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「ミスラ様…ミスラ様…」
「……ん…？」
「お目覚めになってください。お仕事です…」
「…うー…うん」
気遣うような控えめな声が耳に響き、身体が軽くゆすられる。
ミスラはすぐに、その声の主が誰だか分かった。
メイド隊員クララク。
出会ってからの期間は長くはないが、この頃は常に一緒にいるのでよく知った仲である。
初めはその乏しい表情のせいで、ミスラは自分が嫌われているのかと思っていたがそうではないらしく、”生まれつきなので”とのこと。
仕事は極めてよくこなし、ミスラの狂った暴君のような振る舞いにも文句一ついわない優等生。
例えば後ろからおっぱいを鷲掴みにして、無言のまま体重をのっしりとかけていったとしよう。普通ならそのまま投げ飛ばされ、花を飾るのに使った剣山で尻の穴を増やされても文句は言えないのだが、彼女は違う。怒らない。
ちょっとムッとはする。
赤くなったりもする。
だがミスラにいわせればその顔がまたたまらない。
そういうわけだからミスラ、ほっそりとした少女の手首をがしりとつかみ、有無をいわさずベッドの中に引きずりこんだ。
クララクはあらかじめ予期していたのか、たいして驚きもしなかった。
頭から被った布団が、外の空気を遮断する。
抱きしめた少女の、吐息だとか体温だとかは２倍増しに感ぜられ、鼻腔をくすぐる甘い髪と、さらさらの肌が心地よい。
「ミスラ様…いい子だからもう起きてください」
「うん…」
「んっ……ミスラ様…」
「うん…起きる」
モゾモゾモゾモゾ。
ミスラは眼をあけることもせず、手探りだけで少女をまさぐる。
それはさながら、抱き心地のよい肉枕。そんな気持ちのよいものを抱いていて、どうして眼を覚ますなんてことができようか。
眠気は去るどころか重力を増していき、ミスラを羊水がごとき夢へと引きずり込む。
ところがその瞬間、右手がなんだか柔らかいものをむにゅりと潰した。
なんだかわからない。だがミスラ、なんだかわからないながらも「うわ、やべ」と思った。
仕方がなしに薄目を開けたら、女の子の下半身と思しき物体が布団の中に突っこまれている。
多分ユリンだろう。そうミスラが判断したのは陰毛や産毛の色から。ほくろの位置も、見覚えある。
爆睡中の少女の性器はうっすらと開いていて、寝汗ともつかぬ汁気が、僅かに粘膜を光らせている。
いまだ寝ぼけているミスラは、とりあえず敵ではないと安心したのか、無防備な性器のにおいを何気なしに嗅ぎ、舌で舐めた。
キスをし、くちびるですう。
メイドは腕の中で抱かれたまま。節操ない主の行為を見てみぬフリ。
生理現象でガッチガチのミスラ一物が、清潔なスカートをジワジワと汚す。
「グリオーさまー、起きてくださーい」
布団の向こうで陽気な声がする。誰かしらんと、ミスラはのそのそと顔だけだして声の主を確認。
そこにはクララクの同僚、メイド隊員のシンシラがいた。
彼女の存在は、いつもクララクとペアであることを考えればあって当然居て当然なのだが、寝起きのミスラは少しビックリする。
ああそうか、そりゃいるわなと、寝ぼけた頭をしっかり整理。
ちょっと驚いたことをごまかすようにクララクへの愛撫を強め、首筋をネチネチ、くちびるで舐る。
「あ…あの、ミスラ様…。団長が…呼んでいますので……」
「んー、キスしてくれたら起きる」
いわれたメイドは、たいして迷うこともせずにくちびるを重ねてみせる。
しかも２度。１回目は的から少し外れたからと、改めてしっかりぺっとりくっつけみせるのだ。
寝起きの人間によくそんなことできるねと、感心したミスラは素直に布団をどけて身体を起こした。
クララクは駄々っ子を学校に行かせる母親のような瞳をしている。こんな眼に抵抗はできまい。この娘、ミスラより年下なのに、なんだろうかこの堂々たる態度。
ゆっくりと伸びた手には濡れ布巾があって、ボーっとするミスラのメヤニやら、カリカリの髪の毛やらを拭っていった。
「グリオーさまー？幹部連は召集かかってますよー？グリオーさまー」
もう一人の駄々っ子は、幹部連という言葉にビクリと反応。飛び起きて、辺りを見る。
「い…いいい、今何時かねキミタチ！！」
「昼過ぎでーす」
「ふぁぁぁぅぁあああ！！しまった！！寝過ごした！！」
すぐにでもぱんつをはこうとしたグリオーは、しかしユリンに躓いてずっこける。
ゼンゼン起きない召喚師は、そこそこのサッカーボールキックを喰らいつつも夢の中。なんなら蹴ったほうのグリオーが足首かどこかひねったのか、生まれたての子鹿みたいにひょこひょこひょこひょこ。
その間もミスラは、クララクのおっぱいを揉むのをやめない。終始無表情だった少女も、あまりに偏執的ないじくり方についつい熱い吐息を漏らし、それをほほにうけた寝起きの変態は、また一つ調子にのる。
ミスラの指が、クララクのくちびるをなぞった。舌が伸びて、少しだけ触れていったがすぐに引っ込む。
「グリオーさまー、髪の毛、髪の毛」
「へ？え？うぁぁあ、なにこれ、やだ…！！」
片足だけタイツを履いたグリオーは、シンシラのもちだした手鏡を見、かっぴかぴの己の髪を確認してひっくり返る。
もうダメだこの世の終わりだ。泣き叫ぶ彼女は、あやすようなシンシラと共にバスルームに消えた。
残されたミスラは、腕の中のクララクにボソボソと耳打ちする。
その要求は、さすがに少女のほほをおおいに染めさせたが、やはり拒まれなかった。
「失礼します……」
くぷりと。
すぐにやわらかい粘膜が、肉物を包む。
先ほど指で触れた小さな舌が、亀頭をなすった。
「クララクの舌、やらかいね」
「ん…ぅ、……ん」
こぽこぽと、控えめな口の愛撫は、やはり横で寝ているユリンが気になるのだろう。
確かに彼女等はザクロ団では新入りだから、古参に気を使うのはやむない話。直接眼で見たりはしないが、気配をうかがっているのがよくわかる。
ミスラはそんなクララクの尻を撫でながら、ゆっくりと真新しいスカートを捲り上げた。
布越しに触れる少女の果肉は、じっとりと湿っている。
「ほらクララク。早くしないとシンシラがでてくるよ」
「ん…はぁ…。ぁ…。…ん、ん……」
あせらせてあせらせて、自分はジクジクと、果肉にあてがった指を動かす。
頃合を見てミスラは射精、少女の口の端から、少しだけどろりとした汁がこぼれた。
ちょっとだけ迷惑層な顔。
眉根のよじり具合が、不意打ちを咎めていた。
「ねえ、クララク」
「ん……ふく、…ふぁい」
「それ飲まずに今日一日過ごせる？」
「…ふぇ？」
「それができたら続きをしてあげる」
ミスラの精神は完全にご主人様モードである。
ご主人様モード。
すなわち、自分に対して控えめな少女であるとか、あまり強くでてこない少女に対してのみ発動する、もっとも矮小で卑劣なモード。
まったくこの黒髪のメイドさんは、自分というご主人様に心の底から惚れているのだ。
尽くす喜び、使われる喜び。彼女が望んでいるんだからじゃぁしょうがない。
ご褒美にシニカルな微笑をあげよう。キラリと光る白い歯で、耳たぶをかぷかぷ噛みながらエロいことを囁いてあげよう。
どうだうれしいか、光栄だろう、さあ尻をだせ。
そんな妄想に浸りつつ少女を舐るミスラは、残念なことに鼻の穴が広がりすぎてバカ丸出しである。
世にバカ図鑑を編集しようとする学者がいるのなら、その人はきっとメインにミスラを載せるだろう。それぐらいバカという言葉を端的にあらわした顔をしている。
いい子だ、と。
少女の頭をなでなでするこの下品な男を、噴出さずに相手ができるクララクは相当なプロフェッショナルであるといわざるをえまい。ところが――
「……ご、…ご命令…なら…んっ…っ」
彼女も方もとろりとノリノリ。本気でミスラに征服されたくて、おおせつかった無理難題に心を震わせている。
ミスラはあまりにもいたいけなメイド少女に酔い、おもいっきりキスをしたくなったがさすがに踏みとどまる。それくらいの理性はあった。
半泣きで風呂場をでてきたグリオーは、身体も拭かずに衣服を被り、おおわらわでテレポートをして飛んでいった。
浴室からマイペースなシンシラがでてきて、ミスラはだらだらと迷惑をかけながら２人のメイドに服を着せてもらっていたら、グリオーが戻ってきて一緒に連れてかれた。
・・・・・・。
「おう、きたかミスラ」
「ん？どうしたのザクロねーちゃん」
グリオーに連れて行かれたのは、いやに閉塞的な通路だった。
緩やかな下り坂になっていて、左右に迫る壁には趣味の悪いレリーフが刻まれている。
一定間隔で吊るされたランプがいかにも急ごしらえで、そうした年代物の恐怖を幾分安っぽいものにしているのが救いだった。
「ここどの辺？」
「んー？祭り会場のすぐ近くだぞ」
待構えていたヘルザクロが、強引にミスラを引寄せる。そのせいでグリオーは、テレポート時から繋いでいた手をしぶしぶ放すことになった。
いかにも残念そうな眼は、なぜかミスラを責める。最高の笑顔でもって許しを請うと、案外簡単に機嫌が直った。シニカル笑顔さまさまである。
案内、というほども歩いていない。十字になった角を折れると、すぐに石造りの扉があって、その前に見覚えのある顔が立っている。
ユピゼル・ハウエル。
黄金の獅子と形容される鎧と金髪。寡黙というよりは不器用な武人であり、立場的にはヘルザクロの親衛隊みたいな人である。
その横にはロロウ・フィアスという、表情に翳りのある同僚が居た。２人とも、ミスラを見て少し微笑む。
「や、ミスラ、おつかれ」
「あ、お疲れ様ですロロウさん」
「終わったらおねーさんたちと遊ぼう」
ロロウ・フィアスが明るい調子でミスラの肩を叩く。
彼女は黙っていると非常に近寄りがたい雰囲気を放つのだが、中身は陽気そのものなのだ。
酒ビン片手に”踊ります！”と最初に言いだすのはだいたい彼女。歌って踊って騒げるだけ騒いで、最後には死んだようにぶっ倒れて皆に迷惑をかけ、かけるのだがしゃーねーなーで済まされる。そういう特異な人。
遊ぼうねという言葉にも、別にエロい意味はない。
この場合、遊びに該当するのは本当に世間話であったり、カードや卓上ゲームや新しく作った楽器の演奏だったりするのである。
ミスラがザクロ団の旧本拠地にいた頃は、しばしば彼女等の溜り場で過ごしたものだが、そういえば新居になってからはお邪魔していない。
ヒマさえあればセックスばかりしているミスラには、そうした仲間達と一緒にはしゃぐ時間が果てしなく貴重だった。
いきますいきます
じゃぁあとで連絡するね
眼だけの合図でそれがわかる。
ユピゼルが諌めた。
「ロロウ、仕事中だ」
「わかってまーす」
一同扉の中へ。
ミスラはヘルザクロに引きずられるようにひっぱられ、エリート顔に戻ったグリオーが、それに続いた。
部屋の中はかび臭かった。
暗くてよく見えないが、大勢でダンスをしても不自由ないくらいの広さはあるだろう。入口付近ではやけに天井が低く感じるが、段差があって、地面を掘り下げたようになっているから頭をぶつけることもない。
足を踏み入れた瞬間、魔法の才能があまりにも乏しいミスラにも、重っ苦しい術式がそこらじゅうを飛びかっているのがわかった。
「お、丁度良かったの、こちらも準備できたぞい」
「あ、モナ」
「さーて、そんじゃぁ見せてもらおーかや」
「ミーくんがんばってねー」
左手にモナメテオを見つけて気が緩んだところへ、ココローヤにカカナンという長老２人がのっそりでてきて、わずかにミスラ緊張する。
よく見れば、その後ろにはさらに４つの影があった。
衛生長にして高僧、ルイル。
軍事総長ヒューリ。
特攻隊長カリンザ。
自称大幹部のラブラノ・オドケナウ
集まったメンツを知って、ミスラはさらに驚く。
要するにザクロ団の首脳陣、全員集合である。こんなことは滅多にない。一体なにが始まるのか。
「どうしたの？…どうしたんですか、みんなそろっちゃって」
とりあえず何も連絡を受けていないミスラは、臨界体制ともいえるこの部屋に呼びだされた理由を考える。答えはすぐにわかった。
部屋の中央に、なまめかしい影が５つ。
三貴神サロ。
同ドラディエラ。
その部下ティラティス
同フー
元三貴神ジアル。
先の戦いで敵対した魔族の美女達が、床から伸びた鎖で繋がれている。
特にやつれた様子もないから、ごはんなどはちゃんと食べているのだろうが、この状況はつまり――
「や…やるの？」
「そ、やるの」
ヘルザクロの手が、ミスラの頭を鷲掴みにしてクシャクシャする。ついでに２、３のキス。
ついでといっても、他の娘の本キッスより熱い。
ミスラ気配を感じて、右手を見やる。そちらには思ってた以上に人がいた。
「一つ注意があるんですね、ミスラ君」
「テンネさん……クリス」
そしてその後方には、宝剣少女が６人。これだけ宝石みたいな少女が並ぶと、なんだか壮観である。
「先の戦いでクリスさんに貯蔵されていた力は使い切ってしまったんですね。なのでこれからは無尽蔵に力を放出、とはいかないの。ちゃんと計算しながら、溜めては使い、溜めては使い、ということになりますね」
「はあ」
「今回分はチャージしてありますね、でもコレが終わったらしばらく、クリスさんとはえっちできなくなっちゃいます」
「え！？ ウソ！？」
ミスラはクリスを見る。クリスはつらそうに顔をそむける。
そんなこと聞いてないぞと、急激にその腰を抱き寄せたくなった。
我慢なぞできるはずがない、なにをいっているのだこの軍師。
あまりの事態に眠気は吹き飛び、カラカラと脳みそが回転を始める。
「テンネさんテンネさん、先行なんちゃらをやったらいいんじゃないんですか？」
「あれは使わないにこしたことはないのです」
「ん？キミは……」
宝剣少女達の中から、育ちのよさそうな少女が前にでる。
太陽光を、いっぱい吸ってそうな金色の髪。軽そうで、あったかそう。
フワリと、頭が揺れた。
「ロストラテイトと申します、マスター」
「マスター？え？オレ？」
「はい。この世界には、マスターはマスターしかおりませんから」
「ん？ん？ねーちゃんは……？キミは確かねーちゃんに……」
現在この娘はヘルザクロに行使されているはずだ。
詳しいことはよくわからないが、それを差し置いてミスラがマスターなんてことが成り立つのか。
こういう時、勉強をしてないのは不利である。
足りない手がかりで自分なりの思考を組み立てていたら、ヘルザクロの乳が全部潰した。
「いいんだよ、だから成り立つんだ。これで全部収まるの」
「んー、よくわかんねーや」
「その内教えてやるよミスラ。今は一個だけ覚えときな」
「ん？」
「先行契約っつーのはなー、結構世界に与える影響がでかいんだ。普通に使ってても、世界のいろんなところでバグがでる。地面から降る雨しかり……」
「あー、なんかあったね、遺跡の中に」
「契約破棄なんてのはもっての外、ヘタすりゃ世界が終わっちまうかもしんねー、そんくらいこの契約には、責任をまっとうする義務が生じんのな」
「ふーん」
よどみなく説明するヘルザクロの声は、後ろからミスラを挟み込む乳によって、半分くらいしか聞こえない。
たぷんたぷん。
それにしてもこの暴君、人に抱きつく時、普通の人なら遠慮するくらいの体重を平気でかけるから手に負えない。
人に対する遠慮がないのだ。
ミスラは結構本気で足腰を踏ん張る。なんといってもミスラより頭１つでかい体躯。普通に重い。グラグラする。
これで妖艶な体臭や、とぷんとぷんの乳がなかったらミスラは怒ってたかもしれない。ねーちゃんいい加減にしろよと。
だけどどっちもあるから、ミスラはどちらも堪能する。
この乳で久々に身体洗ってもらいたいなぁ、そんなゆるい妄想が頭を席巻。石鹸だけにね。一人でニヤニヤしていると、ラブラノ・オドケナウが靴の底でミスラのすね毛をむしっていった。これはデコピンで追い払う。
「んでな、ねーちゃんこの娘の力を借りてるだろ？ロストな。んで、この娘と実際に契約してんのはアタシの未来の子供なワケだ。アタシはアタシの子供とロストを契約させますよーってことでロストの力を借りてるわけ」
「うんうん」
「だ・か・ら、ねーちゃんはがんばって子供を産まないといけないわけだ。義務だな義務。ねーちゃんはお前としかセックスしたくない。だもんでこれからはミスラの精子、全部ねーちゃんの膣内にだしてもらわないと、みんなが困るんだな」
「んご…！」
どうなんだーい？みたいな舌が、れろれろと耳の中を舐っていく。
ミスラは甘すぎる体臭でむせた。特に乳の間から立ち上る、温かい空気がきわどかった。
そっちに気がいっているから、彼女のいわんとするところがイマイチのみ込めない。
「ふむ。まあ確かに、今一番重要なのはそのことかの。のうミスラよ、お主のことを知ったら、端の２人は是非にと申しでてきたぞ」
「へ？ナニが？」
モナメテオの指した方を見やる。繋がれてなお威厳を保つ美女が、スクリと立ち上がった。
ああなるほど、と、ミスラちょっとだけわかった気がした。
三貴神サロ。
黄金の炎のような髪、鍛え上げられた刃のような肉体。
遺跡で出会った時はマスクをしていて、しかもヘルザクロが膝蹴り一発で仕留めたからたいした印象も残っていないのだが、こう改めて対峙してみると平伏したくなるような威厳を備えている。
その瞳は憂いを秘めて、多くのものを背負い、かつ乗り越えてきた王者のもの。
よくこんな人に勝てたなァと、ミスラは自分に乳を押付けるヘルザクロを見る。彼女は宝剣の先行契約者。
そしてサロもまた、宝剣の行使者である。
つまり彼女等三貴神も、先行契約によって契られた義務を負っている。それは即ち子供を産むこと。
手っ取り早いのは、ミスラだ。そういうことか。
王者の口が、静かに開かれる。
「アナタがサラエとは知らなかった」
「え？」
「どうかこの私を、妻として迎えていただきたい」
「つ、妻ぁ…？」
「だ、だだだ…ダメだそんなのっ！！！！」
思わず叫んだのは、昨晩自分は何番目でもいいとかいっていたグリオー。
真っ赤になって、下を向き、カリンザやらラブラノにわき腹を突っつかれる。ヒマな猛獣達にオモチャを与えたようなものだ、哀れなりグリオー。
クリスを見ると、モロに眼が合った。
別になんとも思ってないよということを全力で主張する、氷のような視線に気おされ、後じさり。
そんなクリステスラをなだめるように、クロガネ・テンネが話を一番最初に戻す。
彼女達はとても協力的です。でも一応、魔族の毒気はぬいとかないとダメですからね。魔王の呪いを侮ってはいけません。じゃぁクリスさんお願いね、うふふふふ……
「テンネさん……絶対ワザとでしょ」
「フフフ、モテる男の子はつらいですね」
わざわざ待っていたとしか思えないような破滅的なタイミングで、ミスラはクリスとセックスすることになったのである。
・・・・・・。
「怒んなよ」
「怒ってないもん」
「お前コレで怒ってなかったらドレで怒ったことになるんだよ、ホレ、試しに怒ってみろ」
「怒ってないもん」
世にいう痴話ゲンカである。
ミスラとしては気を遣ったつもりで、別室に移動しようなんていってみるのだが、はてさて嫁さんの方はそれを拒否。
ここでいいもん、お仕事だもんと、頑として動こうとせず、衆人環視の中でちんこをおったてろと要求する。
「しばらくお前とセッ…えっちできなくなるかもしれないんだぞ！」
「いいもんゼンゼン気にならないもん！」
「おいクリス！！いい加減に…」
「馴れ馴れしく呼ばないでよ！あるじのバカ！！」
馴れ合いを拒否しといてあるじとはなんだこのおバカ。そう反撃にでようとミスラが口を開いた時、横からまたややこしいのがわってはいってきた。
「いつまでまたせるんかのーダーリン」
「ぬおあ！……お、お前は」
周囲に漂う野獣のにおい。得物を仕留めるために発達したその体躯は熱をもち、密着した乳房の間にはねっとりとした汗がある。
元三貴神ジアル。
７層遺跡ではどさくさにまぎれて出現し、てんやわんやで叩きのめされた元魔神。
叩きのめしたのはミスラで、一瞬の出来事だったから名前もあまり覚えていないのだが、その猛々しい肉体だけは強烈に脳裏に焼きついている。
身長はヘルザクロよりも明らかに高い。強靭な筋肉。躍動感。ほったらかしの体毛。
そこに見えるのは、自然界で生き延びるために研ぎ澄まされた、生命の持つ美しさである。
「だ……ダーリンって…オレか？」
「わしゃー強いヤツが大好きじゃけぇ、もうダーリンにメロメロなんよ」
そういわれてミスラ、改めてジアルの顔をみる。
それはまるで欠点らしき欠点が見つからない、完璧と言い換えてもいい均整美を備えた、優れた彫刻品。
ただ彼女が彫刻品でないとわかるのは、おっぱいが柔らかいからだ。
ミスラは女の人の脇の毛を久しぶりに見た。ザクロ団の面々は皆ミスラを意識して手入れを怠らないから、強烈なアクセントにドギマギして、変な性癖が開眼しそうになる。
「ダーリン…わしもダーリンの子供が産みたいんじゃぁ…」
「こ…こ、子供っておま…」
ミスラは生唾を飲んだ。
飲んでからクリスを見る。
愚かな民衆に怒りの裁きを下す異教の神が、丁度こんな眼をしていたなぁなどと、ミスラ思った。
ここはビシッとせねばなるまい。だがミスラにそんな度胸などないのだ。ヘタレなのだ。だからミスラは叫んだ。
「カリンザ！酒くれ」
「んぁ？コレか？おめーこんなもん飲んだらノド焼けるぞ」
構わん、くれ！カリンザが、腰に下げていたトックリを放る。銘酒魔人殺し。飲み物というよりは爆発物に近いその酒は、ちびりとでも舐めればたちまち肝臓がフォアグラになるという恐るべき濁り酒。
ミスラ、めんどくさいから飛んできたトックリを頭で割って、全身でその酒を浴びた。
・・・・・・。
「そりゃーーーーーーーー！！！！！！！！」
ミスラ叫び、音が伝わるよりも先に少女を掴んで肩に担いだ。
少女というだけならこの場にはいっぱいいる。この時担がれた少女の名はクリステスラといい、白い肌と青白い髪がトレードマークの、世間ずれした少女であった。
「クリス！お前のご主人様は誰だ！！」
「ひぁぅぅぅぅ！！」
「オレだ！違うか！！ええい違うというのかこの不良娘め！！」
「ひぁ、やぁ…ち、ちがわない…です。……ちがわないです！！」
「それをお前はバカだと！？ええいこうしてくれる！お仕置きだ！お仕置きだ！！」
「ぁう！ひゃぅ！！あ…あるじ…ご、ご、ごめんなさい…うにゃぁぅ！」
ミスラは少女の尻をペチリと叩く。強くではない。精神の根っこが、摘めばひゅぽっと抜けるくらいほっそいから、万が一を考えると酔っ払っていても相手に気を使う。彼女は基本ノーパンだし。デリケートゾーン近いし。
しかしクリスにはそれで十分だった。ミスラと会ってから初めての体罰。
彼女の長い長い人生を通算してみても、最初の一発。それを尻に受けたのだ。
感情が錯乱していた。
酷いと思う心もあり、痛いと乱れる心がある。なによりも、後悔。
ミスラにバカといってしまって、一番傷ついているのは彼女なのだ。でも悪いのはあるじだもん。そういって無理矢理自分を納得させ、強引に縫いつけようとしていた傷口を、肌のしびれが開いてしまった。
涙がボロボロ、少女の内側から零れてくる。
止めようとした。しかしやり方がわからない。
これほどまでに感情を爆発させたことは、今までにないからだ。
感情を押し殺すことには自信があったのに、どうして今日に限って蛇口がゆるゆるなのか。少女は二撃三撃をお尻に受けながら考える。
多分あるじが結婚するなんていうからだ。所有物である自分には決してかなわない、対等な誰かをつくろうなどというからだ。
そう考えていたらなんだかまた腹が立ってきて、あるじごめんなさいっていいながらミスラの背中を思いっきり噛んだ。
「だおあじゃｌｊぁｋｊｌｋｊｌｓ！！！！！！！！！！！」
「ほへんひゃひゃいひゃるひ！！ほへんひゃひゃい！！！」
「か、か、噛みながらしゃべるな！あやまるな！！あだだだだ！！！」
見守る一同は対応に苦慮している。
なにせ目の前にいるのは、世にもまれなる珍獣。突如出現した痴態と奇声の塊に、なにをどうしたらいいのやら。ていうかなにしてんだコイツラ。
ミスラそれらの視線に気づいて恥ずかしくなり、クリスを担いだまま走って逃げた。
そしてこける。立てない。
「ふにゃぅぅぅぅ…ごめんひゃひゃい…ぃぃううぅぅ」
「うう…回る…なんか回ってとる……」
単純に酔っ払ったのである。
クリスも撃沈。酒まみれのミスラを噛んだから。
珍獣の最後に、大人たちは苦笑というか失笑というか、ミスラは薄れゆく意識の中で、こんな声をぐるぐる聞いた。
「なんじゃまたこのパターンかの、前にもあったのう」
「あーあ、だからやめとけっつったろーに」
「まったくこの子は、酒を飲まんと女も抱けんのかや？」
「ああダメ、ミーくんだから許しちゃう…」
・・・・・・。
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