| □ Genre menu bar □ はじめに ゲゲゲの鬼太郎 DRAGON BALL 3.3.7.ビョーシ 犬夜叉 GAME | ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■ |
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46 さんすう
] 茜色の空を、カラスが飛び去っていく。 床に並べたトランプを、神経が衰弱するほど真剣ににらみつけていた猫娘がハッと顔を上げた。 「もうこんな時間? そろそろ帰らなきゃ」 「え…?」 不満気に顔を上げた鬼太郎の耳にも、カラスの鳴き声が届いた。 手もとの札は、鬼太郎が六割に対して猫娘が四割ほど。 勝負の途中だというのに…と、鬼太郎は意地悪く頬肉を上げた。 「そんなこと言って……。負けそうだからって逃げるのかい?」 「違うよー」 「それじゃあ続けようよ。それに…遅くなったら、泊まってけばいいじゃないか。ねぇ父さん?」 「うむ。ゆっくりしていきなさい」 「でも…」 窓の外。夕映えに照らされたゲゲゲの森の木々が、少しずつ影を色濃く残していく。 猫娘はふと思い出したように立ち上がった。 「うぅん。また明日来るよ」 「どうしてだい? そりゃあ…招くほど広い家じゃないけど…」 目玉おやじの布団はともかくとして、寝具もひとつしかないが、子供二人なら並んで寝るには充分だ。 (並んで…眠る……) 万年床と化した木の葉ぶとんをちらり見て、鬼太郎は心なしか頬を赤くした。 「どうしたんじゃ? 遠慮するとは猫娘らしくもない」 「そ、そうだよ。父さんの言う通りだ」 「あ、うぅん。遠慮とかじゃなくって」 ひらひらと手を振りながら、ニコリと笑った。 「嫌になるから、帰る。それじゃあね」 「え…?」 いつもの笑顔を向けられて、その言葉。つられて微笑んだまま、鬼太郎は凍りついた。 嫌になる。何が、何に対して。どうして、そんなことになるというのだろうか。 ここに泊まるのは、そんなに嫌なことだというのだろうか。 それとも、長いこと自分と共にいるのは耐えられないと……? 「鬼太郎」 父の呼びかけで我に返ると、凍りついたままの鬼太郎を残して、猫娘は梯子を降りて行ってしまっていた。 余程 情けない顔をしていたのだろう。見上げた目玉のおやじは吹き出して、言った。 「送ってやりなさい」 「は……はい」 ゲゲゲの森の帰り道。 下駄を鳴らし、全速力で駆け出した鬼太郎は、すぐに猫娘の後ろ姿を見つける。 「猫娘ー!」 足を止め、振り返った猫娘に変わった様子はない。 むしろ、どうしてそんなに慌てて駆けてきたのかと、鬼太郎の姿を不思議そうに眺めていた。 「どしたの?」 「……送るよ……っ」 「いいよー」 「どうして!?」 まさか嫌われたのかと、慌てた鬼太郎は思わず声を荒げた。 その勢いに負けて、猫娘は笑顔をもらす。 「うん。じゃあ半分まで、ね?」 「……うん」 弾んだ息が整い、暮れていく夕暮れの中を進む、二人の影は長く伸びていた。 こうして並んで歩くのはいつものことだったが、今はこの沈黙が重い。 ちらちらと横目に見た猫娘はどこも変わらない。いつも通りの猫娘だというのに…… (いつも…? いつも…一緒にいるのが、嫌、だったのかい?) 問いかけようとした一声が詰まる。 えづくように何度も、何度も、言いかけたが、問いかけ辛い。 そんな鬼太郎の様子にも気付かず、しばらく進んだところで猫娘は不意に足を止めた。 「ここで半分だよ。じゃあねー」 「あ…ちょっと待って!」 また、ひらひらと振った手を、今度はしっかりと掴む。 「どうして、そんな……。僕と一緒にいるのが嫌なのかい?」 「へ? な、何言ってんのー鬼太郎」 「だって! さっきそう言ったじゃないか。それに、こうして家まで送るのも…嫌だなんて……。ねぇ僕が何かしたかい? どうして…」 「そんなんじゃないよ」 いつもは無口過ぎるほど冷静な鬼太郎が、妙な焦りに混乱しているのを見て、猫娘は目を丸くした。 こんな変な鬼太郎は見たことがなかった。 「あのね? 嫌だって言ったのは、帰り道が辛くなるからだよ」 「え?」 「ん…。あんまり長く一緒にいるとね? 一緒にいるのが当たり前になっちゃって…おうちに帰ると寂しくなっちゃうんだよ」 まさに親身一体、常に父と共に行動している鬼太郎には、よく分からなかった。 それに……。 ならばいっそ、帰らなければいいとさえ思っていた。 一生。 「だから、半分まで」 帰り道の寂しさも、半分個にしようと猫娘は言う。 けれど、鬼太郎にしてみれば……。 このまま猫娘の家に一緒にいけば、むしろ喜びや楽しさが倍になるのではないかと思っていた。 「………」 猫娘の割り算は、鬼太郎には分からない。 鬼太郎の掛け算を、猫娘は知らない。 「僕は別に、寂しくなんてならないさ」 「そうなの?」 「あぁ。もう暗くなるから、家まで送っていくよ」 そう言って猫娘の手を取ると、そのまま帰り道を進んで行った。 妖怪アパートに着く頃には、空は薄暗く、東の空には一番星が煌々と輝いていた。 「じゃあねー」 「…うん…」 玄関口を入っていく猫娘の後ろ姿を見つめながら、鬼太郎は離された掌を手持ち無沙汰に数度 握ったり開いたりしてみた。 扉越しに、アパートの妖怪仲間にだろう、「だたいまー」という猫娘の声が聞こえる。 暫しの間 立ち尽くした鬼太郎は、猫娘の部屋の明かりが灯るまで、じっと窓を見上げていた。 「………」 パッと明かりがついたきっかけがなければ、振り返る踵が動かなかった。 この、胸を通り抜ける気持ちが寂しさと呼ぶものなのか、鬼太郎は判断しかねている。 やはり……。 あのまま猫娘を引き止めていれば、それで全てが解決したように思えた。 「別に…寂しくなんてならない…さ」 肩を落としてとぼとぼと歩く足取りは重く。呟いた言葉は、吐いた途端 嘘に変わったことに気付いた。 Fin. |