《まだ、骨がくっつかないのかな?》

片手で出来る仕事は限られてる。早く試しの扉をクリアしたいのに特訓にお預けをくわされて、少し、いや、かなりがっかりしていた。
年相応に子供っぽいが感情を出さない事もあるのがゴンだ。
圧し殺すとかそういう訳ではなく子供故に感情の整理が付かず結果としてモヤモヤと籠ってしまっているだけなのだが
そんな微妙な感情の揺れでも、それでもクラピカは気付いて声を掛けてくれる

でも、このゼブロさん達の門番小屋で修行に入ってからの数日、クラピカからゴンに声を掛けてくれることが目立って減っていた
自分の事だけで体力一杯一杯なのは3人共になのだが…

《あれ?》
軽い違和感は当初からあった。クラピカらしくないというか、少し反応が鈍いのだ
クラピカは、キルア程ではないがかなりの使い手で、力がない訳ではないが、それよりも素早さが身上のタイプだ
たぶん体捌きと身軽さで敵をあしらうのだと思う…まだ、大きな男を片手で吊り上げ床に殴って叩きつけた力業しか見たことはないけれど。

その反応が鈍い…
《どこか具合でも悪いのかな?》別に怪我をしている風でもないけど……
変わらず優しい言葉は掛けてくれるし、腕の怪我の具合も心配してくれている…
だけど、ぼうっとしているというか……
《危なっかしい》

何か、いつもと違って助けてあげなくちゃと思わせる雰囲気がある。
気になっていつもより目で追っている。
《そういえば、あの時…》
ゼビル島で血清を手にいれるため毒蛇を纏った男の懐に手を突っ込む必要があったあの時、
《そんなことクラピカにさせちゃいけない》
オレがやらなくちゃと何故かそう思った
蛇使いは蛇の毒を使う以上、取引材料として必ず血清を持っている。
レオリオを救うには絶対に血清が必要だった

クラピカは躊躇ってる………
《あるよ》
理解していたオレが以外だったのか、クラピカは驚いた顔を見せた。
《大丈夫、絶対あるよ》
その後押しがクラピカに行動する間を与えない内に、オレは蛇の群れに手を突っ込んだ


《ヒソカにプレートを譲られたみたいな気がしてたんだ》
だから、レオリオを助けて合格の資格が有ると思いたかった

試験の後の飛行船で、オレがおかしいってクラピカだけが気付いて訊いてくれた
誰も気付かなかったのに
打ち明けたら楽になってしがみついて泣いちゃったっけ
《…ミトさんみたいだった》
やさしくていい匂いがする。

《早くギプスが外れると良いんだけどな》
馴れない片手で水汲みをし、拭き掃除をする
主にモップを使った床掃除なので片手でなんとかなる…が安定しないので力加減が難しい。
クラピカ大丈夫かな?
考え事のせいかモップと格闘していたら、洗濯当番のクラピカがいつもより早く戻って来て、テーブルやチェストなどを雑巾で拭くのを手伝ってくれた
そう、いつもクラピカはやさしい
でも…
《今日は早いんだね》
《私も、手伝われてしまったんでな》
苦笑いを浮かべながら答えてくれる

レオリオが手伝ったのか…レオリオも気付いてる?
妙な顔をしたらしい
《悪いが、修行に成らないので手伝わせてくれ。ゴンは今は休むことも修行だぞ》
早く治るといいな
そんな風に頭をぽんっと撫でられて
さっきまでの、クラピカへのオレの気持ちは弾かれ宙に漂ってしまう。
年下と庇われる。子供扱い…心配してるのはオレの方なのに

《クラピカの方こそ休んでよ》
口に上りかけた言葉を飲み込んで黙々と床を磨いた。


《一心不乱だな》
キルアを早く助けてやりたいんだな
だが、これから成長期のお前は筋力より骨に気を付けないと。骨折しているなら尚更だ
《だから無理はするな》
そう伝えたいのだが、負けず嫌いの彼には逆効果だったようだ
さっきより猛スピードのフル回転でモップ掛けを終えてしまった
私が手伝っていた雑巾掛けも、《絞ってくれたらオレが拭く》そう言って利かず取り上げられてしまう

溜め息が出る
先程のレオリオといい、私はゴンにまで庇われるようなそんな情けない風体なのか?
体調不良も隠せないようではこの先独りで闘い抜く事など敵わない
レオリオの件も、内心喜んでいた己が今は腹立たしい。
いや、思えばずっと私は庇われていたのではなかろうか?
ゼビル島での蛇の件
ゴンは自分の弱さが許せなかったのだと言って泣いていた

思い付いたのは私だった
確実を期したくて、確めるまで結局は答えの出ない其れを逡巡した。その隙に年下の彼が決行した。
迷いのない行動だった。
私に出来たのか?
助けたかったのは私だ。同盟を組んでいたから
なぜ躊躇った?
何を秤にかけた?


思考の澱みにはまって溺れる
堕ちるとはこんな様の事を言うのだろうか?
結論は出ている。これは私の弱さだ

《ゴメン》と小さく謝られ澱みの底に足が立つ

謝るな。お前は悪くない

《食堂へ行こう、ゴン。そろそろ朝食の時間だろう》
ゴンを背に先に席を立った。



4欠番(小改定後3に編入済)…?
後で小ネタしこみます。




《なんだろう?この感じ》
ムカムカする吐き気に似ている

先にたたれてしまっては後をついて行くしかない…
ずんずんと先を歩くクラピカの後を付いていきながら得体の知れない嫌な感じに戸惑った。
回り込んで表情を見たかったけど、
狭い廊下では、脇をすり抜けて前に出るのは子供っぽすぎる。
それ以前に、今のクラピカにそんな事をしてはいけない気もした…いつもの溌剌としたクラピカじゃない。
何かから逃れるために先を急いでいる…そんな感じだ。
後ろを付いて歩いてるから余計にそう見える。
《止めなくちゃ!》
そう思わせられてしまう。

急に、クラピカが躊躇うように立ち止まった。
もう食堂の入口だった。
…中にはレオリオが居た。

直ぐにいつものように向かいに座る。オレはクラピカの隣。
でも、いつものようには会話がない。
2人とも視線を合わさない。
《ケンカでもしたのかな?》
それならいつもの事…2人ともこういう時は競うようにオレにかまいだす。オレは赤ちゃんじゃないよって叫びたくなるくらいの時だってある
身構えたけど、今朝は違った

2人とも、考え事があるのか、口数もない。黙々と食べている。
空気が重い。
食事をする音がやたら大きく感じられる。
小屋の主の門番のゼブロさんは今が当番の時間らしく、部屋にはもう1人の門番、シークアントさんしかいない。
この人とは、まだあまり会話が無い。オレ達とどう接したらよいのか決めかねている風だ。
ゼブロさんはオレ達の事をキルアの友達だって紹介してくれたけど。びっくりしたような顔で《ふーん》と言ったきりそれ以上の関心はないようだった。
でも、たまにこちらを伺うような視線をチラチラと感じる。

視線。

そういえば、クラピカはいつもレオリオを見てる。レオリオが見ていない隙に。
クラピカはそんなときはいつも、嬉しそうに穏やかな表情をしている。オレは、嬉しいような泣きたいような変な気持ちになる。
今朝も見てる…
でも違う。
厳しい表情で睨んでる。
レオリオもちらちらクラピカを盗み見てる…こっちは珍しい。
でもなんだか険しい表情だ
やっぱり何かあったんだ…!
なんだろう?レオリオに何かどなりたいような訳のわからない気持ちがわいてきた。
オレも、むしゃくしゃした時みたいにガツガツと食べた。味はわからなかった。


朝食の終わる頃、
視線を感じて顔を上げたオレにレオリオが合図を送ってきた。顎をしゃくって、2人だけで話があるって風だ。

クラピカは隣の席にはもう居ない。さっさと午後の修行に出掛けるつもりなのか既にドアの向こうだった。
やはり余裕がなくて変だ。
追い掛けて問い詰めたいけど、レオリオとの話がある。オレも聞きたいことがある。


《うん、別に血の匂いとかしないよ》
《そうか、とりあえず、怪我じゃなさそうだな》
溜め息をついて
《オレじゃ踏み込んだ事まで訊きにくいからな》
頭をかきむしり言う

レオリオも、クラピカの様子が変だったことにやっぱり気付いてて心配してたんだ。

《ゴン、何か気が付いたら教えてくれ》
オレを真っ直ぐに見て頼まれた
直接訊いたら?
クラピカはあんなにレオリオが好きなのに!
叫びたくなって気付いた。レオリオにむかついてた理由にも

オレ、クラピカが大好きなんだ

うつむきながら《うん》とだけ答えた。