イズさん視点です。
ちょこちょこ捏造入ってます。
続きます。
エロはその時に。
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1

夏が訪れたばかりの見知らぬ街を、横切るように歩く。
傾き始めているとはいえ、依然強さを失わない太陽が、斜め前から容赦なく頬を刺してくる。
暑さには慣れているつもりなのだが、普段見る事のない大量の人間とアスファルトによって増幅された熱気に、顔を顰めずにはいられなかった。

カキン王国一の大都市。
喧騒とは無縁の山深くに居を構える俺にとっては、流れる気配のない交通渋滞も、肩と肩がぶつかりそうなほどに溢れた人波も、どこか現実味のないものに感じられた。

街の中でも最も賑やかなエリアに差し掛かったところで、先日スマートフォンに送られてきた珍しい差出人からのメッセージを思い出す。

ほとんど二年ぶりに寄越した連絡にも関わらず、挨拶らしい言葉もなしに仕事の依頼がある旨と集合場所、日時だけが記された何とも不躾な内容だった。
俺と相手の間柄からすれば、その無礼さに文句の一つでも言っていいはずだったが、そうする事の無意味さを俺は身を持って知っている。
念のため携帯番号に電話をかけてみたが、あいつは当然のように出なかった。
詳細は会って話す、黙って出て来い、ということなのだろう。そういう奴なのだ。
そして、あいつのそういうところが嫌いではない自分もいる。
人にものを頼む態度としては大いに問題があるが、弟子に頼られているという事実には悪い気はしない。
結局俺はこうして呼び出しに応じている。
我ながら単純だ。


努めて封じ込めておこうとしていた日々の記憶が、否が応でも呼び起こされる。
二年と少し前。
俺の住む山小屋に、ようやく遅い春がやってきた頃だった。
ライセンスを得たばかりのあいつが切羽詰まった表情で突然訪ねて来て、念の指南をしろと詰め寄ってきた。
そこから半ば強引に始まった共同生活。
指南と言っても、あいつは素質の面でも努力の面でも恐ろしいほど優秀だったから、基礎的な理論を教えたあとは時々助言をするだけで、俺の出番はほとんど無かったのだが。

あいつが基礎をあらかた修め終え、そろそろ系統別の修行を開始しようかと思っていた頃、二人の関係に変化が起きた。

深夜、居間のソファを寝床代わりにしていたあいつのうなされる声で目が覚めた。
悪い夢でも見ているのか、薄いドア一枚隔てただけの俺の寝室にも、言葉にならない呻きが聞こえてくる。
しばらく経っても収まる様子のない苦しげな声に、悪いと思いつつ居間への扉を音を立てないように開いた。

仰向けで眠っているあいつは、額や首元、タンクトップの襟口から覗く鎖骨のあたりに酷い汗を滲ませていた。
日中は露出の極端に少ない民族衣装を着込んでいるこいつの、これほど無防備な姿を見るのは初めてに近い。
その顔も、整っている方だと思ってはいたが、こうやってまじまじと観察したことはなかった。
顰められてなお美しい曲線を描く眉毛に、今まで見た誰よりも長く繊細な睫毛。
勝気な性格をそのまま反映したようなツンと尖った鼻。
毎日森の中で修行をしているせいだろう、若さの証とも言うべき張りのある頬はわずかに日焼けし、均整の取れた顔立ちに健康的な色気を添えていた。
常夜灯にぼんやりと照らされた身体が荒い呼吸に連動して蠢くさまに、不埒な感情が湧きそうになる。
意識してこいつの肌を見ないようにした。

「おい。大丈夫か?おい」
ソファの傍らに膝を下ろし、名前を呼びながら肩を軽く掴んで揺すった。
固く瞑られていた瞼がはっと開き、真っ赤になった瞳が驚いたように俺を見上げた。
薄暗がりの中でもわかるその赤色の鮮烈さに、先程浮かびかけた後ろめたい感情を咎められたようで、どきりとする。
あいつはほんの一瞬、不安そうな表情を浮かべたかと思うと、肩に置かれた俺の手首を強く掴んだ。
「あ、悪い…」
「…怖い……」
状況が状況とはいえ、年頃の女の身体に勝手に触れたのはまずかったと、謝ろうとした言葉が遮られた。
泣きそうになりながら俺から視線を外したあいつの声は、震えていた。
「怖い?どうした?」
やはり悪夢を見たのか。それにしても、夢を怖がるなんてこいつらしくもない。
「あの時の事を…夢に見た」
あの時、が何を指すのか思い当たらなかった。
恐らくは、ここへ来る前の何らかの悪い出来事を思い起こしているのだろう。
俺はこいつの事を何も知らない。
こいつが望んでいるであろう距離感以上に立ち入ってしまわないために、敢えて知ろうとして来なかったとも言える。
こいつが人並み外れた集中力で修行に没頭し、念の修得を急ぐ理由も、その過去に関係があるのだろうか。

空いている方の手をゆっくりと頭の下に差し入れ、できる限り優しい動きで上体を起こす。
短い逡巡の後、覚悟を決めてこいつの上半身を包み込むように抱き締めた。
潔癖そうなこいつのことだ。押し退けられるだろうという予想は外れ、思ったよりもずいぶん細い身体は大人しく俺の胸の中に収まった。
間近で感じるシャンプーと汗の匂いが、俺の判断力を著しく鈍らせる。
「大丈夫だ」
こめかみに張り付く金色の髪の毛を耳に掛けてやりながら、こいつの顔のすぐ横で囁く。
何が大丈夫なのかは自分でもわからなかったが、ここで退いたら男じゃない。
丁度いい距離感なんかくそ喰らえだ。

一旦身体を離し、こいつの上腕を両手で掴んだまま隣に座り直した。
意味を持たせた目で、未だ緋色を保った瞳の奥を正面からじっと見つめる。
俺がこれからしようとしている事を、こいつは理解したらしい。
伏せかけた顔を追いかけるようにして、少しだけ強引に口付けた。
「…っ」
まだ舌は入れない。何度も角度を変えながら、唇だけを使って、こいつの小さな唇を労るように愛撫する。
身体を強張らせて息を詰めるその表情には、拒絶の色は無い。
俺はこいつをそのまま座面に押し倒した。


その出来事以降、あいつは俺の狭い寝台で一緒に寝るようになる。
師弟としての不適切な関係を咎める者もなく、急な坂道を転がり落ちるように、俺はあいつの身体にのめりこんだ。
寝室で、居間で、風呂で、時には太陽の下で。昼も夜も関係なく抱きたい時に抱いた。
抵抗らしい抵抗はされたことがなかった。
修行に影響が全く無かったとは言えない。しかしあいつは驚くべき速度で能力を完成させていった。

いずれ訪れると知っていた別れは、案の定あっけなくやってきた。
「明日の朝、ここを出る」
本格的な暑さも目前に迫ったある夜、いつものように寝台で俺の腕を枕代わりにしていたあいつが、何でもないように告げた。
期限付きの関係であることは、互いに言わずとも承知していた。
だから、求めたのは身体だけだった。こいつの心まで俺に向かせようなんて考えるのは、ばかだと思っていた。
なのに。いざこいつが目の前から居なくなるという現実を前にして、想像以上に動揺している自分に驚く。
俺は極力不自然な間を開けないように注意して、そうか、とだけ返した。
胸に密着するあいつの背中に、普段より大きくなった鼓動が伝わっていないことを願った。


この土地に、あいつが、いる。
約束の場所へと向かう歩幅が、知らずと大きくなっていた。



2

集合場所に指定されたのは、広いリビングを備えたスイートルームだった。街の中心部を大きな窓から見下ろせるここは、このホテルの中でも相当に良い部類の部屋なのだろう。
俺が到着した時には、すでに同じくあいつに召集された他のハンター達が集まっていた。
俺の他に男が二人。俺が言うのもなんだが、伸ばした髭と胸毛がむさ苦しい大柄な男と、忍者らしき装束を身につけた若造だ。別に二人きりで会ってどうこうなどという下心があったわけではないが、こいつらがあいつのどういう知り合いなのか詮索したくなる。

あとは小柄な女が一人。髭の奴と知り合いらしく、和やかに談笑している。

そして。もう一人の女は、俺の知っている人間だった。
幼気な少女にしか見えない外見の彼女は、俺と同じ心源流の師範代で、いわば先輩にあたる。どうやってその姿を保っているのかは不明だが、俺が師範代になるずっと前から、すでに多くの弟子を指導していた。彼女が相当な実力者であることは間違いないが、何故ここにいる。正直昔から彼女は苦手なのだ。勘の鋭すぎる彼女に、俺とあいつの間にある関係を悟られるのは避けたい。

「あら、久しぶりじゃない。あんた、あのコの知り合いだったの」
気づかない振りをしていたのに、声を掛けられてしまった。彼女が白い手袋をした手で奥の部屋を指し示す。
あいつがそこにいる。まだ信じられないような、不思議な感覚だった。

返答しあぐねていると、扉が静かに開き、あいつが現れた。
「全員揃ったな」
無駄のない動作で扉を閉め、上着を正しながらこちらへ歩いてくる。俺の方は見ようともしない。
艶のある明るい金髪を外跳ねに整え、男物のダークスーツに全身を固めた姿に、懐かしさは感じなかった。俺の元にいた頃には確かにあった幼さの片鱗は消え去り、代わりに冷たく凪いだオーラが身体を包んでいる。

初めて抱いた夜、全てが終わった後で、あいつは長い時間をかけて俺に打ち明けた。悪夢となって自分を苦しめる“あの時”の事、それをした本源である仇を捕らえて復讐を果たすためにハンターになった事。

威圧感すら感じさせる、鬼気迫った表情でメンバーに指示を出す様子に、この二年間にこいつが並々ならない修羅場を体験し乗り越えてきたことが容易に想像できた。

こいつをここまでにさせた仇に改めてどうしようもないほどの怒りを覚え、心がざわつく。
こいつの頭の中からそれらを全部追い払ってやりたくて、暗く美しい黒い目の横顔を俺はただただ睨みつけるように見た。


3

若い男を何人も侍らせた王子直々に行われた面接では、ろくに経歴の確認もされないままその場で採用が言い渡された。複数の王子から一斉に出された募集の不自然さからしてどんな曲者が出てくるかと警戒していたが、拍子抜けだ。

同じく採用となった協会員の男がやたらと馴れ馴れしく話しかけてきたのが鬱陶しかったが、どうやら王子には気に入られたようだ。
俺をこの案件に配置したあいつの選別眼は正しかったことになる。相変わらずの卒のなさが憎たらしい。

契約書類にサインをし、建物を出る。
幾分暑さの和わらいだ街は、きらびやかで猥雑な夜の顔を見せ始めていた。

面接前、会場近くの適当な店で購入した安物のスーツ。窮屈なその首元を緩めながら、普段は全く履く機会のない革靴で、自分の宿へと向かって歩き出す。

あいつには、よく嵌ってたな。

二年越しの再会とはまるで思えない振る舞いの弟子の姿が脳裏に蘇る。
一見して性別を判じにくくさせるために着ているのだろう、女らしさなど皆無の墨のように真っ黒なスーツ。
その飾り気のなさが、高潔そうに整った容貌と細長い手足を強調し、却ってあいつの美しさを際立たせていた。
本人がそれに気付いているかどうかは怪しいが。

似合っては、いた。
あいつと同じレベルであのスーツを着こなせる人間はそれほど多くないだろう。しかし。
本来の色を隠すためにコンタクトをしているのか、その目もスーツと同じ色をしていた。
底なしの闇の奥をずっと覗いていたせいで、瞳まで漆黒に染まってしまったかのように。

俺と暮らしていた頃、あいつはいつも故郷の伝統的な衣装を纏っていた。
はっきりとした赤や青の色遣いが、異国らしさを感じさせる。
さらりとして気持ちいい手触りの布地越しに、あいつの腰の括れを撫でるのが好きだった。

遠くなった日々を回想し、気付く。
あのスーツは、まるで喪服だ。

あいつは無理やり葬り去ろうとしているみたいに見える。弱い、以前の自分を。
仇を討ち仲間を取り戻すという、あいつにとって絶対で無二の目的のために。

そこまで考えたところで、湿った夜風を切りながら大股で歩いていた足がぴたりと止まった。
街の中心部から少しだけ外れた、比較的静かな一画。次の角を曲がれば宿はもうすぐそこだ。

あの日震えながら俺とキスしたあいつが、まるで昨夜のことのようなリアルさで蘇り喉元をせり上がってきた。

歩道の一点を睨みながら息をふうっと大きく吐き出す。

気付けば、先程よりもさらに大きな歩幅で来た道を引き返していた。


4

エレベーターを降りると、廊下の先に目的の姿が見えた。
あいつも丁度戻ってきたところらしい。部屋の前で携帯電話の向こうに指示らしきものを出しながら、上着の内ポケットを探っている。

「…またこちらからかける」
カードキーを探り当てたあいつは、視界の端に俺を見止めると、身体をドアに向けたままそう言って通話を切った。

靴が沈むような分厚い絨毯の上を、真っ直ぐに進む。
「よぉ」
「…何だ」
必要以上に距離を詰めた俺に不快感を隠す素振りもなく、こいつは首から上だけでわずかに振り向き、斜め下の壁を見つめながら返答した。
「似合うか?」
自分のスーツを指差し、口元だけでわざとらしい笑みを作る。
「興味ないな。私に聞くな」
「遠くから呼び付けておいて、ずいぶんな扱いだ」
こいつが俺を褒めることなどないのは分かり切っているが、大げさなアクションで落胆してみせた。

「用がないなら帰……」
瞬間、ドアに向き直ろうとしたその背中を思い切り抱き竦める。
「…っ……」
スマートフォンを取り落としたこいつの顎を、右手の親指と人差し指の間に固定する。
俺の肩ほどの高さにある顔を強引にこちらへ向かせ、かぶりつくようにキスをした。
「んっ…ぐ…」
首を無理に捻られた上に口全体を俺の唇に覆われて、細い喉から呻きが洩れる。
「んぅ……っ…んん…!」
今度は強引に舌を突き入れ、温かい口内を遠慮なくねぶった。
「っ…、ん、んうっ」
呼吸とともに漏れる苦しげな声が、後頭部を甘く痺れさせ、体の中芯を通って下腹部に蓄積されていく。
俺に拘束された両腕に力を入れてもがくこいつを、それ以上の力で抑え込んだ。

なんだよ、そりゃ。
心の中で嗤う。この程度、お前なら軽く外せるはずだろ。

見せかけの抵抗は、素直さの欠片もない弟子の、この上なく分かりづらい受容と取ってもいいだろうか。

その時、廊下の奥でごうん、とエレベーターが動き出す音がした。

この状況を誰かに見られるかもしれない。
口を付けたままのこいつの焦りが手に取るように伝わってきて、心の中の俺は更に笑みを深くする。

上昇してくる重たい機械音を背後に、こいつの唇を最後に一噛みしてから開放した。
「っ…は、ぁ」
「部屋、入れてくれよ」
耳元に口を寄せ、握りしめたままのカードキーを指差して囁く。
「………」

腕を自由にしてやると、乱れた髪を乱暴に直しながら、こいつは自分自身の手でドアを解錠した。


5

部屋に入りドアを閉めてしまえば、もう形だけの抵抗に遭うことはなかった。
少々強引だった先程の自分を反省し、今度は正面からこいつの身体に両腕を回す。
胸が軋むほど強く抱き寄せると、二本の腕が少しの間空中をさまよった後、遠慮がちに俺の腰に着地した。

唇どうしを軽く触れ合わせてはまた離すのを何度も繰り返す。
無意識の行動なのか、こいつの頭が焦れたようにだんだんとキスしやすい角度に上向いてきた。
承知したと言わんばかりに、舌を伸ばして上下の唇を割る。伏せた睫毛を震わせながら大人しく口を開いたこいつに誘導されるように、前歯の裏へと舌を差し入れた。
「ふ…ぁ、ん…」
その場所で擦るようにして固くした舌先を往復させると、素直な甘い息が漏れる。俺の知っている声色だった。

居ても立ってもいられなくなり、五指で上着ごと胸の膨らみを掴む。
「…っ、…待、て…」
慌てて唇を離したこいつが、再会してから初めて俺の目を見た。
すでに赤みが増し始めた虹彩と視線がぶつかる。こいつがコンタクトを外していることに今更気付いた。

「何だよ?」
「そ…れ以上は、嫌だ…」
ここまで来て聞くとは思っていなかった、拒絶の言葉。
思わず耳を疑った。こんな肩透かしがあってたまるか。

「…ベッドで…がいい…」

乱れた呼吸のまま許しを請うように告げるその姿が、下半身をダイレクトに刺激する。
お前な…。わざとか。
心臓に悪いこと言うんじゃねえよ。


6

高級そうな寝台に腰掛けた両脚の間に、半裸のこいつを迎える。薄く透ける白のレース地に銀色の刺繍が施された上下の下着は、最低限覆う必要のある部分を除いて、側面や背面はほとんど紐に近い状態だ。こんなものを身に着けるようなやつだったか、とは考えたものの、黒いスーツの下から現れたのは紛れもなく知り尽くした輪郭の肉体だった。

括れた腰に右腕を回して、勢いよく引き寄せる。
「…ッ」
反対の手に尻の丸みを収め、指を端から順に食い込ませながら揉み込んだ。無駄な脂肪の少ない身体の中で、唯一肉付きのいい箇所。その重みを確かめるように上下に揺さぶる。
対して眼前に迫った胸元の方は、俺の好みからするとややボリューム不足なのは否めない。それでも全体で見れば均整の取れた身体つきで、十分に誘惑的だ。

レースの重なった柔らかい生地を、鼻の先でくすぐる。
「ん…」
目当てをつけた辺りに唇を軽く当て布越しに探ると、敏感な先端はすぐに存在を主張し始めた。
唾液を染み込ませた生地ごと、その小さな突起を歯で引っ掛けて弄ぶ。
「ぁ……」
この程度では物足りないのか、もどかしそうな吐息が耳に掛かった。

腰に回していた手で濡れた生地をずらし、形のよい乳房を露出させる。頭上で小さく息を呑むのがわかった。
すっかり立ち上がった先端が、健気に上を向いている様子が愛らしい。
見せつけるように口を開いてから、薄紅色の乳輪に吸い付く。
「はぁ……ん…」
やっと得られた直接的な刺激に、歓喜の混じった嘆息が零れた。
口に含んだそこは益々固くなり、どんな小さな刺激も逃すまいと尖っている。
「あっ…ん…、あっ」
膨らみの付け根を指で支えながら、唾液をたっぷりと絡めて先端を転がす。時折音を立てて吸ってやると、その度にこいつの腰が捩れた。
左手でもう片方の乳房も露わにさせ、二つの突起を同時に責める。
「や…っ」
指の腹で押しつぶしたり、引っ張ったりと、それぞれに不規則な刺激を繰り返し与えていく。
「ん……っ…んっ」
「こっちの方が好きだったか?」
内腿を擦り合わせて悶えるその顔を見上げて軽く揶揄してから、鼠径部に中指と薬指を添えた。筋の張った部分をゆっくりと押し揉む。その奥に連続して存在する、一番敏感な部分の柔肉にまで動きが伝わるように、ぐりぐりと大きな円を描く。
「……っ」
腰が揺れないようにするためなのか、俺の肩でシャツを掴む手に力が入る。耐える必要などないのに、反応を抑えようとする様が可笑しい。下着の隙間に指をねじ込みたいのを我慢して、同じ箇所だけを捏ね続けた。

もういい頃かというところで、半ば引き摺るようにこいつを寝台に上げ、仰向けの身体に覆いかぶさる。両脚を思い切り押し開き、その間に割って入った。
左右それぞれの手に膝裏を持ち上げさせ、こいつ自身の中心を俺の見やすいように保持させる。少し乳首をいじってやっただけだというのに、まだ触れられてもいないそこは、じっとりと濡れて透けた生地に秘肉の色形が浮かび上がっていた。昔何度もさせた体勢だ。俺がこの次にどうするかも見当がついているだろう。

身体の位置を調整し、放たれる熱を顔面に感じるほどの至近距離からそこを覗き込む。ふっと息を吹きかけると、浮き出たピンク色がひくりと痙攣した。
「は…っぁ」
張り付く生地を横にずらし、だらしなく愛液を垂らした性器を晒す。それは熟れ過ぎた桃の果肉ように赤く潤んでいて、触れれば崩れてしまいそうなほどだ。
首を伸ばし、そこ全体をべろりと舐め上げる。
「はあっ、やっ、あっ、あ」
舌先で形をなぞるたびに、高い喘ぎが引っ切りなしに溢れた。
「ちゃんと持ってろ」
無断で閉じようとする膝を再び割り、元の位置に抱え直させる。脚を開いた分だけ、その中央にある性器も同じように口を開けた。粘液をたっぷり蓄えた内部が、物欲しそうにひくついている。

「う…ん…」
ぐっしょり濡れた陰毛を指に絡ませ粘膜の境目に撫でつけると、こいつは恥ずかしそうに身じろいだ。顔を出した小さな芽のような膨らみを、舌先で軽くつつく。
「う…っあ!」
たったそれだけの刺激に、びくんと尻が跳ねる。続けてぢゅ、と強く吸うと、今度は全身を強張らせ悲痛な声を上げた。
「あああぁっ!」
その芽を唇に含みながら、すぐ下のぬかるんだ割れ目を人差し指で撫でる。
「あ、あっ、あぁ…」
無骨な指先は、ほとんど抵抗なく呑み込まれた。膣の中で指を軽く回してから、二本目を追加する。
「ん……、はっ、はぁ」
断続的に陰核を吸い上げながら、埋め込んだ指を何度も抜き差しする。
「あっ!あぁ、やっ…!」
余裕のない声とは裏腹に、性器の奥からは新しい愛液が次々と湧き出て、指の動きを助けた。
「相変わらずいい反応するな。そんなに俺としたかったのか?」
浅いところを優しく掻きながら、冗談めかして言う。
「っこれは、お前が無理やりしてるんだろう…!」
完全に緋色に変わり切った瞳で睨まれた。無理やりなんてことはないだろう。俺を呼び出したのも、部屋の鍵を開けたのも、寝室に誘ったのも全部お前だ。

「俺と会うってことは、こういうことになる可能性を考えなかった訳じゃないだろ」
「………っ」
「俺は、お前としたかったけどな」
黙って視線を外らしてしまったこいつをからかう声音で、本当のことを言ってみた。
「そういう…っ、ことを…、軽々しく言うな…」
「ここは早く欲しいって言ってるぜ。どうやって抱かれたい?お前の良いやり方でしてやるよ」
拡げた粘膜の奥をいいように弄られながら、下品な男め、とでも言いたげに精一杯睨めつけてくる。

「言ってみな」
「言う…わけないだろう…っ」
「ほら」
「っ…あ!」
恥骨の裏のふっくらした部分をやや強めに押さえつける。指に絡みつく内部がぎゅうっと狭窄した。
「あっ…、あ…」
「ん?」
同じ場所を一定のリズムで小突き、何事か言いかけたその続きを促してやる。
「ぁ…、い、いつもの…やつ…」
いつもの、という表現に思わず口元が緩んだ。
「ああ、あれな。いいぜ」

とうに意味をなさなくなっていた下着を無造作に剥ぎ取り、身体をうつ伏せに返す。尻だけを俺の腰の高さに掲げさせてから、ベルトを外してみっちりと勃起した陰茎を取り出した。
「ん…」
十分にふやかされた入り口に先端をあてがうと、シーツに横顔を埋めたこいつが尻を震わせた。血管が透けて見えそうなほど白いその丸みを両手で掴み直し、濡れて滑る割れ目に腰をゆっくりと押し付けて侵入する。
「う…っ、ぅん……」
可憐な色をした粘膜が赤黒い亀頭の形にぴったり沿って拡がり、俺自身を呑み込んでいく。その一部始終を見届けながら、一気に根元まで挿入した。
「んっあ、ああ…」
その生々しい景色と、めりめりと肉を割り裂くような感覚とに、めまいがしそうなほどの興奮を覚える。

一度抜けるぎりぎりのところまで引き出してから、時間をかけて再び全体を埋める。愛液をかき混ぜ馴染ませるように、何度か繰り返した。
「はぁ…、あ…ぅ」
互いの体温が混ざり合い、本当に一体化してしまったかのようだ。このまま滅茶苦茶に突き壊したい衝動に駆られるが、こいつの言う『いつもの』はこれじゃない。

繋がったまま、膝を片方ずつ伸ばして腰を降ろさせた。閉じたこいつの両脚を跨ぐ格好で、腰をスライドさせる。
「あ…っ!あっあ、あ、んっ、あ……」
相当いい場所に当たるのか、喘ぎ声は甘ったるいトーンに変わり、背骨のラインは一突きごとに反り返る。先程よりも強くかかる圧と、支配欲をくすぐる眺めに、欲望がさらに硬さを増した。

腰の括れをひと撫でしてから上体を倒し、背中に覆い被さる。身体の下に右手を差し込み、腫れ上がった陰核を中指で、恥骨の上あたりを親指の付け根で、それぞれ同時に圧迫してやる。
「あぁ…!っや…、あっ、あ!」
これだろ、『いつもの』ってのは。
一番好きなところを三方向から刺激され、我慢できないといった様子で上ずった声が溢れた。

肩で上半身を押さえつけながら、横顔を覗き込む。自分で希望した体位で抱かれておいて、それでも本意ではないとでも言うように、こいつは苦しげに眉を寄せている。
おいおい、お前の望む通りに奉仕してやってるんだぜ。本当に弟子に甘いな、俺は。
意地の悪い笑みが込み上げた。

乱れた髪の毛の隙間から見える小さなピアスを、耳朶ごと口に含む。
「や…!」
細い金属の軸とピアスホールの接する際を、尖らせた舌先で丁寧になぞった。肩を竦めシーツを握り直すその仕草ひとつまでもが扇情的に映る。
「っ…ん…!」

また一段階締め付けが強くなった奥の奥を、腰の速度を上げて追い込んでいく。
「あ、あ!あっ…。あぁ、あっ!」
この場所を責められれば、こいつがそう長く保たないのはわかっている。わざとらしく荒げた呼吸を、咥えたままの耳に注ぎ込んで煽った。
「いっ、や…っ、あ、あぁ、もう…、ぁ…あ…」
「ここ、そんなにいいか?」
声を低めて揶揄するように囁くと、もう生意気な口をきく余力もないのか、こいつは必死に首を縦に振った。
「はあ…あっ、あぁ…、ああぁ……」
素直な反応に褒美でもやる気分で、ひと際強く腰を押し付ける。
「んん…あぁぁっ!!」
白い肢体はびくりと大きく痙攣した後、背中を何度もしならせて絶頂に達した。

エロいイキ方するようになったじゃねえか。
引く波を惜しむように、快感の余韻を追いかけて膣内が小さな痙攣を続けている。
本人の意識と関係なく、以前よりも貪欲に快楽に耽るようになった身体に男の気配を感じた。恋人か、それとも。二年も経っているのだ。何も無かったわけはないだろう。

脱力した内部からずるりと肉棒を引き抜き、顔を俯けて隠そうとするこいつの肩を掴んで仰向けにさせる。細められた緋の目が、非難と恍惚の入り混じった色で俺を見た。
俺の他にこの目を見た奴は、どれだけいるのだろう。
嫉妬、独占欲、そして自制心。様々な感情が湧き出て渦を巻く。ダサすぎて、反吐が出そうだ。

両脚を持ち上げ、膝を肩に付けるようにして上体を折りたたむ。上を向かされた性器はぐちゃぐちゃに濡れていて、愛液まみれの陰茎を押し付けると、ぐぷりと音を立てて飲み込んだ。
「う……ぅっ」
脚を降ろせないように肩でふくらはぎを押さえ付ける。肺を圧迫されて、こいつは表情を歪めた。狭い肩幅を挟んで手を突き、ほとんど真上から伸し掛かる体勢で貫いていく。
「…っ!ぅあ…っ!あっ」
先程の体位よりも深い場所にまで俺を受け入れることになった粘膜の奥が、さらにきつく収縮した。

猛った性器を根元まで1ミリも余すことなく咥え込ませてやろうと、ひと挿しするごとにぐりぐりと腰を強く押し付ける。
「っ、い…っ、…ぁ……」
秘裂の最奥部に降りてきたしこりに打ち付けられる痛みに、こいつの全身に力が入る。俺から逃れるように、喉を思い切り伸ばして顔を背けている。
「こっち向けよ」
大人気ない自分への苛立ちを抑えられずに、挑発するような口調で命令する。
「…っ……」
反抗心を取り戻したのか、こいつは長い睫毛を濡らしながら、噛み付くような眼差しを向けてきた。
「ぅ…っ、んぁ…、はぁ…っ」

それでも構わず続けると、苦痛に寄せられていた眉根が徐々に緩んでくる。快感が痛みを追い越したらしい。唇がうっすら開き、白い歯を覗かせた。
「はっ、あぁ…、は、ぁ…」
呼吸が、浅いものに切り替わる。持ち上げられた尻をさらに擦り付けるようにして、より深く繋がろうとしてくる。鼻の先から滴る汗が、こいつの首筋に落ちて流れた。

半開きの唇にむしゃぶりつき、舌を捩じ込む。
「ん…、んぁ、は…っ」
無我夢中で舌を絡め返してくるこいつが愛おしい。
腕をずらし、小さな頭を抱え込むようにして、一段と速く強く腰を打ち付けた。
「あっあ、あぁ、はっ、あ」
切迫した高い喘ぎに追い立てられる。
「あ………っ」
ほんの一瞬、中の空間がわずかに拡がり、温かい液体が奥の方から一気に湧き押し寄せてきた。大量のそれはたちまち膣内を満たし、俺の動きに伴って体外に押し出され続ける。尻の間を通り、背中を伝い、見る間にシーツに大きな染みを作った。
「は……ぁ…」

お前にとって俺がどんな存在なのか、どんな思いで今回の依頼をしてきたのか、聞く気はない。お前がどういうつもりだろうが、俺はお前に何だってしてやる。
お前の前では、格好つけさせてくれ。

自分の中でみっともなく絡まる感情を、全部ぶつけるように腰を振る。
俺の考えなど知る由もないこいつの最奥に、限界まで張り詰めていた精を勢い良く射出した。