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□ Genre menu bar □ はじめに   ゲゲゲの鬼太郎   DRAGON BALL   3.3.7.ビョーシ   犬夜叉   GAME   ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■

59 駒草
58 トモダチ
57 百八つ
56 反射鏡
55 かくれんぼ
54 通り雨
53 影ふみ
52 あさがお
51 うみの日
50 水たまり
49 なぬかのよ
48 末吉
47 袖の香
46 さんすう
45 春眠
44 はつこい
43 沈丁花 
42 しりとり
41 でんしん
40 日光浴
39 初雪の日
38 雨宿り
37 うたたね
36 祝いの心
35 大事なもの
34 今だけの真実
33 おばけの音
32 猫の秘密
31 ひざ枕
30 犬のおまわりさん
29 待ちびと
28 やみのなか
27 ねこみみ
26 夢のつづき
25 けんかしかけた日
24 虚無の扉
23 なかよし
22 真剣勝負
21 河豚
20 切れた鼻緒
19 青年の夢
18 器
17 ダンデライオン
16 酔夢
15 寒がり暑がり
14 倦怠感
13 つまべに
12 おやすみ。
11 けんかした日
10 雪降る森
09 しゃっくり
08 とくべつ
07 怪奇お寝坊さん
06 未来のお嫁さま
05 魔女の心臓
04 しゃぼん玉の記憶
03 お彼岸餅
02 化け粧
01 白猫の夢


[ 41 でんしん ]

「鬼太郎〜。いいものもらったんだ」
町から戻った猫娘は、帰宅するよりも前に鬼太郎の元へとやって来た。
「おすそ分け」
「なんだい? これ」
二つの小箱。クンクンと鼻を鳴らしてみたが、美味しそうな匂いはしなかった。
てっきりおやつのお土産かと思ったが、そうではないらしい。
「開けてみてー」
小さな手提げ袋に収まった箱を開けば、冊子が詰められていた。
書籍…いや、辞書。違う。それらは取り扱い説明書のようだった。
(おもちゃ…かな)
きょろりと目を上げると、猫娘は肩をすくめて「ふふふ」と笑った。
「おぉ何じゃ? こいつは固そうな座椅子じゃのう」
「父さん、違いますよ。これ…僕知ってます」
どうやら本体らしい機械を箱から取り出して、コンパクトのように折りたたんだ部分をカチッと開いた。
「鬼太郎、知ってたんだー」
さすがだね、と微笑む猫娘に、自信満々で笑いかける。
「とらんしぃばぁっていうんですよ、父さん」
「ほう。舶来物か」
「………」
鬼太郎の手にはブルーシルバーの本体、猫娘の手にはピンクの本体。
おそろいのトランシーバー(誤)を手にして、鬼太郎は滔々と説明し始めた。
「以前、救助隊の隊員が腰につけていたのを見たことがあります。離れていても互いに話ができるんですよ」
「ふむふむ。なるほどな、人間には空気を伝って呼び合う能力もないからのう」
「そうだよね、猫娘?」
「……違うよ」
納得し合っている親子に対して野暮ではあるが、猫娘はぽつりと呟いた。
「違うの? あれ…おかしいな」
「これはね、携帯電話なの」
「電話?」
「しかしうちには電話線など繋がってないぞい」
「だからぁ、電話線がなくっても繋がるのっ」
グッと電源を長押すると、液晶画面が動き出す。
「なんと。テレビにもなるのか!」
「違うよー。そういう種類もあるらしいけど、これはお試しで配ってただけだから…そんなすごい機能はないよ」
「お試しねぇ…?」
猫娘は本当にそういうものを見つけるのがうまい。
猫の情報網なのか、こんなに幼くてもやはり女同志の井戸端会議で情報を仕入れているのか。
「鬼太郎もこのくらい使えるようにならなきゃね」
いくら地に根ざした知恵のみで生きる幽霊族でも、人の世の移ろいを知るのはいいことだ。
まして鬼太郎は、その人間たちとの共存を図っているのだから。
「そうだね。面白そうだ」
でも。
電話をするには相手がいる。時報や天気予報を聞き続けていても仕方がない。
「じゃあ鳴らすから、取ってね?」
もうすでに登録してある鬼太郎の番号を選ぶ。
その名の下に、小さなハートマークを入れてあることは内緒だ。
「鳴らすって…ここで?」
「うん、行くよ〜」
嬉しそうな猫娘に水を差したくなくて黙っていたが、こんな近くで……わざわざ電話越しに話す必要があるのかどうか、鬼太郎は疑問を持った。
ピピピピーッ ピピピピーッ ピピピピーッ
「うわぁああ!」
「何じゃ、やかましいのう!」
街中でよく耳を刺す、けたたましい電信音がした。
静かな森の中にあって、不調和な音は鳴り響き、外では小枝で休んでいた鳥の一群が飛び去って行った。
ピピ……
「取ってよー」
「あ…あぁごめん、ちょっと驚いて……。ねぇこの音はどうにかならないのかい?」
「あ、そっか。じゃあ着メロ変えようか」
猫娘の告げた謎の言葉に、鬼太郎は父と顔を合わせた。
(チャクメロ…)
南方の妖怪名のようだと思った。
手馴れた様子でいくつかのボタンを押すと、また鬼太郎の元に返された。
「じゃ、行くよ」
流れたのは静かで穏やかなメロディだった。
「うーむ…」
「いい音色ですね、父さん」
並んで目を伏せて、肩を揺らしながら聞き入っている。
「オルゴールとはハイカラじゃのう」
二人ともこのメロディが気に入ったようだった。何よりだ。しかし……
「もう〜っ!さっさと出てよっ」
三回目のリピートに差し掛かると、猫娘は焦れて声を上げた。
「あ、ごめん。忘れてた」
鬼太郎が適当にボタンを押すと、ピッという電信音と同時にメロディはかき消える。
パッと明かりをもらした液晶画面には「ねこむすめ」と表示されていて、鬼太郎は何故かどきりとした。
「えっと…もしもし?」
「もしもし、鬼太郎? 元気?」
元気かどうかは、その目で見たままだ。
その声は、耳に当てたスピーカー越しではなく、目の前の猫娘の唇から聞こえてきた。
「えーっと…」
「何? 聞こえない??」
聞こえ過ぎている。電話から耳を離しても、よく聞こえる。
鬼太郎はふと、昔に糸電話で遊んだ時のことを思い出した。
長めに作ったとは云え、糸を伝ってカップ越しに聞こえた声よりも。糸の先、木陰に身を潜めた猫娘本体から声が聞こえてきたこと。
木の根からちらりと見えた猫娘のスカートの裾。身を隠し切れずに風に揺れたリボンの端。
今でも鮮明に思い出せる。
「どうしたの? 鬼太郎」
ピッとボタンを押すと、一瞬光った明かりが消え、通話時間が表示された。
「せっかくだけど…これ、必要ないよ」
「え? あぁやっぱりここじゃあ近すぎた?」
照れ笑いを浮かべて立ち上がる。
「じゃ、家に帰ってからまた鳴らしてみるね」
「待って。だから…その」
鬼太郎の手は自然と猫娘の手首を捕らえ、引かれるままに猫娘もまたぺたんと座り込んだ。
「声だけじゃなくって、その…」
座り込んだまま、ずいっと顔を突きつける。
「こうして顔を合わせて話した方がいいよ」
その方がずっと嬉しいし、楽しい。
電動越しの声よりも、温度のあるその声を聞いていたい。
猫娘はきょとんとしたまま目を丸くしていた。
「こういうのは、僕たちには必要ないんじゃないかな」
「でも、ほら。急な用事があった時とか…っ」
「呼べばいつでも飛んでいくよ」
猫娘の声ならば、どんなに離れていても聞こえる。鬼太郎は自信を持って頷いた。
「いちいち出かけなくても済む用事だってあるじゃない」
「ないよ」
どんな重要な話よりも、猫娘と、会う、ということの方が大切だ。
「あと、ほら。どこに行ったのか分からなくなった時に、すぐ呼び…」
「どこにも行かないでよ」
ずっとそばにいて欲しい。
たとえ帰る家は別々でも、目の届くところに居て欲しい。
鬼太郎の真剣な顔つきを見ながら、猫娘は不思議そうに首を傾げた。
どこかで話が食い違っている気がする。これは気のせいじゃない。
「あのさ、鬼太郎」
「なんだい」
猫娘は違うのか。こうしていつまでも共に居たいと思うのは、自分だけなのか。
鬼太郎の瞳は不安げに揺れた。
「……鬼太郎、痛いよ。離して?」
「え…」
放して。解放して。
そう聞こえて鬼太郎は絶望的な顔をした。
けれど猫娘が片手を上げると、鬼太郎の腕でも上がる。
掴んだままの手首をあざになりそうな程 強く握り締めていたことに気付く。
「あ…ごめん!」
手を放せば猫娘の細く白い手首にうっすらと赤いあとが残る。
鬼太郎の掴んだ跡。
じっと見つめる鬼太郎の前で、猫娘は笑いながら上下に振った。
「しびれちゃうよー」
数度振れば、朱の跡は薄れて消えていく。
もう一度呟いた謝罪の言葉は鬼太郎の喉もとで呑み込まれ、罪悪感に目を背けたままで俯いていた。
猫娘の笑顔に向き合うこともできない。
この、胸に走った気持ちはきっと、忌みなるものだ。
「へんな鬼太郎ー」
たかが携帯電話ひとつ。おもちゃみたいなものなのにと、猫娘は笑った。


Fin.

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