「リボーン?何、その格好。」
「リボーンじゃねえ。俺はサンタさんだ。」
「はあ?何言ってんだよ、また変装してるつもりか?」
「つもりじゃねえ、俺はいつでも完璧だ。」
「って、完璧リボーンじゃん!ちょっ、何銃構えて…!?」
「うるせえ、とりあえずこれに着換えろ、ダメツナ。」
また無茶な要求が始まった、と俺は頭を抱えたくなった。
差し出されたその赤い衣服を手に、俺は無駄だと知りながらもいつものように反論を試みる。
「着ないからな!それに、イブに銃構えて子供脅すサンタがどこにいんだよ!!」
「そうか。悪い子にはお仕置きしねえとな。」
「俺が何したっていうんだよ!!意味わかんねー!」
そんな会話から、それは始まった。
そのせいで俺は、いつもならもう寝る準備を始める時間に、盛大に叫ぶことになったのだった。
ハプニング・イヴ
「………」
「ぶーたれてんじゃねえ、ダメツナ。しっかり働け。」
窓枠に腰掛けて、目を光らせるのはパジャマに着換えた赤ん坊。自分はどうやらしっかり眠る気らしい。
先程のサンタの衣装を着ていたせいで、ランボにしつこく付き纏われたのに懲りたのか、既に脱いでしまっている。
ちなみにランボは案の定、サンタのトラウマを植え付けられ、窓の外へと放り投げられた。
回収に行こうとしても、赤ん坊が目を光らせているためにそれも叶わない…なんだか不憫だ。
そして何故か、交代だとでもいうかのように、赤い服を着ることになった、俺。
着るのにも不満はあったけど、それ以上にこの衣装にも大いに不満はあった。
「ズボン…短くないか?」
「特注だぞ。」
「普通長ズボンだよな?」
「最近のサンタの流行ファッションに沿ってオーダーメイドしたんだぞ。」
…………嘘臭い。
こともなげにぺらぺらとよくもまあそんなに言えたものだと、俺は大層呆れた。
半ズボンどころの騒ぎではない、足をかなり露出するそれはきっと外に出たら寒いに違いない。
それから…
「それから、リボーン…?その後の大荷物は、何?」
「決まってんだろ、てめえの部下たちにちょっとしたご褒美だ。」
「部下じゃないから!!俺、マフィアになんかならないよッ!」
「うるせえ、いいから配ってこい。俺は忙しいんだ。」
「忙しいって!!寝るだけじゃんか!!」
銃を乱射され、俺はそれを避けようとして、よろけた。
何もこんな場面で!!
それを当然、この家庭教師が見逃してくれる筈もなかった。
「これも修行だ!!」
「ギャッ!?」
「いいか、プレゼントはちゃんと枕もとに置くこと…まあ、手渡しならギリギリ許してやる。それ以外はダメだからな。」
「何その滅茶苦茶ー?!」
「滅茶苦茶じゃねえ、サンタの定義だ。黙ってやれ」
いつの間にか窓は開け放たれていて、よろけた俺をここぞとばかりに蹴っ飛ばす鬼の家庭教師。
これまたいつの間にか腰に括りつけられていた荷物のせいでぐんと、下に引っ張られる感覚。出たくもないのに、俺は勢いよく窓の外に飛び出した。
ふわりとした浮遊感。その一瞬、己の家庭教師と視線が交じわった。
ニヤリと口端をシニカルにあげた赤ん坊が、言った。
「配り終えるまで戻ってくんじゃねえぞ。」
「鬼ーーーーーッ!!」
俺は涙を流しながら、自分の部屋の窓がぴしゃりと閉められるのを見た。
それからどうすることも出来るわけもなく、ただ落ちる。
「……ッ!?」
「うぐう?!」
どさりと、柔らかいものの上に落ちたお陰で、大した怪我にはならなかった。
これはなんだと下にあるものに首を傾げていると、ぐいと突然その地面が盛り上がった
「…ひ!?」
暗闇に慣れない目では、突然何かがぬっと現れたようにしか見えなかった。
慌てて逃げようと地を這っていこうにも、腰に括られた荷物が邪魔でどうすることもできない。
「おや、これはこれは。こんばんは、若きボンゴレ。」
「へ?この声…大人ランボ?!」
愕然として眼を凝らしてみれば、確かに形がそれっぽい。
段々と闇に眼が慣れてくると、それはやっぱり紛れもない確信へと変わった。
「はあ〜…よかった、ランボか。ごめんな、下敷きにしちゃったんだよな?俺。」
「いえ、まあ、慣れてますから…。それよりその格好…またリボーンですか?」
「ははは…はは、はあ…そうなんだよ。また無茶苦茶なこと言いだしてさあ。」
なははと笑って見せると、どこから狙っているのかリボーンの銃弾が頬を掠めた。
煩い。というのと、はやく行け、というサインに違いないと思った俺は慌てて立ち上がった。
嫌な予感はするが、まさか守護者へのご褒美であるプレゼントにそんな酷いものが仕組まれているとも思えず、俺はがさごそとランボ用のプレゼントを袋の中から取り出した。
「えーっと、ランボにはこれ、はい!」
「……うん?これは?」
「クリスマスプレゼント…だと思う。リボーンにランボにはこれを渡してやれって言われて、さ。」
「……あまり良い予感はしませんが、ボンゴレからとあれば、断ることはできませんね。」
かろやかにお辞儀をした瞬間、煙が辺りに広がり、彼はこの時代の子牛へと戻っていた。
ぐーすかと寝る子供に、苦笑を洩らし、とりあえず家の中へと放り込んだ。
ちなみに大人ランボはこの後、元の世界でプレゼントに仕込まれた手榴弾によって泣きを見ることになるのだが、それはまた別の話。
「…まずは一人目っと。大人ランボでも、一応守護者だもんな。」
よしっと、袋の中に入っていた守護者リストに、同じように入っていた赤ペンで線を一本、引いた。
なんだかまだまだ先は長いような気がして、俺は重い溜息をついてずるずると歩み始めた。
足が寒い。なんでこんな目に合わなきゃならないんだと、嘆きたくなるのだって許してほしい。
なんだってこんなクリスマスイヴにサンタもどきの格好をして、同い年または年上にプレゼントを配らなきゃならないのかとさえ思う。
「ああもう!散々なクリスマスだよ!!」
「…10代目?」
「ギャッ!?ご、獄寺、クン?」
「ど、どうしたんスか!こんな夜更けに!しかも、その格好!!」
ぶっという音と共に、獄寺君が興奮の余りか鼻から血を出した。
「ちょっ?!ご、獄寺君、大丈夫!?は、はい、ティッシュ!」
ちょうど袋の中にあったティッシュで彼の鼻を抑えると、彼はすみませんと謝って土下座をしようとした。
なんとか止めさせると、彼は流石10代目だとかなんだとか言いながら目を輝かせていた、けど…
「獄寺君、こんな時間にどうしたのさ?」
「あ、いや、そのー…煙草買いがてら散歩と洒落こんでいたところで…そんなことより、10代目は?」
「あー…リボーンが、ね。皆にプレゼントを配ってこいって。」
「あぁ、そういうことッスか。流石10代目ッス!部下へのその配慮、なんというか感激ッス!」
「いや、俺がプレゼント用意したわけじゃないんだけど…」
で、俺は何が貰えるんでしょう?
そう目を輝かせて俺の言葉なんか聞こえなかったかのように、獄寺君がそう言った。
俺は彼の手に握られているそのティッシュ箱を眺め、なんといったらいいものかと言葉を詰まらせた。
その視線を辿り、獄寺君は察したのかそのティッシュ箱を大事そうに抱えた。
「こ、これッスか!!あ、ありがとうございます…!大事にしますね!」
「え、え?いいの?それでいいの!?でも、なんか、悪いよ…俺に出来ることなら、何かするけど…」
「マジッスか!?」
途端、獄寺君が恐ろしい勢いで詰め寄ってきた。あまりのその剣幕に、俺は失言をしたのではないかと後悔した程だ。
「あの、じゃ、じゃあ、その…キッ!!」
「………キッ?」
嫌な沈黙が降りた。
がっしりと肩を掴まれた俺は、びくびくとしながら獄寺君の言葉を待った。
獄寺君は「待つんだ俺」みたいなことをぶつぶつと呟きながら、がっくりと項垂れた。
「……っく…!!き、奇抜なその10代目のその上着を貰っても?」
「へ?こんなんでいいの?」
「はい、それがいいです。」
獄寺君は何故か涙を流しながら、俺の上着を恨めしそうに眺めていた。
しかし、上着は当然ながらこれ一着しかない。
こんな寒い夜に、こんな寒い恰好で外を歩かなければならないのに、また更に上着を脱いだら…
でも、先ほど言ってしまった手前、断るわけにもいかない…
ええい!もうどうにでもなっちゃえ!!
「……こんなのでよければ、あげるよ。」
「ありがとうございます…」
「はい。」
若干悲しそうに見えなくもなかったが、彼は俺の上着を手にして頭を下げた。
下に着ていた黒い長袖一枚になった俺は、寒さにぶるりと体を震わせたが、考え事をしていた獄寺君には幸い気付かれなかったようだ。
「本当にそんなのでいいの?」
「や、そんな贅沢は言いません!あ、あ、あのっ!俺は、これで…!じゃあ、また明日お迎えにあがります!!」
「う、うん…またね?」
獄寺君はそれだけ言って、慌てたようにその場を立ち去った。
獄寺君が通りの角を曲がって見えなくなってから、俺はまた盛大に溜息をついた。
「なんか、凄く疲れるんだけど…」
がっくりと項垂れて、リストをまた一本、消した。
それからは順調?に、事は進んでいく。山本にはバット、お兄さんにはグローブ。
比較的まともなものだった。と、いってもリボーンからのものだから、どうかはわからないけど…
玄関先に置いておけるものなら置いておたきい…
でもきっと、あの赤ん坊は本気だ…
何かを駆使して俺の行動を一々把握しているに違いない…。
俺は涙を浮かべながら、記憶を頼りに彼らの部屋があるであろう場所を予測し、塀をよじ登ったりして部屋の前まで行きついた。
駄目もとで窓を開けてみれば、からりと窓も開いた。
(こんなの見つかったら、捕まっちゃうんだろうなあ…)
いくら友達、先輩とはいえ、これじゃあプライベートも何もあったもんじゃない。
何でこんなに不用心なんだと首を傾げながら、恐る恐る彼らの枕もとにプレゼントを置くことには成功した。
「……うわあ…嫌なクリスマスだよ…ほんと。」
お兄さんも山本の家の窓も、窓の鍵が掛かっていなかったのは運が良かったといっていいものか。
でも、配り終えてしまった袋の中身は、あと少し。これさえ配れば、帰れる。
だが、一番厄介そうな強敵が残ってしまったのも確かだった。骸と、ヒバリさん。
「…ますます気が重い…」
とりあえずは、骸の元へと向かうために俺は黒曜へと向かった。
「相変わらず、嫌な雰囲気だよなあ…」
きょろりと辺りを見回し、俺は誰かいないかと警戒しながらも進んでいく。
あまり来たことはないが、何度か訪れたことがある記憶を頼りに進んでいく。
やがて開けた場所に、一人の女の子と、二人の男がそれぞれの場所で眠りについているのが見えた。
気配を殺しつつ、ゆっくりと近づく。
(クロームには、これ?)
プレゼントの形をしたそれは、中身まではわからない。
害はないだろうと枕もとに置こうとしたその手は、絡め取るように掴まれた。
叫ぼうとした唇は皮手袋をした手に包まれ、くぐもった声しか出ない。
瞳を見開けば、今までクロームだと思っていたのが骸へと変わっていた。
「クフフ…寝込みを襲うなど、なかなか君も積極的ですね。」
「ちがっ…!おまっ、びっくりするからそういうことはやめろよな!!」
「おやおや、折角待っていたというのに、酷いですね。それに、こんな夜中に女の子の傍らに立つなんて不審者以外の何者でもないでしょう」
そこで俺は、やっぱり言葉に詰まることしかできなかった。
だって骸の言っていることは正しい。
大人しくなった俺に、相変わらずの笑い声をあげた骸がぐいと俺の腕を引っ張った。
「ぅ、わ!?」
「中々素敵な格好をしていますね?ボンゴレ」
するりと骸の皮手袋をつけた手が、俺の体に回された。
びくりと反応する体が、ちょっとだけ恨めしい。
「おい!!」
「クフ、いいじゃないですか。もう少し、このまま。貴方もこのままでは、風邪を引いてしまうのでは?」
引き寄せられて、そのままぎゅっと抱きしめられた。骸の体温が、冷えた体に心地よかった。
まるで甘えるような仕草に毒気も抜かれた俺は、骸のなすがままにされていたけど…
「…ちょっ、お前!いい加減にしろ!」
服の裾から入り込んだ手が、俺の肌を直に触り始めた。
ぞわりとした感覚に、骸の手を掴んで静止の声を掛ける。
「おやおや。つれないですねえ。いいじゃないですか、今ならあの鳥頭もいませんし。」
「良くない!離せ!」
「離さない、と言ったらどうします?」
ゆらりと立ち上る橙色の炎に、骸のオッドアイがぎょっと見開いたのが見える。
「クフフ、そんなに拒絶されると流石に傷つきますね。いいじゃないですか、ちょっとくらい。」
「駄目だ。俺にそんな趣味はない。」
ぎろりと睨めば、これ以上争う気もないらしい骸は肩を竦めて見せた。
「いいでしょう。今回はそのプレゼントに免じて、許してあげます。アルコバレーノも、僕の好みをよくわかっている…」
「中身、わかるのか?」
クフフと奇妙な笑い声を残し、俺の問いに答えないまま、辺りを霧が包みこんだ。
すぐに霧は晴れて、そこにいたのはすらりとした華奢な体の女の子だけだった。
「……クローム、か。」
「ボス、許してあげて。骸様、ボスが来てくれたのが嬉しかったの。」
ととと、と、近寄ってきたクロームはそう言って微笑んだ。
「本当よ。すっごく喜んでたよ。私も、ボスが来てくれて、嬉しい。」
「……そっか。」
超死ぬ気モードが解けた俺は、クロームの言葉に頷いて見せた。
「あ、これ。クリスマスプレゼント、だから。いつもごめんな?」
「ううん。ボス、ありがとう。嬉しい。」
「そ、そっか。」
大事そうにそのプレゼントを抱えたクロームは本当に嬉しそうだった。
身の危険を回避した俺はほっと一安心をして、クロームに別れを告げて黒曜から並盛への道を歩き始めた。
ちなみに、クロームが開けた箱には、チョコが入っていた。
なんでも、骸の好物なんだとか。それであいつ、あんなこと言ってたんだな。
クロームも喜んでいたから、まともなものだと思う。
中に変な薬品とか、入ってなければいいんだけど…
「……変な心配ばっかりだな。」
がりがりと頭を掻いて、とりあえずはと気を取り直してリストに一本線を引いた。
残りは…
「うわあ…ヒバリさん…か。でも俺、家知らねー!!」
「僕が、何?」
いつの間にかバイクがすぐ近くに迫っていた。
そのライトの眩しさに瞳を細め、その先にいる人物を特定しようと、俺は目を凝らした。
見覚えのある声と、その形。その先にいたのは、紛れもなくヒバリさんだった。
黒曜と並盛の丁度堺になっている静かな土手の上での、まさかの遭遇だった。
「ヒッ、ヒバリ、さん!?」
「こんな時間に、こんな所を、なんて格好でうろついているの。」
「ひゃっ、ご、ごめんなさ…!!」
ぎろりと睨まれて、俺は身を竦ませた。
一言ずつ区切るように力強く言う彼は、紛れもなく不機嫌だ。
手が伸びてきて、殴られるのかと思った俺はぎゅっと目を閉じて歯を食いしばった。
「何、怯えてるの?」
くつりと笑った気配と、ふわりと身を包む温かなそれに体が竦んだ。
肩にかけられたのは、今しがた彼が着ていたのであろう学ラン。
「……あれ?」
「風邪、引くよ。とりあえず、僕の家にでも行こうか。」
「え、あの?」
手を引かれ、気付けばバイクの上に乗せられた俺はそのままヒバリさんの家へと直行した。
始めてみる彼の家は、高層マンションの最上階らしい。
流石というか、なんというか。俺は呆然と天辺の見えないマンションに口をあんぐりと開けて眺めた。
「間抜けな顔。ほら、行くよ。」
「うわ!?」
ぐいぐいと引っ張られ、エレベーターであがっていく間、俺の頭はぐるぐると混乱し掛けていた。
「あの、学ラン…すみません。」
「いいよ、僕は別に寒くないから。」
「で、でも!」
「ついたよ。」
ほらと背中を押されて、エレベーターの中から追い出された。
随分と長い間乗っていたような気がする。
「ここだよ。」
鍵を開け、ヒバリさんに扉の中へと押しこまれた。
相変わらずの強引っぷりに流石の俺も、今日はたじたじだった。
ソファの上に座らせられ、わけもわからないままにいろんなことがこの数十分で起こったことに俺の頭はついていかない。
「で?」
「ふえ?」
安心したせいか、なんなのか。眠気が襲ってくる。それもその筈、もう深夜と呼べる時間になっている。
ことりと目の前に置かれたのは温かそうなココア。ヒバリさんの家にそんなものがあるのかと、俺は少し意外だった。
「なんか、文句でもある?」
「いえ、なんか、ヒバリさんの家にココアがあるのが、意外だっただけで」
「そう?」
少し照れたようなヒバリさんは、照れ隠しをするかのように自分のカップに口をつけた。
その中身は多分、珈琲なのだろう。珈琲の香ばしい匂いが鼻を擽った。
「今日は君が来るって赤ん坊から聞いたから、用意しておいただけだよ。」
「…そうですか…って、ええええ!?」
「煩いな。君くらいじゃない、知らないの。」
他の奴だって知ってたでしょ。と、ヒバリさんが首を傾げた。
いや、それにも驚いたのは確かなんだけど、それ以上にヒバリさんが俺のためにココアを用意してくれたというのが、なんか…
ちょっと、嬉しいかも。俺は口元がにやけてしまうのを隠すようにココアを飲んだ。
温かいそれは、俺の体を内から温めてくれた。
落ち着いたところで、俺は今日のリボーンからの修行という名のプレゼント配りをした際の皆の反応を思い出してみる。
確かに山本もお兄さんも顔が引きつっていたような気がする。(悪夢か何か見ているのかと思っていたけど)
獄寺君も偶然を装ってはいたけど、彼の家からじゃあの道に出るにはかなり歩く筈だから、きっとわざわざ来てくれたのかもしれない。
骸だって、なんだか待ち構えていたような…。
「……うわあ…まんまとしてやられた感じです…」
がっくりと項垂れた俺の頭に、ぽんとヒバリさんの手が乗せられた。
「で、どうしてあそこにいたの。」
「………え。どうしてって骸に…」
「一人で行ったの。しかも、そんな恰好で?」
「……や、そのですね、仕方無いというか、なんというか…」
あぁ、なんだかやばそうな雰囲気だと、俺が悟るのにそんな時間は掛からなかった。
ちらりと見たヒバリさんの瞳は険しいそれ。
俺は何と言ったらいいかわからず、視線を右へ左へと流すのが精いっぱい。
最終的に視線は、手の中にあるカップの中身へと注がれた。
「……ん、と…」
息詰まってなんとも言えなくなってしまった俺の横、ヒバリさんは小さくため息をついた。
「赤ん坊のことだし、今回は見逃してあげる。でも、次やったら咬み殺すからね。」
「ぁ、はい!ありがとう、ございます!」
ぱっと顔を振り向かせると、ヒバリさんはそっぽを向いてカップに口をつけていた。
「次は僕を呼ぶんだよ。」
「……は、はあ…」
一応頷いてはおいたが、実際にそんなことがあったら乱闘が起こるのは確実だ。
絶対に呼べねえ…
そんなことを考えていると、ヒバリさんが視線だけを俺へと投げかけてきた。
「えと、ヒバリ、さん?」
「僕に渡すものがあるんじゃないの?」
「あ、そうでした。」
もうすっかり軽くなった袋を漁ってみると、そこには細長い小さな箱。
「……これ?」
「そうみたいだね。」
手渡しすると、ヒバリさんはその包装紙も何もない箱をぱかりと開けた。
中にはプレゼントのリボンとして使うような紐が一本。
それと手紙が一通入っていた。
「ふうん?」
ヒバリさんは興味深そうにその手紙を開き、読み始めた。
まさか僕のプレゼントこれだけ?と、てっきり聞かれて無茶苦茶されるかと思っていた俺は、そんなヒバリさんの反応に少しだけほっとする。
「……そう。」
口端をあげたヒバリさんが、俺の首にそのリボンを巻いた。
「へ?」
「うん、これ読んでみたら?」
かさりと渡された一通の手紙。簡潔な文で一言
『ツナは始業式に間に合うようにしとけ。 リボーン』
「ちょっ?!リボーーーーン?!」
「煩いよ。それよりも、まだ体が冷たいみたいだね。」
「い、いいえ!もう十分…ッ!!」
超直感が、身の危険を知らせているのかぞくぞくと背筋を嫌な予感が駆け抜ける。
「君がプレゼントでしょ?」
「いや、あの、…えーーー!?」
「君には僕をあげるから。」
「う……」
それはちょっと魅力的なプレゼントかもしれいなと、そう考えてしまったのは俺。
だから、この時点で負けていたに違いない。
「明日、買い物に一緒にいってくれるなら、いいです、よ?」
ちゃんとしたものをあげたいのだと伝えると、ヒバリさんは少し驚いた顔の後、嬉しそうに微笑んだ。
その顔があまりにも綺麗過ぎて、俺は自分からそっと彼の唇に口づけた。
「うん、こんなのも悪くない、ね。」
そうやって近付いてきた彼の顔に、思わずどきりと心臓が鳴った。
俺もそんな顔を見て嬉しくなって、瞳をゆっくりと閉じた。
うん、最悪だと思ったけど、こんなクリスマスなら悪くない、かな?
あとがき
ぐふっ…
遅くなりましたがクリスマス小説です。
見てわかるように長くなってしまったんです…
こ、こんな筈じゃあ!!(笑
2009/01/01 Up