| □ Genre menu bar □ はじめに ゲゲゲの鬼太郎 DRAGON BALL 3.3.7.ビョーシ 犬夜叉 GAME | ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■ |
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03 お彼岸餅
] ゲゲゲの森の奥。大木にはしごを掛けた枝の上に、鬼太郎の小屋がある。 砂かけばばあのおつかいで、重箱いっぱいのぼたもちを抱えた猫娘が訪れていた。 「うむ。なかなかのあんじゃのう」 目玉のおやじもご満悦で、小さく切り取られたぼたもちを口(?)に運んでいた。 酒も好きだが甘いものもいける口(?)なのだ。 「うふふ。あたしも手伝ったのよ」 嬉しそうに猫娘が笑う。 「ふうん?」 鬼太郎が重箱に目を落とす。そこには明らかに形の悪いぼたもちがふたつ…。 迷わず手を伸ばすと、猫娘は「それ、私が作ったのよ」と唄うような口ぶりで言った。 「…やっぱり」 「ね、ね。美味しい?」 手伝ったのは整形だけではなかったようだ。もちごめの中には猫娘の好物でもある、おかかが練りこまれていた。 「………」 「ねえねえ? どぅお?」 口いっぱいに頬張って、しばし黙り込む。ゆっくりと味わいたかった。 「…鬼太郎?」 けれど彼のあんまりにのんびりとした様子に、猫娘は不安になってきた。 もしかして、何か失敗してしまったのだろうか。 「ねえ…?」 覗き込んだ猫娘の瞳が不安げな色を落とす。鬼太郎はゴクリと飲み込んで、至って呑気にのんびりと返した。 「……すごく美味しいよ。これ、ふたつしかないんだね?」 「う…ん」 猫娘は恥ずかしそうにひざの上、スカートの裾をもじもじとすり合わせた。 「……食べちゃった、の」 「そう、なんだ」 残りひとつの不恰好なぼたもちを手に取り、鬼太郎は笑う。 「僕に残しておいてくれたんだね。ありがとう、猫娘」 「うん」 そんなに喜ぶのなら、ちゃんと我慢して、もっと沢山持ってきてあげれば良かったな、と猫娘は反省した。 「あ。あたし、お茶淹れるね?」 勝手知ったる鬼太郎家。手馴れた様子でお茶を用意する猫娘の姿を見ながら、鬼太郎は自然と鼻の下が伸びていた。 「これ鬼太郎。だーらしない表情をしよってからに」 「え? あ…あぁすみません。父さん」 まるでお嫁さんみたいだな、と思って。つい、幸せ気分に倒錯していた。 お転婆なところもあるけれど、砂かけばばあに躾られた猫娘の立ち居振る舞いは美しく、また礼儀正しい。 鬼太郎の分の湯のみ、目玉のおやじの分の小さな湯のみ、そして自分用には半分を水でぬるくしたお茶を淹れて、卓袱台に戻ってくる。猫娘は、猫舌なのだ。 「ああ美味しかった。ごちそうさま」 「砂かけにも礼を言っておいてくれ」 「うん。あ…れ?」 鬼太郎の顔をじっと凝視すると、猫娘は目を細めて笑い出した。 「ニャハハハハ、鬼太郎おべんとうついてるよー?」 「ええ?」 夢中で頬張っていたから、あんこが口の周りについていた。 ペロリと唇をひと舐めしたが、まだ猫娘は笑っている。 「まだ取れてない?」 掌を左右の頬に当てるが、手応えがない。 「違う違う、ここだよ」 顔を近づけた猫娘が、躊躇することなくペロリと鬼太郎のあごを舐めた。 猫特有のざらりとした薄い舌の感触に、鬼太郎の時間が止まる。 「取れた」と笑う猫娘の無邪気な笑顔を前に、自分が何故こんなふうにドキリとしてしまったのか、鬼太郎は深く考え込んでいた。 その瞬間。全身に走った、痺れにも似た感覚の出所が分からなかったのだ。こんな気分は今まで知らなかった。 「? 鬼太郎?」 考え込んでいる間、目を見開いたままで凍り付いているのを不思議がって、呼びかける。 一体どうしたのだろうか。猫娘も考え込んで、すぐに答えを出した。 「……ごめーん…」 ポシェットからハンカチを取り出して、鬼太郎の顔を拭い取る。 「ばっちぃかったよね?」 まるで叱られた子猫のような慎ましさで、伏目がちに呟く。 その手を取って、鬼太郎は首を横に振る。 「違…違うんだ」 この胸の高鳴りは、何なのだろうか。 その正体が分からないから、鬼太郎は確かめたいと思った。 「猫娘。もう一回、してみて?」 「え?」 自分の唇を指差して、真剣な顔で言う。 「今度は、ここに」 「………」 みるみるうちに猫娘の頬が紅潮する。 ふるふると身を震わせながら、食い縛った歯は瞬時に牙と化して化け猫化していった。 「?」 「き…鬼太郎の、えっちぃー!」 「え゛…っち? どうして…」 本当に分からない。鬼太郎はただただ首を傾げるばかりだ。 ただ、もう一度。猫娘の唇や舌の感触を味わいたかっただけなのに。 そして、それはとてもとても嬉しいことのような、気がしただけなのに。 「だって猫娘がしたんじゃないか?」 「ち、違うもんっ! 離してっ」 ぶんぶんと手を振って、鬼太郎の掴んだ手首を放す。 「あ。猫娘…?」 「知らない!」 怒って出て行ってしまった猫娘の後姿を眺めながら、両腕を組んでひとつうなる。 「うーん…。ねえ父さん。どうして猫娘は怒ってしまったんでしょう」 「そうじゃな。かように、をとめごころというやつは難しいもんなのじゃ」 うんうん、と。訳知り顔(顔?)で目玉のおやじは頷いていた。 「お前もまだまだ修行が足りんのう」 「……はい父さん。頑張ります」 また穏やかな空気の戻った室内に、ふんわりとした湯気の立ちのぼるお茶をすする音が響いていた。 Fin. |