| □ Genre menu bar □ はじめに ゲゲゲの鬼太郎 DRAGON BALL 3.3.7.ビョーシ 犬夜叉 GAME | ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■ |
|
|
[
52 あさがお
] 夜露をふくみ、まとわりつくような暗闇の中。池端にしゃがみこんだままのふたりの回りをつるべ火が浮遊し、その小さな背中をぼんやりと映し出す。 猫娘の瞳は真剣そのものだ。一瞬たりとも見逃さないと、きゅっと唇を食んで見守っている。 三つつぼみをつけた朝顔を、最初にみつけたのは鬼太郎だった。 特に感慨もなく。世間話のついでにそのことを話すと、猫娘は身を乗り出して、開花の瞬間を見たがった。 しかし。目の前に残されたのは最後のひとつ。ひとつめは、油断している間に紫淵の花を咲かせ、それで開花直前のつぼみの様子を覚えたのだが…… 一昨日のふたつめの開花時には、早くから待ちすぎて、うとうとと眠ってしまった。気付けば陽も高くあがり、咲いた花びらは首をたれていた。 鬼太郎にしてみれば。それでも十分にきれいなものだと思うけれど。猫娘にとっては足りないらしい。 開花の瞬間。種から芽がでて蔓をのばし、待ちに待った瞬間、全霊をこめてつぼみを押し開く──もの言わぬ植物が訴える生命力に満ちたその刻を、見なければならないのだという。 つまり、猫娘がみたいだけなのだろう。 「あいたたた……」 ずっとしゃがみこんでいたから、ひざが固まってきたのだろう。一度立ち上がり、軽く屈伸運動する。 きょろりと辺りを見まわした鬼太郎も、一度立ち上がって猫娘の服のすそを引いた。 「あの岩にかけていよう?」 少し離れてしまうけれど。つるべ火が大きめに回遊すれば、目の届く距離だ。 「うん…」 反応の鈍さ、答えた猫娘の声質で、鬼太郎は猫娘がもうだいぶおねむだということに気付く。 空はうっすらと白んではきたけれど、夜明けはまだ先にある。 「……猫娘。もし眠くなっ…」 「ねむくないもんっ」 しまった。切り出し方を誤った。 猫娘は頑に目を見開いて、じっと朝顔に目を向けていた。 「……」 しかしその頭はこくりこくりと船を漕ぎ、あやうく倒れ込む寸前で、鬼太郎に肩を掴まれる。 「寄っかかってたら?」 「うん……でも」 ちらりみた鬼太郎の肩口。妖怪きっての猛者とはいっても、その肩は少年のそれ。寄りかかるには心もとない。 「いいよ」 「どうして?」 「だって……重いよ」 「平気さ」 今度は鬼太郎の方ががちょっとむきになって、猫娘の肩を引いた。 猫娘の頭に頬を当て、寄り添うようにして朝顔に目を向ける。 不思議な、気分だった。 ひとりで横になっている時よりも、ずっとしっくりとする。 重力からも互いの身を象るものからも解放されたような。こうしてふたりで身を寄せた形こそが、もともとひとつのものだったような、気がした。 猫娘もそうなのだろうか。そうだったら嬉しいのになと思い、そっと、引き寄せていた腕を下ろすと、猫娘は枕具合いを確かめるように頭を数度こすりつけた。 「……余計に眠くなっちゃう」 「えっ…」 それは、猫娘も心地好さを感じているからなのだろうか。 この、空気のような一体感を、互いに得ているのだろうか。 愛しい重みが肩にのしかかる。ひょいと覗き込めば、猫娘は困ったな、と口をつぐんでいた。 それは、猫娘にとっては困るようなことなのだろうか。 鬼太郎は心配になってきた。 「ねえ。眠くなっちゃうから、なにかお話しよう?」 「お話?」 「うん」 いつもはおしゃべりな猫娘も、眠気のせいか、夜明け前の静けさのせいか、声をひそめて提案した。 「それじゃあ…」 いつもは聞き役の鬼太郎が、話題を探り出す。 「ないしょのお話」 「うんうん」 顔を向けた猫娘とじっと目を合わせたが、いつまでたっても続きはない。 「?」 「でもこれは…ないしょのお話だから…話せることは、ないよ」 「ふうん?」 それは鬼太郎の冗談なのか。冗談だとしてもあまり……面白くはないと、教えるべきなのか。 猫娘は目を戻して、朝顔観察に集中する。 「……あれ?」 「なぁに?」 「いや、さっきよりも開いてないかい?」 「まさかぁ」 ふと目を離した間に、固く閉じたままだったつぼみが、緩んだように思えたけれど…… 「ほら、このふちの方。見えていたかい?」 「う〜ん…どうだろう」 猫娘は、開花はぱあっと一瞬で訪れるものだと思っていた。 つぼみか満開か。両極しかないと。 そのぐらいの力をもってして、ようやくつぼみを割り開けるものなのだと、思い込んでいた。 つるべ火が、気を回して朝顔付近を飛来する。 「…ほら。下弁が広がってきてる」 「そう…かなぁ。そう見えなくもないけど」 やはりまだ、思い描いた予想が上回っている。目のあたりにしても、ピンとこない。 開花の速度はあまりにもゆっくりで、目を反らさない猫娘には見分けられなかった。むしろ。よそ見ばかりしている鬼太郎の方が、その変化に気付く。 「ほら、白い花びらも見えてきただろう」 「うん……でもそれ、さっきから見えてなかった?」 「なかったよ。最初はつぼみだけだったじゃないかぁ」 「う〜ん。でもさ」 咲いている、咲いてないと言い合ううちにも、朝顔はどんどん開いていき…… 夜も白々と明けた頃、完全に開いてしまうまで、喧々諤々と続いていった。 Fin. |