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59 駒草
58 トモダチ
57 百八つ
56 反射鏡
55 かくれんぼ
54 通り雨
53 影ふみ
52 あさがお
51 うみの日
50 水たまり
49 なぬかのよ
48 末吉
47 袖の香
46 さんすう
45 春眠
44 はつこい
43 沈丁花 
42 しりとり
41 でんしん
40 日光浴
39 初雪の日
38 雨宿り
37 うたたね
36 祝いの心
35 大事なもの
34 今だけの真実
33 おばけの音
32 猫の秘密
31 ひざ枕
30 犬のおまわりさん
29 待ちびと
28 やみのなか
27 ねこみみ
26 夢のつづき
25 けんかしかけた日
24 虚無の扉
23 なかよし
22 真剣勝負
21 河豚
20 切れた鼻緒
19 青年の夢
18 器
17 ダンデライオン
16 酔夢
15 寒がり暑がり
14 倦怠感
13 つまべに
12 おやすみ。
11 けんかした日
10 雪降る森
09 しゃっくり
08 とくべつ
07 怪奇お寝坊さん
06 未来のお嫁さま
05 魔女の心臓
04 しゃぼん玉の記憶
03 お彼岸餅
02 化け粧
01 白猫の夢


[ 53 影ふみ ]

激しい嵐。地に響く雷鳴を越えて。
気付けば空高く、乾風が頬を過ぎる季節。
早々に出不精になってしまった年寄り妖怪連中を置いて、鬼太郎と猫娘は山の中腹まで散歩に出かけた帰り道のこと。
「いっぱいあったねー」
鬼太郎が下駄で毬を割った栗。
朽ち木の端に生えた茸。
普段ならば両手いっぱいに抱えた花代わりに拾った真っ赤なもみじの葉が、逆さにした猫娘の帽子を籠にして埋め尽くされていた。
砂かけおばばが喜ぶだろうと、まさに今、猫娘の方が大喜びで、その足取りは軽い。
「うん……」
ふと振り返れば紅葉過ぎた木々。
五色の葉は、力尽きたようにはらはらと舞い落ちて、林道を絨毯を敷き詰めたようだった。
鬼太郎の足が止まる。
またこの森にも冬がやってくる。
一年の時がまた、自分の身を経たのだと知る。
「………」
どうしたことだろう。ほんのつい最近までは、それは嬉しい気分にさせるものだった。
また一歩、大きくなる。もう一歩、父や年寄り妖怪に近付くことができる。
成長する期待と希望が、いつも胸を裏側から揺さぶり起こしていた、はずだった。
しかし今は、妙な感慨が胸を責める。
この一日が終わる。
この一年が終わる。
巡るくる未知の時間よりも、過ぎた時間が気になりだしていた。
まるで置き去りにしたように思えて、振り返る。
振り返ることすらも忘れていた時を、遡るように。
「……あっ」
急な突風に巻かれ、目を伏せる。
身を過ぎる風は、もう夏の日の重々しい力はない。春風のような残り香もない。身を震わせるほどの寒さもない。
まるで、自分が存在しないかのように、この身を通り過ぎるだけだ。
だから余計に胸に残る。
秋風が行き過ぎて目を開けば、道の先に猫娘がいた。
足元では落ち葉がつむじ風を象り、風の形を知らせる。
舞い散る枯れ葉の中、鬼太郎はまた妙な気持ちに陥った。
自分は先を見つめている。帰り道ではあるが、この先は進むべき道だ。振り返れば、さっきまでいた場所───過去の場所が存在する。
けれど道の先にいるのは猫娘。今も昔も変わらぬ、猫娘の姿だ。
上機嫌で半ばスキップするように振り上げた足取りも、帽子を抱えた小さな手も。きっと。
もし振り返ったとしても、変わらぬ笑顔でそこにいる。
「………」
時の狭間にあって、鬼太郎は足を止める。猫娘は帰り道を進んでいくままだ。なのに。
猫娘の周りには、流れるべき時が存在しない?
思えば遠い昔。山登りは子どもだけでは行ってはならなかった。必ず大人妖怪が付き添いの元、山道を上がることを許された。
しかしその頃も、猫娘と共に山へ行くことはあった。
砂かけ達から見れば子ども同然ではあったが、猫娘はもう子ども妖怪の扱いではなかったのだ。
しかし今も昔も、その姿は変わらない。
今や鬼太郎一人で山へ登れるくらいになっても、猫娘は変わらない。
いつも、今でもそこにいる。
少女の姿で、鬼太郎のそばに、いる。
「………」
ふと足元を眺める。
昔ならば山登りの帰り道、もうくたくたで、途中からは話かける余裕もなく、林道を降りる足取りは重かった。
しかしもうそんな脆弱な肉体ではない。ここから家まで走れと思えば走れるくらいだ。
少しづつだから普段は気付かないけれど、この身は成長し続けている。止まらない。
けれど、目の前の猫娘は……。
「鬼太郎ー。どうしたの?」
振り返った猫娘は、思い描いた通りの笑顔を見せてくれる。
今も昔も変わらない。無邪気で明るい、木枯らしも忘れるほどの温かな笑顔だ。
「あ…うん」
「もう疲れちゃった?」
途端に意地悪な笑みで目じりを下げる。
今もまだ、幼い鬼太郎の面倒をみるお姉さん気分が抜けていないのだろう。
もし鬼太郎が『疲れた』と言えば。その背に鬼太郎をおぶって山を降りようとでもいうのだろうか。
その細い身で、小さな背中で。今はもうどこにもいない小さな鬼太郎を、庇おうというのだろうか。
だから鬼太郎は心空ろになる。
青とも朱とも灰色ともつかない秋空のように、この心の置き所が定まらず迷子になったみたいだった。
「違う…けど」
風が止んでも落ち葉はまだはらはらと舞い落ちていく。
邪魔だ。
数歩前を行く猫娘の姿が、ところどころ落ち葉にかき消されてしまう。
「……?」
ふと視線を下ろせば、長く伸びた猫娘の影。
留まったままの下駄を上げれば、ほんの半歩先まで伸びている。
「あっ」
しかし踏み出した瞬間、気付いた猫娘がひょいと身を交わした。
頭の上、二つに尖ったリボンの影が揺れる。
「………」
「………」
じっと見つめあった視線が反れれば、それを合図に影ふみが始まる。
言葉はいらない。
ただただ鬼太郎の下駄を避けて、猫娘の影がはひょいひょいと先へ進んでいく。
追いかけるうちに、鬼太郎の歩がまた進み始めた。時が戻る。
「あっ、栗ひとつ落としたよ」
「だって、鬼太郎が追っかけるんだもんー」
跳ねるたびに帽子の籠から落ちる秋の食材を拾いながら、影ふみは続く。

ようよう家にたどり着く頃には、すっかり猫娘の帽子は空っぽで、鬼太郎のちゃんちゃんこ袋がたっぷりと膨らんでいた。


Fin.

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