| □ Genre menu bar □ はじめに ゲゲゲの鬼太郎 DRAGON BALL 3.3.7.ビョーシ 犬夜叉 GAME | ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■ |
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47 袖の香
] 急に降り出した雨が止み、雲間から陽射しが差しこみ始めた昼過ぎ。 猫娘がゲゲゲハウスを訪れていた。 昨日、町に出た時に起きたこと。今朝、目覚めた時に砂かけばばあから聞いたこと。 様々な話を、豊かな表情で一喜一憂しながら語り続ける猫娘は、相変わらずのおしゃべりで、鬼太郎はただ頷くだけで精一杯だ。 いつもならば陰湿なほど静かな男の所帯のこの家も、猫娘が訪れただけでつるべ火数体分は明るさを増す。 「でねー、おばばったらこんなこと言うのよ〜」 砂かけばばあを真似たのだろう。似合わぬ潰れた声で騙る猫娘の物まねに、茶碗風呂に浸かっていた目玉のおやじも笑い出す。 鬼太郎もまた、頷きながら微笑んではいたが、頭の中では別のことばかりが気にかかっていた。 猫娘がいると、とてもいい匂いがする。 笑い出した時に揺れた髪から流れてくるのだろうか。 それとも、お気に入りの服には何か香水のようなものをつけているのだろうか。 しかしそれは、おとなの女の人から香るようなものとは違う。 花を摘みに行くことが多いせいで、その花の香がまとわりついているのだろうか。 いや、しかし。それは花の香ともまた違う。 鼻腔をくすぐり、どこか胸の奥までもくすぐったく感じるような甘い香りは猫娘の香りだ。 「そんでねー…」 いつまでも続く猫娘のおしゃべりに耳を傾けながら、鬼太郎はそれがどんな香りなのか確かめたいと思った。 「ねぇ、猫娘。ちょっと…いいかな」 「なぁに?」 それとなく肩を寄せて近づいたが、猫娘はきょとんと見上げるばかりだった。 クンクンと鼻を鳴らして嗅ぎまわったら、嫌がられるだろうか。 「鬼太郎…?」 不思議そうな問いかけは、やがて不安な表情に変わる。 鬼太郎は、しばらく猫娘に近づけた顔をあちらこちらに移動させた。 「……ねぇ…なぁに?」 まるで動物が懐くように、肩から背中から顔を近づける鬼太郎の姿に、猫娘は首を傾げた。 どことなく、居心地の悪さを感じる。 「うん…。何だかとっても…いい、匂いがするんだ」 「え…」 ふと見上げれば、猫娘は真っ赤な頬を両手で覆う。 やはり何か、恥ずかしがらせてしまうことだったのだろうか。 だから、こうして胸の奥がくすぐったくなるのだろうか。 つられて鬼太郎も顔を赤らめる。 「あの…」 「……ごめん」 「い、いやぁ…僕の方こそ、ごめん」 どこかぎこちない気分で謝り返すと、猫娘はまた不思議そうにきょとんと目を上げた。 「どうして鬼太郎が謝るの?」 「それは…その」 頭を掻き、笑ってごまかす。 悪いことを考えていたような気がしたのだが、それがどんなことなのか鬼太郎には分からない。 「猫娘こそ、どうして謝ったんだい?」 「だって…」 ちらりと一瞬上げた瞳はすぐ下ろされ、正座に座ったひざの上、スカートの裾を手持ち無沙汰にくしゃくしゃと握り締める。 「……あのね、あたしだって二本あったら、持ってこようと思ってたんだよっ」 「にほん…?」 「でも、一本しかなかったから、だから…」 懸命に言い訳するように語り続ける猫娘を見つめながら、鬼太郎も首を傾げる。 「何の話?」 「だからぁ…みたらし団子の匂いがしたんでしょ?」 「へ?」 猫娘は口を尖らせて、困った顔で考え始める。 「でも、もうおばばと一緒に食べちゃったから…。今度買ってくる時は、鬼太郎とオヤジ様の分も取っておくから、ね?」 「う…うん」 別に団子の匂いなどしなかったが、みたらし団子は好物のひとつだ。 しかし、食べたいのはそれではない。 そこで初めて、鬼太郎は自分が何を嗅ぎ取って、何を欲していたのか気付き、再びカッと顔を赤くした。 「鬼太郎、お腹すいてたの?」 「……いいや」 Fin. |