| □ Genre menu bar □ はじめに ゲゲゲの鬼太郎 DRAGON BALL 3.3.7.ビョーシ 犬夜叉 GAME | ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■ |
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43 沈丁花
] 「わかった?」 「何…が?」 あれは三日前のことだった。 息咳切って林道を駆けてきた猫娘は、出会い頭の鬼太郎にそう尋ねた。 しばらくじっと鬼太郎の顔を見上げて、何かに気付くのを待ったが、鬼太郎はきょとんと目を見開き、幾度か瞬きをして目の前の可愛い猫目を見つめるばかりだった。 「そ。じゃあね」 「え……う、うん?」 ひらりと踵を返して林道を戻っていく後ろ姿を見ながら、鬼太郎はお茶にでも誘えばよかったと悔いた。 「わかった?」 「えっ」 翌日も、猫娘は鬼太郎の顔を見るなりそう尋ねた。 昨日のようなヘマはすまいと、鬼太郎は上から下までネコ娘の姿に視線を走らせる。 髪型も、お気に入りのリボンも、服も……特に変化はなかった。 「違うよ」 見当違いな答えを探していることに気付き、猫娘はクスクスと肩を笑わせてまた振り返ってしまった。 「あ、待っ……」 鬼太郎が声をかけるのも間に合わず、俊敏な足で猫娘は去って行ってしまった。 家には桜餅が用意されていたことも、猫娘に言い出せずに立ち尽くしていた。 「わかった?」 「……あの、さ。猫娘? なぞなぞだったら…何かひとつヒントをくれないかな」 今日は逃がさない。猫娘の手を掴んだままで鬼太郎は尋ねた。 「ヒント? うーんと…ねぇ…」 くるりと一周して風向きを確かめると、猫娘は向かい風に向かってくんくんと鼻を鳴らしてみせた。 一周まわった時に繋いだ手が離れ、鬼太郎はその姿を見ていなかった。 「わかった?」 「う……」 期待に満ちた猫娘の上目遣い。 つい見とれてしまい、鬼太郎の頭の中は真っ白になっていた。 「そ。じゃあまた、明日」 それからも毎日毎日、猫娘は鬼太郎のところへ来ては尋ね、分からぬのを確認すると帰って行ってしまう。 縁の下に腰掛けて、両足をブラブラと浮かせたまま、鬼太郎は両腕を組んで考え込んでいた。 見下ろした森からは雪が溶け、徐々に温かくなっていく季節だというのに、鬼太郎は猫娘のなぞなぞに捕らわれたままで首を捻るばかり。 もうすぐ昼過ぎ。猫娘がやって来る時間だ。 また、答えを出せずに去っていく猫娘の後ろ姿を思い出したら、らしくもなくここから逃げ出してしまいたくなってくる。 「何のこと…なんだ?」 また、あの一瞬見せる残念そうな顔を見るくらいなら……。 「…父さん。ちょっと、散歩に出てきます」 目玉おやじの返事を待たず、ひょいっと縁の下から飛び降りて、地に着地する。 その時。 「ん?」 降り立った瞬間、巻き込まれた風の中に甘い香りがした。 どこで嗅いだものなのか、何の香りなのか。思い出しているうちに、なぞなぞの答えに辿り着く。 今度は鬼太郎が猫娘のもとへと向かう番だ。 林道を進み、草の茂る細道を越えて妖怪アパートに向かう。 外から呼びかけると、窓からひょいと顔を出した。 「わかった?」 鬼太郎が肩を竦めて頷くと、猫娘は窓を閉めてしまった。 しばらくしてパタパタと階段を駆け下りる音がする。 「おいで」 「うん」 差し出した手を重ねると、二人はそのまま歩き出した。 いつもの散歩道から外れて山道を登り、岩の山積する川を渡って山の中ほどへと進む。 辿り着いた頃には陽も傾き始めていた。 「これ、だろう?」 「当ったり〜♪」 高原の一角に咲き乱れる沈丁花。 濃い深緑の葉。集合した小さく厚い花弁から、甘く優しい匂いが立つ。 鼻を寄せるまでもなく辺り一面が沈丁花の香りに包まれている。 この香りが風に乗り、ゲゲゲハウスまで流れ着いたのだ。 「一週間もかかったんだね」 指折り数えた猫娘が微笑む。 嗅覚の鋭い猫娘に比べられてはたまらない。鬼太郎は苦笑した。 一週間遅れて気付いた鬼太郎の鼻にも、沈丁花が薫る。 「そんなに早く気付いてたなら、猫娘が連れてきてくれればよかったのに…」 さすがにここまで近づけば、鬼太郎だって分かっただろう。 沈丁花は、猫娘の好きな花のひとつだ。 「うーん。そう…なんだけどー」 ぺたんと地に座り込んで、低木越しの青空を見上げる。 伝えたいのは、開花だけではない。 「もうすぐ春だね」 嬉しそうに笑う猫娘。 言葉だけでなく、空気ごと。小さな花々が密集して咲く姿も、茂った緑も。 春が訪れる前のこの、わくわくとした気持ちごと、鬼太郎と分かち合いたかったのだ。 言葉にすれば一言で終わってしまう。 「うん…そうだね」 猫娘に並んで腰を下ろした鬼太郎も、同じように空を見上げた。 Fin. |