本当の嘘




「ちょっと聞いて下さい、ボンゴレ!!」
「ギャ!?な、なんだよ、骸!いきなり出てくんなよな、驚くだろ!?」
「それどころじゃありません、一大事なんです…!」

綱吉の胸倉を掴んで揺さぶる骸は、随分と余裕がなさそうだった。
猛烈な勢いで揺さぶられ、綱吉の意識が霞掛かった頃、それから漸く解放された。

「大ッッ変なんですよ!重大な事実に気付きました…!」
「はあ?」

揺さぶられた所為で、少し痛む首を摩りながら綱吉は骸に怪訝な顔を向けた。
綱吉の肩に乗せられた手に、力が籠る。

「どうやら、僕は、貴方の事が、好きらしいです!!」
「…………はあ?!」

一言ひとこと、区切るように力を籠めて言う骸は、正に世紀の大発見でもしたかのような口振りだった。
瞳は輝き、顔には満面の笑み。そんな表情で、僕らは運命だったんですよと意味のわからない言葉を口走る。

「い、一体どうしたってんだよ!?」
「どうしたもこうしたもありません、気付いたんです、これは恋だと!!」

そう、僕らは一心同体!前世よりもずっと前から決めつけられていた運命!
綱吉は、いよいよもって頭が痛くなってきた。

「あの、な?知ってんだろ、俺は雲雀さんと……――」
「何を言うんですか、ボンゴレ!あんなひとりぼっちの運命とか歌ってる鳥なんかと、貴方が赤い糸で結ばれているわけがない!」
「それもそうだね」

暴走が止まらない骸の言葉を肯定する者が現れた。
それは綱吉もよく知る声の持ち主で、綱吉は驚きの余りに目を見開いた。
骸と同じように、窓から突然侵入してきたのは綱吉の恋人の、雲雀だった。

「ヒバリさん!?」
「鳥!そうでしょう、貴方もそう思っていましたか!そう、僕とボンゴレは…」
「だって、僕は綱吉の赤い糸なんか、全て断ち切って見せるもの」

骸の言葉を遮り、どこか誇らしげに窓辺に腰掛けて、雲雀は笑った。
肩には黄色い鳥が止まり、機嫌が良いのか歌を歌っている。
骸は呆気にとられたように黙り、綱吉は嫌な予感がしてか、そっと壁際に避難した。
どうして今日に限ってあの赤ん坊はいなくなるのかと、綱吉は自分の家庭教師を恨んでみたりもした。

「赤い糸なんかいらない。僕の右手は綱吉の左手に繋がっているもの」

雲雀は不敵に笑ってみせる。屈辱からかその顔を歪め、憎らしげに雲雀を睨みつける骸。

ねえ、綱吉?

そんな言葉が向けられた。滅多に甘い言葉なんか吐かない低い声が、綱吉の耳を擽った。
伸ばされた右手に、引き寄せられるように綱吉は、左手を乗せた。
乗せた瞬間に引き寄せられ、綱吉は雲雀の胸に抱き寄せられた。

「ヒバリ、さ…――?」
「ボンゴレ!あなたは騙されています!」
「綱吉を手に入れるなら、僕はどんな手段も厭わないよ」

くつりと笑い、雲雀の体が後ろに倒れた。綱吉を抱え込んだまま。

「待ちなさい、雲雀恭弥!」
「悪いけど、君みたいな変態に付き合ってやる時間は生憎と持ち合わせてなんかいないよ」

叫ぶ綱吉を抱え、雲雀は華麗にバイクの上に着地する。
後ろに綱吉を下ろし、ヘルメットを被せて、バイクを急発進させる。

「覚えていなさい!必ずやボンゴレを僕の…!!」

骸が後ろで、叫ぶ声が聞こえた。









「あの…ヒバリさん?」
「何」
「どうして、あんなことを?」
「あの変態が悔しがるなら、僕はいくらでも演じるよ、あれくらい」

楽しそうに、残忍な笑みを浮かべた雲雀に、綱吉はやっぱりなと小さく息を吐き出した。
少しだけ肩を落とし、綱吉は雲雀の腰に回した手に少しだけ力を込めた。

「でも、嘘はついていないよ」

小さな声に、綱吉の顔が赤くなったのは言うまでもなかった。


あとがき

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2012/06/17