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の補完ですが↑との繋がりはそんなにありません


身体を拭き、新しいスーツに着替えてシャワールームから出た。
俺より先に仕事を終えたクラピカは、下着姿で俺のベッドに座り、俺の部屋の合鍵を指で弄んでいる。
俯いていると彼女の伸びた前髪が瞼にかかり、大きな瞳が一層際立つ。
灰皿を持って彼女の隣に座り、マールボロに火をつけた。残った仕事量を考えていると、今夜はもう寝なくてもいいだろう、と開き直りに似た諦めが生まれる。

「何故だ?」

突然クラピカは言った。何が、と俺は聞き返す。

「何故これを私に?」
「何故……って言われてもな」

俺の渡した合鍵の話をしたいようだったが、俺はその質問には答えたくなかった。なるべくなら口にしないで生きていきたい部類の言葉を使わなければ、理由を説明することなど出来ないからだ。

「私が……だから、気を使っているのか?これからは……したいことだけをしてほしい」

囁くような小さな声だったから上手く聞き取れず、俺はまた聞き返した。

「私の言うことを聞くなと言っている。これは命令だ」
「なんだよそれ。矛盾してるぜ」
「命令だ」
「分かったよ、好きにしろって言いたいんだろ。とっくに好きにしてるさ」

煙草をもみ消し、灰皿をテーブルの上に置いた。
クラピカが俺の部屋で眠るようになって何日も経つのに、彼女は俺にも自分自身にも納得していない。

「お前こそ好きなことだけしたら?俺といるときはいつも怠そうだけど」
「怠いわけじゃない……どうしてかな、力が抜けてしまうんだ」
「ふうん」
「きみは私がこんなふうだと不愉快か?」
「そういうわけじゃないよ」

ため息と一緒に煙が吐き出される。
今夜は俺に何もする気がないと察したのか、クラピカは鍵を握りしめたまま、一人でベッドに入った。俺に背を向けている。

クラピカとこういう関係になったのは、もうずっと昔のことのような気がする。
ひどく酔った彼女を車で迎えに行ったのが最初の夜だ。あの夜は雨が降っていた。
クラピカは処女ではなかったが、俺と寝たのはおそらく処女を失った直後だった。
あれから、彼女が望まぬ相手と身体を重ねる度、俺が上書きをするようになった。俺も、望まぬ相手の一人だ。

部屋で煙草を三本吸った。ボックスを確認するとあと二本だけ残されている。
そろそろ仕事に戻るか、とボックスをしまう。ふいに、テーブルに置かれていたクラピカの携帯の画面が光った。着信だ。彼女が眠っていることを確認し、画面を盗み見る。名前は登録されておらず、番号だけが表示されていた。俺はその番号から頻繁に連絡が来るのを知っている。着信が途切れないうちに、携帯を持って部屋を出た。
廊下を歩きながら通話ボタンを押す。

「クラピカか?」

俺に一言も隙を与えない電話の声は、男だった。ボスの代理だ、とこちらが言うと男は少なからず当惑しながら名を名乗った。確かこいつは、少し前に協会で良い意味でも悪い意味でも有名になった奴だ。クラピカと同期のルーキー。それ以外は覚えていない。

「わりーんだけどクラピカに替わってくれねえか」男が言ったので、それは出来ない、と応えた。

「は?これクラピカの携帯だよな」

その通りだが替わることは出来ない、これがボスの命令だ、俺たちの仕事が何なのか分かってるだろ、言伝があるなら俺の方から伝えておく、

「命令だあ?いいから替われよ、直接言わなきゃ分かんねえこともあるだろ。つか誰なんだよてめーは」

バカじゃないのか?なら直接会いにこい、あいつは多分会いたがってる。そう思ったが、言わなかった。
ただの代理だ、わざわざ名乗る筋合いはない、そちらに用事がないのなら切らせてもらう、ボスは多忙だ、あまり何度も掛けてくるな、
一方的に通話を切り、電源をオフにした。
チンピラのような喋り方で態度は悪いが根は誠実で義理堅い偽悪者。短い通話で、俺は男に対してそのような印象を受けた。
でもこんなやつ、ただの大学生のガキじゃねえか……。

携帯をジャケットに隠し部屋に戻ると、クラピカはうつ伏せで枕に顔を埋めていた。俺が戻ってきたのが分かると、ゆっくり上半身を起こした。

「寝てるのかと思った」
「どこへ行っていた?」
「さあな。ボスの命令に従ってただけだよ」
「……そうか」

俺が何をしたのか気付いているだろうに、彼女は何も言わなかった。

「気が変わった」

ジャケットを脱ぎ、クラピカの肩を掴みベッドに倒して跨った。男の寝床に下着姿で潜り込んでいたくせに、こっちがその気になるとクラピカは頬を染めた。
両手首を掴み、長く口付けを交わしているとそれだけで彼女の瞳は緋色に変わる。首筋から鎖骨にキスを落としながら背中に手を入れてブラジャーを外した。露出したささやかな乳房をやや乱暴に愛撫する。マゾの気がある彼女は、既にツンと固くなった乳首を噛まれると子猫のような甘い声をあげる。焦らされると背中を逸らして愛撫をねだった。
いくら男物のスーツやライセンスや社会的な地位で武装していてもこいつは女だ。内股気味になっていた脚を開かせ、パンツを抜き取ると透明な糸を引いた。
親指で陰核を刺激しながら膣に中指をゆっくり挿入する。まず一本。それから人差し指。二本。最後に薬指。これで三本。
三本も指を受け入れた膣内は愛液で溢れ、きゅっと締め付けてくる。指を動かし、関節を曲げる。クラピカは自分の指を噛んで声を堪えていた。

「声出せば?別に誰にも聞こえない」
「きみには聞こえてしまう」

一番恥ずかしいであろう部分からぴちゃぴちゃ水音させといて、今更何を言っているんだろう。
恥ずかしさに耐えきれなくなったのか、クラピカは秘部に触れていた手を制して起き上がり、俺のベルトを外して立ち上がっているペニスに唇を寄せた。
ひどくアンバランスだ。
およそ現実的じゃない美しい顔が、グロテスクなモノを一生懸命愛撫している。裏筋を舌で舐め上げ、亀頭のあたりを口に含んで吸う。唾液がこぼれて伝っていく感覚が気持ち良かった。
この美しい女に最初にフェラチオを教えたのはとんでもない変態で、同時におそろしく健全な男だろう。濡れた唇を手のひらで拭ったクラピカは、完全に勃ち上がったそれを座位で挿入しようとしたので俺は慌てた。

「待てよ。今ゴムつけるからどいてろ」
「嫌だ。早く入れてほしい」
「デキてもいいのかよ」
「……そのまましてくれないなら全部嫌だ」

こういうときだけ子どもみたいな態度をとりやがる。

「ああそう、俺は知らないからな」

再びクラピカをベッドに倒し、太ももを持ち上げて、一気に挿入した。一番奥に当たったときクラピカは「ああぁっ!」と高い声で鳴いた。

「まだ、動かないでくれ」
「分かってるよ」
「暫くこのまま……」

とろんとした目を俺に向ける。彼女につられて表情が緩むのが嫌で俺は目を逸らした。
体重をかけないように身体を前に倒し、背中に手を回してぎゅっと抱き締めた。
こうしているとクラピカが少し嬉しそうにするのを俺はよく知っている。マニュアルを作り、彼女が自分の身体を安売りしにいく相手に配って歩きたいくらいだ。
クラピカは俺の耳元で熱っぽい呼吸をした。

「きみはその……こういうことが好きなのか?」
「……セックスが嫌いな男はあんまりいないんじゃないの」
「誰としても、いいのか?」
「誰でもいい女は好きじゃないよ」

俺の口から出たのは皮肉だった。殆ど見たこともない男の影がちらつく。
俺は先程の通話で少なからず苛立っていた。何も口に出さなかったとしても、感情は制御出来ない。
あいつはお前のなんなんだよ、何であんなに電話してくるんだよ、一度も出たことがないくせに何でお前は着信拒否したりしないんだよ、俺じゃなくてあいつに抱いてもらえばいいじゃないか……。
けれど俺のお門違いな挑発に、クラピカは激昂しなかった。
クラピカは悩ましく眉を寄せて、ゆっくりと話した。皮肉を言われて怒らないのは、後ろめたさのない人間だけだ。

「なら、今は、気持ちいいと思ってくれているのだろうか……きみも」

その言葉で、俺は急にクラピカのことをめちゃくちゃにしてやりたくなった。
喘ぎ疲れて声が枯れ、気が狂うまでイかせて、何度でも注ぎ込んで俺の子を孕ませてやりたい。
肌を触れ合わせたときのセンチメントに抗いたくなると、セックスに攻撃性が生まれる。
自分の女々しさが嫌になった。俺は感情が揺れるのが嫌いだ。何も期待したくない。だから俺に期待をさせるな。
クラピカの赤い瞳は少し潤んで、俺の言葉をせがんでいる。俺は「分かるだろ」と吐き捨てた。

「俺の好きなことしかするなっていうのが、お前の命令なんだろ」

クラピカは両手を伸ばし、俺の肩甲骨のあたりに触れた。
舌を絡ませながらピストンを始める。徐々に激しくなるそれに堪えきれない喘ぎがクラピカの唇から漏れ、「だめ」と微かに聞き取れた言葉のあと彼女は身体を逸らし絶頂した。
搾り取るように痙攣する膣内の感覚に、俺も彼女の中で果てた。
お互い絶頂を迎えた後も暫く身体を繋げていた。自身を引き抜く直前まで、クラピカの腕はずっと俺の背中にあった。

身体を離し、シャワー浴びてくる、と俺は言った。クラピカは、まだ赤みの残ったまなざしを俺に向け少し微笑んだ。
ぐったりとした彼女は肩で息をしながら、無防備に身体を晒している。白い太ももは溢れ出した愛液で濡れていた。まだ十代のくせに、ぞくっとするほどの色気を放っている。
扇情的な身体から視線を逸らしてシャワールームに入り、熱い湯で汗を流した。

クラピカのああいう姿を、電話の男は見たことがない。