| □ Genre menu bar □ はじめに ゲゲゲの鬼太郎 DRAGON BALL 3.3.7.ビョーシ 犬夜叉 GAME | ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■ |
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36 祝いの心
] 町から続く森への道。夕焼けの下、猫娘が戻ってきていた。 足元には長い影が伸び、ふと目を上げればその先に鬼太郎がいた。 「鬼太郎」 呼びかけると、鬼太郎は黙って手を上げた。 聞きたいことなら山ほどある。 一体 町へ何しに出ていたのか。誰と会っていたのか。何ごともなかったのか。 けれどあんまり聞いては心の狭い男だと思われるので、ただ押し黙って微かに笑った顔を作るのが精一杯だった。 「お友達の誕生日祝いだったのよ。お土産もらってきたから寄ろうと思ってたのー」 丁度良かったと猫娘は笑う。 「誕生日会…?」 本当は。どんな“お友達”であるのかの方が気になっていたが、スッと差し出した手を繋がれたのが嬉しくて、わだかまりはすぐに、消えた。 「うん。そうよ? 今日で五歳になるんだってー」 ガキか。なら、いい。まさかそんな幼児に対してまでやきもちを妬いたりなどしない。 「誕生日…かぁ」 夕映えの空を不意にカラスが鳴き、遠ざかるまでの間、二人の間には沈黙が下りた。 猫娘はハッと気付く。 鬼太郎にとって、自分自身の誕生日はそのまま母の命日でもある。 人間は、生まれ落ちたその日が誕生日と呼ぶが、鬼太郎の誕生日は些か違う。 母の鼓動が途絶え、同時に鬼太郎の生命維持を保つ力さえ途絶えた瞬間が、鬼太郎の誕生の瞬間だ。自分自身の生命力で命を繋がなければ、そのまま墓土と化すだけだった。 「………」 不意に鬼太郎の横顔を覗き込む。前髪に覆われた横顔だけでは表情が読めない。 繋がれた手は歩を進める間隔と同じく前後に揺れ、強く握られるでもなく弱く離されるでもなく、いつも通りに温かい。 鬼太郎は寡黙な方だから、こんな時に猫娘はいつも気を揉むばかりだ。 押し黙ったままで母のことを思い浮かべているのだろうか。それは悲しい気持ちだったりしないだろうか。 「…ごめん…」 「うん?」 立ち止まった猫娘の手に引っ張られるように足を止める。 「どうしたんだい?」 「あの…」 俯いて黙りこまれると、今度は鬼太郎が気を揉む。 猫娘はいつもはお喋りだけれど、こんな時は急に口をつぐんでしまうのだ。 猫の瞳のようにくるくると回る猫娘の感情の移ろいは、のんびり屋の鬼太郎にはついていけない。 でも、ついて行きたい。だから鬼太郎はその顔を覗き込んで待つだけだった。 「あたし…変なこと言っちゃったの? だから…黙っちゃったの?」 「いや、違うよ。ちょっと不思議だなぁ…と思って」 何が? と猫娘が首を傾げると、鬼太郎は微笑みかけた。 「だって、その友達の誕生日なんだろう? なのに、その子をお祝いするの?」 「どういうこと?」 「うん…たとえばさ。猫娘の誕生日っていつ?」 「え…」 思い起こしてみたが、記憶にはない。 それは、生まれ落ちたばかりの猫娘ともども、母にさえグレゴリオ暦の知識はなかった。必要がなかった。 春が来て、夏が来て、秋が去ると冬が来て……その繰り返し。 温かい感触は覚えているような気もするが、それは母の胸の温もりだったようにも思え、季節すら判然としない。 「……知らない」 「そっか。残念だなぁ…」 心底がっかりした表情で吐息をもらす。 「どうして鬼太郎ががっかりするのよ?」 「うん、だからさ。猫娘の誕生日をもし知っていたのなら、毎年僕がお祝いされるべきだと思うんだけど」 「はぁ?」 「だって。猫娘が生まれて一番嬉しいのは僕なんだし…」 鬼太郎はまた不思議そうに首を傾げた。 「なのに、誕生日の本人がお祝いされるのって…ちょっと不思議だなぁってさっきも思ってたんだよ」 人間って不思議だなぁ、と鬼太郎は首を傾げたままで歩き出す。 しかしまた、繋がれた手に引っ張られて足を止めた。 「どうしたんだい?」 猫娘はまた、俯いている。けれど今度はその表情がよく分かった。 真っ赤な顔をして肩を震わせている猫娘は、鬼太郎の言葉を反芻すると… 嬉しくって、恥ずかしくて、つい、頭に来て… 「何言ってるのよ! ばかぁ!」 繋いだ手を解いてどんどんと先へ進んで行ってしまった。鬼太郎も早足で追いかける。 おかしいな。 猫娘の表情で、喜んでいることは分かるのに、どうして怒らせてしまったのだろう? ただ、本当のことを言ってみただけなのに。 「とにかくっ。妖怪に誕生日なんて関係ないのよ! 人間はね、聖者の生誕とか、バレンタインデーとか、うみの日とか、ふみの日とか、いろんなイベント行事が好きで、誕生日もそれと一緒なのっ」 猫娘は意外と人間の世俗に詳しい。並べられた記念日(?)は鬼太郎の知らないものがほとんどだった。 物知りだなぁ…と鬼太郎は感心してうんうんと頷く。 「それに、ねずみ男みたいな商魂たくましい商人が煽ってるだけなんだしねっ。そんなの気にすることないよ、必要ないもんっ。たった一年過ぎればまた訪れる一日なんて、何も特別じゃないよっ」 照れ隠しに早口で言い続ける猫娘の言葉を聞きながら、それでもやっぱり猫娘の生まれた日は、自分にとっては大切な日なんだけどなぁ…と、鬼太郎は口元を緩めた。 「なんか文句あるっ!?」 「いや、ないよ?」 言いたいことはあったけれど、文句では、ない。 鬼太郎が微笑みかければますます猫娘の顔が赤くなるから、言いたい気持ちが伝わっていることはもう、分かっていた。 猫娘が急に黙り込んで謝ったのも、理由は分からずとも気持ちは伝わっていた。 鬼太郎を思いやって出た言葉なのだと、その表情だけで伝わっていたのだった。 Fin. |