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□ Genre menu bar □ はじめに   ゲゲゲの鬼太郎   DRAGON BALL   3.3.7.ビョーシ   犬夜叉   GAME   ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■

59 駒草
58 トモダチ
57 百八つ
56 反射鏡
55 かくれんぼ
54 通り雨
53 影ふみ
52 あさがお
51 うみの日
50 水たまり
49 なぬかのよ
48 末吉
47 袖の香
46 さんすう
45 春眠
44 はつこい
43 沈丁花 
42 しりとり
41 でんしん
40 日光浴
39 初雪の日
38 雨宿り
37 うたたね
36 祝いの心
35 大事なもの
34 今だけの真実
33 おばけの音
32 猫の秘密
31 ひざ枕
30 犬のおまわりさん
29 待ちびと
28 やみのなか
27 ねこみみ
26 夢のつづき
25 けんかしかけた日
24 虚無の扉
23 なかよし
22 真剣勝負
21 河豚
20 切れた鼻緒
19 青年の夢
18 器
17 ダンデライオン
16 酔夢
15 寒がり暑がり
14 倦怠感
13 つまべに
12 おやすみ。
11 けんかした日
10 雪降る森
09 しゃっくり
08 とくべつ
07 怪奇お寝坊さん
06 未来のお嫁さま
05 魔女の心臓
04 しゃぼん玉の記憶
03 お彼岸餅
02 化け粧
01 白猫の夢


[ 55 かくれんぼ ]

峠を分かつ一本の大木に両手を当て、鬼太郎は己の腕に顔を埋めていた。
泣いていたわけではない。
「いーち…にーい…」
数をかぞえる間にも、軽やかな足取りで草木の陰を探す猫娘の気配を追っていた。
十数える間だけではそんなに遠くに逃げられはしない。遠くへ逃げる気も、ないのだろう。
隠れなければと思いながらも、見つけて欲しい。隠れる童子の心はいつも複雑だ。
「ごーぉ…ろー…く…」
猫娘はまだ隠れ場所を探している。気配が留まらない。
まるで鈴でもつけているかのように、猫娘の進む軌道が分かる。妖怪アンテナを通して伝わっていた。
鬼太郎は自然とゆっくり数を読み上げる。
早く。早く隠れてしまわないと、すぐに見つけてしまうよ。けれど、見つからないほど遠くに行ってはいけないよ。
鬼の気持ちも複雑だ。
そもそも、逃がす気などないけれど。
「きゅーう…」
猫娘の気配が止まる。しばし立ちすくんで、迂回して再び足を止めた。
身を屈め、息を詰める。やっと見つけた隠れ場所は、この木から東に十歩、南に十五歩。
鬱蒼と茂った雑草に足を取られたりしなかっただろうか。
「…じゅう」
しまいまで数え終え、鬼太郎は顔を上げた。
鬼が目覚め、かくれんぼが始まる。
まるでパズルを組み立てるような作業だ。猫娘の位置は分かっている、だけどまだその姿は確認できない。
思った通りの位置に猫娘の姿を見つける瞬間を思いながら、鬼太郎は草地を分け行った。
「おーい、猫娘ー?」
さすがに返事はない。
ついこの間までは、うっかり返事をしてしまっていた猫娘も、もうこの手には引っかからない。
茂った雑草が下駄の足先に挟まり、歩きづらい。
足元に目をやると、雑草の中にまだつぼみの花が生えていた。
あぁこれを避けたのか。
ひとつひとつ猫娘の行動を追いながら、数秒前に見た景色さえも重なり合うような気がした。
「ん?」
鬼太郎の足が止まる。
繁みまではもうあと五歩。鬼太郎の足音も、思わずもらした吐息までも猫娘に聞こえているだろう。
以前と比べて随分上手にはなったけれど。繁みからは赤いリボンの先端が見切れていた。
いつだか、猫娘が町で憶えてきたという童謡が脳裏をよぎる。
ひよこではなく、猫だけれど…。
もれてしまいそうな笑い声を押しとどめ、鬼太郎は距離をあけて、思い出した童謡の節を鼻唄で唄いながら、立ち往生してみせる。
見つかりたくないけれど見つかりたい。猫娘が探し出されるまでのスリルを楽しんでいる間は、鬼太郎もまだ掴まえないのだ。
捕らえてしまうのは簡単だ。けれどすぐには掴まえない。
息を潜める猫娘が、早く、早く見つけて欲しいとしびれを切らすまで、鬼太郎は鬼の役を楽しんでいた。
見つけてしまうまで、かくれんぼは終わらない。
悪戯に老木を迂回する。姿はない。
わさわさと草木を分けても姿は見えない。
地を突き出した岩陰に回り、立派に聳えた大木の枝を見上げる。
陽を求めて広がり、重なり合う木々の葉からは木漏れ陽が差し込んでいた。
「………」
今はまだ、気配が感じられる。すぐそばにいる。
けれどもし、掴まえられない時が訪れたら自分はどうなってしまうのだろう。
ただひとつ。猫娘だけがいないのだとしたら。
足を止め、その時を思い描いてみる。想像でしかないけれど、一度迎えた感傷であれば、現実に訪れた時の心構えになるだろう。
そうして幾年月、自分のもとに流れる時を。降り積もる体験を。やり過ごしてきたのだ。
───いくら時が流れても、森は森のまま。世界は何ひとつ変わらない。
しかしその時が訪れれば、鬼太郎も知るのだろう。
森はただそこにあるだけのもの。世界もまた然り。
姿形は変わらずとも、鬼太郎の視点が変われば、全ては別のものになってしまう。
身を包む森の生気は優しくも感じられず、眩い木漏れ陽も暖かさを失う。
それらを愛しく想う鬼太郎の心が消えてしまえば、全てはただそこにあるだけのものに成り下がる。
音も。風も。空気も。光も。全て意味を失くす。
意味を問う、鬼太郎の心が失せてしまえば、ここは何もない場所になる。
探し物すらない鬼太郎に、時だけが残酷に降り積もる。
「鬼太郎」
振り返った鬼太郎は余程妙な顔つきをしていたのだろう。
鏡映しのように、猫娘もまた妙な顔つきで唇をゆがめていた。
「…見ーっけた」
苦し紛れに呟いた合図に、猫娘は眉をひそめる。
「見っけた、じゃないよ」
数歩進んで鬼太郎の前に立ちはだかる。
「ずっと前に見つけてたくせに…」
「えっ。あ…いや、それは、その…」
「鬼太郎はかくれんぼが下手っぴなんだから」
伸ばした手で鬼太郎の耳を覆う。そこで森の雑音は遮断された。
じっと見上げた瞳。猫娘の真っ直ぐな視線に奪われて、辺りの景色もまた遮断される。
「妖怪アンテナ使ったらダメ」
それはインチキだよと不平を言う猫娘の声だけが、温かなてのひらを伝って聞こえてくる。
自然と流れ込んでくるはずの情報は遮断され、ただの鬼太郎だけがそこに残される。
消えてしまえばそれは、ただの雑情報なのだと分かった。
知らなくてもよいこと、知らずにいてもどうでもいいこと。
そして知るべき己の心を探り入れば、あるのはただひとつ。簡単な感情だけだった。
「…どうして真っ赤なかおしてるの?」
「え…?」
欲しいものはただひとつ。掴まえたいのはただ一人だけ。
顔が火照るほどの想いを口にしたら、猫娘はどんな顔をするのだろうか。
それとも、猫娘にとってはそれすらも雑情報でしたかないのだろうか。
「今度はあたしが鬼になるね?」
赤鬼のごとく火照らせた鬼太郎の顔から手を下ろし、顔を伏せる木を探して辺りをみまわした。
「それと」
振り返り、念を押して指一本を鬼太郎に向ける。
「がまん比べじゃなくって、かくれんぼなんだからね」
「…う…ん?」
程よい幹を見つけて顔を伏せれば、猫娘のカウントが始まる。
条件反射で慌てて駆け出しながら、不可解な猫娘の注意を繰り返し思っていた。
身を隠すのに場所は問わない。
くつろげる場所さえ見つければ、辺りの景色に馴染むようカメレオンの術で姿を隠せば済むこと。
猫娘は見つけられるだろうか。近づけても見えはしない鬼太郎を、掴まえられるだろうか。
『がまん比べじゃなくって、かくれんぼなんだからね』
十数えた猫娘は、ひとつ鼻を鳴らし、迷うことなく鬼太郎のもとへと近付いてきた。
あと三歩…一歩。猫娘が足を止める。
あるはずの姿がなく、その瞳は不安気に揺れた。
そこで漸く、猫娘の不可解な言葉の意味を知る。
これは、確かにかくれんぼじゃない。がまん比べだ。
鬼が諦めてしまう前に、早く見つかりたいと思うようでは、うまくかくれんぼなどできはしない。
「…こっちだよ…」
身を隠したまま、鬼太郎が声をかける。
耐え切れず姿を見せた猫娘に比べれば、ずっと自分の方が我慢強いと思う。
確かに聞こえてきた鬼太郎の声で距離をはかっても、姿が見えないのはやはりおかしい。
猫娘はまた口元を歪ませた。
くすくすと鬼太郎の笑い声が届き、猫娘は当てどころもなく拳を振り上げる。
「カメレオンの術も使っちゃダメ」


Fin.

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