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晴宮帝人は赤いクレヨンをよく好んだ。

何でも好きなものを描きなさいといわれれば、白い画用紙を真っ赤になるまで塗りつぶし、その中に、薄っすらと焼け落ちる建物のようなものを描き込む。

初めは彼の精神的な障害が懸念された。というのも、帝人少年はよく笑い、人によくなつくが、ほとんど言葉というものを発しようとしなかったからだ。

それでもまったくしゃべれないというわけでなく、皆で歌を歌うときなどは誰よりもキレイな声で歌いあげる。
最終的に彼を診察した医師は、彼が極度の恥ずかしがり屋であるということで結論をだしたが、興味深いのは、彼がオドオドとした調子で、自分には”おうきゅう”が見えるのだと話しだしたことである。

彼がいつも画用紙に描いているのは、見えているものを写しとっているに過ぎず、また、すべてを写しているわけではないということ。


医師が試みに、専門的な画材用具と、その使い方を教えてみると、彼は驚くべき精密さで、王宮の柱の紋様一つ一つまでをも描き記して見せるのだった。

なお医師を驚かせたのは、赤いクレヨンの炎の中に、帝人少年が描き加えたおびただしい数の女性だろう。色とりどりの肌と髪をした彼女達は、皆一様に笑い、滅びゆく王宮で抱き合いながら燃え盛っているのだ。

といっても、この悪魔的なモティーフからはまったく悲壮感のようなものは感じられず、それこそ今生の楽園とでもいいたげに、皆が皆、心の底から笑っている。


一つだけ指摘する点があるとすれば、彼の絵には一人だけ男性が描かれているということだ。確かにその憂いをたたえた表情は、事実を知らなければ性別をうかがい知ることは難しい。

分かるのは、楽園に漂う幸福のうねりが、その青年を中心に渦巻いているということだけなのだ。


・・・・・・。


「て・い・とー」
「帝人君…ぁぁん、いいにおい…あむ」

金碗胞衣(かなまりえな)と今上梨園(いまがみりえん)は、ただいまもそこそこ、階段をおりてきた寝ぼけ眼の帝人を捕獲して、チコチコと小鳥のような愛撫に熱を上げる。

はだけたブラウスを見れば、2人がどれだけ急いで帰宅したかが分かるというもの。
生地を通して伝わる肌の熱。汗臭い自分のにおいを、帝人にはかいで欲しくはない、理性ではそう思っていても、このボケっとした少年を目の前にすると、ついついその肌をまさぐることを優先してしまう。

「へへ、ていとっ!今日な今日な、ていとのためにクッキー作ったぞ、一緒に食べよなっ」
胞衣の鮮やかな金髪が、帝人のほほを撫でながら短い髪と絡みあう。切れ長の目に青銅の瞳孔。彼女はこれでも生粋の日本人で、その黄金の産毛は、出産に際して両親を大いに困惑させた。

「帝人君…、また姉ちゃんとお勉強しよーよー…、ねーえー…」
梨園の黒縁のメガネが、体温で白くぼやけて曇っていく。すこしクセのはいった黒髪は胸元までたらしていて、濃い目のまつげが、妖花のような色香を放つ。


白い指にいいようにかき回される帝人は、時折ネコのようにうめくのを見る限り、まさぐられるのが嫌いではないようだ。もふもふとひじに当たる梨園の乳房が気になるようで、ゆるゆるとだが重心が、彼女の甘い髪の方へと傾いてゆく。

敏感に反応したのは胞衣の方で、がっついていると思われたくはないものの、ついつい焦って帝人の股間に右手をのせる。永久子や諸先輩方ならまだしも、同年代の梨園にだけは帝人を奪われてなるものか。

ボロンっ

「あぅ…、て…、ていと…、やっぱりすごいぜ…」

胞衣は舌先で、亀頭を包んでいたころは裏側だった部分を舐め、自分の乾いたくちびるで軽くこする。ぱくりと食いつきたい欲求が心臓を高鳴らせるが、大事なのはいかに帝人に喜んでもらえるかであって自分ではない。

つんつんと茎をつっつき、舌の上に陰茎の重みをのせる。まだ血液が溜まりだしたばかりのソレは、時折ビクリとはねてヘソにあたり、ゆるゆると戻ってくる。

そんな無防備な帝人を見、胞衣は下腹辺りがジクジクとしびれていくのを感じる。一度でいいから一晩中帝人を拉致って、子宮を満タンにされながら、奥の奥の肉まで引掻き回してもらいたい。そんな衝動。

ちゅぅ…ちゅっ。ちゅぶぶ…

先端に生まれた透明な雫を上唇で拭いとり、歯茎や軟口蓋にその味を確かめさせる。口腔中に充満した少年のにおいは、麻薬的な喜びを全身にもたらしてゆく。

「ふむ…ちゅぶ…きゅぷ。…ていと…ん、ふむ…ぶぶぷ。ちゅぶ」


一方の梨園の視界からはもはや胞衣の顔は消えている。自制が利かないというよりは、欲望が過大すぎる彼女は、自分の胸のふくらみから少年の顔を発掘すると、その小さな鼻、艶やかなくちびるを、飲み込むように口にふくむ。

最後に歯を磨いたのは昼休みだから、あれからずいぶん時間がたった。帝人が嫌がっていたらどうしようか、だとしたら死ぬしかないが、だとしても今このとき、このほっぺたを飽きるまで舐めたいという欲求には抗えない。

「帝人君…お姉ちゃん…、汚い…かな?」

少年は応える代わりに、梨園のあご先をペロリとやる。それだけでもう、ぱんつの裏が決壊したダムみたいになって、湧きあがる欲望を脳内で検閲する機能がぶっ壊れる。

「あ…帝人く…ん、…好きぃ…ふむ…ぁ」
ちゅぶ…ぶっ、ちゅぅぅぅ…
「ダメよ…おねがい、お姉ちゃんのだ液、全部飲んで…」

透明な糸が、くちびるとくちびるを一つに繋ぐ。薔薇のにおいするソレは、梨園が少し口をすぼめるだけで少年のほほや鼻梁にコポコポとこぼれていく。
このまま鼻から飲ませて、頭の奥をツーンとさせたい。彼女にとって不幸なのは、過大な妄想で少年の顔を愛でるあまりに、射精の瞬間を見逃したことだ。

びゅっ、びゅく、びゅー…たぱたぱたぱ。

「あっ…ん、ていと…ていとの熱いよ…」
「え?や?…ズルい!」

左右からとりあいになった一物はグネグネと向きを変え、丁度開いた玄関にその位置を定める。

ただいまをいいかけたその女性は、目の前の痴態にあっけにとられ、しばし呆けた後にこみあげてきた怒りがこめかみを駆け抜けて頭髪の先端までいきわたり、重力に逆らった頭髪の一本一本が今まさに天を貫かんというそのとき、やっべこんな早く帰ってくるとは思わなかったとつぶやいた2人の少女は死を予感、帝人のつまみ食いというたくらみは失敗に終わったのだと回想し、どうせ死ぬのなら、と間にはさんだ帝人のくちびるを吸った。


「なにをしているんだ、お前ら!!」


久住永遠子(くじゅうとわこ)はおかんむり。順番を破られたという理由がなくとも、常に怒っているこの家の主は、そのはだけたスーツを見れば、どれだけダッシュして帰宅したのかが分かるというもの。


・・・・・・。


北陸の片田舎、人口の減少に歯止めの利かないこの限界集落は、3方を山林に囲まれ、かろうじて採れる海産資源で生活を食いつないでいる。

この地に似つかわしくない高級マンションが建設されたのは2年前。久住永遠子が、商売をするのにまだ養父母の名前を借りていた頃で、当時はまだ他の町へいこうと思ったら、山を迂回して車で3時間も費やすような、そんな未開の土地だった。

彼女の遍歴に多くは費やすまい。孤児として施設で育った彼女は、あるときフラリと現れた帝人を見て劇的な宗教体験を経験し、同士と共に起業独立、いまでは北陸の流通を牛耳って、帝人を自宅にひきとり養うにいたっている。

「…私が帝人を見下ろす日がくるなんて思わなかった」

手術用のメスのように鋭利な瞳は近眼でさらに細く、童顔な顔には不釣合いに背が高い。
大人になっても胸はあまり膨らまず、それはもちろん気にならないといったらウソになるが、それ以上に普段は自分に課せられた使命が忙しい。

「次の輪廻ではお前がエスコートしてくれよ?」

帝人はあいかわらずポケッとしている。

「帝人、返事は?」

ぽけー

「…もう」


薄暗い室内灯のなか、ストッキングを脱ぎかけたその手を止める。帝人の視線は遠慮もへったくれもなく永遠子の股間に注がれているが、はっきりと言葉にしてくれないからいつも不安になる。

「帝人、私のこと好き?」

ぽけー

期待できない返答を聞く代わりに、ゆっくりと押し倒してキスをする。ココのところ寝に帰るだけのベッドは油と汗でずいぶんと汚れて、じめじめと湿っているのが少し気になる。

どれだけ忙しくても寝るときはこのベッド。それは永遠子が決めた誓いのようなもので、彼女を支える重要な要素でもある。
近くに帝人がいる、その安心感。万が一にも、帝人が自分を欲したときに、その場にいないなどということがあってはならない。気まぐれにもぐりこんでくる少年の肌。それさえあれば睡眠なんていらない。

脱ぎ捨てられたぱんつが指先に当たる。ああさすがにこれは片付けておくべきだったか。舌を抜き、濡れたくちびるとくちびるをこすりあわせていると、ふと悪魔のような欲望が永遠子の子宮に飛来する。

「帝人…舌だして…」「ココのところ…一番ばっちぃとこ…そう…いい子ね」

うっすらとした染みが、帝人のだ液で溶かされていく。汗を吸ったまま放置されたそれは、既に自分でもかぎたくないようなにおいを放っている。それを、最も大切な人間に押付ける快感。

「くさい?帝人…」

しかし帝人は、さらに強くにおいの源泉を求めるように、永遠子の手を掴んで離さない。さっきから腹をつついている彼の性器が、興奮の度合いを教えている。

「じゃぁ、……ここで息しなさい…」

彼女はゆるゆると、朝から働きづめだった足の継ぎ目を、帝人の顔に寄せていく。酸欠の帝人よりも、幸福で倒れそうなのは永遠子のほうだった。


・・・・・・。


「あっ、ぁあぅ!…っふぁ!ああぁぅあああ!!!」

胞衣の助けを求める手が空を掴む。浴室に充満するせっけんと女の髪のにおい。
客観的に見れば、帝人の腰はマッサージでもするようにゆるやかに動いているのに、貫かれた者からしてみれば、自分の膣が地獄とか天国とかをごちゃまぜにしたケーキになったようなものだった。

あわれ、浴槽の縁に手をかけようとした胞衣の手は、支えを得ることができずに帝人に引きずり戻される。ふんばることを許されない彼女は、子宮で爆発した快楽が体中で反響し、頭骨がパイプオルガンのように振動をやめない。

「ぁぁあああっぁぁあああぁぁぁ……ぃ、ぃっぅ、…ぁ、っひ」

不用意に肺の空気を吐きだした彼女は、再び息を吸うことができずに悶絶する。限界の一歩前、快楽が引き潮のように立ち去ると、爆発的に舞い戻る空気は、生の喜びと共に肺の中で踊り狂う。

胞衣から引き抜かれた一物は、何度見ても慣れることはない形相。梨園はついさっきまで自分の中にあったソレの感覚を反芻し、とろけたように舌をだす。普段なら不潔でしかない胞衣の愛液も、今は愛おしい。


湯船に浸かって成行きを見守っていた永遠子も愛撫に参加。帝人のソレは、2人がかりでも十分余裕がある。

「ふむ…帝人君……。ふぁ」
「んっ、んく……くぽ、…ぢゅぢゅぅぅ…」

梨園が、よくよく育った乳房の先端で、陰茎のシワをなぞったり、血管を尾根をつっついたりする。同じマネのできない永遠子は、くちびるの裏で尿道のさきっちょをこすったり、ふにふにと振動を与える。
小刻みな振動はやがて陰茎全体にいきわたり、じわじわと身体の中心からくる射精感が帝人を梱包、それを見越したように2人は愛撫を中断する。

「気持ちいいんだぁ…帝人君。…あん」

てのひらの中で形を変える乳房。梨園が腰をよじり、永遠子がお遊びのように、舌で亀頭を弾いて笑う。

とろとろになった梨園の膣は、熱のせいでたわんでいるようにも見える。あとからあとから湧いてくる蜜は粘度が高く、奥を覗き込もうとする帝人の指は、入口の肉に飲み込まれて役割を果たせない。


「ふぁっ、んんんぁ、…はっぁ…くぅん!!」

いくら前儀の段階で優勢に立ったといって、半分も挿入すればそれだけで勝負は決着する。もちろん梨園には分かりきっていたことだ。

うしろから尻を撫でる帝人の指は、一見愛情を備えているように見えて、実際はどう料理しようかなめずっているにすぎない。

「…お願い帝人…君。…やさしいのがいいの…ぅんんぁ!」

挿入が度合いを深めていく。死んでしまう、自分なら絶対に踏み入らない場所を、躊躇なく広げてみせる帝人。下腹に回した手が、暗に少女を逃がすまいと、陰毛をまさぐっている。

「ふっぅぁ…、無理だよ…おねえちゃ…んっく、ぅ…」

ぎゅぶぅぅぅ…ぅぅ。…くぽん。

「はぅ…、んぅあ」

きゅぷぷぷぷ、…ぶぷぶぷ。ぐぷ。
ぎゅぷ、ぎゅぷこ。

びゅっ、びゅぐ。びゅぷ。

「んぁう!!!」

子宮の入口だと思っていた場所の、さらに奥で射精された少女は、精子の動きですら加熱する快楽の広がりを感じ、止まらない肉の震えに耐えるしかなかった。


「帝人…まだ大丈夫?」

背後から、長い指で性器を抜くのを手伝う永遠子。半充血の塊を、梨園の果肉口にこすりつけると、もう一度欲しそうに穴が広がる。
会話の間、ものうげに亀頭の先端を入れたりだしたりするだけで、少女の尻は悩ましげに痙攣、立ち上がる力をなくした子ヤギのように地べたにへたる。


そのとき交尾の横で虚脱状態だった胞衣が、水を被って目を覚ました。元気になって鮮度を増した金色の髪。迷惑をかけてばかりのこの家の長に、親孝行とでもいうべき愛撫を加え、恥ずかしがる彼女の膣を開く。

「んっ、…はぐ。…ちょっと胞衣…やめてよもう…」

膣口に差しいれられた胞衣の舌は、くつべらのように帝人の性器を迎え入れ、わずかな異物感が、性交する2人を惑わせる。

「ちゅぶ…。んっ。…えー?こんなにお汁でてんじゃん」

対面で交わる2人をよそに、胞衣の舌は濃密な永遠子の尻穴をなぞりあげる。年長者としてのこのうえない羞恥ととまどい、しかしその背徳が全身を震わせるのも事実。

「んっ、…ふぅぅ…ぁ」

びゅく。びゅく、びゅ

自分はSなのかMなのか、考えながら永遠子は達した。緩んだ肛門から、差しいれられた胞衣の舌など気にすることもなく。


・・・・・・。


水鏡鏡(みかがみきょう)はTEITOグループのNO2。
非人間的な無機質さと、夜中の人形じみた禍々しさを兼ね備えた容貌は、大きくはない体躯に反して彼女の存在を巨大に見せる。

生き物のように飛跳ねる赤いクセ髪、のこぎりのような八重歯、帝人以上にしゃべらない彼女は、イラッとしたときにだけ、この歯をキシキシとかき鳴らすのだ。

アザだらけの二の腕は、幼い頃、酒を飲めば暴力を振るう父親に真っ向から対立し、拳の雨にひるむことなく立ち向かった証。母親は父に味方し、直接的な暴力よりも腹の底にたまる呪詛と罵声で彼女を育てた。

丁度彼女が義務教育を卒業する歳、ついにわき腹から斜め45度にめり込む腎臓殺しで父をノックアウトした少女は、3年間一度も洗ってはもらえなかったセーラー服に身を包み、卒業証書片手に春の戸口で深々と頭をさげた。
15年間のお礼と、お詫びの言葉は、両親に届いたかは分からない、彼女はそれきり後ろを振り返ったりはしなかったのだから。


そんな彼女は、帝人が怖れる唯一の人物だった。

強引に手をひっぱり、ものもいわずにズカズカと前を行く。エレベーターに乗る。2人きりになる。噛み付く。

ロビーを抜け、玄関先に待ち構える移動用のリムジンに乗る。運転手からは後部の様子はうかがい知れない。だから噛む。

首筋とわき腹と、左の尻が好きで、特に人目につかない尻は容赦なく歯形をつける。性器に触れるわけでもなく、本当にただ噛み付くだけなので始末が悪い。
そのくせ帝人が彼女の身体に触れようとすると、八重歯をさらにとがらせて怒るのだ。


合流先で永遠子が乗り込んでくると、キョウは澄ました顔で外を見て、いつもの優等生を演じ始める。服の下ではしっかりと帝人をつねって、彼が永遠子にすがりつくと、つねる力をさらに強める。



「帝人、今日はまず根神さんのところからね」

山道に入るため、車を乗り換え、永遠子自身が運転する。後部座席にキョウと2人にされた帝人は、ニヤニヤ笑う彼女をみて、少し絶望的になる。


・・・・・・。


「待ち人はきたかしら?」
「はぁ…」

根神アキラは、朽ち果てたバス停でくるはずのないバスを待っている。

夏にもかかわらず、真っ黒なローブを着て、時代錯誤のコウモリ傘は、血色の悪い彼女の肌をさらに白く染めている。



この時代に”おうきゅう”を再現するには、妨げとなる障害がいくつもあった。既に築かれている人間関係、道徳価値観。一人の人間がたとえ自らの意思でそうすることを決めても、それが彼らの通念にそぐわなければ、意思決定は阻害される。

問題は内部からだって起こりえる。特に頻発しているのは、前世の記憶に関するエラー。根神アキラも、その典型的な一例だった。


「はぁ……?」

永遠子の記憶が告げる限り、前世の彼女は、帝人に仕える非常に優秀な給仕係だったはずだ。
それが今、主であるはずの帝人を前にして、ぼんやりと小鳥と戯れることを優先している。何かが、彼女の記憶を再生するための、決定的な何かが足りないのだ。

「キョウ、また一時間したら迎えにくるから、帝人よろしくね」

死刑宣告にも等しい別れに、走って逃げようとする帝人の襟首をつかまえるキョウ。永遠子からしてみれば優秀な部下の顔が、バックミラー越しに小さくなる。

帝人はもう、あきらめて自ら尻をだす。

「いいお天気ですねぇ…」

ギザギザと刻み込まれていく歯形の横で、根神アキラは今日も待つ。


・・・・・・。


TEITOグループ本社は、比較的交通の便がまともな、この地方の中心市街に建てられている。永遠子たちの住居からは、長い長いトンネルを抜けておよそ1時間。廃線寸前だった無人駅も、来年には自動改札を導入しようという景気のいい話になってきた。

「つまんないな…」

ロータリーにたたずむ少女は、町の感想というわけでなく、もはや自分の人生の主題ともなった言葉を静かにつぶやく。
洗礼名、ベルナデッタ。御統丹七(みすまるにな)は、旅行用のボストンバックを両手で抱え、店の名前を判別できない喫茶店の扉をあける。

「女の子一人殺すのに女の子を雇うなんて、この国も終わってるよね。」

誰に問いかけるわけでもなく、耳の遠そうな店主も聞こえたようではなかった。独り言は彼女のクセで、自分の世界に没入している時は、自分でも自分が何をしているか分からない。

それでもいわれたことはちゃんと果たすから、裏の世界での彼女の評価は高かった。

いつもいつも、気づいたときには仕事が終わっている。優秀だなボク。そういえば人を殺したなぁという感慨も、熱いコーヒーとともにノド元を通り過ぎる。別に、そうだ、コーヒーさえ飲めるなら、人の命とかどうでもいい。

「…おいしいじゃん。おじいちゃんやるな…うん」

彼女はコーヒー代の端数まで、キッチリ小銭で払うと、横においてあったゴミ箱のような募金箱に、旅行費用36万円を全部突っこみ、店をでた。店主の老人は気づいてないようだったし、丹七も特に教えようとはしなかった。

「どうやって殺そうか…。会社?自宅?移動途中?まようなー」

彼女の手には、のこぎりのような八重歯をした少女の写真と、その八重歯に負けず劣らず不敵に光る、M36レディースミスが握られていた。


・・・・・・。


「今日も…進展なし?」

水鏡鏡がぶっきらぼうに2度うなずく。永遠子が困惑するのも当然で、根神アキラに接触してから2週間、彼女は何も口にせずにただずっと、立ち尽くしながらバスを待っている。

置いていったパンもスープも、まったく口をつけられた様子がない。無理矢理にでも医者に連れて行くべきだ、だがもしこれ以上エラーが重なったら彼女の精神が破綻するかもしれない、永遠子は決断を迫られていた。

「アキラさん…せめて何か口にしたら?」
「はぁ…」
「待ち人が来る前に、あなたが死んでしまっては意味がないわ」


なんでこの子が”おうきゅう”の一員なのだろうか。悲しいかな彼女の前世のことははっきり覚えているし、誓いの証である”アザ”が、くっきりと彼女のうなじに刻まれているのだ。

「では今日は帰ります。…これにスープはいってるから…」
「明日は…」
「え?」
「明日はテイトさん…何時ごろいらっしゃるのですか…?」


それは彼女が見せた、初めての変化だった。

「7時…。朝一番にくるから、絶対」

アキラはそんな永遠子とは視線をあわせず、ぽやぽやと小鳥についばまれる帝人を眺めている。


・・・・・・。


夜半過ぎに降りだした雨は勢いを強めていた。

寝起きだろうが寝てる最中だろうがテンションの変わらないキョウは、今上梨園の胸の中でグースカ眠る帝人の首筋に噛みつき、そのまま加えながら永遠子の元にのしのし運ぶ。

この頃はロクに疲れもとれない永遠子は、先にいってて、と眠たげな目を擦る。ノソノソと身支度を始める彼女を尻目に、わが意を得たりと、キョウは帝人を噛みに噛んでは噛みたおす。
エレベーターの中、ついには帝人も、久々に自己を主張しないわけにはいかなかった。

「もうやめてよ…キョウちゃん」

ぐぬぬ?と、聞いたこともない声の主を探し、それが帝人だと分かると、理解不能状態におちいったキョウは思わず帝人をはったおす。


ベチコーン


湧きでる涙。訴える瞳。深海のようにキョウを押しつぶす罪悪感の圧力。後悔。特に倒れた帝人が頭をぶつけたのが余分だった。だがキョウは謝らない。謝れない。

「キョウちゃんのバカ!!」

エレベーターのドアが開き、走って逃げようとした少年の足が、人影に気づいて動きを止める。

雨に濡れた黒い影。

ゆっくりと、溶けるように入口の自動ドアを抜けて、ロビーにゆらゆら流れ込む。足元に倒れているのは、警備員だった男の死体か。

久しぶりの再会を喜ぶようにあげられた手には、黒い、黒い、人を殺せる黒い牙。銃声よりも、雨音の方がよっぽどうるさい。キョウが驚いたのは、流れた血が自分でなく、帝人のものだったこと。

「あれれー?はずれたなー、おかしいぞ。うーん」

キョウをかばうように倒れこんだ帝人は、また一つ余分に頭をぶつける。その頭をいたわるべきか、これまでの非礼を詫びるべきか、ちがうまずは止血だと、キョウは錯乱した頭をぐるぐる回しながら壁に手をついて立とうとする。

その手を狙う2撃目。しかし標的はぐるりと反転して視界の端から外れていく。自分が見ているのが天井で、頭をぶつけたのが床の大理石であると、気づいたときにはドヤドヤと人がなだれ込んできて、ああ失敗したんだと心のどこかで思った。


「なにがあったの!?ちょっとキョウ!しっかりして!!」
「帝人が…ぁぁ!!あ!ぅぁ、私が…殴ったから……!帝人が!!!」
「これは帝人の血なの!?帝人はどこなの!」


どれだけ人生の経験を積もうとも、永遠子の身体はまだ未成年である。流れた血と、雨の音が、彼女の思考をいちいち邪魔する。
丹七を囲む警備員からざわめきの声。抵抗する気配もない彼女の首には、はっきりと”おうきゅう”の証しが刻まれていた。

「ロナウルス…あなたなの?…なんてこと…なんでこんな…」
「抵抗しないよ…とりあえず、コーヒー飲ませて」


時刻は7時。雨はまだまだ強まるばかり。

帝人の姿はどこにもなかった。


・・・・・・。


ずいぶん遠い過去の記憶。

根神アキラはシャリートという名で、戦争に行く王の背中を見送っていた。

「大丈夫だよ、絶対帰ってくる。ロナもいるし」

そういって頭を撫でていった王を待ち、食べることも忘れて10日が過ぎた。あの時は確か、雨に降られて身体を壊したのだ。

「だから今度は、ちゃんとカサ…もってきたんですよテイトさま…」

この夢は多分、2度と覚めそうにない。そんな泥沼の、深い記憶。あの時、私は死んだのだっけ、はぁ…だめだなぁ私。

「ごめんなさいテイトさま」
「なにいってんのシャリート」


彼の記憶が、屈託なく笑う。
…ああそうだ、あの時王は、自分が受けた矢傷をほったらかして私を迎えにきたのだ。

「全部…全部思い出しました…」

ゆっくりと、彼の体温が背中から伝わってくる。

「また迷惑…かけちゃいました」

テイト様。

「ダメですねぇ、私」

今度のテイト様はなんだか無口で、ずいぶん小さかった。


・・・・・・。


客観的な事実のみを記そう。キョウをかばって撃たれた帝人は、驚嘆すべき身のこなしで丹七の懐に接近、レディースミスの銃身を無理矢理へし折り、やわらを用いて彼女をひっくり返した。
時計を見ると朝5時を少し過ぎていて、ビックリした帝人はそのままダッシュで、雨の山道を2時間爆走、途中、骨で止まった弾丸を指先でほじくると、消毒は天にまかせて止血を完成。
バス停でぶっ倒れているアキラを見つけて担ぎあげ、ふらふらになりながら下山し、途中で永遠子の車に拾われて病院まで担ぎ込まれると、案の定ぶったおれて気を失った。

丹七にのされた警備員をふくめ、死者はゼロ。アキラの状態が最も悪く、一時こん睡状態におちいったが、幸い回復し、全員命に別状はない。

「私のせいだ…」

思いの他ふさぎこんでいるのが永遠子で、パニくってアキラの存在に気づくのが遅れたことをずいぶん悔やんでいた。

帝人の側に仕えるものなら、当然想定すべき事態。”おうきゅう”のメンバーなら、当たり前の行動。帝人でなければ駆けつける意味がなかったし、それを止めることは銃弾であってもできはしないのだから。



それでも2週間も時がたつと、だいたいが普段どおりの日常に戻った。

まだ少しだけ、バンソウコウ程度の傷が、病院の機材とともに自宅マンションに残っている。治療室に割り当てられたその部屋では、帝人、アキラ、丹七が並んで寝起きをする。

現世の常識に縛られている連中は丹七の隔離を望んだが、”おうきゅう”のメンバーはそれがどれだけ愚かな意見か分かっている。


「彼女は英雄だったのです。戦争の…そう、この世界では必要とされない力だけど」

それで皆が納得したのかどうか、丹七はなんだかマンションに住むのを決めたようで、彼女を雇ってキョウを狙った連中も、漏れなくTEITOの裏組織に駆逐された。

丹七は記憶が完全に戻っているようで、「コーヒーより熱い帝人様」を合言葉に、ベタベタベタベタひっついて回っている。


キョウは、あの日以来噛み癖をぱったりやめた。反対に、人前でも始終帝人にくっつくようになり、今までつけてきた歯形の跡をはずかしげもなく舌で舐めた。これもまた帝人を閉口させる要因になったのはいうまでもない。


・・・・・・。


ちゅぶ…くぶ。ぢゅぶぶぶ。ぢゅ。

「へへー、帝人様、ここがいいの?」

丹七のくちびるからのぞきでたやわらかい舌が、閉じた尿道口を開こうとする。
あまりの刺激にのけぞった帝人を、キョウの四肢ががっつりと固定。えっちのときはなぜか控えめになる少女は、舐めていいのか?いいのか?見たいな顔で少年を見つめる。


「テイト様ぁ、ココが私のいいトコです」

帝人の右手を丁寧に広げるのはアキラ。靴下だけ履いた彼女は、主の指の一本一本を、教え込むように自らの果肉に導き、つまませ、なぞらせる。
同時に自分の指で、チコチコと周囲の肉をなぞる様子は、覚えたてのオナニーをおっかなびっくり試しているようにしか見えない。

キョウの熱い息が首筋にまとわりつき、舌の塊が、グジュグジュと帝人のソレと交尾。ぱんつとシャツ一枚の彼女は、意識的にか無意識的にかその腰を帝人の腕にこすりつけている。

「帝人様、もういれるねー」

丹七はジコジコと性器の皮を上下させながら、すべりの悪くなった性器の先端を、自らの入口にあてがう。亀頭を埋め、ゆっくりとこねまわす少女の腰は、全員の目に結合部を見せるように動く。

「あっ、…やぅ」

ぼんやりと見とれるアキラの不意をつき、進入を深めた中指が彼女の急所をつく。彼女の膣はその指を咥え込むように締めつけ、あふれた蜜が、指を伝っててのひらに溜まる。
帝人は、背後で熱を上げるキョウの秘所を、身体をずらしながらこすろうとする。少女のぱんつはぺったりと肌に張りついて。玉になった雫を拭うように指でつつくと、ビクリとはねた頭が帝人の頭とぶつかった。

「アッ、ゥ、ごめ……ぁ、…ゃ、…て…いと」

恥入るような彼女は、愛液のにおいをかごうとする帝人の行為にさらにあわて、フーフーとうなり声で怒りを主張する。

「だめだよー帝人様、こっちこっち、ぅあん!」

やがて交尾の主導権は帝人に代わり、中腰で構える丹七に、帝人が打ち込むような形になった。ふるふると震えるひざがしら。3方から重なりあう粘膜の摩擦音。

「ふぁあっああッ!!帝人様、あっ…っついよ!!!ふぁ…」
「テイト様…んぁ。もっと、ぎゅって、してください…」
「……て…てい、と…ぅぁ…」

最初にダウンしたアキラが、身体を投げ捨てるように帝人に体重を預ける。その乳を揉み、親指と人差し指で乳首をこねる。
けだるげに帝人の腹にのせられたふとももはとろけるように熱く、後ろから回されたキョウの二の腕は、少年の指の愛撫に耐え切れぬように彼を絞める。

「帝人様っぁ!!」

びゅぶ、びゅっく、びゅっ、

くったりと崩れる丹七。肉をえぐる射精の刺激で腰が浮き、ぶぽりと弾けた精子の塊がアキラの尻にかかって垂れる。
彼女の指が、まだ絶頂の最中の、尿道の残り汁を吐きだしている一物をつかまえ、するりと一息、自らの中に咥え込む。そこには灼熱の体温があって、内側からとろけていく彼女の熱が感じられる。

「ふぁぁ…テイトさまぁ…」

こぼれたよだれがパタパタと帝人の腹にたれ、帝人にはそれが糖蜜のように甘そうに思われた。そうさせているのはキョウの汗ばんだ髪のにおいで、さっきからずっと甘く、濃く、彼の神経を麻痺させて、鼻の奥ににおいの根城のようなものをつくっていた。


きゅぶ…ちゅぶぅぅぅ…

キレイなアキラの髪をしゃぶる。彼女の尻を丹七の舌が蹂躙しているのが分かる。もう既に危険水位を突破した桃色の肉は無残にも肉物に貫かれ、だらりとこぼれた舌はそうすることでしか息を継げない彼女の状態を如実に表す。

「だめ…テイトさま、…でちゃう…ぅぅ、で…ちゃうぅ!!!」

びゅぐ、びゅっ、びゅる

彼女のやわらかい腹筋の直下に射精し、彼女の膣の味が、尿道を通して伝わったかのような錯覚を催す。舌の根で絶えずあふれるだ液はキョウに飲ませ、身体をひねるようにしてゆっくりと彼女を押し倒す。

「……こ、…こぁ……こ…、わい、よ」

他の2人と違い、彼女の膣はなかなかセックスに順応しなかった。安心させるように頭をなでてぱんつをずらし、ぶるぶると震える性器を膣口にあてがう。

「…ぅ。……、ぁ、…あ!」

ぎゅぶぎゅぶぶぅぅ…ぷす。

「あぅ!……ゃ…。…。あっ、」

きゅぶ…。じゅ。ぢゅこ、っぢゅこっ

ぜぇぜぇと息を整えながら、左右から丹七とアキラが這いずり寄って、敏感に跳ね回るキョウへの愛撫に加わる。
帝人はキョウの膣にでたりはいったりしながら、アキラの膣を指で開いたり、丹七の肛門に指を這わせたりする。3人の髪のにおいをかぎ、だ液の味を比べ、膣の熱と、肉のつくりを比べる。

「っあぁう!!」

ぶぎゅ…びゅーこ、びゅこ…びゅる


最後には狭い膣道全域に精子を刷り込ませ、仕事の終わった肉物をキョウの八重歯にコツコツあてると、3人がそれぞれ舌を伸ばして、仲良くゆっくり舐めだした。


よだれと汗と、精子と愛液。あらゆる体液の蜜でネトネトになった4人は、冷え始めた体温を保持するべく、互いのぬるぬるをこすりつけながら抱き合い眠る。どれも幸福と、恍惚と、慈愛に満ちた瞳を湛えて。あの頃はみんな、こんな眼をして眠っていたのだと、頭のどこかで思いだした。


・・・・・・。



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