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□ Genre menu bar □ はじめに   ゲゲゲの鬼太郎   DRAGON BALL   3.3.7.ビョーシ   犬夜叉   GAME   ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■

59 駒草
58 トモダチ
57 百八つ
56 反射鏡
55 かくれんぼ
54 通り雨
53 影ふみ
52 あさがお
51 うみの日
50 水たまり
49 なぬかのよ
48 末吉
47 袖の香
46 さんすう
45 春眠
44 はつこい
43 沈丁花 
42 しりとり
41 でんしん
40 日光浴
39 初雪の日
38 雨宿り
37 うたたね
36 祝いの心
35 大事なもの
34 今だけの真実
33 おばけの音
32 猫の秘密
31 ひざ枕
30 犬のおまわりさん
29 待ちびと
28 やみのなか
27 ねこみみ
26 夢のつづき
25 けんかしかけた日
24 虚無の扉
23 なかよし
22 真剣勝負
21 河豚
20 切れた鼻緒
19 青年の夢
18 器
17 ダンデライオン
16 酔夢
15 寒がり暑がり
14 倦怠感
13 つまべに
12 おやすみ。
11 けんかした日
10 雪降る森
09 しゃっくり
08 とくべつ
07 怪奇お寝坊さん
06 未来のお嫁さま
05 魔女の心臓
04 しゃぼん玉の記憶
03 お彼岸餅
02 化け粧
01 白猫の夢


[ 43 沈丁花  ]

「わかった?」
「何…が?」
あれは三日前のことだった。
息咳切って林道を駆けてきた猫娘は、出会い頭の鬼太郎にそう尋ねた。
しばらくじっと鬼太郎の顔を見上げて、何かに気付くのを待ったが、鬼太郎はきょとんと目を見開き、幾度か瞬きをして目の前の可愛い猫目を見つめるばかりだった。
「そ。じゃあね」
「え……う、うん?」
ひらりと踵を返して林道を戻っていく後ろ姿を見ながら、鬼太郎はお茶にでも誘えばよかったと悔いた。


「わかった?」
「えっ」
翌日も、猫娘は鬼太郎の顔を見るなりそう尋ねた。
昨日のようなヘマはすまいと、鬼太郎は上から下までネコ娘の姿に視線を走らせる。
髪型も、お気に入りのリボンも、服も……特に変化はなかった。
「違うよ」
見当違いな答えを探していることに気付き、猫娘はクスクスと肩を笑わせてまた振り返ってしまった。
「あ、待っ……」
鬼太郎が声をかけるのも間に合わず、俊敏な足で猫娘は去って行ってしまった。
家には桜餅が用意されていたことも、猫娘に言い出せずに立ち尽くしていた。


「わかった?」
「……あの、さ。猫娘? なぞなぞだったら…何かひとつヒントをくれないかな」
今日は逃がさない。猫娘の手を掴んだままで鬼太郎は尋ねた。
「ヒント? うーんと…ねぇ…」
くるりと一周して風向きを確かめると、猫娘は向かい風に向かってくんくんと鼻を鳴らしてみせた。
一周まわった時に繋いだ手が離れ、鬼太郎はその姿を見ていなかった。
「わかった?」
「う……」
期待に満ちた猫娘の上目遣い。
つい見とれてしまい、鬼太郎の頭の中は真っ白になっていた。
「そ。じゃあまた、明日」


それからも毎日毎日、猫娘は鬼太郎のところへ来ては尋ね、分からぬのを確認すると帰って行ってしまう。
縁の下に腰掛けて、両足をブラブラと浮かせたまま、鬼太郎は両腕を組んで考え込んでいた。
見下ろした森からは雪が溶け、徐々に温かくなっていく季節だというのに、鬼太郎は猫娘のなぞなぞに捕らわれたままで首を捻るばかり。
もうすぐ昼過ぎ。猫娘がやって来る時間だ。
また、答えを出せずに去っていく猫娘の後ろ姿を思い出したら、らしくもなくここから逃げ出してしまいたくなってくる。
「何のこと…なんだ?」
また、あの一瞬見せる残念そうな顔を見るくらいなら……。
「…父さん。ちょっと、散歩に出てきます」
目玉おやじの返事を待たず、ひょいっと縁の下から飛び降りて、地に着地する。
その時。
「ん?」
降り立った瞬間、巻き込まれた風の中に甘い香りがした。
どこで嗅いだものなのか、何の香りなのか。思い出しているうちに、なぞなぞの答えに辿り着く。
今度は鬼太郎が猫娘のもとへと向かう番だ。
林道を進み、草の茂る細道を越えて妖怪アパートに向かう。
外から呼びかけると、窓からひょいと顔を出した。
「わかった?」
鬼太郎が肩を竦めて頷くと、猫娘は窓を閉めてしまった。
しばらくしてパタパタと階段を駆け下りる音がする。
「おいで」
「うん」
差し出した手を重ねると、二人はそのまま歩き出した。
いつもの散歩道から外れて山道を登り、岩の山積する川を渡って山の中ほどへと進む。
辿り着いた頃には陽も傾き始めていた。
「これ、だろう?」
「当ったり〜♪」
高原の一角に咲き乱れる沈丁花。
濃い深緑の葉。集合した小さく厚い花弁から、甘く優しい匂いが立つ。
鼻を寄せるまでもなく辺り一面が沈丁花の香りに包まれている。
この香りが風に乗り、ゲゲゲハウスまで流れ着いたのだ。
「一週間もかかったんだね」
指折り数えた猫娘が微笑む。
嗅覚の鋭い猫娘に比べられてはたまらない。鬼太郎は苦笑した。
一週間遅れて気付いた鬼太郎の鼻にも、沈丁花が薫る。
「そんなに早く気付いてたなら、猫娘が連れてきてくれればよかったのに…」
さすがにここまで近づけば、鬼太郎だって分かっただろう。
沈丁花は、猫娘の好きな花のひとつだ。
「うーん。そう…なんだけどー」
ぺたんと地に座り込んで、低木越しの青空を見上げる。
伝えたいのは、開花だけではない。
「もうすぐ春だね」
嬉しそうに笑う猫娘。
言葉だけでなく、空気ごと。小さな花々が密集して咲く姿も、茂った緑も。
春が訪れる前のこの、わくわくとした気持ちごと、鬼太郎と分かち合いたかったのだ。
言葉にすれば一言で終わってしまう。
「うん…そうだね」
猫娘に並んで腰を下ろした鬼太郎も、同じように空を見上げた。


Fin.

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