いえない言葉 サンプル


!!注意!!

※ココ×モブ表現があります(キス程度)
※無理矢理表現を多大に含みます。
※ココさんが当社比で大分クズです。

上記のことが苦手な方は全力でこの本を閉じて下さい。






 深夜零時少し前。
 扉の向こうにいたのは他でもない、昨日あれから呼び出した女だった。胸元の開いたドレスを着こなした女は、扉が開くと同時に僕にしなだれ掛かってくる。
「どういう風の吹き回しなのかしら? 今まで全く連絡が取れなかったのに」
 僕の胸を白い指先が撫でる。唇は紅く、香水の匂いが鼻についた。その甘ったるい声も、何もかもがうんざりする女だ。
「……君はどうやら、勘違いをしているようだから」
「相変わらず釣れないお方」
 その言葉に嘲笑すら浮かぶ。僕の笑みの変化にすら気付かない女の、白い指先が頬に触れた。当然のように触れてくるそれが、酷く気持ち悪いものに思える。
 時計を確認すれば、そろそろ小松君が来る時間だった。扉の向こうに気をやれば、足音を殺そうとはしているものの、殺しきれていない聞き慣れた足音がする。
 扉の前で立ち止まった足音に、僕は口端を緩ませた。
「……一度きりだと言った筈だろう? 最後の忠告をしようと思ってね」
「今更ですわ」
 しなだれ掛かってきた女は、僕の首裏を引き寄せて唇を重ねてくる。ぬるりとした舌は気持ちが悪い。けれどほぼ同時に開かれた扉に、僕はキスをしながら笑みを浮かべていた。
「……えっ?!」
 小松君は瞳を見開いて僕らを見つめている。女はそんな小松君に気付いているのかいないのか、キスをやめようとしなかった。
僕の体を細い指先が、蛇のように這い始める。その手が胸元へと差し掛かる前にぐいと女を引き剥がせば、女が不満そうに僕を見上げた。
「今更も何も、もうこれで最後だ」
「あの子のせい? それなら、見せつけてやれば……」
「面倒臭い奴だね、わからないの? 最後だと言った筈だ。そもそも、僕は君に最初から興味なんてない。一度だけでいいから抱いて欲しいと言われたから、抱いてやっただけだ」






 舌をべろりと出し、じわりと毒の滲んだそれを見せつけると小松君の顔がさっと蒼褪めた。
「死ぬようなものではないよ」
 その言葉に少しだけ安堵したような小松君の顔に、本当にどうしてこんなに馬鹿正直に人を信用してしまうのか、理解出来なかった。今の言葉だって、嘘かもしれないとは思わないのだろうか。
僕は小松君の首筋にねっとりと舌を這わしていく。唾液の後が室内の淡い照明に照らされて、てらてらと光っていた。
「やめて、ください」
 聞こえてくる声は酷く弱々しいものだった。僕は笑って、答えないまま舌を胸へと移動させていく。毒を纏わせたままのそれで胸の天辺を僅かに舐めれば、小松君の体がぴくりと震えた。
「……っ、ココさん!」
「スキだよ、小松君」
 蕩けるような笑みと、極上の声で囁いた。小松君がごくりと息を呑みこむ気配がして、僕はくすりと小さく笑みを浮かべる。
「ひっ、ぁ!」
 ねっとりと舌を這わせ、もう片方も指先で弄ぶ。僅かに歯を立てれば、小松君の体が怯えるようにまた震えた。
 小松君の運命が今この手の中にあるのかと思うと、それは酷く僕を興奮させた。今ここで依存性の高い毒を使えば、彼の体を僕なしでは生きていけないように変えることだって出来る。逆に男なしでは生きられない体にするというのはどうだろう。
そんなことをつらつらと考えながら、僕は笑う。そう、今彼の体は、僕の一存でどうとでも変えられるのだ。
「ねえ、小松君」
 甘ったるい声で名前を呼ぶ。そして、まるで本当の恋人のように錯覚すればいい。現実に打ちのめされて絶望に落ちる君は、一体この後どんな選択肢を選ぶのだろうか。
 そんなことを思いながら、僕は甘くて残酷な罠を仕掛けていった。
「ん、ぁ!」
「声、大分甘くなってきたし、凄く気持ち良さそうだ。嫌がっている割には、大分良さそうだね?」






 その脳裏に過った光景を振り払うように、僕は外へと続く扉を押し開く。
 すぐに外に見慣れた姿を見つけて、僕は笑みを浮かべた。
「迎えに来てくれたのか、キッス」
 僕の言葉に、キッスが嬉しそうに鳴く。ぐりぐりと寄せられた頭を撫でてやれば、気持ち良さそうに目が細められた。
 キッスの背中に乗ると、僕の合図も待たずにすぐにキッスが羽ばたいて離陸した。僕は苦笑を浮かべながら、その羽をくすぐるように撫でてやる。
「キッスがここに連れてきてくれたんだってね。助かったよ、ありがとう」
 僕の言葉に、キッスがまた誇らしげに鳴いた。僕が帰ってきたことが、余程嬉しいらしい。僕は黒い毛並みを撫でながら、いつかそこに座っていた小さな体をふと思い出す。
そういえば、キッスと小松君は仲が良かった。小松君はよくキッスの羽に顔を埋めてはくすぐったそうに笑っていたし、キッスも小松君が来ると、いつも嬉しそうに頭を寄せて甘えていた。仲睦まじい二人のやり取りを見る度に、僕はいつも酷く穏やかな気持ちになっていた。
そんなことを、今更になって思い出した。どうして、今の今まで忘れていたのだろう。
「……全く、未練たらしいね、僕は」
 小松君が撫でていたであろう箇所を思い出して、そこにはない温もりを探すようにそこを撫でる。関係ないと思おうとしても、トリコの傍が一番良いのだとしても、やっぱり何度も何度も、もしもの出来ごとを考えてしまう。
 あの穏やかな気持ちだけを抱えていた日に戻れたとしたら、どんなにいいだろうか。
 小松君が握ってくれた掌を見つめた。温かな体温の心地良さを知ってしまった。自分のしたことが許されることでないことはわかっているつもりだし、愛想を尽かされるように仕向けたのも自分だ。
子供みたいな、子供よりもたちの悪い愚かな行為だったと今では思う。
「後悔先に立たず、か」
 昔の人はよく言ったものだと自嘲的な笑みさえ浮かべた。後悔していると彼に懺悔した所で、僕のした行為が許されるわけでも、消えるわけでもない。



クズなココさんのお話。
大分ココさんが小松君に酷いことをします。苦手な方は本当に注意をば。
最後は言わずもがな、ちゃんとハッピーエンドなのでご安心下さい。

シリアス 無理矢理表現あり ココ×モブ表現がちょろちょろ出るので苦手な方は注意です。
本文100P 500円
2012.9.15発行予定