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□ Genre menu bar □ はじめに   ゲゲゲの鬼太郎   DRAGON BALL   3.3.7.ビョーシ   犬夜叉   GAME   ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■

59 駒草
58 トモダチ
57 百八つ
56 反射鏡
55 かくれんぼ
54 通り雨
53 影ふみ
52 あさがお
51 うみの日
50 水たまり
49 なぬかのよ
48 末吉
47 袖の香
46 さんすう
45 春眠
44 はつこい
43 沈丁花 
42 しりとり
41 でんしん
40 日光浴
39 初雪の日
38 雨宿り
37 うたたね
36 祝いの心
35 大事なもの
34 今だけの真実
33 おばけの音
32 猫の秘密
31 ひざ枕
30 犬のおまわりさん
29 待ちびと
28 やみのなか
27 ねこみみ
26 夢のつづき
25 けんかしかけた日
24 虚無の扉
23 なかよし
22 真剣勝負
21 河豚
20 切れた鼻緒
19 青年の夢
18 器
17 ダンデライオン
16 酔夢
15 寒がり暑がり
14 倦怠感
13 つまべに
12 おやすみ。
11 けんかした日
10 雪降る森
09 しゃっくり
08 とくべつ
07 怪奇お寝坊さん
06 未来のお嫁さま
05 魔女の心臓
04 しゃぼん玉の記憶
03 お彼岸餅
02 化け粧
01 白猫の夢


[ 49 なぬかのよ ]

肌にしっとりとした暑さが絡みつくゲゲゲハウス。聖地を覆う森林に遮断されたものの、夏の光は強く、とても日中から行動する気にはなれない。
鬼太郎は木の葉ふとんに横になったまま、時おり頬を撫ぜる風を涼みに、昼寝についていた。

ガサッ
カサカサッ

葉擦れの音に混じり、何か、紙を重ねたような音がする。
けれど瞼まだ重く、頭は覚めていたが目覚める気はなかった。

ジョキジョキッ

刃先のこすれる音。しかし危険は感じない。
やがて上機嫌な鼻唄が聞こえてきて、鬼太郎の口元は自然と微笑みに歪んだ。

(また何か、始めたんだな……)

丸太机の前。きちんとひざを揃えて正座し、新しいお遊びにでも興じているのだろうか。
声をかけないところを見ると、自分にはないしょのことなのかもしれない。
鬼太郎の家に来て、鬼太郎にないしょというのもおかしな話だが。隠しごとの下手な猫娘ならば、ありえる話だ。
「……と」
とんとんと紙を束ねる音がする。
鬼太郎は声をかけられるのを待ちきれず、寝返り打つふりをして振り返り、そっと薄目を開けた。

「?」

目の前には巨大な竹。笹の葉が濛々と茂っていた。
一体どうやって運んできたのだろう。猫娘の身の丈、二倍はあろうかという笹の葉だった。
狭い茶の間の半分は笹に覆われ、竹林の中にでも放り出されたような、不思議な気分に陥る。
「猫娘…これ、どうしたの?」
笹を分け入れば、ようやくその笑顔に辿り着く。
「ああ、鬼太郎。おはよー」
「うん、おはよう。じゃなくって、これ……」
いたずらに葉先掴めば、べとつくような縦筋の手触り。さらさらと笹が鳴る。
「もうすぐ七夕でしょ? だから」

「だからって……」
鬼太郎は二度驚いた。
丸太机の上では、色とりどりのいろ紙が詰まれていた。
ざっと見て、数十枚はあるだろうか。短冊形に切り揃えている途中だった。
「これ、全部吊るすのかい?」
「うん」
束を親指で繰れば、ぱらぱら漫画のように何色ものいろ紙が揺れる。
呆れて口を開いた鬼太郎とは違い、猫娘は当たり前のように頷いた。
猫娘が、こういった行事ものが好きなのは知っていたけれど。いくら何でもこれはやり過ぎだ。
しかし。猫娘の満足げな笑顔を前に、一体誰がそれを咎めることができると言うのだろうか。
どれほどの妖力を湛えた鬼太郎でさえ、エネルギー不足だ。
まして。猫娘のやることに、茶々を入れる気など、毛頭ない。
「……そう。願い事がいっぱいあるんだね…」
「ああ、鬼太郎の分もあるんだよ? 青がいい? 緑もいいよね」
「うん…」
「黄色もあるよ。ピンク…はさすがにだめだよね。あとねー」
次々に繰り出される短冊を前に、鬼太郎は両手を開いた。
「あ、ああ。そんなに沢山はいらないよ」
「え?」

「願い事は、ひとつでいいんだ」

薄水色の短冊を手に取り、鬼太郎は俯いた。
毎年、毎年。願うことはただひとつだけ。
けれどそれを猫娘の前で書くのは躊躇われ、いつもこっそりとてっぺんに飾っていたから、猫娘はその願いを知らない。
「今度も平和のお願い?」
「……いいや」
それは、誰が願えば叶うというものではない。
まして、天に祈って叶うと思う安易な気持ちこそが、この世界を歪めている。
「じゃあ、もしかして……」
お母さんに会いたいと、そう願うのだろうか。
言いよどんだ猫娘は、肩を竦めて首を横に振った。
どうせまた今年も、鬼太郎は教えてくれないのだろう。
「さ。今から書かないと間に合わないよね」
ひとつひとつ、丁寧に願い事を書き連ねる猫娘の横顔は、真剣そのものだった。
念を込めて、魂を込めるようにひと文字ひと文字を連ねていく。
懸命な百面相を横目で見ながら、鬼太郎はつい吹き出しそうになってしまった。
「手伝おうか?」
「うん。じゃあ、鬼太郎は『鬼太郎が』って半分まで書いて?」
「えっ。僕?」
よくよく見れば、短冊には砂かけや子泣き爺の腰が良くなること、目玉おやじの目が痛まないこと、どれを見ても仲間妖怪たちの健康を願うことばかりで、猫娘自身の願い事はなかった。

「? 猫娘の願い事を書いたらいいのに」
「ええ? あたしの願いは……」

コロコロと無邪気に笑ったが、その瞳はどこか沈んで見えた。
自分の願いは叶わないのだと、諦めたような笑顔だった。
「あたしの願い事は……ないしょだよ♪」
いたずらな笑顔にごまかされ、鬼太郎はため息をもらす。自分のことは棚に上げ、ぽつりと呟いた。
「ずるいなぁ」
もしかするとこの沢山の短冊も、ひとつの願い事を隠すための策なのかもしれない。
砂を隠すなら砂の中。人を隠すなら人の中
この沢山の短冊の中に、猫娘の願いは埋もれてしまう。
それこそが、鬼太郎の願い。ねこ娘の願い事が叶うこと、なのに。

「ね、それより。今度の七夕は晴れるといいね?」
「あぁ…この前は雨だったんだっけ?」
たとえ雲に隠れたところで、宇宙の彼方ではヴェガもアルタイル輝いているからと、いくら説明しても猫娘は納得しはしなかった。
少女の夢に理屈は通じない。年に一度の逢瀬が叶わなければ不憫だと、猫娘は泣き止まなかった。
だから鬼太郎は。伝え話はともかくとして、猫娘が泣くくらいならば、晴れて欲しいと切に願う。
「あ、そうだ。晴れるようにお願いしようか」
「そうだねー」
天候は、天の気持ちに左右されるけれど。
とりあえずは雨降り小僧に話をつけておこうと、鬼太郎は画策していた。
「…逢えるといいね」
「うん…?」
織女と牽牛のことかと思い、興味なさげに頷いたが、その瞳はじっと鬼太郎を見たまま。
ねこ娘の願いはいつもただひとつ。鬼太郎の願い事が、叶うことだ。

「でもさ。年に一度よりも、ずっと一緒の方がいいよ…」
「え……」

それは確かにそうだろう。ねこ娘は鬼太郎の気持ちを想って泣き出しそうだった。
産まれ落ちてから一度も、顔を合わせることもなかった母と、せめて一晩とはいわず、ずっと、ずっと暮らしていけたのなら、それが一番いいのだろう。
「天帝もいじわるだね」
そこでやっと、鬼太郎の話ではなかったことに気付く。
「あ、あぁ…うん。でも、年に一度ってところがロマンチックなんじゃないのー」
目を細めて、何に照れているのか肩をすくめて笑い出した。
ねこ娘のロマンティシズムは、鬼太郎にはあまり、理解できない。
どんぐり眼を上向かせて、思い描いてみたが。機織女と牛使いの間に、特に感慨は得られなかった。
手持ち無沙汰に、筆をすずりに浸す。
「そうなのかい?」
「そうだよー。だって、毎日毎日会っていたら、きっと、それは空気みたいになっちゃって、浪漫も何もなくなっちゃうんだよ」
ねこ娘のリアリズムは、非常に土に根ざしている。驚かされることもしばしばだ。
しかし鬼太郎はもうひとつ思い描いて、あえて小さく否定する。
「……そんなことはないよ」
「?」
「毎日毎日。一緒にいる方が、やっぱりいいよ」
そう言って俯いた鬼太郎の頬は微かに赤らんでいたけれど。
ねこ娘にはそれが何故だか分からず、「それもそうだね」と軽く同意して、また短冊作りに戻ってしまった。


Fin.

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