ピーピーと雀ではない何かの鳥が鳴く音と、瞼すら通り越してくる朝の光が鬱陶しい。
なんだか酷く体がだるい。瞼はまだ開きそうもないから、瞼の上に掌を置いてみた。

「ツナヨシー」
「……ぅん?」

随分聞き慣れた声がした。でも、家にいる誰の声でもないその声に、違和感を感じる。
何故、朝からあの鳥がここにいるのだろうか。そんな俺の疑問に、誰かが答えてくれる筈もない。
仕方なしにぼんやりと重い瞼を押し上げてみると、そこには黄色い鳥が度アップで待ち構えていた。

慣れるまでもう一度




「ギャッ!ヒバー……ド?」
「ツナヨシ、オキタ?オキタ?」

嬉しそうにちょこちょこと、俺の胸の上を鳥が歩いてくる。
ほわほわとした感触が服越しに俺を擽った。あまりのくすぐったさに体を起こして、ヒバードを手の上に乗せる。
ズキリと痛んだ腰に、ビクリと体が硬直する。え、え、な、なんで……?
追い打ちとばかりにはらりとシーツが胸の辺りから落ちたと思えば、見慣れない黒のシャツを着た自分の姿。俺は思わずまた叫びだしそうになった。
いや、これは二回だけ見たことがある。ヒバリさんのパジャマだ。
昨日の夜、ヒバリさんが着ていた筈だけど…
そう、確か俺は昨日ヒバリさんに呼び出されて、土曜日なのにも関わらず応接室にいったんだっけ。
そしたら突然、何故かヒバリさんの家に泊まることになって…
それから…えっと…?

「あれ、俺…?」

俺はそこで初めて、自分の声が掠れていることにやっと気付いた。
じくじくと痛み出した腰に思わずまた顔を顰める。立てなくはないが、歩くのは少し不便かもしれない…。
うまく昨日のことを思い出すことも出来なくて、わけもわからないまま痛む腰を摩っていると、ヒバードがパタパタと俺の頭上を旋回しだした。

「ツナヨシ、オハヨー!!」
「うん、あぁ……おはよ、う?」
「あぁ、起きたの。おはよう、綱吉。」

がちゃりと、見慣れない扉から出てきたのは鳥の飼い主であるヒバリさん。
ぱたぱたと旋回していたヒバードは、その主の頭にぽすんと着地した。

「……ヒバ、リさん…?」
「声、掠れちゃってるね。ほら、水飲みなよ。」
「……はぁ。」

ぼんやりとした頭で、水の入ったコップを手渡された。
言われるままに口をつけると、思いの外喉が渇いていたことに気付いて、飲み干した。
そんな俺にヒバリさんはクスリと笑いながら隣に座って、コップに二杯目を注いでくれる。
体は随分と水分を欲しがっていたらしくて、俺はその二杯目もすぐに飲みほした。

「まだ、いる?」
「いえ、もう、大丈夫です。」

ぷはっと飲みほした俺に穏やかな笑みを浮かべて、ヒバリさんが俺の頭にぽんと手を置いた。
するりと肩にその手をまわされて、引き寄せられる。ぽすんと音を立ててヒバリさんの胸に、俺の顔がぶつかった。
何が何だかわからない内に、ヒバリさんの口付けが頭に、耳に、頬に降りてくる。

「ん、そのままじゃ気持ち悪いでしょ。お風呂沸かしたから、入ってきなよ。」
「……は?はあ…」

朝風呂?
ヒバリさんっていつも朝風呂に入っているのかな?俺なんか朝時間ないから入ってる余裕なんてないのに。
ぼんやりとした頭でそんなことを考えていると、ぎしりと音を立ててヒバリさんがベッドから離れていく。

「着替えは脱衣所に置いておいたから。場所、わかるよね?」
「あ、はい、大丈夫です。ありがとうございます。」
「そう。その服と、使い終わったタオルは籠の中に入れておいてね。」

また穏やかに笑って見せたヒバリさんが、ヒバードを連れて部屋から出て行った。
そうそう、確かヒバリさんの家に招待されたんだよね。それで赤ん坊には連絡済みだから泊まっていきなよとか言われて。
うん、そこまでは覚えてる。
考えながらぺたりとベッドから降りた。下半身には何も……。

「ぎゃ!?」

本日二度目の、悲鳴じみた声。
剥きだしの下半身に何か身につけるものはないかと辺りを見回すが、綺麗な程に片付いている。
今の俺はきっと情けない顔をしているだろうけど、こればっかりはどうしようもない。
だって、こんな状況…。そんなことより俺の服は!?

「………ッ?!」

そこで、太股を何かが伝い落ちる感覚にまた体が硬直した。
その感触で、泊まりに来てからその夜何が起こったのかまで、全てをはっきりと脳裏に蘇らせた。
伝い落ちるそれは、きっとその時の名残。

「……ふッ…!」

怖くて怖くて、仕方がなかったのに。
優しくて、優しくて、泣きたくなるほどに優しかった手を思い出す。
先程頭に乗せられた手が体を撫でる感触も、優しい唇の感触も、はっきりと思いだすことが出来た。

「……うわっ…」

昨日俺、ヒバリさん、と…
意識がはっきりして、昨日のことも思い出して、俺の顔は真っ赤になった。
このまま部屋にいても仕方ないから、その姿のまま扉から顔だけ出してみる。幸い、廊下には誰もいない。
痛む腰を抑えつつ、なんとか誰にも見られることもなく脱衣所まで辿り着いた。
はあ…なんで朝からこんなスリルを味合わなければならないんだろう…。

ふと、目に見えるすぐの所に、恐らくヒバリさんのものと思われる服が置いてあった。
きっと汚したら怒られるのだろう、細心の注意を払わねばと身震いする。
そして、それを見つつも、ぼんやりと汚した自覚がある昨日の自分の服のことを思い出した。
自分でもわかるほどに、頬に熱が集中していく。

「……あぁもう…どうすれば、いいんだろ。」

赤くなっていく頬は止まらない。恥ずかしい気持ちが先立って、どうすればいいかわからない。
とりあえず上を脱いで、お風呂に入ってしまおうと浴場に直行する。
中に残っていたものを掻きだす作業は、ちょっと痛いし、恥ずかしいし、なんだか情けなかったけど…。
その時に鏡に映る自分の顔は、出来れば見たいものではなかった。
頭を洗い、体を洗おうとした時にふと、首筋に赤い虫刺されの痕のようなものが見えた。

「……うん?」

よくよく見てみれば、それは首筋だけじゃなくって…。
首、胸、腹…点々と上から下まで残る赤い痕。
そこをなぞるようにしてみて、またボンッと頭から湯気が出るんじゃないかってくらい赤くなった俺。

「わ、わっ…これって…!!!ヒバリさん、の…!!」

肩口には、しっかり咬み痕までつけられている。
その咬みつかれた時の甘い痛みを思い出して、俺は益々顔を赤くした。

「う、うぅ……どんな顔、すればいいんだろ。」

思い出せば思い出す程、顔が合わせ辛くなるような気がする…。
これ以上何か思い出す前にと、早々に風呂から上がってヒバリさんの服を着た。
案の定、ぶかぶかなそれ。

「……ヒバリさんの、匂いだ。」

当然ながら、その持ち主の香りがするわけで。
昨日、抱きしめられた時にもずっと香っていたその香りを嗅いだ時の記憶がまた頭を過る。
抱きしめてくれるヒバリさんはちょっと苦しそうで、でも凄く、嬉しそう、で…

『……綱吉』

ずっと、名前を呼んでくれていた。いつもよりも低くて、掠れた声。
ヒバリさんの顎を伝った汗が、俺の体に落ちて…

「……って!!お、おれッ!!」

ギャーーとまた赤くなって、タオルに顔を埋めた。
朝からなんてこと考えてんだよ!しっかりしろ、俺!まだ朝だぞ、俺!!!
どうしよう、どうしよう!!
とりあえずは言われた通り籠の中にヒバリさんのパジャマと、タオルを放り込む。
ここまではいい。ここまではいい、けど…この脱衣所の扉を開けて、ヒバリさんの所に行く勇気がない。
だって、だって、俺達、昨日!!

「綱吉?」

ビクッ!と、大袈裟な程に体が震えた。怖いわけではない、怖いわけではない、のだけど…

「…は、はい。」
「大丈夫?」
「な、なな、なんの問題も、ありま、せん!」
「…そう?着替えたなら出ておいで。朝食食べよう」
「は、はい!」

リビングにいるよ。と、扉越しに話しかけられた。
絶対、絶対不審に思っているに違いない!
あぁもう!!こんな時までダメツナな自分を自覚するなんて、本当に悲しくなってきた。
思い切って脱衣所の扉を開けると、ヒバリさんが気付いたのかリビングから顔を覗かせた。

「…ッ!!」
「綱吉?どうしたの、こっちにおいで。」

目が合わせられない。本人を目の前にすれば、余計に。
ドクドクと心臓が煩い。俺の体に残されたヒバリさんの痕から熱が出て、じわじわと体を侵食していくようだった。

「ご、ご、ごめんなさい!!俺、今日急に予定入っちゃったみたいで!か、帰りま、す!!」
「は?ちょっと、待ちなよ綱吉!!」

逃げ出すように駆け出して、荷物なんかも取る余裕なんか全然なくて、玄関から靴を履いて飛び出した。
後ろからヒバリさんの声が聞こえたけど、そんなことに構っている余裕も当然ない。ただ、ひたすらに走った。
だぼだぼの服のせいで、走りにくい。
こんなんじゃすぐに追いつかれてしまうだろうと思ったけど、ヒバリさんは追いかけてはきていないようだった。

「はっ、はっ……はあ……怒る、よなあ…」

自分の家への道を歩きながら、置いてきてしまったヒバリさんのことを思う。

「でも…」

ぎゅっとだぼだぼのシャツを胸元で握りしめる。苦しい、苦しくてたまらない。
ドクドクと煩い心臓の音は、きっと全力で走ったせいじゃない。
俺、俺、一体どうしてしまったんだろう。

「あらまあ、ツッ君、お帰りなさい。もう帰ってきたの?」
「……あ、う、うん。ただいま。」
「あら、その洋服は?」

ビクリと体がその言葉に反応する。
庭で土いじりをしていたらしい母さんがにこやかに問いかけてくる。
なんだかそれが、ちょっと後ろめたい。

「実は、昨日友達の所にいく途中で水をかけられちゃって!!」
「そう、ツッ君ったら相変わらずなんだから。」
「あはは、今度、返してくれる…と、思う。」
「そう。ちゃんとお礼を言っておくのよー。」

母さんは特に、なんの疑問もなくその言葉を信じてくれたようだった。
…そうだ、服、返しにいかなくちゃ…。
今からそのことを思うだけで、気分がどんよりと重くなった。
ガチャリと扉を開けると、俺の暗い気分とは裏腹に、瞳を輝かせたチビ達が出迎えてくれた。
早速遊べと迫りくるチビ達に、何かと理由をつけて遊ぶのを断って二階にあがる。
どうか、今日はリボーンがいませんように…。

「やけに、帰りがはええじゃねえか。」

……いた。
ニヤと、嫌な笑みを浮かべた赤ん坊が。

「うん。ちょっと、ね。」
「ヒバリとついにヤったか?」
「ヤッ?!!?な、なんてこと言うんだよ!!」
「ちげえのか?俺はてっきり…」
「ギャー!!それ以上言うなよ!お前赤ん坊だ…ギャッ!」
「青二才のおめーと一緒にすんな。」

いつもの通り飛び蹴りをくらい、リボーンは呆れたように俺の部屋を出て行った。
痛む腰に、今の攻撃はちょっときつかった。

「…ってえ…いつも容赦ないんだから…」

ぽすんとベッドに横になる。
まだ朝と呼べる時間なのに、体はもうぐったりしていた。
慣れたマットレスと、枕。顔を枕に埋めながら、思いだすのは昨日のことばかり。

「……ッ、もう、どうなってんだ、よ…」

ぎゅっと枕を抱えた。ぐるぐるとまわる思考、いつしか疲れたらしい俺は、夢の中へと落ちていた。


















ピピピッ、ピピピッと時計の音が聞こえる。聞きなれた朝の音。鳥の声じゃない。
鳴りやまぬ時計を手を伸ばして止めた。気付けば、また朝になっていた。
結局一日、昏々と眠り続けたらしい。確かに、一昨日は殆ど一睡もさせてもらえなか…って、俺また!!!

「朝から青くなったり、赤くなったり、忙しい奴だな。」
「う、うるさい!」
「そういや昨日、ツナが寝てるときに、雲雀がきたぞ。」
「へ!?」
「ツナの忘れた荷物、届けにきたみたいだな。あの雲雀がだぞ。」

クックと嫌な笑みを浮かべているリボーンの指す方を見れば、確かに俺がヒバリさんの家に置き忘れた鞄があった。

「雲雀に聞いたぞ、結局ヤッたんじゃねえか。」
「んなあ!?」
「お前のことだからな、大体の想像はついたぞ。」
「何がだよ!!べっ、別に、俺は…!!」
「まあ、せいぜい機嫌取り、頑張るこったな。相当怒ってたぞ。」

青くなった俺の顔を見て、ニヤリと意地悪な笑みを浮かべた赤ん坊が、大層愉快そうにまた部屋を出ていった。
な、なんてこと言ってくれんだよ、リボーン!!
なかなか引かない頬の熱。もう本当に、何がなんだかわからない。
寝過ぎの所為でだるい体を起こして、もそもそと制服に着替えて階下に向かう。
今日は、時間にも大分余裕がありそうだ。
驚く母さんは見ないフリをして、出された朝食を食べる。
思えば昨日から何も食べてなかったから、物凄くお腹が空いていたみたいだ。

「いつもこうだと助かるってママンが言ってたぞ。」

でかけ様、リボーンがニヤニヤとした笑みを隠しもしないで言う。
俺はその言葉に何かを返すこともしないでただ「行ってきます」と、それだけ呟くように言った。

「あ、十代目!おはようございます!!」
「あ、おはよう獄寺君。早いんだね。」
「十代目も、今日はお早いんですね。」
「う、うん。まあね、あはは…。」

他愛もない会話をしながら、学校への道のりを歩く。
気分が重いや。一昨日あんな態度で突然帰ってしまったのは、俺が悪い。それに相当、怒ってる…って…。
校門がすぐに見えてきた。段々と、獄寺君の話も耳に入ってこない。
ど、どうしよう…なんか、一昨日から俺、そんなんばっかりだけど…!

「十代目?ご気分でも優れませんか?」
「う、ううん!!な、なんでもない、よ!」

ぎゅっと鞄を掴む手に力が籠る。冷や汗が手から噴き出すのが、嫌なくらいによくわかる。

「風紀、検査だ。」
「あ、ホントッスね。ヒバリの野郎もいますよ。」

その獄寺君の言葉に、ドクンと心臓が跳ねた。
あぁ、どうしよう。

「大丈夫ッスか?」

獄寺君の声に、反応することが出来なかった。
ヒバリさんの視線が俺に向けられていた、から。

「……ッ、ごめん、獄寺君!!」
「十代目!?」
「綱吉!!」

来た道を駈け戻る俺に、獄寺君が驚いたような声を出して、その後にヒバリさんの声が聞こえた。
どうし、よ。やっぱり怒ってる…みたい?
いつもならダイナマイトを取り出す筈の獄寺君も、流石のこの事態には驚いたらしくて唖然としているらしい。
ちょっと振り向いたら、その横をやすやすとヒバリさんが駆け抜けるのが見えた。

「綱吉、なんで逃げるの!」
「な、なんで、と、言われまして、も!!」

はっと、息が切れた。
朝からこんな全速力の運動は、正直辛い。
登校してくる人々が、怯えたように道を譲る。
きっと彼らの目には、咬み殺される草食動物と、咬み殺す肉食動物にしか見えないに違いない。

「綱吉!!」
「やっ、こないで、下さい!!」
「ちょっと、いい加減、咬み殺すよ!」

すぐ耳元で声が聞こえたかと思えば、ぐっと手を引かれて後ろにかくんと体が仰け反った。
振り向けば校門からそんなに離れていない。……俺の全速力って一体。

「はっはっ……」
「……行くよ。」

息すら乱れていないヒバリさんが俺の手を引いて、歩きだす。
すぐに校門まで着くと、草壁さんに何か2,3言話してまた歩き出す。

「くおらっ!てめえ、ヒバリ!十代目に何しやがった!!」
「……忠犬は黙ってなよ。」

機嫌が悪い時の、低い声。
ちゃきりとトンファーがその手に握られるのを見て、俺は慌てて顔をあげた。

「ごっ、獄寺君!俺は大丈夫だから、君は先に教室に行ってて?」
「しかし…ッ!」
「大丈夫だから。」

ね?と、言うと獄寺君は渋々といった風に引き下がる。
ぐいっと腕を引っ張る力が強くなって、俺はそのまま風紀委員長直々に応接室へと連行されていった。

「で?」

ソファに腰を降ろしたまま、俺は顔をあげることは出来なかった。

「何か僕に、言うことはないの?」
「………その…ごめん、なさい。」

項垂れた俺のすぐ横に座るヒバリさんから、溜息が聞こえた。
呆れられた、だろうか。

「嫌だった?」
「……え?」
「僕に抱かれるの、そんなに嫌だった?」

その言葉に、俺は顔をあげた。ヒバリさんの少し傷ついたような瞳が、そこにあった。

「……いえ。」
「じゃあ、どうして?」

恐る恐るといった風に、ヒバリさんの手が頬に伸ばされた。
ヒバリさん、らしくないな。

「あ、の……」
「ねえ、僕がどんな気持ちだったか、わかる?」

まだ顔は、怖いし、恥ずかしくて、見ることができなかった。
ヒバリさんの表情が読み取れない声だけが頼りなのに、それがとても、怖い。

「ごめんなさい…」
「一体、なんなの。」

するりと肩を抱かれ、ぎゅっと抱きしめられた。
ヒバリさんの匂いに、安堵するのと同時にまたバクバクと心臓が音を奏で始めた。

「……俺も、わかん、な…ッ!」
「綱吉?」
「あの日、俺、ホント恥ずかしくって…ヒバリさんを見ると、ドキドキしてまともに顔も、見られなくっ…て……」

ぎゅっとヒバリさんにしがみ付いた。
この腕の中にいたいと思うのに、心臓が壊れそうな程に音を立てて、苦しくなる。

「ねえ」

ヒバリさんの低くて、柔らかい声が耳元で聞こえた。
その所為で、また熱があがる。心臓が、止まりそうだ。

「嫌じゃなかった?」
「嫌だったら、しません、よ」

一層しがみ付く力を強くすると、ヒバリさんが息を吐き出した。耳に当たるその吐息が、先日の行為を思い起こさせる。

「…恥ずかしいだけ?」
「だけって…!俺は…!」

ばっと顔をあげると、ヒバリさんがあの朝のように穏やかな笑みを浮かべてそこにいた。

「……ぁ…」

自分の言おうとしていたことが、瞬時に頭から吹き飛んだ。
ドクドクと煩いくらいに鳴っていた心臓が、トクトクとヒバリさんの笑みに釣られるように穏やかなそれにかわっていく。

「やっと僕のこと、見たね。」
「…ヒバ…ッ!ごめんなさい…!」
「いいよ、怒ってない。それよりも」
「ふえ?」

ドサリ、と。ゆっくりとソファに倒された体。
目の前には、いつもの不敵な笑みを浮かべたヒバリさん。

「恥ずかしいなんて言えないくらい、当り前の行為にしてやろうじゃない。」
「え……?」

その言葉を上手く飲みこむことができなくて、俺は思考が止まった。
プツプツと外されていくボタンと、露わにされていくまだ痕の残る体。

「ギャッ!ちょっ、ヒバリさ…!!」
「煩いな、黙ってなよ。」
「さっき怒ってないって!!」
「怒ってはいない。そんなことで逃げた君が、腹立たしいだけで。」
「それ怒ってるって言いません!?」

彼は俺の首筋に、ガブリと咬みついた。

「いっ!!!」
「……そうとも言うのかな。」

ニタリ。
獲物を咬み殺す時のような、残虐さを瞳に浮かべた恋人が笑う。

「朝、ですよ。」
「そんなの、知らないよ。」

べろりと舌舐めずりをして、黒い影が降りてきた。
必死に抵抗するも空しく、慣れるまで何度もという彼の言葉は当然実行された。

俺が慣れたかは……あえて聞かないで貰いたい…。





あとがき

完成していたのに何故かアップしていなかったもの(笑)

2010/10/28 Up