ヒソカの気配が消えた後、どっと毛穴から汗が噴出す感じがした。

第4次試験は、狩る者と狩られる者が交錯する、ハンティングだ。
己が狩人であり獲物でもある。
極度の緊張は疲れを増幅する。だが、試験の性格上、
ゆったりと休息を取る等ということは不可能だ。
ようやく、どうにか休息を取れそうな場所を見つけて腰を下ろした。
目の前には小さな池その向こうは切り立った崖で、そちらからの侵入はほぼ不可能。
大きな木が茂っている為、崖の上から、ここは見えないだろう。
背面には大きな木その後方は小さな傾斜地で繁みの陰になっている。
ここならまず、安全だろう。
しかし、万全を期す為に、休息は交代で取る事にしている。
こんな時は同盟がありがたい。
「今日は俺のほうが後だから、お前は先に休め」
「ああ、そうさせてもらうよ」
掻いた汗が気持ち悪かったが、このまま休む事にした。
目の前に水があるが、ここで使う訳にはいかない。
なぜなら、彼はクラピカの性別を知らないのだから。
鞄を枕に、マントを毛布がわりにし、
彼女は眠りの淵に落ちた。

どれ位眠ったろうか?
身体に感じた奇妙な拘束感に目が覚めた。
だが、目を見開いても其処は真っ暗で、何も見えない。
『ここは?・・・レオリオ!』
相棒の名前を呼ぶが、口から発する声は音にならない、
『声がでない?』
それどころか、耳を済ませても葉の揺れる音すら聞こえない。
だが、ひたひたと外気の寄せる感じを直接肌に感じる。
考えたくはなかったが、裸で寝かされているらしい。
そして自身は動けない。
だが、それだけだ。
何をされるでなく、ただ、自由の利かない裸身を
この闇の世界に晒しているのだ。

不意に、皮膚に触れるものを感じた。
軽いなにか、羽根か、紙のようなものがハラハラと、
己の上に振ってくる。
首筋や、胸の辺り、足の付け根に、集中的に降りかかる。
鳥肌が立つくらい敏感に触感だけが研ぎ澄まされた異常な状態。
呼吸が跳ねる。
降り積もったそれが、肌の上を滑って落ちる。
背筋のぞくっとする感触。他の感覚を封じられているが為に
より一層の刺激と感じてしまう。
足の先がじんわりと、痺れにも似た感覚を帯びてくる。内股を伝って、
その感覚が上ってくる。ある一点に集中してくる熱。
疼くような身の置き所のない奇妙な感覚。
熱い。胸に降り積もるそれから覗く頂が
刺激に存在を主張して立ち上がっている。
柔らかな柔らかな刺激。
もどかしさに彼女が声を上げても、その声は聞こえない。
聞こえない。
だから彼女は羞恥を、余り感じなくなってきていた。

甘い匂いが立ち込める。嗅覚が戻っている。
だが、すぐそんな思考は霧散していく。
その匂いに頭の芯が眩んでしまった・・
身体も、いつの間にか反応を返している。
ゆっくりと、与えられていた刺激に身を捩っている。
見計らっていたかのように
ペタリと、
身体に触れるものがあった。何か生暖かいものが、
彼女の全身をくまなく撫で回す。
先程までと違う強烈な刺激に彼女は大きな声を上げた。
『はぁ・・んぁっ!あ〜〜〜っ・・』
意識の奥の方でその声が聞こえたような気がした。

彼は最初、目の前で展開されている光景に度肝を抜かれた。

レオリオはいつの間にか居眠りしてしまっていたらしい。
見張りの責務を放棄したバツの悪さに頭を掻く、
そうして、慌てて隣を見ると、
赤い花に埋もれて全裸で眠ってる少女がそこにいた。
余りの光景に、それが相棒のクラピカであると彼が気付くのに
暫く時間が掛かったほどだ。


その少女は裸身を横たえ、吐息を漏らし、身悶えている。
その赤い花から覗く、仄かに淡い桃色に色付いた肌、
その様は、
少女の未成熟な体をも、妖艶な女のそれに見せている。
彼は魅入られたように身動きもならなかった。
徐々に、彼女が色の付いた声を漏らし始める。
と同時に身動ぎする体からはらはらと赤い花弁がこぼれていく。

ごくり

彼は生唾を飲み込んだ。
思考が麻痺し始める。それが鼻腔を擽る花の匂いのせいだとは気付かない。
この花が、ある動物のオスがメスに求婚する際に使用される
ディスプレイの花だとも彼は知らない。
ただ、よい香りに誘われ、意識が融けていく。
手を伸ばしたことも無意識だった。

触れた肌は仄かに熱を帯びてしっとりと手に吸い付くようだった。

夢中で貪る。花弁を振り払うように全身を撫で回す。
中から現れた白い裸身を愛しむ様に
彼女の乳房の頂にそっと唇で触れる。
彼女の脚に太股に、その先に・・・縦横無尽に彼の手が這う。
足の付け根の少しの隙間にそれは侵入した。
『んんん・・・はぁっ・・あん・・んっ』
彼女は身を捩り逃れようとするが、手は何処まででも付いて来る。

だが、先程までのもどかしさはもう無かった。
与えられる刺激に、反応する身体。
けれど、更なる刺激を身体は欲する。
今度は切なさでおかしくなりそうだ。

滑り落ちた赤い花弁の褥の上で身悶える
白い身体に重なる身体。

極自然に彼は身体を重ねていた。そうして始めて気付く、
自身も一糸纏わぬ姿であったという事に。
全神経が隣に横たわる「女」に向かっていたので
己の事まで、把握していなかったのだ。

「おかしい」と今更ながら思い当たるが、
直ぐに思考の片隅に追いやられてしまう。
そんなことより、今自分が手にしている快楽の方が
ずっとリアルで重要だ。
リアル。
だが、何故か現実感が乏しいような気もする。
そういえば、視界の何処にも
彼らが身に付けていた衣服が見当たらない・・・・。

これは夢かもしれない。
どこと無くそんな事を感じながら、彼は行為に没頭する。

夢ならば、なおさら・・・。

舌で嘗め回された彼女の裸身はてらてらと光り
身動ぎする度に赤い花弁を貼り付ける。
誘うような姿態に、
彼も応える。
押し付ける様に彼は身体をこすり付ける。
彼女をやや下方から、撫上げる様に摩擦する。
彼の身体に引っ掛る様にして、
控えめな乳房も擦り上げられる。
「・・ひゃ!・・・んんっ!ぁあん」
今までよりも強烈な刺激を与えられ
彼女がより大きく声を上げた。
今は、既に聴覚も視覚も戻ってきている。
だがそんな事はもうどうでも良かった。
与えられる強烈な快感に、どうでも良くなっていた。

初めは、腹の辺りを中心に上体を擦りつけていた。
今は、緩く開かれている彼女の太股の隙間がつくる道筋に沿い、
終点を目指すかの様に、己のものをも擦りつける。
身体全身で、半分拘束するように押さえつけながら、
蛇のように彼女の裸身を上下する。
彼女の秘所からは愛液があふれ、
赤い花弁の上に液溜まりを作っている。
大きく張詰めた男の象徴は
ビクビクと脈打ち、濡れて光っている。
互いの分泌液で滑る身体。
濡れた音。
喘ぐ声。
動きに連れて撒き散らかされる、
押し潰された花の匂い。

レオリオが私を抱いている。

クラピカはぼんやりと認識した。
今はもう、他の事などどうでも良かった。
不思議な非現実感に、
彼女もこれは夢だと思った。

夢なのならば・・・

彼女が足を広げて彼の体に巻きつける。
己を押し付けしがみ付く。

今まで、ただ、されるがままだったクラピカの変化に、
レオリオは動きを止める。
身体を起し互いに見詰め合い、口付けを交わす。
角度を変え、互いに貪る長い長いキスの後。

再びゆっくりと
赤い花弁の褥に
彼女の体を倒し、開いた脚の、
その中心の彼女自身の赤い花弁に
黒く硬くいきり立ち脈打つ、己自身を

ゆっくりと沈める。
「ぬぷっ・・」
と、音がしたような気がした。

『っ!!アっ!・・ン・・アッッ!!!ぁア〜〜〜〜っ!!!・・・ァ・・・あんっ!』
喘ぐ声は聞こえない
『・・・ずぷっ・・ビチッ・・ギチチッ・・ぴちゃ・・』
濡れた音も、
『!・・!・・!』
身体を打付ける振動すら、
どこかぼんやりと遠い意識の果てだ。
二人の脳裏には、
未だどこか薄ぼんやりとした非現実感が覆っていた。
試験の事など頭の片隅にすらなかった。
あるのは、
互いの熱だけ、繋がっている快感だけが全て。

淫欲に溺れ没頭する一対の雄と雌。

いや、そんな認識も二人にはないだろう。
柵から全て解き放たれた快感だけがそこにあった。

思考も、身体も、快感すらも。弾けた様な浮遊感と共に、
朧だった「今」という認識さえも全て飛び去って
二人は絶頂を迎え、
事切れたように
意識を失った。

そうして、どれくらい時間が過ぎたろうか?
無数の小さな気配が彼らを取り囲んでいる。
どこからとも無く現れたそれらは、
二人の「行為」の後始末を始めた。
そう、まるで、何事も無かったかのように
綺麗さっぱりと、巻き散らかされた花やら体液やら何やらを、
拭い去っていく。

クラピカの身体に付着した汚れ。
押し潰された花の汁や唾液や陰部から零れ出る精液・・
そんなものも丁寧にぬぐい去られていく。
完全に脱力し、意識を飛ばしたままの彼女はまったく気付く気配はない。

レオリオの方も、身体に付いた汚れを綺麗サッパリ拭い去られてしまった。
背中に付いた、小さな爪痕なども、なにやら薬のようなものまで塗られ
拭われていく・・・
・・・股間の大事なモノまで清められても
こちらも起きる気配はない。

そうして、二人の剥ぎ取られていた衣服まで持ち出し、
きちんと、着付けてしまった。

全てを元どうりに見せかけ、
その小さな生き物達は来た時と同じ様に
森に溶け込むように去っていった。


当の二人は、何事も無かったように
朝を迎えるだろう。
あの花の効力はいろいろとあって、
催淫と身体の疲れを取る事と、その他に
人の場合、避妊効果ともう一つ、
記憶に影響が出る。
ぶっちゃけ、
何も覚えていないのだ。
せいぜい、「いい夢を見た」位にしか認識できない。
結果として、気持ちの良い朝を迎える。

これら一連の出来事を知っているのは、
一部始終を見せ付けられる羽目となった
彼ら担当の試験官二人と、その報告書を読む者。
そして、
事を仕組んだ、小動物。
例の「猿」達くらいだろう。

そう、これは、例の助けられた猿が仕組んだ
一種の恩返しみたいなものなのだ。(・・・・多分。)
この花は元々彼らが発情期に使う花で、
その効力については、一般には知られていない。
だが、発情期に使う以上効力は・・・言わずもがなだろう。
(人に使えば避妊効果もあるなどと言う事は、猿達の与り知らぬ事である筈だ・・・)

日が昇る。
何も覚えていない二人は、昨日と打って変わって、
やけにすっきりとした目覚めに
互いに夜番をしなかったことを不問にした。
試験は長い。疲労の蓄積は大きなマイナスだ。
疲れが取れているのだから、良しとせねば!

 第4次試験、ハンティング。
『狩る者と狩られる者』はまだ中盤。







追記

蛇足だが、
本人達は試験に合格してハンターになり、
ハンター試験の試験官でもしないかぎり、気付く事はないだろう。
試験官になって、例年の試験の資料を当たるとき、
自分達のことでも調べない限りは、ほぼ気付く機会はない。
そうでもない限り、提出された記録は
当人達の目には触れないのだ。

これは、悲劇か喜劇か?

本当に終劇