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小森教授と丸木戸女史

「見たまえ丸木戸君ついに完成したよ」
「ついにやったんですね小森教授」
「これが次世代を担うエネルギー機関、ひきこもり発電ボックスだ」
「普段動かないものを発電に使うとはまさに逆転の発想、感服いたしました」

それはまさに歴史の変わる瞬間であっただろう。丸木戸女史は深く息を吸った。

まだ震えが止まらない。性的なものとは思わないが、正体の知れない疼きが、ずっと身体に帯電している。産毛が揺らめく振動すら、痛い。

世界が、彼を中心に動き始めるだろう。結果どのような事態を引き起こすのか、彼女にもわからなかった。破滅か、繁栄か。

「どんなクズでも生物的には活動しているからね。そのエネルギーを少し分けてもらおうというわけさ。ほら、そこにスイッチがあるだろう」
「あ、はい…」

ドキリ、と。心臓がはねた。女史は自分の無防備を恥じる。少女という歳でもあるまいに、それもこの男の前でとなるとなおさら腹が立つ。

彼女が、自分の才能に見切りをつけてから久しい。全てはこの男、プロフェッサー小森のせいだ。

天才。

科学者としての小森の能力は、自身も天才として周囲の羨望を集めてきた丸木戸女史のそれを遥かに凌駕するものだった。

激しい嫉妬に我を忘れることもあった。だが結果的に、彼の存在は彼女の能力を限界以上に引き上げたのだ。プロフェッサー小森は女史の師であり、カタキであった。



「ほうら動きだしたぞ。中の様子がわかるかい？」
「ははぁ、つまりは部屋の中のひきこもりの命を吸い上げるというわけですね？苦痛はないのですか？」
「キミは分かっていないなぁ、ひきこもりというのはパソコン一台与えておけばそれで満足なんだ。もやしを生育するのと同じ程度の経費だよ」
「ははぁ」
「分からんかね。ハハン、まあキミのような人種に理解できることとも思わんが。よし、どうせならこの代謝物をあまさず熱エネルギーに変換できるように改良してみよう、万が一死んだときのわずらわしい後処理だって必要ないぞ」
「なるほど」

イラっときた。

どうしてこの男は、こうも人の神経を逆なでするのが上手いのか。
この男に参ったといわせるにはどうしたらいいだろう、無性に、女の武器で口を塞いでやりたくなった。

低俗でもいい、卑怯でもいい、この男に泣いてお願いさせることができるなら……


「これでもう外にでなくてすむんだ。深夜にコンビニに行く必要もない、犬に怯えることもない」
「教授」
「子供連れの母親に、我が子を庇うように歩かれなくても済むんだ、ステキじゃぁないか！」
「教授て」
「私はこの部屋で死ぬまで生きるのだよ！！ぬははは」
「教授、分かったからいいかげんドアを開けて外にでてきてください。まったくなにがひきこもりボックスだよでてこいよクソが……」
「やめたまえ丸木戸君、開けるなよ、絶対開けるなよ、オイコラババァ！！でてけっつってんだろーがよぉ！！いいじゃねぇかよ発電してんだから！ほっといてくれよもぉおおあおぁおおあおあー！！」


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