レオクラ 一応本番はなしの方向性で・全体的にはバカエロ
スレ29 >242-245のネタを拝借・貧乳派です
『まるで水蜜桃のような』
会議室を出て、肩を回す。ああ、凝ってんなあ。こりゃ間違いなく、気疲れだ。首を回すとゴリッと鳴った。
十二支ん新メンバーとしての初会議、プレシャーが半端ねえ空気だった。そんな中、クラピカは即“必要な人材だ”と自分を証明してみせた。
あいつならできると思ってたし、そうでなきゃ推薦したりはしねえ。
一年前、あいつの力を目の当たりにした。ボディガードの仕事と聞いていたが、オレが想像していた一介の雇われハンターという印象ではなく、チームリーダーとして周囲を導く立場にあった。聞けば目まぐるしく状況が変わる中、機を逃さず才覚を示し、頭角を表していったようだ。
もとより聡明な奴ではあったが、覚悟の深さ、目的のためになりふり構わぬあいつの姿には一人前のハンターとしての貫禄が漂い始めていた。オレは置いていかれるような気持ちで焦った。実際戦闘面では足手纏いだったことも悔しさに拍車をかけた。
けど、今は。そういうことよりも、あいつの力になってやりたい。数々の後悔が今のオレを形作った。
冷静に見えて、危なっかしいところがある。能力は極めて高いが、精神的に揺らぎが生まれりゃひどく脆い。抱えきれないほどのものを背負って闘うあの細っこい肩を、支えてやりてぇと思う。
十二支ん入りを決意してくれたことにはホッとした。仲間の眼――あいつにとって命を賭しても取り戻したい一族の誇りを餌に誘い出したようなもんだから、今の関係は互いに利があるとはいえ、ちっと悪いように思う。そこは全力でフォローしてやんなきゃな。
一通り首回りをほぐして眉根を揉む。目を開けると、いつのまにか目の前にクラピカが立っていた。
「どわっ!」
今の今まで考え事をしてた当人が突然現れると、ものすごく焦る。
「ビビらすなよテメー、何の用だ」
照れくささを払拭するために凄んでみる。クラピカは二、三度ゆっくりと瞬いたあと口を開いた。
「……年寄りくさいな、相変わらず」
じっとオレを見つめながら言う。コイツの眼力は迫力がある。目が大きいからか、それとも緋の眼という不思議な眼の持つ能力の一つか。どちらにしても生まれ持ったもんだ。こそばゆくなるからそんなに見るなと言いたくなるんだが。
「せめてオッサンと言え、年寄りはねえだろ、年寄りは」
「そこは認めるのか」
「いや、そりゃ言葉の綾ってもんよ、こんな若々しいハタチのおニイさんを捕まえてだな、失礼極まりねーぜ、ったくオメーはよぉ」
くだらない話をしにきたわけではないだろうが、ついこんなやり取りがまたできることに和んでしまう。
「……で。どうした?」
「少しいいか」
水を向けるとこっちの返事もお構いなしにスタスタ歩いていく。相変わらず勝手なやつだ、オレの電話には出もしなかったくせに、しまいにゃ拗ねるぞオレは。子供のころは相当な利かん坊だったんじゃないのかね、とコイツの本質に触れるたびに思う。
ビル内を付いて歩き、どこに連れてく気だよ、と聞く前にとある部屋の前で立ち止まった。無言で鍵を取り出すと、解錠して扉を開ける。
電気が付くと、そこは小部屋だった。大会議室には及ぶべくもなく、さっきチームごとの顔合わせをした小会議室よりもさらに小さい。数歩歩けば壁にぶち当たる、昔オレが住んでた安アパートとそう代わりねぇ。薄暗く、なんとなくカビ臭い。四方が本棚に囲まれている。資料室か。にしては資料の量はたかが知れているし、使われてる気配もねえな。どの表紙も埃っぽい。なんとなく秘密基地めいた……学生なら隠れてタバコを吸ってる奴がいそうな雰囲気の部屋だ。
「ハンター協会内にもこんな部屋があるもんなんだな」
「ああ。ミザイストムに聞いた。ここを我々の拠点とさせてもらう」
澄ました唇から、新たな仲間の名前が出た。どうも気が合ったらしく、既に仕事面ではタッグを組んでいる。ビヨンドの内通者を排除するという、厄介で重要な仕事だ。
中央の机にもごちゃごちゃと事務用品だの書類だのが転がっている。まだ仕事部屋としての体裁は整っていないらしい。こんな部屋でいいのかよ、まさか片付けを手伝えとかいうオチじゃねーだろうな、と見回していると事務的な椅子を一脚、差し出された。
「ひとまず座ってくれ」
クラピカはそう言うとさっさと座った。オレも腰を下ろす。机は挟まず、その脇に椅子を向かい合わせた形で、相対する。
オレとクラピカの間には遮るものが何もなかった。膝と膝の間のわずかな20p程度の距離だけだ。なにかものものしいな。というか……ムーディだ。薄暗い部屋で密談というシチュエーションにドギマギする。一体何が飛び出てくるのかと、オレはクラピカが話始めるのを待った。
沈黙。薄暗い部屋で、クラピカと差し向かいで、密談、ムーディ。沈黙。薄暗い、密談、距離が近い、差し向かい、依然沈黙。
汗が出る。
「……盗聴の心配はないのか」
いかん、間が持たなくて口が滑った。形のいい眉がぴくりと跳ねあがる。
「私がそれをまず調べなかったとでも思うか?」
いんや思わない。
居丈高なご返答をありがとう、お前はいっぺん物の言い方を考えたほうがいいぜクラピカ。つーかその程度でキレんな。とはいえ、出鼻を挫いたのは確かにオレだ。悪かった、と言うと案外素直な声で「いや……私こそ」と返ってきた。
「相談があるんだ。お前に……」
一瞬耳を疑った。相談? オレに? お前が? 何の、と安易に聞くことが憚られた。
それきり口を閉じて、固く結ぶ。顔つきは神妙で、青ざめているように見える。いや、多分この部屋の照明のせいだろうが。
伏し目がちの眼から睫毛が長い影を落とす。綺麗になった、と思う。オレはほれぼれとクラピカを眺めた。もともと造作はいいが、男だか女だかよくよく見てもわからん中性的なツラと格好だった。
今は。民族衣装からスーツに代え、髪型も男っぽくはしているが、これで対外的に男で通用してんのかと不安になる。なんというか、内側から滲み出る女らしさみたいなもんがある。コケティッシュな魅力というか。
コケティッシュて。オッサンくせえな、確かにこれはそう非難されても反論できねえ。
小さな(いや、女としては大柄なほうなんだが)身体で独り、戦ってきたコイツの胸の内にどんな悩みがあるというのか、なおも口ごもるクラピカにとことん付き合う気になった。深く腰をかけなおし、両足に力を入れて床を踏みつける。
一体なんだ。そういやあ、コイツが受け持つ内通者探しの話……オレはそれを聞いた瞬間、“十二支んの中にもいる可能性はあるんじゃねーか”と思った。オレが感じている微妙な居心地の悪さは、派閥間の微妙な空気が摩擦して生まれる、いわば静電気みたいなもんかと思っていた。そうではなく、「はじめから裏切っていた」。
この考えが、果たして妥当かどうかオレにはわからん。十二支んひとりひとりとの信頼関係はまだ築けておらず、情報がまるで足りねえ。そもそも権謀術数の真似事なんざまっぴら御免だ。
だからきっと、コイツがオレに相談があるというならこんな話じゃない。だとすれば、なんだ。最後の緋の眼……いや、それはないな。かつてゴンが「本当に力を貸してほしいときにはきっと連絡取れるよ」と言った。その通りだ、さすがだぜゴン。「逆にオレ達の力が本当に必要なときはあっちから連絡をくれる」とも。オレが辛抱できなかったのはただの性分だ。
緋の眼の持ち主にたどり着いたのはチードルからミザイストムを通じて知った、偶然だ。だから、コイツがオレを必要とするのは今じゃねぇ。……本当に偶然なのか、と疑念が晴れない。どうも薄皮一枚隔てた向こうに怖気が走るようなものが流れている、そんな予感が頭から離れねえ。ただの勘だが、とんでもないものが潜んでいても、オレは驚かん。
下手の考えを巡らしてる間に前のめりになっていたらしく、クラピカが少し椅子を引いた。
おい、人が話をテメーの聞いてやろうってときにそんな態度があるか。オレと膝を突き合わせる気はないってのか。気に入らねえ。気に入らねえと言えば、丑のオッサンと妙にベタベタしてんのも気に入らねえ。
いや、これはあれだ。妹みてえに思ってる奴に近付く男がいれば、どんなにいい奴でも気にくわない心理が働くだけだ。オレは仲間と信じてクラピカへの交渉をミザイストムに任せ、事情を少しだけ話した。若輩者だが、オレはオレの目を信じている。信に足る男だと、そう思う。……ベタベタしてやがんのは、また別の話だ。
くだらない嫉妬。オレにはコイツの兄貴ぶる義理も義務もない、だけど仲間だからな、心配くらいさせてくれや。
「レオリオ」
名を呼ばれたのは随分と久しぶりな気がする。いつだ、ヨークシンで最後に別れたときじゃなかったか。思いもかけず、鼓動が高鳴る。少し低めの、アルトボイス。耳に甘い響きが残った。ずっとその声を、聞きたかったんだオレは。
おう、と返事をすると薄茶の瞳が揺らいだ。なんだよおい、と促すと今度はためらいがちな目線を向けてくる。あんだよ、愛の告白でもあるまいに。……ンなわけねーな。……うん、ねーわな。
「診て、もらえるか……?」
は、何、何を。みて、みる、ミル、見る、観る、視る、診る、看る?
うろたえたオレの目前でクラピカはジャケットを脱いだ。
待て、おい待て。待て待て待て。
急展開に頭が付いていかない。クラピカは脱いだものを机に投げ打つように置き、やたらと胸元の開いたシャツの襟元に手をやった。もう一枚、脱ぐのか。思わず期待し、生唾を呑みこんだオレを誰が責められよう。
だが、クラピカはそれを握り締めただけだった。シャツに新しいギャザーつーかシワが増えた。なんだ、脱がねーのか。思わず失望したオレを軽蔑できる男はこの世にいないと断言してやる。
「私は年頃だ」
存じております。
「もう18、来年は19歳だ。通常、女性というものは第二次性徴を迎えれば身体は丸みを帯び、出るべきところは出、引っ込むべきところは引っ込む。そうだろう」
「……まあ、教科書的にはな」
とりあえず肯定し、先を促した。なんかこれはもう、アレだ。ロクでもない相談に違いねえ。
「ならば何故、私の胸は貧弱なままなのだ。……私はどこか、身体に異常を抱えているのではないかと考えているのだよ」
「…………」
異常ったって、例えば半陰陽とか、そういうんじゃねーだろ。自分のこと女だと思ってんだろ。ヨークシンで看病した時に着替えの都合上こいつの真っ裸は見たことがあるが、極力見ないふりしてしっかり見たが、オレの所見として異常なし。本気で言ってるなら医者にかかれ。なあ、もう帰っていいか? 真剣に考えて損した。
「あー……なんだ。ケツでけェからいいじゃねえか」
「そういう問題ではない! というか、私の尻をどこで見た……」
恨みがましく睨み付けてくるが、ケツくらい見てりゃわかるっつーか、さっき真後ろをついて歩いてたしな。そんな細身のスーツじゃ身体の線が出て当たり前だ。相変わらず抜けてる。本人は至って真面目に考えているようだが、天然だ。
つーか普通、医者の卵とはいえ身体の悩みを男に話すかね。一応信頼を寄せてくれてはいるのかと、嬉しい気持ちがなくはないが複雑だ。
「腰はくびれてるしケツはでけーしオメーは美人だ。なんの問題もねぇよ、そのまんま胸張ってりゃいい」
そんなんで文句言う男は願い下げしとけ。オレがぶっ飛ばす。頭を掻き、溜息をついた。これ以上、男好きのする身体になってどうする。どんな男に惚れていやがる、ちょっと紹介しろ。ああ、なんか胸の中が腐って溶けそうだ。
「お前はこれを見てもそう言えるのか」
挑発したつもりはないが、結果としてそうなった。ひとつひとつ、クラピカは胸元のボタンを外していく。徐々に肌色の面積が広がっていく。おい、よせと声をかけるが突っぱねられた。
「お前も医師を目指す以上、人の話は聞くことだ」
人の話を聞かねえお前が言うな、お前が。下まで全部ボタンを外してから、胸元を広げる。恥ずかしげに顔をそむけたのが男心をわかってるのかわかってねーのか、妙にそそる。
「……どうだ」
「どうだと言われても、なぁ……」
白いシャツに響かないようにとの配慮か、クラピカはベージュのブラジャーを付けていた。飾り気も色気もない実用的なやつだ。Aカップってとこか。ごく普通の貧乳だ。だが、小さいと卑下するようなもんでもねえだろ。世の中には真っ平らなお人だっているんだぞ、贅沢言うな。
オレの反応が薄いのを見て、それみたことか、とクラピカは得意げな表情を作った。そのリアクションでいいのかお前は。
「そう、それだ。がっかりしただろう」
「いやしてねーよ。つーか胸以前にほぼ下着見せただけじゃねーか、そんなもんで判断つくか」
「見たいのか?」
いや、見たいとか見たくないとかじゃなくてな、お前がオレに見せてんだ、なのになんでだ、立場が逆転している気がするんだが。
「見たいです」
なぜか真剣な表情で敬語になった。クラピカが唇の端で笑う。こいつ小悪魔か。仕方がないな、と言ってのけると少し前かがみになって後ろ手に回し、ホックを外した。肩紐はないタイプのようで、オレの目の前ではらりと落ちていった。
ごくり、と生唾が鳴る。
クラピカはさっきよりもゆっくりと、ためらいがちにシャツを広げた。白い胸が現れる。きめ細かな肌になだらかな二つの丘と、その頂点に薄いピンクの蕾。小ぶりで形よし、色よし、質感よし。なんて上品なおっぱいだ。おっぱい! おっぱい! 生おっぱいにテンションが上がる。ついぞ無遠慮に舐め回すみたいに見てしまう。オレの反応を確かめると、シャツで隠しやがった。
「その顔……やめろ」
おっと、随分と鼻の下が伸びきっていたらしい。元に戻し、キリッと表情を引き締める。大変クールで大人なオレだ。
「いいか? 大きさなんか関係ねーの、男にとっちゃ好きな女のおっぱいか、っつーのが大事なわけよ」
「――……ああ。だが、私は」
しつけえ。まったく納得しやしねぇ、この頑固者が。大きく息を吐いて、奴と顔と顔を突き合わせるようにする。
「いいか、クラピカ。大きな乳ってのには、三つの条件がある」
「三つ……」
目の前で三本の指をかざす。オウム返しにするクラピカの瞳孔が輝きを増した。ここから先は、ただの持論だ。一応は経験談に基づいた話でもある。これで諦めてくれりゃいいんだが。
「一つ。運動だ」
「ふむ。ダンベル体操は聞いたことがあるが」
「わかってんじゃねーか。大胸筋を鍛えろ。あとはまあ、リンパに沿ってのマッサージも有効だな。血行をよくするのがいい」
「なるほど……」
うなずいて人の話を聞いてはいるが、この程度のことは多分知っているし、実行もしているだろうとは思う。
「二つ。女性ホルモンだ」
「ああ……」
「大豆イソフラボンでも取っとけ。あとは、まあ……女性ホルモンを活発にするこったな」
「確かにそうだな」
どうすれば増えるのかとか聞かれなくてよかった、と胸を撫で下ろす。そりゃお前、アレだよアレとしか言えん。ま、男がいるようなら勝手に増えるか。
「三つ」
指を立て、溜めを作る。
「これが一番重要なとこだ。……いいか」
確認すると、ああ、と頷いた。なんでもいいけどお前さんはそろそろ前ボタンの一つもはめるべきじゃないでしょうか。チラチラ、チラッチラ生おっぱいが視界に入ってしょうがねえ。
「遺伝、だ」
「遺伝……!?」
ぽかん、とマヌケにも口が開いたのが妙にかわいらしい。
オレの経験上、巨乳の子に家族の写真を見せてもらうと、高確率でその母親も乳が大きかった。姉妹どもども大きいこともよくある。たまに隔世遺伝でおばあちゃんが巨乳というパターンもある。ボインの子は、ボイン。オレが掴んだ真実だ。
最初の二つは女友達や昔の彼女から聞いた、乳を大きくするための涙ぐましい努力だが、最後の一つは特別努力を払うことなく天然で育った巨乳の話だな。
「……遺伝……」
クラピカはもう一度呆然とつぶやいた。目の奥に昏いものがあった。コイツの母ちゃん、つるぺただったのか。落ち込んでるのは気の毒だが、どんな母ちゃんだったんだろうか。きっと優しかったに違いない。
頭の中で、クラピカの髪を肩まで伸ばしてみる。シンプルなシャツにロングスカート、清潔感のあるエプロン・ひよこのワッペン付き。コイツそっくりのスレンダーな美人だが、どこかあか抜けない雰囲気でいつも微笑んでいる。悪くない。むしろタイプだ。いっぺんくらいお願いしたい、全部オレの妄想だが。
「……ま、それが全部って話じゃねえ。だからな、とりあえず……オメーの男に揉んでもらえ。ホルモン活性と血行促進の一石二鳥だろ。な?」
正確には一石三鳥か。わかったらもうこれ以上オレを困らすな。諭すように肩を叩くと、クラピカの身体がビクン、と跳ねた。
「……ぃ」
小声過ぎて聞き逃した。あんだって?
「だからッ……! いない、と言っている」
「は?」
オレは眉をひそめた。男がいない? ウソだろ、じゃあこの色気はなんだ、艶っぽさはどうした。さっきから男を誘うような真似ばっかりしてんのはなぜだ、これも天然か、オレは信じねーぞ。
「だから……お前が、揉め……ッ」
それは絞り出すような声だった。幻聴じゃない。確かに、言った。俯いて縮こまり、膝の上で拳を握る。その表情は見えない。
「な、な、な、な、な――」
なんなんだそりゃいったい、どういう論理だよ。一応頭は回っちゃいるが、オレの口は壊れたレコードプレイヤーのようだった。
「……私を好きだと言っただろう」
ハァ? は? はぁぁぁぁぁ? ……言ったか? オレがか? ……言ってねえ、いっぺんたりとも言ってねえ。
「お前も男なら言動に責任を持て、自ずから言い寄ったくせに逃げるなどと、卑怯者のすることだ」
「いや言ってねェし!」
喉にからみつく粘っこいものを吐き出すようにして、オレは叫ぶ。
弾かれたようにクラピカが顔をあげた。眼は赤く染まり、吊り上がっている。憤怒の表情だ。こんなときになんだが、緋の眼は美しくもあり、同時に恐ろしい。魔性めいたその輝きは、人の心を捉えて離さねえ。
「言った」
「言ってねーよ!」
「いや、言った」
「だから言ってねぇっつーの!」
なんだこのガキのじゃれあいみてーな水掛け論。始末に終えん。
「オーケー、わかった。んじゃ言ってみろ。オレがいつそう言った?」
眼前に指を一本突き付け、答えを促す。
言うわけねえ、オレがそんなこと。言うはずもないんだ。
「……先程私の胸を凝視したあとお前はこう言った。“大きさなど関係ない、男にとって好きな女のそれかどうかが大事だ”と」
「……おう、それで」
先を促す。コイツ相手に舌戦は本来したかねえ、すぐに人のお留守な足元をすくいやがる。だいたいいつもやり込められる苦い記憶がよみがえった。
「ならばお前が顔面を崩壊させたのは何故だ。理性の欠片もない、ケダモノのごとき表情……鼻の穴を膨らませ、人中をだらしなく伸ばし、涎も垂らさんばかりに大口を開けて、みっともなく私の胸に見惚れていただろう」
ぐうの音も出ねえ。オレはそんな顔してたのか。
「お前は本来大きな胸が好みだ。読んでいたグラビアや所持していた ポルノグラフィの類いからその理由は推察される。この矛盾を解決する理由は一つ、私のことが好きだからに違いあるまい!」
見事な三段論法だ、大体合ってる。いつの間に人のエロ本チェックしやがった。けどな、肝心の争点がズレてんだよ。
「結局、オレは言ってないんだな?」
「言ったも同然だ」
「オイ」
なんなんだよコイツ、男をその気にさせる手練手管ならその上等のオツムでいくらでも考え付くだろうに、どうしていざとなると無謀な猪突猛進で一点突破を計ろうとする。お前は強化系か。亥と子、交代するか?
「つーかな、ありゃ一般論ってやつだ。オレにゃ当て嵌まらねぇって考えなかったか? オレはな、なんでもアリなんだよ」
エロ本ばっかり読んでる品のねえ男だからな、と付け加える。
前提をくつがえしてやった。嘘じゃねえ、本当のことを言ってないだけだ。我ながらしらじらしいが、オレにも譲れない一線ってものがある。
「……」
「……」
互いに黙り込んだ。“悪かった、おかしなことを言ってすまなかったな”いつものスカしたツラでそう言ってくれ、クラピカ。そうしたらオレはなにも言わずに今日のことを忘れる。
体格差があるぶん、自然とオレはクラピカを見下ろし、クラピカはオレを見上げる。突き刺さるような鋭い目線が、ふいにやわらいだ気がした。もはやただの上目遣いだ。
クラピカは胸元に手をやった。左右に分かれた身頃を合わせるみたいに、シャツを握りしめる。やっと自分が半裸だと気付いたか。ホッとした。そのままボタンをはめろ、隠せ隠せ、ンなもん。
だが予想に反し、クラピカは手をそのままに顔を背けた。横顔に映るのは、沈痛な表情。コイツにそんな顔をさせていることに、オレの胸が一瞬痛む。
「……私が、嫌いか……?」
聞いたことのない弱々しい声。
瞬間、稲妻に打たれたようにオレはフリーズした。テメェ、だれが卑怯だって? お前が一番、卑怯じゃねーか。ああ、畜生、畜生、畜生! 人を振り回す魔性の女め。ンなこたあるわけねーだろ、このボゲ!
チッ、と舌打ちが響く。降参だ。オレは白旗を揚げる。願わくば、オレの理性が焼き切れませんように、だ!
オレの発した不穏な空気を警戒したのか、クラピカが正面を向いた。おあつらえ向きだ、オレはそのまま襟元に手を伸ばし、シャツを剥く。それなりにがっちりとはしているが、女らしく丸みのある肩が露わになり、胸全体がはだけた。紅い瞳が驚きに見開かれ、息を呑む。抵抗はなかった。
なにも全部脱がそうってハラじゃねえ、よくよく見たいだけだ。それと個人的には衣服が纏わりついてるほうが好みだ。だから肘あたりで止める。
「レオリ、」
オレの名前をあいつが呼び損ねたのと、オレがあいつの左胸に触れるのはほぼ同時だった。手のひらにすっぽり入ってなお余裕のある、ちっせえ胸。確かに好みとしては、手のひらにすっぽりと包みこめるくらいがベストだ。だが、やっぱりそんなものはどうでもいいことだ、“クラピカの生乳に今触れている”これにかなうものがあるというなら今すぐ持って来い。
まだ揉まない。下乳のラインを指でなぞり、手のひら全体で感触を味わい、掌底をゆっくりと押し当てた。「ンっ……」と殊勝にも鳴く。鼻にかかった声が艶っぽい。感度もよさそうだ、まったくもってこれを持って生まれたことを誇りに思うべきだ、お前は。
腕を引き、胸から手を離す。正面から揉むっつーのは、やりづらい。瞬いてオレを見つめる緋の眼にとまどいの色が差す。期待しているのかもしれねえし、不安なのかもしれない。
「立てるか」
手首を掴んで引くと、素直に立ちあがった。そのまま引き寄せようとした。が、オレの性急さのせいか、クラピカの身体がバランスを崩す。とっさに腕で抱きとめると、しなやかであたたかい身体がオレに巻きついた。まるで、抱き合ってるみてーに。いい匂いがする。すぐそばにコイツの顔があり、耳元で吐息が聞こえる。そのまましばらく時間が止まったようだった。なぜ、抵抗しない。オレの腕の中でいいようにされる、そんなタマだったかコイツは。
半端に引っぺがすとキスをしてしまいそうな気がして、とどめ置く。コイツの唇が好きだ。小さくて、薄くて、うす紅に色づいたそれはきゅっと凛々しく引き締まっている。奪ってしまいたい。圧しつけて、吸って、口内に侵入してぜんぶぜんぶ絡めとってしまいたい。だが、拒まれたら、と想像する。迫って顔を背けられたら、手で制されでもしたら。正直、オレは立ち直れねェ。どうしてだ、コイツの前では臆病になっちまう。
クソ度胸と出たとこ勝負がオレの取り柄だと思っているのに。
「……どうすればいい?」
耳元で声がした。それを合図に、我に返る。縺れあうオレたちの身体が、スルリとほどけた。
「あ、ああ。ここに座ってくれ」
少し腰を浮かして座りなおし、なんとか一人分が座る場所を開ける。ちらりとそれを確認すると、クラピカはおずおずと腰を下ろした。ケツのむっちりとした感触がオレの腿に伝わる。さすがに股間のお宝とケツが密着するのはマズイ、わずかな隙間が救いだ。すでにオレのモノは半勃ちになっている。少しだけ身を反らした。たいして変わらんが、気持ちの問題だ。
さらりとした金の髪から覗く背中が綺麗だと思う。そこから腰のくびれへと流れるように繋がっているはずだが、シャツが邪魔して見えない。内心でううむ、と唸ると「脱いだほうがいいのか」と声がかかった。読心術でも使えるのかテメーは、ビクッとするわ。おおかたシャツが肌に張りついて鬱陶しいんだろうがよ。
「いや……このままでいい」
オレの趣味がどうこうよりも、場所が場所だ。コイツがこんな暴挙に出る以上、誰もここにゃ来ねーと信頼していいんだろうが、万が一ってこともある。誰かに見られて乳丸出しでした、は言い訳がきかない。最低限の建前くらいは用意させてくれ。
まず、クラピカの縮こまっちまった腕を引き、脇を少し開かせた。オレのヒザの上に手を誘導し、それを支えにしてもらう。しばらくもぞもぞと居心地悪そうにしていたが、バランスが取れたらしく安定した。腹に手を回し、オレの胸にその身を引きつける。
「いいぜ、身体をあずけちまっても」
しなだれかかってくるのを期待したが、クラピカはそのままの姿勢を維持した。まあいい、それもコイツらしい。すべすべした腹は引き締まって、鍛えた筋肉が指ごしにわかる。ゆっくりと手を上へと滑らせ、下乳に触れる。手のひらを胸に押し当てて両手で包み込んだ。しばらくじっとする。
なにか言いたげにクラピカが吐息を漏らした。そうだ、リクエストは揉めってことだったな。手の形は固定したままで、上下に動かす。揉むというより揺らすって感じだが、いきなり揉んでも痛いだけだ。はじめちょろちょろ、中パッパッてな。料理だろうがセックスだろうが、なんだって基本はそんなもんだろう。オレの手のひらの中の柔肉も一緒になって上下に動き、重力にしたがって落ちてくるときには、本来以上の質感を手のひらに受ける。それが楽しい。
「ン……は、あぁ……」
吐息なんだか喘ぎ声なんだか、オレが揺らすたびに小さく呻く。たまらない、オレの腕の中で、コイツがよがっているなんて。
一度中断する。軽く息を整えてる間に、四本の指で下乳を押しあげて親指をフリーにする。形のいい乳輪の外周をなぞり、感度を高めてみる。
「――ッ!」
ぴくん、と桃みてーなケツが反応しやがった。オレも内腿に力を入れて、ケツの肉を挟み込むようにする。逃がさねえというオレの意志だ。
ピンク色の小さな乳輪は可憐と言うほかない。もっとフチを撫でる。下半身とは逆に力は込めずになるだけ優しく、だが動きは均一にしない。ランダムに動かして、ときどき頂点をかすめ、焦らす。そろそろ頃合いかと乳首を軽くいじる。すぐさまピンと立ち、乳輪がキュッと引き締まった。
あーーーーコイツのおっぱい吸いてェ、むしゃぶりつきてえ。ヤベェ。その唇から漏れる喘ぎは段々色っぽさを増す。欲望に呑みこまれちまう前に、一度ストップだ、ストップ。
「……乳首、立ったぜ」
意味もなくそう報告すると、右腿をパン、と勢いよくはたかれた。痛ェ。言うなってことだろうが、言わずにおれるか。
いいぜ、続行だ。胸全体を軽く力を入れて掴み、上下に揺らしながら揉む。少しづつ力を加えていき、昂ぶったところで人差し指と中指の隙間に乳首をはさみ、きゅっと捏ねる。どうだ、これがレオリオスペシャル2号だ!
「ッ……あ、あっ、ゃ……くぅッ、ああッ……!」
声が一段と高く、リズミカルになった。オレの両腿に置かれた手に力が込められ、指が食い込む。興奮してケツを揺らすもんだから、さっきからガチガチのチンポに当たっているんだが、気付いているだろうか。オレも腰を動かして擦りつけてしまいたい衝動にかられる、が、我慢する。間違ってもこれで発射は男として情けない。
……ところで、どこを終着点にするべきだろうか。おっぱいだけの刺激だけでイく女がいないわけじゃねーが、なあ。まさかここでこれ以上するわけにいかんだろうと急激にブレーキがかかる。コイツがどこで納得するかだが……。
ぎゅっと、おそらく痛みを感じるくらいの力で乳を掴む。クラピカの身体全体がビクンとしなった。それを最後に、オレは手を離した。目の前の女は浅い呼吸を繰り返す。やがてゆっくりと力が抜けて、オレの腿から指が外れた。不自然なシワがオレのスーツに残る。
なにを言ってもコイツを傷つけそうな気がして、その背を抱きしめるのも憚られた。
「レオリオ……」
これで三度目だ、お前がオレの名を呼ぶのは。
体内で熱が燻っているのだろう、その声は、泣き言を言っているようにも聞こえる。クラピカはずり落ちたシャツを自分でかけ直し、それきり動かなくなった。
「なんだよ」
「熱い……」
「……だろうな」
股間にある圧が消えた。クラピカはスッ、と音もなく立ちあがった。金属同士のこすれる音が聞こえる。続いて、ファスナーの音が。黒いスーツパンツをためらいもなく一気に引きずり下ろす。下着はレースの黒。布面積が極端に小さい……タンガか。ほぼケツがまる見えじゃねえか、それは用をなしているのか。男の俺にはわからねえ。にしても、下着の上と下のバランス、おかしくねーか? オレの頭はバカバカしい思考を繰り返す。目の前でクラピカのストリップが行われている、その意味を考えることを放棄していた。
オレの好みを察してか、シャツはそのままに、とうとう最後の一枚に手を掛けた。指が左右一本ずつ、ツヤのある薄い生地の内側に引っかけて、そのままゆっくりと下ろしていく。形のいいケツを覆うものはなにもなくなって、
「レオリオ」
四度目。オレの理性が吹っ飛んだ瞬間だった。
後ろから襲いかかった。
オレの勢いに押されたクラピカは正面の椅子に乗り上げ、とっさに背もたれに手を掛けた。その手を掴み、力任せに全身を捻りあげる。バランスを崩した身体はよろけ、わずかに力の方向を変えただけであっけなく転回し、踏みとどまりきれずに足の力を失ったようにへたりこんだ。
その先は誘導通り、椅子だ。オレの手のひらの上でコイツが踊ることなんて、あっただろうか? 昏い歓びがオレの中に生まれる。欲しいものを欲しいがままに奪おうとする本能の雄叫び。
相対して、初めに戻った。望み通り最初からこうしてりゃよかったんだ、オレのクソッタレ。
選択肢は二つあった。椅子に座らせるか、机に押しつけちまうか。
もし机を選んでいたらオレはコイツを犯していただろう。ごちゃついた机の上に上半身だけ乗り上げさせて、ケツをクイッと上向きにする。立ったまま後ろから挿入して奥底まで突いてやる。このデカいケツなら激しくしても大丈夫だ、むしろ骨盤に響くほど感じさせたい。オレは思うままに腰を振るって、キンタマの奥からチンポの先っぽまでの全部、ありったけをコイツの腹ン中にブチ撒けただろう。
だが、オレはそれを避けた。セックスの間際限なく生まれ続ける欲望と快楽は“オレの子種をコイツに預ける”のが本質だ。願ってもねえ、オレにとっては。惚れた女に「オレの子を産んでくれ」と乞えりゃ男冥利につきる。
だがコイツはどうだ、そんなことを望んでいるのか。
――いいや、違う。確信めいたものが心の内にあった。
オレたちの間にはなにひとつ約束事などない。だからオレは怖れた。こんなモン、愛でもなんでもねえ。かといって、オレはコイツとただの男と女にもなりきれねェ。
なんのことはない、コイツを喪いたくないオレのエゴだ、これは。
膝に手を差し込んで持ち上げ、椅子の上に足を置かせる。中途半端に纏わりついていた下着を取り払うと、もう隠すものは一切なかった。生まれたままの姿を目に焼き付けるように眺める。金髪ってのはやっぱり下も金髪なんだなと納得しながら凝視した。
上身の肉づきの薄さはみずみずしい少女のようで、腰から下はムチムチとした大人の女に見える。アンバランスさを本人は気にしてるのかもしれんが、そこがエロい。そう、コイツは、この身体つきは、あやうさを孕んでひどく男を煽る。
薄い茂みをかき分け、朱に染まった谷間を探る。湿り気を帯びたそこを指でまさぐり、ぬかるみに軽く触れた。ピクン、と一瞬身体が震える。欲しているのか。ぬるぬるテラテラと光るそこからは、隠しきれないメスの匂いがした。くらくらする。ひざまずいて、顔を寄せる。濃厚なコイツのフェロモンに中てられちまっている。まるで、花の蜜を求める虫だ。
性器をぺろりと舐める。うわずった声が聞こえた。反応に気をよくし、その周辺からのべつまくなしに舌を這わした。
「あ…はぁ、ン……ッ」
かわいい声で鳴く。もっと聞かせろと、舌先に力を入れて縦になぞるように刺激してやると、潤みが増した。すくいあげてわざと品のねえ音がなるようにしてやる。すると脚を閉じようとするから手で割ってこじあけた。舌を性器の中に突っ込んで軽く抜き差しをしてやるとまた脚を閉じやがる。よがっているくせになんなんだと、しばらく攻防を繰り返した。
「も、もう……ッ、やめッ、あっ!? ぁ……や……めて、くれ」
息も絶え絶えに言う。ノってきたところなのにしゃーねーな、と舌を離し、息が整うのを待った。性器は充血しきって涎を垂らし、ひくひくと不随意に蠢いてオレを誘っていやがる。
「それはもう……いい。お前、自身が……きてくれ」
オレは返事をしなかった。できなかったと言ってもいい。
「……頼む」
低い声でそれだけ言うと、黙った。自分からそっと股を開く。おずおずとした遠慮がちな態度は煽っているつもりなのか。どんな表情をしているかはわからない。さっきから、コイツの顔を見れない。
名前を呼ばれなかったことに胸を撫でおろした。コイツがオレを呼ぶ響きには不思議なモンがあった。逆らえねえ、なんでもしてやりてェ、具体的にはアンアン鳴かせて味わったことのない快楽の虜にしてやりてえ。まるで呪いだ、抗いきれない大きな力がオレを支配している。
指先をズプズプのぬかるみに当ててやると、煮崩れ直前のような柔肉に包み込まれた。そのまま指はにゅるん、と抵抗なく中に入っていく。熱い。溶けそうなのはコイツの中か、オレの指か。物欲しげなそこに指を埋めてやると、嬌声があがった。
内部の感触を指が伝えてくる。ヒダヒダが多くて気持ちいい。探るように少し折り曲げて擦ると、きれいな脚がわずかに揺れた。ここか。
一度指を抜く。ンッ、と鼻に抜ける声。不満げな視線を感じたが無視して首筋に顔をうずめ、抱きしめる。香りがいい。たくさんの汗と女の生々しい匂いと石鹸だか整髪剤だかが入り混じった、コイツから立ちのぼる甘い香り。たまらなく愛おしい女だと思った。
さっきさんざんいいようにした胸を軽く揉んでつまんでから、下腹まで撫でるように指をすべらせ、挿入を再度試みる。オレの指を待ち構えていたそこは湿潤で、少し動かしただけでいやらしい音がした。さっきの場所をまさぐる。指の腹より少し小さな、ぷっくりとしたふくらみができていた。そこを擦る。
「はッ……! あ、ああッ、そこ、はッ……!」
「……イイんだろ?」
耳元で囁くと、びくりと震える。耳が弱いのか? 普段隠してるもんな。ああ、そこも責めたててやりゃよかった、今更だが。
ぬちゃぬちゃと音が粘り気を増す。指に纏わりついた体液は空気を含んで白いものが混じる。もっとだ、もっと。泡立てるみたいにくちゅくちゅとかき混ぜ、責めたてた。
呼気に合わせるみたいに、どんどん早めてやる。感じると脚がビクビクするところが、いい。スゲーいい。
背中に回していた手をほどき、膝関節に差し込んで脚を持ち上げる。すると呼応して、もう片方の脚をオレの背に巻きつけてきた。いいぜ、イけ、イっちまえ。
「くッ…ぁ、んンッ……あッ、あぁ、あああああッ!!」
切ない悲鳴をあげて身体が跳ねた。狭っくるしいそこはオレの指をきゅっと締めあげてから、波が引くように広がっていく。幾度かそれを繰り返したのち、収縮は徐々に凪いでいった。ピクピクと肩が震えている。ゆっくりと指を引き抜くと、小さく呻き声をあげた。指に纏わりついた体液はとろとろに白濁していて、満足感にオレの頬があがる。
なにか拭うものを、とオレは身体を離そうとした。支点を失ったコイツは、脱力した様子で椅子からずり落ちていく。
「おいコラ」
危ねえ、頭打ったらどうすんだ。慌てて手を伸ばしてたが、腑抜けてやがるのかオレにしなだれかかってきた。支えそこねて一緒に床に倒れ込む。くそッ、かっこ悪りィ。
「痛って……おい、大丈夫……か」
目を開けると紅い瞳と視線が合った。反射的に身がすくむ。しまった、とうとう目を合わせちまった……つーか近ェーよ。
仰向けになったオレにクラピカが乗っかっていた。目が泳ぐオレとは対照的に、じっと見つめてくる。華奢な外見だが意外と重い。ま、女じゃ上背のあるほうだし筋肉だって付いてるわな。それと……オレの股間に乗せた脚を早いとこどけてくれ。今や痛いくらいに張りつめているオレのお宝は、少しの刺激でどうにかなりそうだ。
まださっきの情動が冷めやらないのか、クラピカは荒い吐息と瞬きを繰り返すだけで動かない。
「……いいかげん、どけよ」
乱暴な言い方になった。相手が目を逸らさなければ、こっちも逸らせねェ。もの言いたげな瞳を睨みつける。
クラピカが口を開いた。ぎくりとしたが、小さく開いたまま、なにも言わねえ。ホッとすると同時に嫌な予感がした。
いかん、言うな、なにも言うな。コイツはまたロクでもねえことを言いだすに決まっている。そして、オレは抗えない。やめてくれ、もうこれ以上は、頼む、オレに一線を越えさせるな!
早急に口を封じる、どうやって、……手で? おい、そのあとどうする気だ。先のことも考えろオレ。じゃあ口で。口ってお前、そりゃマウストゥマウスってヤツじゃねーか、キスしてどうすんだ、そりゃ下の下だろ馬鹿野郎! だったら他にどうすりゃいい!
――前言撤回だ、どう考えてもオレがコイツの手のひらでいいように転がされてる。
じりじりとした汗が額から噴き出した。我慢にも限界ってモンがあるんだが、わかるか、クラピカ。
オレはいきなり身を起こした。びっくりしてデカい眼をさらに見開くクラピカを、有無を言わさずどかせる。厚顔無恥だ。逃げるが勝ちだ。この状況をひっくり返すにはこれしかない。オレはそう結論づけた。
「悪りィ、オレちっと……便所、行ってくるわ」
脱兎のごとく、オレは部屋を飛び出した。……便所でナニをするかは改めて言う必要はねーだろ、うん。
最高のズリネタと最低のオレと気まずさと情けなさを払拭するのに約十分。
おそるおそるノックしてドアを開けるとクラピカがいた。衣服を身に付け、もうすでにいつものあいつだ。少々の乱れはあるが、まあよく見なけりゃわからんだろう。シャツがギャザー入りでよかった、普通のブロード生地なんかだと目立ってしゃーねーからな。
正直、愛想をつかしてとっくに帰った可能性もあると思っていた。安堵のため息をつく。
不機嫌さながらの様子だが、緋の眼にゃなってない。そりゃそうか。すまん、と謝るオレをとげとげしく一瞥すると、ふん、とあさっての方向を向いて腕組みをした。なんとなく正座してみる。
「よくもおめおめと顔が出せたな」
――はい、すみません。オレが全面的に悪いです。
「女に恥をかかせるような男だったとは」
――はい。あそこまでしていただきまして力及ばず、誠に申し訳ない。
「……途中で私を放置するというのは、どういう神経だ?」
――反省しています。普段なら据え膳いただくところですが、ちょっとこっちにも事情ってもんがありまして。
「私の……恥ずかしいところは全部見たくせに、お前は隠すのか。卑怯者、この恥知らず」
――――え、逆鱗ポイントそこか? そこなのか? やっぱこいつ、どっかズレてんな。
「じゃあひょっとして、頼めばお前がしてくれたっつーのか? 手とか、口とかで?」
うおおをををやっちまった、思わず声に出た。冷や汗が止まらない。クラピカは振り向いて、きょとん、とした表情でオレを見る。
「……いや、そもそもお前が私に情けをくれない甲斐性なしだからこうなった。違うか?」
はい、そうですね。御説ごもっとも。しっかしお前の古風な語彙どこから来てんだよ。エロ本読み込んでんのはお前のほうじゃねーか?
「まあ、そうだな……足で踏みつけるくらいはしてやってもいい」
おおお……足コキか。悪くねえな。コイツの脚、綺麗だかんな。めったに出さねえお宝モンだ。生脚……うーん、ストッキング……いいえ、タイツ着用でお願いします。
「何をニヤニヤしている?」
「や、なんもねーよ」
かぶりを振ってごまかすが、怪訝な目つきが突き刺さる。
「まあいい。私はもうここを出るが」
お前は? と目で問うてくる。
「オレも出る。つーか……送らせてくれ」
「結構だ」
クールモードに入ったコイツはやたらとつれない。それでも食い下がるつもりで後に続いた。部屋を出て鍵を閉める。が、クラピカはなぜか動かない。
「……また、頼めるか……?」
消え入りそうな声で言う。ツラも拝まずにする話か、それは。
いったいぜんたい、どこからどこまでの話だよ。つーかお前はオレのことが好きなのかどうか、オレをお手軽なセックスの対象とでも思ってんのかオレ自身が欲しいのかどっちだよ、っちゅう話だよボケタレが。まず、なんだ。その話からしようぜ。
でないと、オレはイエスもノーも答えられない。
「オメーが足でしてくれるっつーんなら、いいぜぇ」
わざと軽薄な調子で言う。釣られるはずだ、コイツなら。
「貴様……」
クラピカは歯噛みして周囲を見回し、人影もまばらなことを確認すると、廊下でそんなことを言うな、と小声で叫んだ。
「さっきオメーが言ったことじゃねーか、お前こそ言葉に責任を持てよ」
「私が言っているのはそういうことではない!」
ギャンギャンと二人で吠えながら歩く。周囲は何事かと振り返るが、悪いな、これが新・子と亥のスタイルだ。
さて、この気性が荒くて思い込みが強くて頑固なじゃじゃ馬を、どうすれば“狩り”できるのか。気長にやっていくつもりだが、どうなることやら。
(了)