| □ Genre menu bar □ はじめに ゲゲゲの鬼太郎 DRAGON BALL 3.3.7.ビョーシ 犬夜叉 GAME | ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■ |
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34 今だけの真実
] 「うん?」 カラスの背に乗って家路を辿る途中、よく見知った姿を見止める。 その横顔は普段らしからぬ憂いに満ちているように見え、目玉おやじはふと身を乗り出した。 「カァー」 危ないよ、と鳴くカラスに目玉おやじは指示を出す。 「おい、ちょっとその河原で下ろしてくれ」 「カァー」 今度は承諾の鳴き声を上げ、悠々と回旋しながら河原へと降り立った。 「おーい、猫娘じゃないかー?」 見上げた瞳がその姿を捉えると、すぐいつもの笑顔に戻った。 だから目玉おやじは、さっきの表情は見間違いかと思い直した。 バサバサと羽根を立てて地に下りたカラスの背から降り、小さな歩幅で猫娘に歩み寄る。 「どうしたの? オヤジ様」 「うむ。一寸野暮用で出ていたんじゃが、おぬしの姿が見えたから降りて来たんじゃ」 猫娘は嬉しそうに笑って、肩を竦めた。 「最近遊びに来ないのう?」 「……うん」 河に視線を戻した横顔はやはりどこか沈んでいる。 上空から見下ろした時と同じ、憂いを含んだ微笑だった。 「なんだか行きそびれちゃって…」 「何でじゃ?猫娘らしくもない」 両腕を組んだ目玉のおやじの言葉に、猫娘は目を細めた。 幼いはずの猫娘が見せる、妙に大人びた表情。少女特有の間隙に目を見張る。 「なんでかなぁ…。うーん」 「……何か心配ごとがあるのなら相談に乗るぞ?」 「心配ごと…?」 中空を見上げて、猫娘はふっと笑みを見せる。 「うぅん、心配なんかじゃないの。あたし…ちゃんと分かってるよ?オヤジ様」 「何がじゃ」 「……あたしはあんまり、オヤジ様の家に居ついちゃいけないんだよ、ね?」 「?何の話じゃ」 「だってあたしは、よその子だもん」 なぞなぞのような言葉に目玉おやじは首(?)を傾げた。 「あー…別に構わんじゃろう。ほれ、この間 鬼太郎も言ってた通り、猫娘はやつのお嫁さんになるんじゃろうから」 「お嫁さん…?」 三角座りのひざに両腕を組んで、猫娘は「えへへ」と笑う。 「あたし…知ってるよ? 鬼太郎は幽霊族の生き残りなんでしょ」 「うむ、そうじゃが」 「…きっと、どこかに生き残ってる幽霊族のひとを探してるんだよね?」 「うん?」 穏やかな口調で続けるネコ娘の声は風に乗り、河原の草むらを波打ちながら消えていく。 「その人と結ばれて…赤ちゃんを授かって。それでまた、幽霊族が増えていくのが、オヤジ様と鬼太郎の願いだよ…ね?」 「………」 違うとは言えない。もし絶えかけた幽霊族がこの先増えるというのなら、目玉おやじにとってもこの上ない幸せだ。 そんなことは望んでいないと言えば、嘘になる。 「だから、あんまり居ついちゃだめだよね」 「……あー…しかし、そういうことは当人同士の問題じゃからして、わしが何と言おうと鬼太郎が…」 「うふふ。鬼太郎がオヤジ様の望みを無碍にするわけないじゃない」 「しかし…」 「大丈夫だよ、オヤジ様。あたし、ちゃんと分かってるんだぁ」 真っ直ぐに河を見つめた瞳。笑っているようにも耐えているようにも見える。 大きな瞳には流れ続ける川のせせらぎが映り、揺らいでいた。 「…今だけ、だよ…」 記憶になくても、分かって、いる。 幼少期から青年期に差しかかる前のほんの短い間だけのこと。 けれど猫娘にとっては、その一時期だけが永遠だ。 いつまでも少女のまま。行き過ぎる様々な命を見送るだけのこと。 「……そんなことを考えておったのか」 目玉のおやじの呟きが聞こえていなかったのか、それとも聞こえないふりをしていたのか。 猫娘はただ黙って微笑んでいた。 「どうしたんですか? 父さん」 出先から戻ってずっと考え込んでいる父を心配し、鬼太郎が呼びかける。 茶碗風呂がすっかり冷めてしまってからも、じっと目を伏せて(?)唸っていた。 「お湯…足しましょうか」 「うーむ…いや、いい。のう鬼太郎? お前は猫娘をどう思う」 「どう…って…」 漠然と尋ねると、鬼太郎は赤くなったり青くなったり、視線を泳がせては宙を見上げてぼんやりしたり…。 猫娘のことを思い浮かべて落ち着かない様子で百面相をしてみせた。 思わず笑い出すと、鬼太郎はハッと我に返って顔を赤くした。 「と、父さんっ。突然に…一体何なんですかっ」 「いや、もういい。分かった」 「何ですか…。…気になるなぁ…」 猫娘の心内にある覚悟を告げるべきかどうか迷ったが、父は黙ってまた目を伏せた。 どんな憂いも跳ね返す力を信じている。 たとえそれが、どんな結末になろうとも─── 自慢の息子を信じて、ただ誇らしく胸を張り、 「おい、鬼太郎。やっぱり湯を足してくれ」 と、おやじは言った。 Fin. |