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ざく、ざくと掘る
ここは元は農地だった。土は柔らかい。1年放置したからといって、土が固くなるわけではない
雑草の根が伸びて絡まりあってシャベルの刃を妨げ、なかなか思うようには進まない
子供の力ではなかなか掘り進めない

掘る。ただ土を掘る
草木の少ない土地だが砂漠というより岩盤に僅かな土があるだけの痩せた地質の土地だ
土は固い。ボロボロの崩れやすい土の癖に、固い
屠った死体を隠すために埋める
これは、隠す為だ埋葬ではない

同胞はまともに弔ってはやれなかった
獣に食い散らかされて
焼け落ちて
土は柔らかかったろうに
残骸を、埋める


隠すためとはいえ、土に埋める
仇を

隠す
隠した
埋めてしまえ埋めてしまえ
奥底に、ずっと、もっと、深く

《心音は混沌としてるわ。いろんな事が一度に起こって、消化しきれなかったったのを順振りしてる感じかしら…》
《身じろぎもしないで眠ってる…熱がなかなか下がらない》

草が絡まるシャベルに
根が絡まる。絡み取られる
断ち切るようにシャベルを刺す、ぶちっぶちっと根が切れる。体重をかけて刺して掘り進む
切っても切っても細かな根がある
私の全身で、切る。切る、切る

他の場所は固すぎて、掘りにく過ぎる
家の畑を残して、他は墓所に化けた

ここは私の場所だ、私の場所以外は必要ない
草に埋もれていく年々埋もれていく

私も埋もれていく

埋もれる

土をかける、かけて埋める、かけて隠す

土、土に還した。種をまく育てる、襲った連中は私たちにしか興味は無かったんだろう
倹しい里の生活用具は残っていた

実る…私が食べる
同胞を還した土で育てた作物を
実は紅かったろうか
土は赤かったろうか?

《うなされる様になった。…反応がないよりはいいが…》
《寝汗もかく様になったわね…体が熱を下げようとしてるんでしょう……汗を拭いて着替えさせるから…》

落合う場所には誰も来なかった
私は遅れたから置いていかれたんだ
私だけになった訳じゃ無い

誰も来ない

おい、そんなとこで何してる?…なんだガキか?腹減ってるのか?
ならこれを食え、火にも当たればいい

焚き火の炎が反射して、男の暗く沈んだ眼が赤く見えた
…付いていった

私は逃げた
故郷を捨てて離れた

埋める、埋める、奥へ奥底へ土をかけて隠す


《熱が下がってきたわね》

ねぇ、約束よ。今晩は私に部屋に来る事。寝かさないわよ…


彼女は、帰ってこなかった
私を口説いてた仕事仲間の彼女はどこに消えたのだろうか?

彼女は埋めるものが無い
何もない
埋めずに消えた

土をかけずに消えた

消えた

全て終われば、私も消えてしまえばいい

《心音が?落ち着いてきたと思ってたらどんどん遅く小さく…!》
《クラピカ?!おいっ、おいっ?!》
《ゴン君!キルア君!!》

意識が薄く溶けて消えていく…
同胞は迎えてくれるだろうか?

埋めた土を跳ね除けるように手が伸びて、私の脚を掴む
これは旅団の11番。その男の胸から鎖が伸びている…私の右小指へ
別の伸びた鎖が女の胸を貫いている…その鎖を女が掴んで私を行かせない。彼女も亡者か
伸びたほかの1本が私の胸も貫いている。更にもう1本…行動を制限したあの男はまだ生きている
亡者2人が私を引き止める
よく解っているじゃないか、私が消える時はあの男も道連れなのだということを

滑稽で皮肉だ。お前達(敵)が私が生きる事を望むのか…仲間の為に
おかしくて、馬鹿らしくて腹立たしくて…涙が出た

《クラピカ、大丈夫なの?》
《心音は遅く小さいけど、安定はしてるわ》
《体温は低めだが、正常だ》

《何時まで眠るんだろうな》

何も無い…
ここは何所だろうかと思った。意識が集まって私が具現した

暗い
夜だろうか?横を見ると
枕元に見知った顔があった。自分の受験を中断して付き合ってくれたお人よしの彼
看病に疲れたのだろう俯いて眠っているらしい
少し離れたソファでは優しい声をした仕事仲間が小柄な体をうずめて眠っていた
彼女にも迷惑をかけた
ゴンとキルアもクッションを持ち込んでその近くで眠っていた
異常は無いだろうか?
私の所為で危険な目にあわせた
大切な仲間、大切な友人、大切な彼

他人を大切だと思えるようになった

《孤独が怖く、人も怖かった》

今も夜が怖い
シンとした静かな夜。1人でいると堪らなく寂しくて誰でも良いから抱きしめてほしい気分になる
何とはわからない恐怖に追われてシーツの海にのたくって暴れる
秩序の合ったあのころの世界は消えて
見知らぬ複雑な世界が広がってしまった

誰でも良くなってしまうから1人でいることに安心する
逆説的な安心

…誰でも良いわけではない(掟があるから)
…誰でも良いのだ(今は誰もいないから)
…誰でも良かった(誰もいないのだから)
…誰もいない(私は1人だ)
思考は入り乱れて何もかも混沌とする

仲間が出来て、1人が耐えられなくなってしまっていた
違う
身体が知って、欲してしまうようになっていた
違う
違わない
1人を好きになって、彼を欲したから寂しくなった
違わない

思考が混ざり沈殿していく
早く夜明けが来ればいい
だが夜は更けたばかりで、地平線の彼方が白むのはまだ先だ
声をかけたいが、疲れて眠る彼等の邪魔はしたくない
私も眠ろう…大丈夫、明日にはきっと起きて声をかけよう

ありがとう…と

眠る。だがもう深淵にまでは堕ちはしない
あなたがいるから