「!?」 首に吸い付いた猫ショウの大きなあごに手を当て、猫娘はコロコロと笑った。 いくら吸い込んでも吸い込んでも…猫娘の若さは失われることはなかった。 底なしの不老の力───。 笑い声は鈴の音と重なる。幼子の高音質の笑い声だ。 「…おばかな子猫ちゃん…。もうおイタはしちゃダメよ?」 鈴の鳴る、手にした首輪を猫ショウの首に装着する。 「ぐっ…ウゥァアアァっ!」 「……たかが数百年生きた猫又に…不老の力は必要ないよ…」 猫ショウは光を放ち、苦悶の叫びに身をよじった。 (…な…何…?) 猫ショウをおおった光はみるみるうちに縮小していく。いや、猫ショウの身ごと縮んでいった。 猫娘の木の葉型の瞳が妖しく光っている……ように見えるのは、その光を映し出しているせいだろうか。 そのせいだけ、なのだろうか。 「…それに……不老なんて…何にもいいことないよ…」 ぽつりと呟いた猫娘は、光を失って通常の猫ぐらいの大きさに戻った猫ショウ…いや、ただの猫を抱き上げる。 その首には鈴のついた首輪がつけられていた。 力尽きた猫の狭い額を撫でる猫娘は、感慨深げに口をつぐむ。 哀しんでいるようにも見える。微笑んでいるようにも見える。 猫を労わるように撫で続ける猫娘を、じっと見つめていた。 (あれが…猫ショウ…?) とても敵わなかった強敵が、今や猫娘の腕の中、大人しく眠りについている。 目の前で起きた事態を理解し切れず───助言するはずの父の姿もなく、鬼太郎は呆然としていた。 「あ。そうだった…」 不意に顔を上げた猫娘は、硬直したまま地に伏せた鬼太郎にゆっくりと近付いてくる。 すぐ近くで足を止めると、ひざを折ってしゃがみこんだ。 「猫…む…すめ…、君は…」 猫ショウにしたように、優しく鬼太郎の頭を撫でる。 「おやすみ。鬼太郎」 猫仙人に習った術で鬼太郎を眠りにつかせる。 どこまで覚えているだろう…どこまで見てしまったのだろう。 面倒だから「えいっ」と気をこめて、猫ショウに立ち向かう寸前までの記憶を消し去るよう念を込めた。 再び鬼太郎が目を開いたのは、いつものあばら屋の中。 「う…うーん…」 ぼんやりとした頭を支えて起き上がると、卓袱台を囲んでいた砂かけが「おぉ起きたか」と呼びかける。 「ここは…」 「よくやったな、鬼太郎。さすがわが息子じゃっ」 「え……?」 「何じゃ覚えておらんのか? わしらがやられてしまった後、お前は猫ショウをやっつけたんじゃろうが」 子泣きじじいが笑いながら言うと、土間から覗いたぬりかべは不甲斐なさそうに唸った。 「猫ショウ…」 そうだ、思い出した。 猫ショウを追って森に向かい…仲間たちは皆 妖力を吸われて倒されてしまった。 そして…。そして…? (僕が…倒した…んだっけ?) 掌を広げてじっと眺めてみる。その手応えが思い出せない。 注意深く記憶を辿ると、鈍く重い痛みがのしかかってきた。 「さすがだねっ。鬼太郎」 嬉しそうに猫娘が笑い、ハッと目を上げる。 弧を描くように細めた目、あどけない笑顔に目を奪われて、鬼太郎は照れくさそうに頭をかいた。 「いや…そんな。みんなが力を合わしてくれたからだよ…」 たぶん。覚えてはいないが、きっとそうなのだろう。 現に猫ショウはもういない。もう、いないのだから。 「うん? ところでその、さっきから抱いている猫は何だい?」 猫娘の腕の中。大人しそうな子猫が鎮座していた。 「あぁこの子? この子はねぇ、あたしのお友達よ」 「ふ…ふうん」 遠慮なく猫娘の胸にすり寄り、心地好さそうに目を細めている。 それはそれは心地好いのだろう。 猫の温もりを抱きしめる猫娘も、嬉しそうに微笑んでいる。 いつもの笑顔で、微笑んでいる。 「……そう」 不機嫌そうに口をつぐんだ鬼太郎がもう一度目を向けると、その首には鈴のついた首輪がしっかりと装着されていることに気付いた。 猫が齢を重ねると猫又になる。 猫又が不老の力を得ると猫ショウになる。 巨大妖怪・猫ショウを越えるのは……やはり猫。 もし猫ショウが不死の力を得たら……? それは猫だけの秘密。 Fin. |