「おい、クラピカ……お前大丈夫か?」
レオリオは遠くではしゃぐゴンとキルアを確認すると、そっとクラピカに言葉をかけた。
「……顔色が悪い。いつもと違う」
めざといゴンでさえ気づかなかったようだが――いや、クラピカの事だ。
心配をかけまいと振舞っていたのかもしれない。
レオリオは眼鏡をすいと指で正す。
「医者『志望』だからって舐めるなよ。そのぐらいは俺でも分かるんだぜ」
「――これは私のプライベートに関わることだ。口を挟まないで欲しい」
眩しい陽射しを避けるかの様に、いやレオリオの追及を避けるかの様に、クラピカは木陰へと歩を進める。
レオリオは慌ててその後を追った。
「プライベートぉ? お前な、病気なんだぞ、病気!」
「メンタルに関わる部分だと言っているんだ」
クラピカは奇妙に唇を歪ませて微笑んだ。
形だけ見れば嘲笑とも思えなくもないが、何故かその頬は赤く眉は困惑に寄せられている。
クラピカにしては珍し過ぎる表情に、レオリオは思わず眉を寄せる。
「馬っ鹿野郎。お前な、俺達知らん仲じゃないだろ――」
これまで衝突も多かったが、いやだからこそ分かり合えている部分が多いはずだと、レオリオは自負している。
「私の何を知っていると――――あっ」
らしくもない。レオリオは思わず手を差し出した。
公園の木陰――整備されているとはいえ、小石はどこにもあるものだろう。
だがそのほんの小さなそれに、クラピカはつまずいたのだ。
「……熱があるのか!」
支えた腕の中の細い体は、確かに熱を帯びていた。
「……気にしないでくれ」
そっと触れた首筋は異様なほど熱い。
ゴンたちよりも確かに大人びた、だがしかし華奢なこの体のどこに、この熱を耐える力があるというのだろう。
(いつもそうだ、コイツはいつも心で全て乗り切ろうとしちまう)
心頭滅却すれば何とやらを地で行くのがクラピカだ。
気にしないでくれってモノじゃ、ねえだろっ!
第一、てめえ――俺をまた後悔させるつもりかよ!」
レオリオの脳裏に、昔亡くした友の笑顔が瞬間過る。
言いたくはない言葉だった。
この気持ちは真実だが、表に出せば相手に負担をかける事が分かっているからだ。
しかもクラピカは――糞真面目なのだ。レオリオは緩く頭を振った。
「……すまない」
クラピカの声はかなり小さなものだった。
「――これとこれなら、多分同じ効能になるかと思う」
レオリオはアタッシュ・ケースから薬と栄養剤を取り出すと、クラピカへと手渡した。
「ありがとう」
クラピカはしかし、決してレオリオと眼を合わせないようにしている。
やはり、あの一言で気を悪くさせてしまったのか。
(どうしてこいつの前だと調子が狂うんだ、俺は)
あれからレオリオとクラピカは一足先にとホテルへ戻っていた。
ゴンとキルアはまだ街中を探索したいらしい。
ここにゴンやキルアでもいれば、まだ場の空気の悪さが誤魔化せるのではないか。
レオリオは深い溜息をついた。土台無理な展開だ。
そうするためには、ゴンたちにも事情を話せばならないだろう。
しかしクラピカは頑なに自分の体調の悪さを露呈することを拒んだのだ。
その時、不意にあることにレオリオは気がついた。
「なあ、薬がなくなったからってお前言ったけど……」
レオリオはクラピカへと向き直る。
クラピカはコップに注がれた水面をじっと見つめ続けていた。
「しょっちゅうなのか、こんなこと……」
何か――持病といえる、病を患った体なのか。レオリオの声が低くなる。
「……違う、違うんだ、レオリオ。……病気ではないんだ」
クラピカは搾り出すように言葉を発した。
ここで黙っていては、またレオリオの悲しい思い出を甦らせ、そして傷つけてしまうだろう。
そんなことはできない。
「……ホルモンのバランスが……崩れるんだ」
クラピカは深く息を吸った。
「私の種族は――生まれた時には性別がない。
ある程度の年齢になれば、自然に男と女に分かれるが――
ホルモン剤を使う事で、自分の意思で性別を選ぶ事も出来る」
喉はカラカラだ。クラピカは薬を口に含むと、一気に水を仰ぎ飲んだ。
「……だが中には、性別が――その、固定しにくい体質の者もいる訳で」
昨日男性性器のようなものが大きくなっていたと思えば、今日目覚めてみれば小指の先もない程に小さくなっていたり。
胸の膨らみに痛みを感じても、翌日にはあっさりと平らな胸へと変わっている。
「それが――私なんだ」
そんな変化に体は大丈夫なのかといえば、何故か体自体は何ともない。
問題は、ホルモンのバランスが狂い、それが熱というか――奇妙な欲求の火を体に灯すのだ。
おそらくは、どちらかの性へと固定しようとする体の自衛機能のようなものなのだろう。
「……マ、マジで?」
「ああ」
レオリオの口は開いたままだ。
ふぅ、とクラピカは溜息を吐いた。出来れば知られたくないことだった。
これまでの生活の中で、女である事がどれだけ自分の足手まといになっただろう。
普通に暮らす分には支障はないが、復讐のために苦難の道を選んだクラピカにとって――女性体は危険を呼ぶ代物でしかない。
ゴン達は男だと自分を信じているだろうし、その様に自分からも仕向けていた。
そうした方が全て丸く収まるのだと、経験から知っている事だった。
だけれども。
「病気じゃねえってことで、安心した。
………確かにプライベートだよな。聞いちまったこと、悪かった」
はっと顔を上げる。レオリオはすまなさそうに、顔を多少しかめていた。
「いや……いや、違う。聞いて欲しかった……んだ、私は、お前に」
レオリオのその顔が悔しい。すまなさそうにして欲しくはなかった。
「……え」
少なくとも半分は女なのだ。
大多数を男女の愛がこの世界を占めている中で、……それでも自分は半分は女なのだ。
「……私は、半分は女なんだ。……だ、駄目なんだろうか。
駄目なんだろうか、レオリオ。
私はお前の……お前の興味を引く事ができないんだろうか」
レオリオと出会い、確執を乗り越え――感じたのは友情ではない、愛情だった。
知らせる事は一生ないだろうと思っていた自分の体の秘密を、しかし彼は知ってしまった、知らせてしまった。
ホルモンのバランスが、精神のバランスを狂わしてしまったのかもしれない。
だがもう、秘密を抑えておく事はできなかった。
「興味って……」
レオリオは唾を飲んだ。それはどういう意味に捉えていいのだろう。
「……私は」
クラピカは長い上着を脱ぎ捨てた。体の線を隠すために、わざと着ていたそれは、心の鎧でもあった。
「……私はお前の好みのタイプ……じゃない」
ぎょっと眼をむくレオリオに構わず、クラピカは薄いシャツも脱ぎ捨てた。
「ク、クラピカ……お前、何して……」
肩紐のない、チューブタイプのタンクトップがクラピカの胸と腹を包んでいた。
「……お前の見る……雑誌の女たちが羨ましかった。
女らしい、豊満な胸、丸い尻……羨ましかった」
クラピカはゆっくりと、胸を覆う服を脱ぎ去った。
「……」
レオリオは目を離すことはできなかった。
無意識に、唾を飲み込んでいた。
「……し」
僅かな膨らみがそこに存在していた。
乳輪も乳首も、女のものよりは小さく、しかし男のものよりも大きい。
色は――レオリオが見た中で誰よりも淡い、綺麗なピンク色をしていた。
クラピカが呼吸をする度、その慎ましやかな胸は軽く上下に蠢く。
当然の行為なのだが、それがどうしようもなくレオリオを煽った。
息をする都度に、震える乳首。
「下――も、見せてくれ、クラピカ」
「えっ……」
いつになく声が低い。レオリオは驚くクラピカをそのままぎゅっと抱き締めた。
「……男だろうが女だろうが、いいんだ、そんな事は。
お前が……嫉妬してくれてた事がスゲエ嬉しい」
クラピカの柔らかな胸と、その可愛らしい突起が自分の体に触れている。
レオリオはその感触に息を吐いた。
「下も見たい。見て、舐りたい。――ヤりたい。
男でも女でも両方でも何でもいい。お前を犯したい」
レオリオはそのまま、クラピカの背中を撫で擦った。自然な様に、しかし意図を込めてズボンの中へと手を入れる。
「あっ……」
レオリオの張った股間が、クラピカの前を刺激していた。
「あっ、あっ、ああっ、あっっ!」
レオリオの手が、そのままクラピカの尻たぶを撫でる。
いや、撫でるというよりは掴み、揉み解す――という方が正しいだろう。
下着の中に滑らせた手は、レオリオの急いた心そのものに蠢いている。
「……レオリオっ、そのっ、あのっ……あのっ……」
クラピカの声は、喘ぎと言うよりは驚きから来るものに近かった。
レオリオの指が、クラピカの尻の割れ目をそっと撫でる。
ぴたりと閉じられたそこを、何度も何度も擦り刺激してゆく。
「ぅんっ……ぅっ、あぅっ、ああぅっ、んっ、駄目っ、駄目だっ、ひっ」
くりくりと、動く指が奥へと侵入を試みる。
クラピカはたまらず体をくねらせる。
女よりは筋肉のついた体が、尻を開かせる事を強く拒んでいた。
「ゃ、やめっ、あっ、違うっ、そこっ、違うっ! いっ、今は、ちゃんとした女だからっ……!」
その言葉に、レオリオは大きく息を吐いた。
勃起している股間をそのままクラピカの股に強く押し当てると、グリグリとクラピカの女の部分を擦った。
身長差で多少辛いが、だが快感が全てを打ち消している。
「……あふっ、ああっ、あっ、ゃっ……」
どうせなら、きちんと触って欲しい。見て欲しい。
(…………でも)
後ろも愛してくれる――のは、とても嬉しい。
熱い息の中、クラピカはぼんやりとそう感じていた。
「あっ」
レオリオは下着ごと、クラピカのズボンをそっと下げた。
「……俺は、お前だったら何でもいい。男だろーが女だろーが、関係ねぇ」
その言葉に、ビクビクッとクラピカの体が震える。
もどかしい疼きを抑えられずに、内股をそっとこすり合わせた。
にゅる、という感触は気のせいではないだろう。曝け出された下半身が熱かった。
「……可愛いな」
レオリオは身をかがめると、クラピカの陰部を見つめた。
髪と同じ明るい色の陰毛は、しかし薄く柔らかそうな輝きを放っていた。
陰毛、というよりは産毛に近いのではないだろうか。
そしてその下には、綻び始めたとはいえまだ閉じられたスリットがあった。
「……お、おかしかったらおかしいと言ってくれ」
「おかしいって、何が」
「ふ、普通の……じゃない、とか」
クラピカは女性との性接触はないのだろう。
おそらくは、女として悩みを話せる様な友もいなかった。
複雑な体を持ち、それに心さえも振り回されてきたのだ。
――どの様な形であれ、知識を得ることに多少の嫌悪感、いやためらいがあっても仕方ない。
レオリオは素早く自分のズボンを下着ごとずり下ろした。
「……俺とお前のだって違うだろ。そんなモンじゃねえか?」
「っっっ!」
レオリオの勃起した、太くて長いペニスにクラピカの目が釘付けになる。
「違う?」
「……ち、違う」
「どんな風に?」
レオリオはクラピカの体をくるりと回した。
まだ年端のいかない少年とも、花の咲きほころび始めた少女とも思えるような、なめらかな肌。
たまらず背筋を舌で舐めあげると、クラピカは可愛い鼻声を漏らした。
「言ってみ?」
背後からクラピカの股にペニスを通す。
「ひゃっ……く、くぅうっっ」
軽く前後に動かせば、クラピカはたまらず仰け反りつま先立ちになった。
スリットに添って動くペニスが、僅かにその閉じられた扉を開く。
「うっ」
クラピカの柔らかな陰部と太腿の感触に、たまらずレオリオもうめく。
素股もやったことはある。数えればキリがないだろう。
だが今まで自分が相手にしていた女たちは、大抵『毛深い大人の陰部』の持ち主だった。
――しかしクラピカは違う。
奥はほとんど無毛のようだ。しかしこんな滑らかで柔らかで吸い付くような……。
「……こんな、大きくならない」
クラピカは自分の下腹部を見下ろした。
とてつもない化け物が、自分の股から生えている――そんな奇妙な錯覚すら感じる。
「こんな長くない……色だって違う。……っ、あっ、ゃっ、んっっ!」
レオリオはまた腰を動かした。
ペニスがやや強引に、クラピカのすじを開いてゆく。
「っひ、っひ、ひっ、っぁあ、あぁんっ、ひ、んっっ!」
くちゅ、くちゅ、くちゅっ……そんな水音が聞こえ始めてきた。
「他は? 形とかは?」
赤黒い亀頭の先、尿道口からは透明な雫が流れ出ていた。時折ビクビクと震える肉の棒。
滅茶苦茶にされたい。
「……ここ、こ、ここが……こんなに張ってない……」
クラピカは火照った意識に促されるまま、股間を責めているレオリオのペニスをそっと握った。
カリの、エラが張った部分を、つぅっ……と指で優しくなぞる。
「ぅうっ!」
「レ、レオリオっ……、ああっ、もう、もう私は……っ」
大きくうめいたレオリオの声に、クラピカは幼い少女の股間を醜く愛しいペニスにこすり付けた。
「くふっ、ふっ、ふ、んっ、んっ、んんっ、んぁっ、ぁっ、ぁあっ」
にちゅ、にちゅ、にちゅ……っ。
クラピカは腰を振り続けた。綻び、開いた肉の花びらがレオリオのペニスと触れ合っている。
「ああっ、あああっ、ぁああっ!」
先刻まであれほど抵抗していた尻の小さなすぼまりが、レオリオの怒張に触れて擦られる事すら喜んでいるようだ。
柔らかく滑らかで、しかし硬くて熱い何かが、自分の陰部を嬲っている――それも背後から、自分から進んで。
全てが、いつもの自分ならタブーに繋がる物事が、たとえようもない快感を生み出していた。
「……ここはどうだ?」
レオリオはあどけない乳房を乱暴に揉み解す。
「あ、ぅう……、ゃっ、んっ、ゃっ、んんんーーっ!」
ツンと上を向いた可愛らしい乳首の、根元あたりを優しく指でコリコリと愛撫すると、クラピカはたまらず甘い声を上げた。
「ここもいいだろ?」
レオリオは腰を振るクラピカの動きを止めると、亀頭を肉壷へとあてがった。
優しく、優しく蜜の溢れ出すそこを刺激する。
「あっ! ああっ! っあ!」
押し込む真似はせず、クラピカの大事な部分をただひたすらに撫でるように愛撫する。
にちぃっ……。
粘性のある愛液が、レオリオの亀頭に絡みつく音が響いた。
「ひっ、ひっ、ひっ!」
クラピカは緩く頭を振った。このまま一気に犯されたい。
「ここもいいよな?」
と、レオリオは乳房を嬲っていたもう片手を、下腹へと静かに下ろす。
そのまますっと、淡い陰毛がかかる、女――クラピカの一番敏感な部分を指でそっと触れた。
「きゃ……!」
甲高い喘ぎが、クラピカの口からあがった。
「っっひ! あっ! あっ! あっ! ああっ! ぁあーーーーっっ!!」
「もういっぺん」
レオリオはクラピカの小さな――クリトリスを指でそっと撫で回す。
「っっく、くーーぅぅううっっっ!!」
クリッ、と心なしか強めに指を一回転させると、悲鳴のような喘ぎと共にクラピカの秘部から愛液が溢れ出た。
「――駄目っ、駄目だっ、駄目だっ」
荒く切ない息の下、クラピカは必死に首を振った。
「……気持ち良くないのか?」
レオリオはすがる様に体を預けて来たクラピカの、そのしっとりと汗をかいた首筋を舐め上げた。
「気持ちいいんだよな?」
ペニスはすでにクラピカの愛液でぐしょぐしょだ。
軽く腰を引き、また先端でクラピカの最奥を優しく責める。
「ぅっ、っっんんーーーっっ、んあぁああっ、ああうっ、あッ、ッくぅぅーーうッ!」
そのままペニスで秘部を刺激しながら、淡い毛の中に息づく陰核を、指でやや強めにこね回した。
内股が震えたのがレオリオにもダイレクトに伝わってくる。
クラピカが感じているのは間違いない。
「ゃ、やめてく……っっく、んッッ!」
「ぅ、ぁ」
クラピカの尻の筋肉が強張り、膝を擦り合わせた太腿がきゅっと締まる。
挟んでいるペニスを絞る感触に、思わずレオリオは声を漏らした。
思わず嬲る手も腰の動きも止めて、強烈な快感を何とかこらえる。
「い、いやじゃないんだろ?」
レオリオはらしくもなく言葉をどもらせる。
素股で出してしまうのは、何だか勿体無い。
滑らかで張りのある太腿でレオリオのペニスを挟み込んだまま、クラピカは吐息を漏らした。
今、また動かされたら、触られてしまったら――そう思うと、余計に篭める力が強くなる。
っ、あ……んんっ…」
にゅるっ……という感触に、クラピカは唾を飲み込む。
(あ……ぁあ、そ、そんな……、んんっ……ぁ、ぅ!)
しかしそれは結果的にクラピカを追い詰めた。
カリのくびれから裏筋を絞める形になり、クラピカが力を込めれば込めるほど、レオリオのペニスはビクビクと反応を返す。
そして亀頭の先が、僅かずつとはいえ更に秘部の奥へと進むのだ。
それだけではない。クラピカの肉ビラもその肉棒の奮えに悦楽を感じていた。
卑猥な肉の壷に、もっと強い刺激が欲しい。
いやらしい肉壁をもっと擦り上げて欲しい。
そして、あの小さな――あの小さく淫らな部分をもっと――。
クラピカは正気に戻ろうと、頭をまた緩く振る。
このままではいけない。
「…ゃ、やじゃ……いやじゃない…」
「…だったら、どう…して……く、ぅ」
少女とも少年とも言い難い、柔らかいだけではなく固過ぎることもないクラピカの体。
レオリオはまた呻き声を出した。
肉の感触、そして絶妙な絞め具合で自分の分身を絞めている事に、クラピカは気づいているのだろうか。
(……ヤラしい体だ……)
すでにクラピカのいやらしい個所は濡れに濡れ、またそこから垂れ落ちてくる蜜は止まる事を知らないようにも思える。
(ヨダレだらだらって感じだ……そんなに欲しいのかよ、チンポが)
自分では抑えきれないほどの性欲。
見て欲しいと自分から裸体を晒したこと。
本当にいやらしい淫猥な体だと、レオリオは薄く微笑んだ。
レオリオの赤黒いペニスが、またドクンと脈打つ。
その動きに、クラピカがまた甘い喘ぎを漏らした。
「っあ、ああっ、あああっ……駄目、駄目だ……
駄目になる――お、おかしくなるっっ!!
も、もう……っ、や、ゃ……」
レオリオは息を飲んだ。クラピカの気持ちなどお構いなしに、突き入れたい衝動を抑え込む。
(……イくのが怖いのか? まさかオナったこと、ねえのか?!)
「イくとか、分かるか?」
「…………」
「……なんもかんも初めてなんだろ?」
慌てて問いかけたレオリオに、クラピカは沈黙を守る――もちろん、切ない吐息は隠しようがないが。
(……そうだよなァ、こいつの性格考えりゃ――)
この沈黙は肯定の意味だろう。
そうレオリオが納得したそのとき、クラピカの肩が僅かに震えた。
……知識はそれなりには、ある。だが経験はない。
しかし知識があるのだから、うまく立ち回れる筈だと考えていた。
今も立ち回るべきだと思っているが、……だけれどもこの現実は想像を遥かに凌駕している。
「……初めては、嫌か……?」
それだけがやっとだった。
「…………いんや。
いや……いや、嫌なのは、そんなお前にガッツく俺自身…」
やっぱり糞真面目だ。堅物だ。
だけど何でこう、危なっかしい気がするんだろうか。
……可愛い。
「……あっ」
レオリオはそのまま、そっと背中からクラピカを抱き締めた。
ギリギリまで育ってしまった怒張も、今はやや落ち着きを見せている。
「ベッド、行くか……」
天井が高い。
微かにクラピカは体を震わせていた。心臓の鼓動が、まるで体そのものになってしまったようだ。
ふと視線を漂わせれば、レオリオは己の衣服を字の如く、脱ぎ捨てている――クラピカは思わず瞼を下ろした。
あの男の裸は知っている。
あの男は何かしらにつけ、衣服を脱ぐのだ。
否応がなしに瞳に飛び込んでくる、あの姿。
割に細身の体、そんなに濃い色ではない肌、毛深くもない。
しかしそこには思いの他、強靭で柔軟な筋肉があるのを……自分は目の当たりにしてきた。
大した事のないはずだった、全然大した事でもないはずだった。
だけれども。
(……ドキドキしたんだ)
友情だと思いたかった。
だけれども、ふとした折に思い出すその映像が、画像が……そうではないと告げていた。
触れてみたい。あの体に触れてみたい。
そうして……優しく触れ返して欲しい。
(……あのまま・……)
あの時、本当はあのまま犯されたかったのだ。
体は確かに疼きそうした懇願を垂れ流していたし、レオリオが欲望の限りに自分を陵辱する事は
……それだけ彼が自分の体に価値を感じているのだと思えて、たまらなく嬉しかったのだ。
しかし今、彼は自分を真面目に抱こうとしている。
それこそ夢に見たほどに。
「……おいこら」
不意に、その男の声が耳元に響き渡る。
「……ぅあっ」
吐息がかかったせいか、クラピカは甘い声をあげた。
「何そんなに驚いていやがる……」
レオリオはクラピカの上に覆い被さっていた。
そのままクラピカが体を隠すために自身にかけた、真白のシーツをやや乱暴に剥ぎ取ってゆく。
(こ、こんな近くで……)
ゆっくりとレオリオの顔が近づく。
彼のトレードマークと化した、あの無精髭が触れるほどに。
「……こ、こんな間近でお前の顔を見たのは初めてだ」
「慣れろよ。これから何度でもこうなるんだからな」
「……え」
スローモーション。
迫ってくる唇が、まるで自分とは違う世界の時間の様に感じて――
――だけれども、そのすぐ後には柔らかな、何かの感触。
(……あ)
軽く触れるだけのそれに、クラピカは何が起こったのかよく分からない表情をする。
「……順番が違うよな。がっついて悪かった……つーか、がっつかせんなよ、お前」
「が、がっつかせるって……な、何が……あっ」
「どした?」
「……顔が赤いぞ、レオリオ……」
「…………うるへー」
もう一度、今度は深く。
レオリオの唇は意外に厚く思えた。
力強い弾力を感じるそれが、自分の唇を食んで行く。
「ん、んっ……」
促されるまま口を開けば、レオリオの舌が自分の口腔へ入り込んだ。
歯列をそのまま器用に舌でなぞられる。
(こ、こんな事を……するのか……、ぁ、う)
どうしてよいか分からずただ縮こまっている舌を、レオリオの舌が捉えた瞬間、クラピカの背筋に何かがが駆け昇った。
短めな自分の薄い舌を、長く厚く、まるで別の生き物の様なレオリオのそれが弄んでいる。
巻きつき、きつく吸い上げ、そして舌の全てを味わう様に擦り上げてしゃぶり倒して行く。
(や……ゃ、ぁあ、…………ああ、……っ)
巻きつき蠢くそれに翻弄される頭の中で、こんな風に愛されたいのだと語るもう一人の自分を感じる。
クラピカは我知らず、己の舌に嫉妬していた。
「くぅ……ふ、っん……」
なすがままにされていたクラピカの、飲めなかった唾液がとうとう唇の端から流れ落ちた。
「ん、むっ……」
ちゅぱ……と幾分名残惜しげに唇が離れる。
「――ご感想は?」
「・…………髭がチクチクしていた」
そんな恥ずかしい事を言えるかと、いつものクラピカの声が聞こえた様な気がした。
(顔は真っ赤だぜ、クラピカ)
ぬるぬると、しかし柔らかいような固いような何かが……自分の体を這い回っている。
それはただいたずらに己をさいなんでいる訳ではない。
明確な意思と目的を持っているのだ。
「……く、くすぐった、い……」
耐えきれず、クラピカは声をあげた。
「それだけなのか?」
レオリオの意地悪気な囁きが耳に響く。
「・…………」
応えられない。
そのくすぐったさが何か違うものへと変わって行くのを、クラピカははっきりと感じていた。
非難めいた言葉になったのは、その変化する己の体への戸惑いもあったからだ。
「あっ、あっ、ぁあっ、はっ……ぁあっ……」
レオリオの蠢く舌の動きに合わせるかの様に、またクラピカは声をあげる。
あえぎ声というよりは、驚きなのだろう。
だがしかし、その中にじわじわと昇り累積してゆく快感の、甘い艶が潜められているのをレオリオは感じていた。
(本当に……欲しくさせてやっからな)
顎のラインをなぞり耳の付け根から胸元へと、クラピカの細い首を存分に味わい舐め倒す。
舌に感じるのは、ひたすら滑らかな肌の感触だ。
微かに感じた汗の塩気も、もう自分の唾液に紛れてしまっている。
ほのかに香るのは、石鹸の匂いなのだろうか。
「……んう…………んん……」
このまっさらなクラピカの体に、自分のキスマークを思いきりつけたくなる衝動を、レオリオは何とかこらえていた。
(……ゴン達にバレちゃやばいだろ……)
そのまま、体を横たえた事で更に分からなくなってしまった程の薄い乳房のカーブへ舌を伸ばす。
ふっくらと……控え目に盛り上がったもののふもと。
「あ!」
円を描くそのラインに舌を這わせたその時、クラピカの体が大きく跳ね上がった。
「あ……、ああ、あ、あ……あう、あー……あ、あ」
すいすいと、舌がまるで筆の様にクラピカの胸のふくらみを弄んでいる。
(……ぁあ……ち、違う……)
吐息が乳房の頂点に触れる。だが、それだけだ。
いやらしい舌は、決して天を向く『ソレ』に触れる事はしない。
滑るように、ただ白い乳房を愛撫してゆく。
「……っふ、ぅ……ん、あ、あ……うぅ……」
漏れる声が、知らずの内に焦れたものへと変わっていた。
クラピカは――おそらく気づいていないのだろう。
レオリオは顎を濡らしている己の唾液を拭いもせずに、また綻び始めた女の色香を味わっていた。
「ぅ……ゃ……ぅう、ん、んん……っ」
クラピカは軽く身を捩った。
そこじゃない。そこじゃない…。
交差した腕の隙間から見える、唾液で濡れそぼった自分の乳房。
思い出すのは、胸の突起を弄くられた時の快感だ。
あんな風に、そこを……そこを愛して欲しい。
クラピカ自身はその実意識したものではなかったが、それは誰が見ても与えられないものを欲しがる、焦れた気持ちの表れだった。
(違う……、違う、違う……!
レオリオ……そこ……そこじゃないんだ……違うんだ……)
恥ずかしさの余り、顔を覆っていた腕が知らずに震えていた。
――切ない。
羞恥が震えを読んでいた訳ではなかった。
クラピカを支配し始めているのはかきむしりたい程の切なさだった。
(……欲しいんだよな?)
つと僅かな山からその視線をあげれば、しきり盛んに呼気を繰り返す下半分のクラピカの顔が見えた。
小さな唇が開かれ、覗かれている白い歯と赤い、艶かしい舌。
あの舌を思いきり弄んでやったのだ、と、それを思い出してまたレオリオは軽く頭を振った。
(ブレーキ、ブレーキっと・……)
……自分が読み間違うはずはない。
そのまま優しい甘噛みで、クラピカの小振り過ぎる乳房を食む。
ひん、と、一際甲高く切ない鼻声が、ひっきりなしに嬌声を紡ぐクラピカの唇から飛び出した。
……イくのが怖い、感じるのが怖いのなら、怖さが分からなくなる程になればいい。
そうして灯していたのは、クラピカを追い詰めるための炎だ。
「クラピカ……なぁ、・……お前、今俺に……何して欲しい?」
「……」
乳房から顔をあげ、レオリオは己の顔をクラピカのそれへと近づけた。
必死に顔を隠そうとするクラピカの、しかしその抵抗は力ない。
結局は腕を解かれ、上気した頬と潤んだ瞳を男へと晒す。
「……何して欲しいんだ?」
レオリオの顔は微笑んでいた。
(・……ぅっ……)
きゅうっ。
……己の秘所がすぼまった感触に、クラピカは唇を食んだ。
声をあげずに済んだのは、幸運だっただろう。
痛みに程近い、しかし切ない疼き。
「…………その」
「うん?」
クラピカは瞼を閉じた。
事務的に、普段通りに語ればいいのだ。そう、それだけだ。
そうした名称に、何の卑猥なものがあろうか。ただの体の一部ではないか。
「ち……」
クラピカは呼気を詰まらせた。舌が震えているのがはっきりと自覚できる。
(顔が熱い・……)
そして何より、ヒクヒクと……内股の、自分の何かが蠢いているのが分かった。
期待している自分がいる。
単なる言葉を、それ以上の淫猥な代物に捉え、そうして興奮している自分がいる。
いつもの自分なら、こんな己を叱咤し修正すべく内心で葛藤している事だろう。
だけれども、……それを好きな男が求めているのなら。
そうした、こんないやらしい自分も好きになれる――認められる。
「……・……乳首を、舐めて……レオリオ……・……」
「く……ああっ、あああっ……んあぁあっ・……」
口が勝手に嬌声を上げた。
(……あ、何て声を出して………出しているんだ、私は……)
クラピカは背を仰け反らせた。自身が発した声が、更に己の欲を昂ぶらせて行く。
高く、甘く、どうしようもない声だ。
(……音、なんか、立てて……は、恥ずかし、いっ……ぞっ……)
ちゅっ、ぢちゅうっ……ぴちゃっ、ぺちゃあっ
――小さな・……だが激しく自己主張をしているその乳首を、レオリオはわざと音を立ててねぶっている。
(こんなちっけぇのに、一丁前に感じてやがる……)
口を離せば、クラピカの呼吸に合わせて、忙しなく、大きく上下する――乳首。
淡いピンク色の乳輪は健気にも乳首を高くしこらせる為に輪を狭め、その色づきを濃くしていた。
しかも今は突起も輪も、唾液にまみれテラテラと光を生んでいる。
レオリオは瞬間、その光景に見惚れてしまった。
いやらしいにも程があるだろう。
(こんなちっけぇのに、何でかな……)
息を吹きかければ折れてしまうんじゃないかと、そんな錯覚さえ感じるのだ。
確かに自分の舌にねぶられると、いいようにコレは動く、震える――そして跳ねかえる。
(生意気な乳首だ・……)
そう思いながら、またレオリオは口の中へ可愛らしいソレを招き入れる。
(……くそう、畜生…………たまんねえよ!)
乳輪ごと口の中へしゃぶり込み、唇で覆った上下の歯列でコリコリと、固く天を向く乳首の根元に刺激を与える。
「あっ、あっ、あああっ! あ、ああっっ……!」
その度にクラピカはビクビクと上半身を反らし上げ、悲鳴の様な喘ぎを漏らす。
「ゃっ、ゃっ、ゃぁあっ、んあああっっ、ぁんーーーっん、んっんっんっっ!」
ぬめぬめとした舌で乳首を舐め上げる。
すると、ぷるっとわななく様に動いたそれにあわせ、またクラピカも肩をふるふると震わせて悶える。
(……ああ……ああ、ああ、レオリオ、ああっ……)
腰が勝手に浮くのを、クラピカは感じていた。
(な、何で・……私の体……あ、ああっ……)
欲しかった個所に与えられた快感。しかし満ち足りたと思ったのは僅かの間だけだった。
とてつもない快楽は、その姿を違うものへと変えて行く。
――疼く。
胸を攻められれば攻められるほど、そこに感じた感触は全て疼きへと姿を変えているのだ。
先程とはまた異なった切なさが、いやもどかしさが、その腰の奥深く――股のどこからか湧いてくるのだ。
「あっ、くうぅーーーーーっっ!」
ピクッ、きゅっ……きゅううっ。
股の間のその――どこか、がわなないた。
クラピカはズグズグ疼く感覚を何とかやり過ごす。
(痛っ・……ああ、何で・……私は……)
どこか。そこがどこだかは――分かっているのだ。
うち震えたのは、下腹部のいやらしいあの小さな個所だ。
レオリオの指にクリクリと弄くられた時の様な快感と、そして痛みに近い、しかし説明のつけられない切なさが――
(触れてもいないのに……っ)
ひとりでに張り詰めて行く。
(レオリオ……レオリオ……)
しかも自分をさいなんでいるのはそれだけではない。クラピカは頭を緩く振った。
レオリオが施す胸への愛撫が、体の全てに飛び火している。
そこかしこに、何かの炎が灯っているのだ。
ガクガクと膝が震える。肘も、腕も、足の脛も何もかも、何かを激しく訴えている。
手指の先は炎でも飛び出しそうに熱く切ないというのに、しかしその炎を消す冷水を求めている訳ではない。
レオリオの全てを掴みたい。この手で彼の全てを手に入れたい。
クラピカは、そうっと瞼を上げ――自分の乳房を食んで征服している男をちらと見た。
(あっ……)
黒く短く、整髪剤でツンと立ったその髪。
その下に、今までに見た事がない……野性的な彼の眼差しがあった。
「〜〜〜〜〜〜っっっ・……」
ゾクゾクと、いいようのないものがクラピカの背筋を駆け上がる。
きっと自分は彼に食べられてしまうだろう――そんな馬鹿な妄想すら浮ぶ程に、それは凶悪なものだった。
(レオリオ……)
自分は何て幸せな者なのだろうと、クラピカはふっと感じる。
何故なら、彼にそんな表情をさせているのはこの自分に他ならないのだ。