- Home - ・ - input -

□ Genre menu bar □ はじめに   ゲゲゲの鬼太郎   DRAGON BALL   3.3.7.ビョーシ   犬夜叉   GAME   ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■

59 駒草
58 トモダチ
57 百八つ
56 反射鏡
55 かくれんぼ
54 通り雨
53 影ふみ
52 あさがお
51 うみの日
50 水たまり
49 なぬかのよ
48 末吉
47 袖の香
46 さんすう
45 春眠
44 はつこい
43 沈丁花 
42 しりとり
41 でんしん
40 日光浴
39 初雪の日
38 雨宿り
37 うたたね
36 祝いの心
35 大事なもの
34 今だけの真実
33 おばけの音
32 猫の秘密
31 ひざ枕
30 犬のおまわりさん
29 待ちびと
28 やみのなか
27 ねこみみ
26 夢のつづき
25 けんかしかけた日
24 虚無の扉
23 なかよし
22 真剣勝負
21 河豚
20 切れた鼻緒
19 青年の夢
18 器
17 ダンデライオン
16 酔夢
15 寒がり暑がり
14 倦怠感
13 つまべに
12 おやすみ。
11 けんかした日
10 雪降る森
09 しゃっくり
08 とくべつ
07 怪奇お寝坊さん
06 未来のお嫁さま
05 魔女の心臓
04 しゃぼん玉の記憶
03 お彼岸餅
02 化け粧
01 白猫の夢


[ 51 うみの日 ]

ガタンゴトン ガタンゴトン
帰りの電車に揺られながら、鬼太郎は、今更に晴れ渡った外の景色をぼんやりと眺めていた。
ボックス席の向かいには、互いに疲労困憊で寄り添って眠る砂かけと、猫娘。隣りには子なきじじい。ひざの上の父までも、ぐったりと、眠りについている。
───ひどい一日だった。
海にいきたいと盛り上がった一行は、久しぶりに列車に乗りたいという意見もあがり、こうして人波の中にまぎれたのだが…。
朝はひどい混雑にもまれ、子供たちの奇声に耳を劈かれ、乗り換え駅では何度かはぐれて、ようやく海辺に辿り着いた頃には、不意の昼立ちに見舞われた。
大粒の雨降る海岸線を、ぎゅうぎゅう詰めの海の家から見つめながら。やがて陽の翳る頃に、猫娘は使うことのなかった浮き輪から、空気を抜いた。
もう帰ろう。そう言った目玉のおやじの言葉に、猫娘はコクリと頷いたけれど、残念そうな表情が忘れられない。
───大失敗だった。
天候を下調べとか、混雑具合を確かめるとか、せめて一反木綿に乗って向かっていれば、少しはマシだったかもしれない。
ゲゲゲの森に入る山道近い列車に乗り換えれば、やっと人込みは解消されたけれど、疲労に満ちた面々の寝顔をみれば、もう海はこりごりだと言わんばかりだった。
まるで自分のせいに思えて、身を責める。
窓枠にかけたひじから、車両の揺れる振動が伝わってきて、それまでもが、自分を責めているように思えた。
頬が熱い。車内を照らす茜色の夕陽が、頬に当たる。
日除けを下ろすのも面倒なほど、鬼太郎もまた疲れていた。
戦闘とは違う疲労に、身も心もへとへとで、重く吐息をもらした。
「ん……」
砂かけのひざに置かれた猫娘の手。小さな小指がピクリッとはねる。
「あ…。まぶしかったかい?」
頬をあげて、ゆっくりとまぶたを開いた猫娘は、目覚めると同時に口端をあげた。
「ごめ……」
「わぁあ! キレーっ」
「……え?」
猫娘の視線を追い、車窓からの景色に目を戻す。
そこには、ちょうど建物の隙間へと、褐色の光を放ちながら沈んでゆく夕陽があった。
「大っきいねえ! ねえおばば、おばば〜、ちょっと子なきじじいも〜。オヤジさんっ」
あわてて揺り動かしたが、年寄り妖怪たちは起きる様子がなかった。
そうこうしている間にも、陽の光は消え、ひつじ雲の下辺を照らし出しながら、その姿を隠してしまった。
「あーん、もうっ。ね、鬼太郎は見たよね?」
「あ…あぁ、うん」
猫娘が眠っている間から、まぶたに焼きつくほど。夕陽の姿は見ていたけれど…
「すっごいキレイだったよね〜。おばばがおきたら自慢しちゃう」
言われるまで、それがすばらしいものだと気づかなかった。
きっと。猫娘が嬉しそうだから。余計にその景色が美しく思えたのだろう。
「あっ。でも…おばば、くやしがるかな」
高揚して、想いを巡らせる猫娘の百面相を見つめながら、自然と笑いがこみ上げてくる。
「じゃあさ。コレは鬼太郎とあたしの秘密だね」
「え……。あぁ、うん」
わるだくみするような、いじわるな笑みで、クククッと肩を揺らす。
教えたいけど教えられない。ふたりだけの秘密。
「…猫娘。あの…」
「なぁに?」
行き過ぎる景色を楽しみに、猫娘は車窓に張り付いていた。
「うん…その、今日はゴメンね」
「え?」
陽が沈み、急激に暮れていく空は夜の紺色を連れてくる。建物の連なる町から、いくつかのトンネルを過ぎて見慣れた山々の景色へと移っていった。
「なに…が?」
謝られるようなことされたっけと、猫目をきょろりとまわすが、やはり思いつかない様子だった。
「なにがって…今日は───」
「うん? 楽しかったよねー」
「……え?」
座席に座りなおし、猫娘は指を折り数える。
「朝の電車はすっごく込んでたでしょー? あんなにいっぱいでおしくらまんじゅうしたのって初めてだよねー」
「う…うん」
「あっ! あの時ね、オヤジさんったら女の人のお尻に押されて、嬉しそ〜な顔してたんだよ?」
「え…そう、なんだ」
「それでねぇ」
電車の中、人込みの中。海の家、潰れたお弁当。そして帰りの車内。
本当に今日一日、行動を共にしていたのかと疑うほど、猫娘の語る一日は、鬼太郎のものとは違っていた。
どれもこれも楽しかったと、笑いながら話をする猫娘の瞳に嘘のかげりはない。その瞳には、たくさんの楽しい想い出を抱え込まれていた。
振り返りながらひとつずつ、想い出の箱に落としていくように、猫娘のおしゃべりは止まらない。急がなければ、また新たな楽しいことが始まってしまうから、慌てて消化しているようにも見える。
鬼太郎の表情も、つられてゆるんでいく。
今日は、いい日だったのだと、猫娘を見ていて初めて気がついたのだった。


fin.

      ▲ Page top ▲

- Image View SYSTEM (Version 1.0) -