ごうん、ごうん、と、飛行船が音を立てている。

2次試験が終わり、3次試験会場へ向かう飛行船は、暗闇の中を進んでいく。

廊下で眠っていたレオリオは、ふと目を覚ました。

飛行船の中は、空調があるとはいえ、冷える。

今何時なんだろうか。

窓の外は暗闇で、廊下の蛍光灯があたりをうすぼんやりと照らしていた。

隣にいる人物を起こさないよう、ゆっくりと上半身を起こす。


「・・・・。」


体はつかれているのに、再び眠りにつけそうになかった。

廊下には自分たち以外の人影はなく、ひっそりとしている。

飛行船のエンジン音だけが、低く響いていた。


足下を見やると、微かな寝息をたてている人物がいる。

クラピカだ。

神経質そうに見えながら、こんなところで熟睡できるとは、意外に図太いのかもしれない。

床にちらばる金髪があまりに美しいので、ついぼんやりと見入ってしまう。

出会ってから今まで、こいつの姿をじっくり見るのは初めてだが、

あらためて見ると、クラピカは美人だった。

白い頬が蛍光灯のぼんやりした光に照らされている。


「・・・」


美しい。

だが、何か違和感がある。

レオリオは自分の思考に苦笑した。

自分は寝ぼけているのかもしれない。何が違和感だというのだろう。

クラピカの服のすそがめくれて、ほんの少し、腰のあたりの肌が見えている。


「・・・!」

こいつ・・・

違和感の正体に気がついた。

こいつは、確実にウエストよりも腰の骨が大きい。

男の体では、寝転がったときにこんな腰の形にはならない。

やせているので体の肉では判断できなかったが、こいつは・・・


それは医者志望であるレオリオの知識から導かれた答えだった。

「オマエ、女だったのか…」

長い睫毛が震えた。

ゆっくりとまぶたが上がり、巨大(本当に巨大と言っても過言ではない)な瞳があらわになった。

「・・・レオリオ、起きていたのか。」

「こんなところで熟睡できるなんて、オマエ意外に図太いな。」

「ハンターたるもの、どのような状況下でも体力回復ができて当たり前だ。小々環境が変わったからと言って眠れないようでは、ハンターは務まらないよ、レオリオ。」

「・・・・。」

全くかわいげのねぇ奴だ。

不思議なことに、今までこいつは男なのか女なのかと考えたことはなかった。

出会ってから今まで、あまりに目まぐるしく物事が起こっていたから、そんなことを考える余裕がなかったのだ。

それとも、あまりにこいつが綺麗だったからかもしれない。

船の上で荒波にもまれながら、男か女かと考える前にまず、綺麗なやつだ。そう思った。

「オマエ、女だったのか。」

上半身を起こしかけたクラピカにそう声をかけた。

「・・・・」

目が大きく見開かれる。

しかし、動揺したふうはなかった。



「・・・・私は男だと言ったか?」

こんどはこっちが目を見開く番だった。


確かに、今まで本人の口から性別について話されたことはなかったが。

「私は偽証をした覚えはない。」 


「ぷっ・・・はははは!」

「・・・・何がおかしい!?」



本人には、性別を偽っているという意識は無かったらしい。


生意気で、胸も尻もないこいつが、女という種類の生き物なのだと思うと、
何だか妙でおかしかった。


「いや、なんでもねぇよ。起こして悪かったな。
寝な。また明日も試験だぜ。」

「貴様などに言われなくてもそうする。」


笑われたのが気に障ったのか、クラピカはぷいと背を向け、
床に体を横たえた。


相変わらず、いや、どことなく速度を落としたように、ゆっくりと
飛行船は夜の中を進んでいった。