11
およそ何の修行なのか判らない日々が始まった。
少ない材料で作る美味い味噌汁とか、必要栄養素を取る為の食事とか、鉄分やカルシウムを多く含む食材とか
《まるでこれでは料理教室ではないか!》
そう文句を言うと、
《お前には戦えるだけの体が出来ていない!》
と返された。
来るなり倒れるという失態をやらかした以上、反論の余地はない。私の体はまだ成長途上で育ちきっていないのは事実だ。
師匠は言う、
体質によっては寝て過ごさねばならない女性もいる。フルマラソンを走れる女性もいる。
《お前の母親はどうだった?》
訊かれても、記憶は頼りない
《別にそんなことは無かったと思う…》
寝込んでいた母の記憶はない…そもそも、母の記憶すら記憶の奥に沈めていて滅多には思い出せない…
《そうか、じゃあ慣れてないって事もあるかも知れないが、体が出来てないって事が大きいのだろう》
無理はするな
軽くなるまでの4日間は完全に休養期間に宛てられた。
そして料理教室だ。
知識として栄養学の素養はある。今更学び直す事などないと自負していたが、私の知識は机上の空論にすぎず、蛋白質がアミノ酸になりグリコーゲンとして肝臓に蓄えられる。蛋白質は肉などの動物性と大豆などの植物性があり…などとは諳じてはいても、それを美味しく効率良くとる方法を全く知らない。実生活に役に立たたない。
まさしく、《だからどうした?》と一喝されてしまう知識でしかなかった…
修行に耐える体を作る為と称した料理教室はここでの修行の間中続く事になった。
しかし、やはり疑問は拭えない。腹に入ってしまえば何の違いがあるというのだ?不味かろうと美味かろうと栄養に違いはないだろう?
今日を生きる糧にさえなればそれで良いではないか?
《………料理音痴の言い訳はいらん》
私の用意した飯を食べた師匠が、地の底から出したような声で言う。
《美味いと脳が喜んで食うのと不味くて嫌々食うのとでは身に付き方が違うんだ!》
………悪かったな
《とにかく、だ。お前はまず体を作るとこから始めないとな。食事くらい楽しんで食え》
ポンっと頭に置かれた手が暖かかく、言葉が素直に心に沁みた。
小屋に来てから10日が過ぎた
今の季節が夏で良かったと思う。身体を洗うのが水でもさして困るわけではない。
師匠の、庵と言う名の掘っ立て小屋には浴室の設備は無く、水周りの設備も無かった。
それらは全て屋外に誂えられたかまどの周りに用意されている。
といっても、水が引いてあるわけではない。庵のある少し平たい場所は山全体で見れば小さな場所で
硬い岩板の層がむき出しになり土が抉れて崖になった斜面とその下の土がたまって平らになった所にへばりつくように建っている
狭い場所だが、周囲は木々で囲まれ山頂からは迫り出した岩の死角になる。
真上からなら小屋の前の小さな広場が見えるだろうが、小屋は見えない。空を飛ぶ鳥なら前方の空から見付けるだろうが…
岩盤の層の続き、小屋のやや裏手が切り立った崖になっていて、少し下には川が流れている。少し開けた川原のある川で、山の中腹には珍しい。
とはいっても、下流のような穏やかな流れなどではなく大きな岩があったり、流れの速いところや深いところのある山の川だ。
そこから使う水を汲んできて備えた瓶に溜める。これも私の仕事だ。
この川の存在から、あの隠れ家のような小屋を私は見つけたわけだが、知っていなければ山に分け入ってまで近付かない場所だろう。
この川でいつも身体を洗う。
師匠は、ドラム缶とか言う樽のような物に湯を沸かして浸かっているが…どのみちそこから出て身体を洗うので、この川原で湯を沸かす。
あれだけの量の水を、崖上の庵まで運ぶのは確かに面倒なので、理に適ってはいるのだろうが、おかげで私は真昼間に水浴びをする羽目になる。
風呂を焚くのは私の仕事だからだ。
《湯が勿体無いからお前も使え》とヤツが言う
《男の浸かった湯になど浸かれるものか!》私が返す。
ならば先に入れと言われるが、私の浸かった湯に入られるのはなお嫌だ。
そういえば、彼には私の直ぐ後の浴室を使わせたのだった…
かぶりを振る。
勢いをつけ、いつもよりは遥かに薄着の修行着を次々に脱ぐ、ザブザブと川へ入る。
ふと、川面に映った自分の裸体に考える。師匠の言う程、成長が悪いわけではないと思う。
背は170を越えるし、体重も軽すぎるわけではない。骨組みは男性には劣るが、しっかりとした肩と鎖骨をしている
その下の乳房は少々小振りだが、脇から腰へは曲線を描き太腿に肉が付いた足首までカーブが連なる健全な女性のラインだ。
《もう少し大きい方がいいのか?》
何気なく乳房を片方、下から手で持ち上げた。
私の手には丁度よい大きさだが…彼の手にはすっぽりと収まってしまっていたな、こう…
レオリオがやっていたような持ち方にしようとして、顔に血が上った。
身体が思い出し、下腹の奥がわなないた気がする。股間に熱がよみがえる。耐えようとしゃがみこんだ拍子に体勢を崩した
直ぐ後ろに思ってもみなかった深みがあり足を取られ転げた。頭まで水が来る、声を上げた時に水が口に入り、むせる。溺れる。
…死ぬ!
足掻いた足が川底に触れた。両の足に力を入れて起き上がればそこは胸の高さの深みだった
《何をやっているんだ、私は!》
髪から滴る水滴がぽつぽつと涙のように波紋を広げる
情けなさと恥ずかしさとにこの身体が恨めしくなった。
12
弟子の扱いが難しい
年頃の娘ってのは面倒だと言うのは解っていたが、押しかけてきたのはそっちだし、俺は努めて紳士的に接しているつもりだ。
最初に寝台を提供してしまったから、俺は床に布団を敷いて寝た。距離を充分にとって間に衝立まで立てた。
窓を大きく開けて密室にはしない。
ヤツが起きるまで起きないし、ヤツが寝る前に寝た。
ヤツは俺のことを寝ぼすけの怠け者だと思ってるようだが…
食事による体質改善は直ぐにどうこうなるものじゃ無いが習慣にすることが大事だからこのまま続ける。
ヤツの身体に効きそうなイソフラボンが取れる食べ物を中心にピックアップした。
俺の好みだと思ってるようだが…
それと共に本格的な修行にも入って、念の概念を教え始めた。
確かにヤツの飲み込みは早い、その点の文句は無い優秀な教え子だ。
上達のスピードが速すぎて心配になるが教えがいがある。
だが、
知らぬ間にヤツはちっとも笑らわなくなってた。それどころか怒りもしない。
気付いた時には修行も終盤で仕上げに入る前だった
楽しまないと身に付かないってのは何も栄養だけのことじゃ無い。
ここに来たとき、歳相応に表情のくるくる変わる小憎たらしいが可愛げのあるヤツだった。
自信満々な態度も物言いも、本人の意に反して微笑ましくすらあった。
それがどうだ?
いまや、俺が何を言おうと感情を読ませない暗い胡乱な瞳で見返してくるだけだ。
あぁ、意に染まぬ意見には、拗ねる感情は残ってるようだったな…いや、あれも俺を無視した…だけなのか?
このまま仕上げていいのか?仕上げるしかないのか…
逡巡したが、結局は成行きに任せた。弟子は見事に発を修めた
あれで良かったのか?
衝立の向こうで眠っているだろう弟子の事を思い、まんじりともしない内に夜が白んだ。
《えらく世話になったな》
鎖の具現化に成功した弟子が明日ここを発つといったのは昨晩だった。
既に問答はし尽くした。この弟子は復讐に生きるのだと譲らないだろう
俺の忠告は今のこいつには届かない。
《いや、俺は何もしてねぇよ》止める事が出来ないのだから
自嘲気味に答える
ヤツは一瞬躊躇った表情を見せ、少しの間をおいて意を決したように口を開く
《もっと昔のことだ》
驚いた覚えてやがったのか!
《あの頃の事はほとんど覚えていない、ただしばらくの間、疲れ果てたような目をした男と行動を共にしていた事を思い出しただけだ》
同じような眼をしたガキを拾っただけだ
《あぁ、それから私の癖を矯正してくれたな…》
あれは危なすぎるからな。
《助かったよ、礼を言う。大事な友人の眼を潰さないですんだ》
…恋人だろ?
《向こうはそう思ってはいない、それに》
…
《お前の方が先約だ》
履行する気も無いくせに…
《そう思うか?》
そう言って笑った眼には女の色があった
大きく溜息を1つ吐く
俺に与えられた猶予はあいつが旅立つまで
そろそろタイムリミットだ
もとより、弟子と男女の関係になる気は無い
重い女だと思う。この先にあいつを支えきる様な男は現れないだろう程に。
衝立の向こう、あいつの領域に踏み込む
思えばただの目隠しのつもりだったこれは、あいつとの間の暗黙の境界線だったのだと気付く
ここを越えれば、師匠と弟子ではなく男と女になるのだという。
《タイムリミットだ》
悲しげに昨晩は女だった弟子が笑った。
《やはり、来なかったな》と。
きっちりと服を着込んだ弟子が座っていた寝台から立ち上がった
旅立つ弟子が選んだその民族衣装は僧服に見える。
眼と眼が合う
俺の眼はこいつに思いを伝え切れているのだろうか?
《では、》
手が伸びる、別れの言葉を紡ぐつもりだったこいつの唇を人差し指を押し付けて止めた。
そこから後頭部に手を回し頭を抱いて引き寄せ口付ける
一瞬非難めいた表情を浮かべたが無視を決めた。歯列を割り舌を絡めて蹂躙した
経験があるのだろう、俺になされるままだと思っていたこいつの舌が俺に応えて踊っている
あれから4年だ。男がいてもおかしくは無い歳になっている。昨日の言葉もある。
嫉妬のような感情に焼かれて、背中に回していた手を滑らせスカートのウエストから進入し尻の肉をつかんだ。
乱暴に俺の腰に引き寄せる。
もう片方は被っただけの形状の上着の脇から忍ばせ中の服越しに胸を揉んだ
その間も舌は感じるらしいポイントを探そうと口内を犯しつくし垂下しきれなかった唾液が口の端から漏れ出した
尻にまわした手は大きく円を描いて肉を揉み回し、鼻からは甘い呻きが漏れ出し瞳は緋色に変わる
力が抜けて立っていられなくなったこいつを後ろの寝台に投げ出すように寝かせた
禁欲的に見えた僧衣は乱されて、投げ出された身体を淫猥に包んでいる。
弟子に手を出す背徳感と相まってゾッとする様な色香が立ち上っていた
脱がし方が解らないその衣服に閉口するかと思ったがこのまま抱くのもいい。
手を出すつもりが無かった事など記憶の彼方に消えていた。
僧衣の内で浅い息を繰り返し上下に揺れている胸の中央に、吸った印をつけようと下着ごと上着を首までまくる
現れた乳房は思っていたよりもボリュームがあった。薄桃色の頂を持つ2つの白い小山
こいつの上に跨いで四つん這いになり、両手で小山を押し開くように分け、その真ん中に顔をうずめ口付けて吸った
浮かされてとろんとしていた表情が歪む。そのまま舌先を立てて頂めざして稜線を舐め上げた。
投げ出されていただけの四肢が反応を返す腰が浮かれて踊りだす。左右に何度か往復し、ぱくりと右の乳房を咥える
《こういう刺激は初めてなのか?》
唇で乳を咥えたまま舌先で乳首をつつくと、面白いように喘ぎ声があがり手足が跳ねる
右は先ほどの口付けのように舐める。空いた左の乳は右手で包み人差し指と中指で乳首を挟んで搾りだす風に揉んでいると、喘ぎ声がくぐもった風に変わった
疑問に思って見やると自分の親指を赤ん坊の様にしゃぶって声を殺している、涙と唾液でべちょべちょになった顔があった。
次から次と唾液と涙が滴り落ちている。
《せっかくの晴れ着が駄目になるかも知れないな…》
禁欲的なそれを、俺はむしろ積極的に駄目にしたかったのだと気付く。
腕を掴んで咥えていた指を外させた。代わりに、俺の右手の人差し指と中指を与えて好きなようにしゃぶらせる。
左手は俺の唾液でべちょべちょになってる右の乳房へ乳首を押し捏ねるように揉む
こいつの手は俺の右手首を掴ませた、俺の身体が邪魔をするから自分であの肉芽を触れはしないだろう。
耳元に口を寄せて息が掛かるように卑猥な言葉をささやいた
案の定、スカートがもぞもぞと動く様が大きくなった。多分下では脚が太腿を摺り寄せる様に腰をくねらせている…
舐めさせていた右手を外す。指を取上げられた口から喘ぎがもれる。
唾液まみれのその手でばっとスカートごとズボンと下着を掴んで一気に膝下まで引きずり下ろした。
さらけ出された陰部は既に金色の毛が濡れ貼り付いている。朝の明るい室内だから濡れて光ったさままで明らかだ。
こちらも既に愛液が溢れて滴るほどに潤っている
急に脱がされ、冷やりとした外気に触れたからか
《ひゃっ》と短い悲鳴を聴いた。
その咎めるような響きに引っ掛かりを感じながら、指を肉芽の潜む陰部へと辿らそうとするときゅっと脚を閉じて俺の手を拒んだ。
顔を見ると嫌々とかぶりを振る。さっきまでの蕩けた表情と違って拒絶の意思が浮かんでいた。
《ここまで来てそれは無いだろう?》と思ったが、
フルフルと痙攣を起こしながらのその態度に、ふと思いついたこと口にした
《お前イクのが怖いのか?》
あれは一種の擬似死だ。こいつの経歴からしたら許容しがたい恐怖と裏表でも不思議は無い
肯定も否定も得られない。ただ緋に潤んだ瞳で嫌々とかぶりを振るだけだ…
だが、このままここで止めても辛いのはこいつだ。開放を求めて篭った熱は果たされるまで身の内を駆け巡る。吐き気や酷い頭痛を連れてくる時もある…
そうなっては更にトラウマに輪をかけてしまう。
《大丈夫。大丈夫だから》耳元で囁く。手は腰骨の辺りから尻にまわし柔らかくなでる。
覆いかぶさるように肩の後ろに腕を回し抱きよせ半身を起こした。向かい合わせのような姿勢になる。
こいつの手が首に回されしがみつかれた
先程のような拒絶は無いが、身体を押し付けられてしまっている。
柔らかい乳の感触が、普段から肌蹴た俺の胸に直接あたって気持ちよかったが、これでは前からは手が回せない。
《大丈夫だから》と再度囁いて尻から手を回した。
肉芽は小陰唇の向こうになり少しやりづらい
小陰唇を指で割りそこを撫でることにした。
さっきからの熱が篭っているそこはとっくに蕩けていた
《はぁ…》と溜息がもれた。
イクのを怖がっていたようなそぶりは感じられなくなっている…気持ちよさげに腰をゆるく振っている
《刺激が強すぎたのか?》
俺の方も腰を折られて再度の準備やり直しになったが、もう一寸ってところだろう擡げ張ってきたのを感じる
きゅっとしがみ付かれているから肩口に息がかかり吐息のような声のようなこいつの喘ぎがよく聞こえる。色っぽくてかなりくる。
入り口付近で往復させてる指が生む水音がかなり大きくなってきた
頃合だろうとひょいっと立てて進入を図る
肉の抵抗の感触が興奮を誘う。ギュッと締め付けてくる。
思ったよりかなり狭い…入れた中指1本を少し動かすと、しがみ付く腕に力は入り、腰は振られ、喘ぎ声が耳元に降る
指の向きが反対なので本来なら曲げるところを伸ばして刺激のスポットを探り見付ける。
やや馴染んだころ抜き差しを始める、時折早く、浅く、深く、遅く、緩急をつけて追い上げる。スポットを押し擦る。
潤滑を助ける分泌液が溢れ零れ飛び散る、脇から滑りこませて指を2本に増やし中で捏ねくる様に動かした。
お互いの耳元近くに口がある姿勢なので、俺もこいつへさっきのような卑猥な言葉を囁き耳たぶに歯を立て舌を這わせ舐める
ただでさえキツイ締め付けがよりいっそう強くなって膣内部の収縮が痙攣じみてきた様だ。
息も絶え絶えのこいつの喘ぎは、既に何を言っているのか判らないが
身体の状態から限界が近いのだろうと伺える。
もう一押し、とどめとばかりに低く囁いた
《クラピカ、綺麗だ》と。
俺にギュッとしがみ付き背が伸びて脚が絡まる、内部は縮まり締め付けびくびくと波打って、そうして身体から力が抜けた。
クタリと俺の胸に身体を預けたコイツはオレじゃ無い誰か別の男の名前を呼んで果てた。
ようやく、俺はこいつに名乗ってなかったことを思い出した。今も昔も。
途中から、コイツは俺の向こうに別の男を見てその男に抱かれてたんだと気付いてしまったら、もう手は出せなかった。
気付けないほど幼くは無く、無視できるほど若くも無く、納得づくで抱けるほど老獪でもない…
俺には無理だ
乱れ汚れた衣服を全て脱がし身体を清めてやった。そのまま寝かせてシーツを掛けた。
汚れた衣服は洗濯しておいてやる。コイツが目を覚ます頃までに乾くかは判らないが。
目覚めた後で、俺と最後までやったと思うかどうかは知らん。教えるつもりも無い。
……命の掛かった局面でそれが身を助けることもあるかも知れないし無いかもしれない。
夕刻、コイツは今から発つと挨拶に来た。俺は川原にいた。こいつの眠っている間、小屋には近づかなかった。
洗濯物は入り口に干しておいた。
ありきたりの挨拶の後、これで最後
《復讐など止めろ》といった
きく訳が無いのは承知の上だ
足音が遠ざかる
《おい、振られたら戻って来い!》叫んでいた。
《振られなかったら連れて来い!一発分殴ってやる!》
何を言っているのだという顔をして振り返った元弟子は、軽く手を上げて一振りし笑って去っていった。
そうだ、元から父親か兄貴みたいなものだったのだ、俺は。
ならば役目は決まっている。
そろそろ夜の気配がしていた。