| □ Genre menu bar □ はじめに ゲゲゲの鬼太郎 DRAGON BALL 3.3.7.ビョーシ 犬夜叉 GAME | ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■ |
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39 初雪の日
] ある寒い日。 ふと窓の外に目をやった猫娘は、その大きな瞳を見開いた。 「雪だ…」 今年最初の雪がゲゲゲの森上空に舞い散る。 それはじっと凝視しなければ分からないほど儚い六花。木枯らしに吹かれてなかなか地に降りることができず、もたもたと中空を白く染め上げていく。 猫娘は外の寒さも忘れて、部屋の外へと飛び出して行った。 林道を駆けている間にも、雪はどんどん降り続く。 今晩中 降り続けば、明日には雪遊びができるほど積もるだろうか。 駆けていく白い足に冷ややかな空気が渡り、吐く息が白くなるのも忘れて、猫娘は一路ゲゲゲハウスへと進んでいく。 すると…… 「あ…れ?」 一本道の向こうから、黄色と黒のちゃんちゃんこ、青い学童服の少年が下駄を鳴らして駆けてきた。 互いの姿を見止め、目を上げる。 「鬼太郎…?」 「猫娘…」 互いの名を呼んで立ち止まると、二人の間に上がった息が白く吐き出された。 (こんなに急いでいるなんて…何かあったのかしら?) この道は、脇道へそれれば街へも繋がっている。 また何か事件があって、助けを求める人のため、この雪の中を駆けていたのだろうか。 (それに比べてあたしは…) ただ初雪が嬉しくて、鬼太郎にも見せたくて。とるものもとりあえず飛び出した自分を省みて猫娘は恥じた。 「そんなに急いで…どうしたの?」 息をついた鬼太郎が問いかける。 猫娘は照れ笑いを浮かべて、首を横に振った。 「う…ううん、大したことじゃないよ。鬼太郎こそどうしたの?」 「え…僕は……」 ぽりぽりと後ろ頭を掻いて、鬼太郎も照れ笑いを浮かべる。 まさかこんなところで会えると思っていなかったから、どうにも決まりが悪かった。 「あ。急いでるんじゃないの? ご、ごめんね」 「いやぁ…急いではいたんだけど……」 言いよどむ間にも頭に、肩に、白い雪が降り積もって来る。 そして顔に触れた雪は、赤く染まりそうな頬を程よく冷やしてくれた。 「また街で事件でもあったの? あたし…何か手伝おうか」 「いや、事件じゃないよ。そんなんじゃなくって…」 猫娘が不思議そうに首を傾げると、鬼太郎は俯いて肩を竦めた。 「……さっきね。目が覚めたら雪が降っていたから…。猫娘と一緒に見たいなぁと…思ったんだけど…」 「え…?」 「あっ。でも猫娘は出かけるところだったんだろう? 行っておいでよ」 決まりが悪そうに口をとがらせる。鬼太郎の上目使いが可愛く思えて、猫娘も肩を竦めて笑い出した。 「あたしも、だよ」 「へ?」 「鬼太郎に知らせに行こうと思ってたの」 そして、一緒に見たかったこと。それは同じ気持ちだったから、笑ってごまかした。 「あ…はは、ははは、そうだったんだ」 「うん、そうだったの」 鬼太郎は猫娘のもとへ向かい、猫娘は鬼太郎のもとへと向かった。 けれど思いもよらずその途中で遭遇してしまったから、これからどうしていいのか分からず笑いあった。 「えーっと…ここじゃあ寒いから、猫娘の部屋にいく?」 「うん、いいけど。でもオヤジ様は?」 「父さんなら茶碗風呂で雪見を楽しんでいるよ」 「じゃあ鬼太郎の家に行こう? オヤジ様、一人じゃ淋しいよ」 「う…うん」 心のどこかで残念な気持ちがするのは何故なのだろう。 けれどそれはほんの些細な影だったので、猫娘がぎゅっと手を重ねてくれたことで、すぐに、消えた。 「行こう?」 「…うん」 数里先が霞むほど、雪足は強くなってきていた。 手を繋ぎ、早足でゲゲゲハウスまでの道を戻りながら、鬼太郎は視界を覆う雪景色が揺らぐような気がした。 森の香も凍りつく冷気。軽い足取りで進む猫娘の後ろ姿。 幻想的な風景の中で、それは現実感もなく消え入りそうに思えた。 「待って、猫娘」 「え…?」 繋いだ手に引き戻されるように猫娘が足を止める。 「どうしたの? 鬼太郎…」 この不安が何なのか、鬼太郎自身にも分からない。 猫娘が目を丸くして見つめ返すのに、答えを出すことができない。 不甲斐ない自分を恥じて、鬼太郎は苦笑するしかなかった。 失うことが怖いから、根拠もない恐怖心に怯える自分など、猫娘に見せるわけにはいかないのに。 「……いや、何でもないんだ」 雪がまた、舞い降りる。 ひとつひとつはほんの小さな欠片だけれど、止め処なく降り続き、やがて重なって積もり始める。 「今年、最初の雪だよね?」 「うん、そうだねー」 今度は後ろ姿を見ないよう歩幅を合わせ、並んで歩き始める。 こうしていると安心する。ほんの少しだけ、安心する。 「明日は積もるかしら」 「ふふ…猫娘は雪遊びがしたかったの?」 寒がりのくせに…と鬼太郎が笑うと、猫娘はまた子供扱いされた気になってカッと顔を赤らめる。 「ち…違うよっ。あんまり積もったら、帰るのが大変だから…」 本当は雪遊びも楽しみだったから、猫娘はしどろもどろに言い訳するように言った。 「この分じゃあ積もるだろうね」 「そうだよね…」 見上げた上空は、後から後から白い雪が降り続けてきた。 目で追えるゆったりとした速度で舞い散る雪に、猫娘は目を細める。 (…帰らなくていいのに…) いっそ春まで雪が降り続け、猫娘がずっとずっと足止めを食って、ゲゲゲハウスに閉じこもってしまえばいいと思った。 口には出せない願いは、やはり雪のように降り積もって、不意に溶けてしまう。 「大丈夫だよ」 「うん…?」 どう大丈夫なのかは分からないが、鬼太郎がそう言うのなら、「大丈夫」なのだろう。 猫娘が“大丈夫”だと信じるから、鬼太郎も猫娘の信頼を裏切るようなことは、しない。できるはずもない。 「寒いね」 「そうだ。家に着いたら、おばばが作ってくれた甘酒があるよ」 「本当?」 自然と足取りが早まる。 「それに……」 チラリと猫娘の横顔を覗き込む。甘酒を楽しみに目を細めて微笑んでいた。 だから、温めてあげるよなどと、鬼太郎は言い出すことはできずにいた。 雪道を行く二人は、ゲゲゲハウスに雪見酒を目当てに妖怪仲間たちが集り始めていることなど、まだ知らない。 Fin. |