| □ Genre menu bar □ はじめに ゲゲゲの鬼太郎 DRAGON BALL 3.3.7.ビョーシ 犬夜叉 GAME | ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■ |
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04 しゃぼん玉の記憶
] 「くしゅん」 小さなくしゃみひとつ。猫娘は手もとから目を上げて、上半身が肌着姿の鬼太郎に向いた。 「あーん…もうちょっとかかるから、おふとんに入っていたら?」 「うん…そうだね。ごめん」 鼻頭をこすりながら、のそのそと木の葉のふとんをかぶる。 先日の戦いで、一張羅の学童服が破れてしまったのだった。 ほころびを直しついでに、破れた肩口にちくちくと針を進める猫娘の姿を見つめていた。 「ぼろぼろだよねえ…」 何だか気恥ずかしく、鬼太郎が言う。猫娘は気にせず、ひとたび糸先を唇にくわえてぷつんと糸を切った。 「でもこの妖怪生糸ならほころびもきれいに直るから。大丈夫だよー」 よくよく見ると。肩口やひじだけでなく、ボタンまで今にも外れそうなほど緩んでいた。ここもついでに直しておこうと針に糸を通す。 ここのところ、こんなことが多い。 明らかに鬼太郎の体が成長してきているのだろう。 それは人間族のような急激なものではなく、妖怪の長い…長ーい生命時間に合わせてゆっくりとした成長だけれど。 同じ妖怪族でも、鬼太郎は猫娘とは、違う。幽霊族の血を引くせいなのか、妖怪の間に生まれたせいなのか分からないが、鬼太郎はやはり特殊だ。 猫娘は、このゲゲゲの森にいる限りは不老不死だ。それはただの猫から妖怪に化けた時、猫長老と交わした約束事でもあった。 事実、かつては鬼太郎の母をこの森へ案内した猫娘だが、その後 生まれた鬼太郎とこうして肩を並べている。 いや。少し…ほんの少しずつだけれど、鬼太郎の背は自分に追いつき、また追い越し始めている。 「………」 今は。 このゲゲゲの森に住まうからこそ『ゲゲゲの鬼太郎』だけれど、いつまでもその名を背負う必要はない。 鬼太郎が。あるいは彼が絶対服従する父・目玉のオヤジが、ふと思いついて住まいを移せば、彼はもうゲゲゲの森の住人ではなくなってしまう。 もしも猫娘がこの森を出て。別の世界の食べ物を口にし続け、暮らしていくのなら、この命は限りをみる。 どこででも暮らしていける鬼太郎とは、違う。 大きくなればこの森を出て行く。それは今まで何度となく繰り返した出会いと別れだった。 沢山の遊びを共にして毎日を楽しく過ごしていたお友達はみんなどこかへ巣立って行ってしまう。 幼いままの猫娘を残して…… 「?」 気持ちが沈むと、記憶ごと霧がかる。それは、猫長老がかけた術だった。 体同様、心も大人にならないよう、猫娘の精神に深く触れる記憶は、寸前で掻き消される。 そうして、いつまでもいつまでも無邪気な彼女の心を守っていた。 勿論、当人は知らない。ただ、いろんなことをいっぱい考えると、まるでしゃぼん玉がぱちんと弾けるような瞬間が訪れて「あれ?」と瞬きする間に消えてしまう、という感触だけが残っていた。 「どしたの? 猫娘」 手を止めた猫娘に、寝床の鬼太郎が声をかける。指に針でも刺したのでは、と心配になったのだ。 「うぅん。何でもない」 また、手元に視線を戻す。 と、鬼太郎が成長し続けていることを、また、思い出した。 ───もし鬼太郎にも巣立ちの時が訪れたのなら、猫娘もついて行きたいと思う。 それは不老を捨てることと同時に、不死を捨てることになるけれど。 そしてひょっとしたら、化け猫としての妖力を失って…… ただの猫に戻ってしまうかも、しれないけれど。 あまりにも長い時間が過ぎて、猫娘はなぜ化け猫になったのか、その動機ももう思い出せない。 それは、時間や猫長老の術のせいだけでなく、猫娘の中に動機が失せてしまったのかもしれない。 たとえば。怨念や執着が、この森での生活で癒されて、浄化されたのかもしれない。 日々を穏やかに過ごす中、もう、化け猫でいる意味ですら失われてしまった。 それに、この子供のままの姿では、鬼太郎と同じ視線で世界を見つめることはできない。 だから… 「……?」 また。頭の中でしゃぼん玉が弾けたような感触。猫娘の思考はちりぢりに、消えた。 「あ。おまたせ〜。できたよー」 空中で左右に広げて、寝床の鬼太郎を振り返る。 「鬼太郎?」 そんなに時間がかかったのだろうか? 鬼太郎は片手枕にすやすやと眠りについていた。 考え事をしている時間は、結果が出る前にはじけて消えうせてしまうから…、猫娘は何時間たったのか分からない。 それに。 この森で、どれほどの時間がたっても変わらない猫娘にとっては、時間の意味すらも曖昧だ。 「うふふ。お昼寝しちゃったー…」 赤ちゃんみたいで可愛いな、と猫娘は思う。 たとえ、鬼太郎がもっと大きくなっていっても。やはり、鬼太郎をこうして可愛く思うだろうな、と思いながら。また目を細めて微笑んだ。 Fin. |