一体私は、何度こんなふうにこの男に抱かれているのだろう。
廃墟と化したこのビルの中に響くのは、嬌声と…ひどく淫靡な濡れた音。
壁に押し付けられて後ろから突き上げられるたびに、私はあられもない声を上げ、その行為が早く終わってくれることを望むだけだ。
もはや抵抗という言葉は私の中にはない。ただ従順に、この男を受け入れている。
「ん……あはぁっ…っやぁっ…」
単調に突き上げていた男が、急にせかすように激しく腰を使い始めると、溢れ出した愛液がゆっくりと太腿を伝い流れ落ちていく。
その感覚にぞっとする間も与えられず、さらに男は中を掻き回すようにして快楽を貪っていく。
「あんっ…ぅんっ…く……あああっ……!!!」
耐え切れず私が限界を迎えても、男は愛撫の手を休めることなく、私を追い詰める。
耳の中に舌を差し込まれ、ピチャピチャと音をさせられると、私はもう立っていることもできなくなり、男に体をゆだねた。
「……まだだよ◆」
男は秘所に手を滑らせながら耳元でささやく。
「ほら、キミのここももっと欲しいと言ってるよ?…クラピカ」
口元を歪めて笑うその男の顔は愉悦にまみれ、凍りつくような眸で私を捕らえ離さぬまま、
再び行為は残酷にも繰り返されていくのだ。
「ん・・・やあっ・・・・・そこは・・・」
ヒソカの指が花芯に触れただけで、体が大きく震えた。強弱をつけて捏ねられると、自らも自然と腰を揺らしてしまう。
「ぅあん・・・ふあっ」
そんな様子に満足したのか、ヒソカはいったん体を離して私の体を冷たい床に組み敷くと、再び欲肉を熱く濡れた中に挿入した。
「ああっ!!・・・ん、はあ・・・っ」
動きを早めながらも、たわわに揺れる胸を掴まれ激しく揉みしだかれる。
「今日のキミはすごく扇情的だね◆・・・ここも最初からヒクついて・・・もしかして、来る前に誰かにしてもらってきたのかい?」
そう言われて私が小さく震えると、ヒソカは動きを止めて、クス・・と一笑した。
「・・・図星みたいだね◆」
私の頬を一舐めすると、耳元で囁く。
「誰にしてもらったの?あのレオリオとかいう男かい?それとも・・・」
「知らな・・・いっんあああっ!!」
突然最奥まで貫かれて、思わず大きな声を上げてしまう。
「フフ・・・それとも、キルア?
その言葉にあからさまな反応を見せてしまい、ヒソカは目を細めた。
「へえ…キルアにしてもらったんだ◆」
私を見下げるヒソカの視線に耐えられず顔をそむけると、ヒソカはククっとくぐもった笑い声を発した。
痛いほどに注がれる視線に、自分の頬が赤らんでいくのがわかる。
見透かされてしまった――――――よりにもよってこの男に。
確かに自分はここへ来る前に、キルアと関係を持ってしまっていた。
ふとした事でこうしてヒソカと逢瀬を重ねていることをキルアに知られてしまい、問い詰められているうちに…
『ゴンとレオリオには内緒にしといてやるよ。だからさ…』
そう言って私に圧し掛かり、着衣を乱していくキルアを、私は拒絶することができなかった。
無理やり体を繋げられて、ただ欲望のままに私の中を掻き回され、白濁したものを受け止めてしまった自分。
そんな事があっただけに、その後ヒソカに会おうなどとは考えられなかった。
しかし、この体は…浅ましい私の体は、キルアの性急な愛撫だけでは物足りず、気づけばこの廃ビルの前にたどり着いていたのだ。
――――この男なら、私の意志とは無関係に、体に潜む熱を満たしてくれるということを、嫌というほど知っていたから。
だから今こうして身を委ねているのだ。
ヒソカは私の顔を自分の方へ向かせると、優しく口唇を重ね、舌を進入させて私の舌と絡めさせ始める。
「ふうっ…んんぅっ……」
口端からは唾液が溢れ、頬に流れ落ちていく。
ヒソカはゆっくりと口唇を離すと、流れ落ちる一筋の唾液を舌先で舐めとり、顔を上げた。
「…ヒソカっ…もう…」
愛液でぐちゃぐちゃになっているそこが疼いてたまらない。
私が腰を動かし始めると、ヒソカはやれやれといった表情で私の腰を押さえつけ、その動きを止められてしまう。
「やっ…どうして……」
ヒソカは押さえつけたまま、胸の膨らみの上で薄紅色に色づく乳首に舌を這わせ、きつく吸い上げた。
「あああっ!!」
舌先で転がされてしまうと、さらに疼きは高まっていく。
わざと音を立てて焦らすように、胸の突起を舐められ吸い上げられる。
与えられる愛撫に、自然と体がうねり熱い吐息がこぼれた。
ヒソカの巧みな舌使いに反応するかのように、秘所の内壁は不規則に収縮し、埋め込まれた男のモノを締め付ける。
「ヒソカ…んっ、お願いだ…もう、もうっ…」
必死に懇願する私に対して、ヒソカは恍惚とした表情を浮かべその様子を観察していた。
その悪魔の様な笑みは、私をさらなる闇の中へと誘う。
「じゃあ、ちゃんとどうして欲しいのか言ってごらん…言い方は前にも教えてあげたはずだ◆」
まるで幼子に言い聞かせるように囁くと、愛撫していた突起をきつくねじり上げられる。
「ひっ……っ…」
「言わないとここで終わりだ――――それはキミもつらいだろう?…満足させてもらうために、ボクに抱かれにきたんだからね◆」
苦痛に顔を歪める私に、さらに追い討ちをかけるように被虐的な言葉を浴びせる。
「フフ、この間だってちゃんと言えたじゃないか◆ボクの目の前で、自分で足を広げて――――――」
「やめろ!!」
両手で耳を塞いで、ヒソカの言葉を遮る。
もはや拒絶できないことなどできないと、私も、この男も知っているのに。
自分で自分を辱める言葉を強要された記憶を呼び起こされ、追い詰められていく。
抗うことはできない。
震えながら口を開いた。
「わ…私の……」
ヒソカは静かにその言葉を待った。
―――――その時だった。
廃ビルの静寂をかき消すように、甲高い電子音が鳴り響く。
それが自分の携帯電話の着信音だと認識したときには、ヒソカの手が、すでにその音のする方へと伸ばされていた。
邪魔されたせいか、明らかにヒソカは不機嫌そうな顔をしていた。
今日に限って電源を切り忘れるとは…。
ヒソカは傍らに無造作に脱ぎ捨てられていた私の衣服の中をまさぐり、携帯電話を取り出す。
嫌な予感がする。
ディスプレイに映し出されているであろう発信者の名は、私からは見ることができなかった。
代わりにその名前を確認したヒソカは、不機嫌そうな表情から一転して、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「…誰からだと思う?」
まだ着信音の鳴り止まない携帯を見ながら、ヒソカが問い掛ける。
誰であろうと関係なかった。
今すぐ携帯を取り返さないと、ヒソカのことだから何か企んでいるに違いないのだ。
意を決して上体を起こし、ヒソカの手から奪い返そうと手を伸ばすも、実に器用に私の腕を捕らえ、床に押し戻される。
両手首は左手で押さえつけられてしまった。下半身は先刻から圧し掛かられたままなので、もがこうにも身動きがほとんど取れない。
ヒソカはゆっくりと顔を近づけ、私の耳に携帯をあてがった。
「ゴンからだよ…出ないと失礼だよね◆」
「!!」
驚きで瞳が見開くのを見ると、ヒソカはより一層恍惚とした表情をする。
「嫌だ!!やめろっ…!」
指が通話ボタンに掛かるのに気づき、やめるように懇願するが、非情にもボタンは押されてしまった。
『もしもし?クラピカー?』
何も知らない無邪気な声、よく聞き知った声。
「ゴ…ン……」
一気に青ざめていく私の顔を見て、ヒソカは満足そうに微笑む。
『あ、クラピカ!今どこ?…部屋にいないから心配したんだよ?キルアがさー、電話しろってうるさくってさ…イテッ、なんで叩くんだよ、キルア――――』
いつもと変わらないゴンの声が、余計に今自分の置かれている状態の異常さに拍車をかけた。
私に電話に出るよう促してから、突き入れられたままであった男のモノが私の中で欲情し、その凶悪な形状を次第に変えていくのがはっきりと感じ取れる。
「んっ…くぅっ」
その奇妙な感覚に思わず声を上げてしまう。
「ゴンっ…私は、大丈夫だから…だから電話を切ってくれ…」
とにかくゴンには知られたくない一心で頼みこんだ。
キルアに知られた上に、口止め代わりに彼に身を委ねてまで隠そうとしたことが、このままでは無意味になってしまう。
それだけは、どうしても避けたかった。
「ゴン、早く電話を―――――」
そう言いかけたとき、電話の向こうの気配が変わった。
『もしもし?…オレだけど』
キルアだった。
『ゴンなら部屋をちょっと出て行ってもらったよ。ここにはオレしかいない。…あのさ、今日のことだけど』
今日のこと…?
今更謝るつもりとでもいうのだろうか。それよりも今は…
「キルア、そのことなら…もういい…いいから、電話を切ってくれ、た…頼む」
『……わかったよ』
懇願する私に、少し沈黙した後キルアは承諾した。
私はその言葉に安堵したが、それも束の間の幻――――――
「…そうはさせないよ◆」
キルアと会話している間、終始沈黙していたヒソカはそう言い放つと、私の耳にあてがっていた携帯を取り上げた。
その行動に、はっとして体をもがこうにも、腕を押さえつけていた力がさらに強まり無駄足に終わる。
静かに携帯を自分の耳にあてたヒソカは、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「電話を切ることは許さないよ…もし切れば、クラピカは無事では済まない◆」
その声に、キルアは絶句した。
聞くはずもないと思っていた相手、ヒソカの声。
それが何を意味しているのかということは、2人の濃密な関係を知ってしまったキルアにはもはや明白だった。
「いいかい?…キミはそこで、そのまま、全てを聞いていればいい……全てをね◆」
今のヒソカの言葉に偽りはなかった。
おそらく電話が切られれば、何の容赦もなく私を手にかける。
―――キルアも理解しているはずだ。これまでの経験から。
ヒソカは携帯を再び私の頬にあてがうと、上体を倒して、より私の足を開かせた。
「…ぃゃ……」
か細い拒絶も、もうヒソカの前には何の抵抗にもならなかった。
最初と変わらぬ冷たい双眸が私を捕らえる。
「さあ、キミの望むように―――してあげるからね◆」
頬に軽く口付けると、無残にもゆっくりと腰を動かし欲肉を私の中へと抽送し始めた。
「…あっ、んっ…いや…いやっ…」
散々焦らされ尽くした体は、与えられた甘美な動きに素直に反応する。
キルアに聞かれてしまっている、それさえも悦楽の道具の一つになってしまっていた。
声を抑えようにも、一度溢れ出したものは止めようがなかった。
突き入れられるたびに、うわ言のように繰り返す。
「はあっ…ああっ…あ…ぅんっ…」
その反応に、ヒソカの高ぶりも益々膨らんでいく。
狭い膣壁を擦り上げれば、淫らに己れのモノを締め付ける感触に、その動きを助けるように奥から愛液がしとどに溢れ出す。
「そんなに締め付けたら、ボクも我慢できないじゃないか◆」
卑猥な言葉をわざと携帯のそばで囁く。
「やっ…聞かないで…キルアっ…!!」
嫌々と首を振るもどうしようもなかった。
全て、聞かれてしまったいるのだ。
―――電話越しの甘い嬌声に、キルアは何も考えられなくなっていた。
数時間前には自分に抱かれていたはずの彼女が、今は別の場所で別の男に犯されているのだ。
その何とも形容しがたい声が、先刻のクラピカとの情事を甦らせる。
『っ…ぁぁっ…ゃ…』
漏れ聞こえる音に、キルアは無意識の内に自分の手をズボンの中へと差し込んだ。
すでに高ぶり始めているモノに触れる。
「…クラピカっ……」
キルアにも、どうしようもなかったのだ。
浅く、深く突き上げられる。
意識が徐々に混濁し、与えられる感覚に飲み込まれそうになる。
聞かれてしまっていることへの羞恥が何とか理性を保たせるためのものになっていた。
そして、携帯から聞こえてきたキルアの荒い息遣い。
その声から、キルアが何をしているのかというのを知るには十分だった。
これ以上醜態をさらしたくない、早く終わってほしいと願うも、ヒソカの動きはさらに激しくなるばかりだった。
愛液は双尻を伝い、床に小さな水溜まりを作るまでになっていた。
押さえつけられた腕は解放されたが、抵抗する気力も残っていない。
「ん…あっ……ぅ…」
ヒソカは繋がっている秘所を指の腹でなであげ、わざとそこに意識を集めさせて、自分と交わっているのだと確認させた。
溢れる愛液を指に絡め、ネチャネチャと音をさせて、眼前で指を弄んでみせる。
指と指の間に糸を引き、ぬらぬらと光るそれに、ヒソカは気をよくしていた。
「ボクのがそんなにおいしいのかな?こんなに涎を垂らして…◆」
ヒソカは指を舐めると、再び秘所へと手を這わせ、その行為を繰り返す。
膝裏に手を掛けて太腿が胸につくまで折り曲げられてお互いの結合が深まり、
抽送に合わせて聞こえてくる卑猥な濡れた音がより一層大きくなった。
「いやっ…ヒソカっ…!!」
ヒソカは携帯を秘所へ当て、その音までもキルアに聞かせてやる。
思惑通り、電話の相手の声が余裕のないものへと変化した。
――――所詮はまだ子供。直接的な快楽の証拠を聞かせてやるだけで、随分満たされるものだ。
ヒソカは心の中でそう呟く。
己のモノは挿入したまま体を返され、四つんばいにさせられると、後ろから再び激しく叩きつけられる。
「ああっ!!」
獣のように獰猛に突き入れられ、愛液が衝撃で飛び散る。 腕の力では自分の体を支えることができなくなり、腰だけ高く突き出した格好になる。
ヒソカは携帯を私の顔近くに置くと、快楽を得ることだけに集中し始めた。
狂いそうなほどの衝撃と下肢の疼きに、私も腰を動かし行為に没頭した。
携帯から聞こえる声と音を、うつろな表情でキルアは聞いていた。
下着はすでに耐え切れず放った精で汚れていた。
解放感と己のした行為への後悔からか、手もズボンの中に突っ込んだままで動けずにいた。
相変わらず情欲を掻き立てる声が聞こえる。
しばらくその声を味わっていたかった。
しかし、ふと部屋の扉の方に気配を感じて視線を送ると、そこにはいつのまにかゴンが立っていた。
ついさっき入ってきたようだったが、自分のしていた行為を見られてしまったのではないかとキルアは焦った。
「いつまでクラピカと話してるの?待ちくたびれちゃったよ」
少し膨れっ面をさせてゴンが近づいてくる。
どうやら感づかれてはないらしい。こういうときはゴンの鈍感さがありがたいものなのだが…。
キルアはとっさに携帯を伏せた。
「…あっちに行ってろって言っただろ?まだ大事な話が…あっ!」
キルアの言葉を全部聞き終わる前に、ゴンはキルアの手から携帯を取り上げた。
「何?大事な話って。キルアばっかりクラピカとしゃべってずるいよ!もしもしー、クラピカ?」
「やめろ、ゴン!」
止めようにもまだキルアも思うように体が動かなかった。
ゴンはそんなキルアに舌を出して、部屋から携帯を持って飛び出した。
『もしもしー?』
無邪気に話しかけてくるその声に、悦楽に浸っていた体が強張った。
ゴンの声…もう聞くはずないと思っていただけに、一瞬で心が醒めていく。
電話を切ってしまおうと、すぐ側にあった携帯に手を伸ばすが、それより先にヒソカが携帯を奪い、また耳元にあてがってくる。
後ろから依然として行為を続けるその男に、目で必死に止めるよう懇願するが、その表情に再びヒソカの熱が高まり、さらに腰を使い攻め立てる。
「あっ……や…あっ…」
思わず声を上げてしまう。ゴンにもしっかりと聞かれてしまった。
『どうしたの?クラピカ。』
その声が快楽に喘ぐ声だと知らないゴンは、苦痛の声だと勘違いしてしまっていた。
『大丈夫?…すごくつらそうだよ』
心配そうなゴンを後目に、ヒソカの突き上げに追い詰められていく自分を止められなかった。
荒い息をつき、大きく足を広げさせられ、秘所からはとめどなく愛液が溢れてくる。
「ぁ…ご、ゴン…ん……」
ゴンの問いかけに答えようにも、言葉にならなかった。
『どうしたんだよ、クラピカ。……そこに誰かいる?』
ゴンは、電話越しでもクラピカ以外の誰かの気配を感じていた。
その気配に嫌な感じを受けてはいるが、それが誰なのかはわからない。
――――その相手にきっとクラピカは苦しめられてるんだ。
そう確信したゴンはいてもたってもいられなくなった。
『クラピカ、今どこ?そこにいる奴に酷いことされてるんだね!オレが助けに行ってあげる!』
そんな自分を思うゴンの言葉に嬉しく思うが、そんなわけにはいかないのだ。
これは自分でヒソカに頼んだことであったし、こんな淫猥な状態を特にゴンには決して見せることなどできなかった。
「…いい…必要ないんだ…ゴン…」
そういい捨てると、抵抗する気力も失せ、ヒソカの愛撫に完全に身を委ねた。
私の中を蹂躙するヒソカのものを強く締め付け、ビクビクと体を震わせ達すると、ヒソカも激しく突き入れながら、私の中に熱い欲を吐き出した。
「ああっ――――――!!」
絶頂を迎えた私は一際大きな嬌声を上げると、ゆっくりと冷たい床に身体を崩れさせた。
体がひどく重くて、起き上がる事もできない。
「ぁ…ぅ……」
まだ互いの腰は密着したままで、男は微弱に震えながら私の中に残滴を注いでいた。
まだ熱く脈打つものを時折前後に揺すり、その余韻をも楽しむ。
荒く息をしている私を撫でながら、髪を指に絡ませる。
そんなヒソカに対して、耳元ではゴンが何度も私の名を呼んでいた。
その澄んだ声はとても心地良いものだったが、自らの穢れを思い知らされるような感覚にも襲われる。
『クラピカ!ねえ、クラピカ!!』
返事をしない私に動揺したのか、少しゴンの声が強い口調になった。
「…ゴン……」
静かに答える。
『クラピカ!よかった…何かすごい悲鳴みたいな声聞こえたから…』
しっかりと達した時の声も全て聞かれてしまっていたらしかったが、まだその声の意味を解していないのが何よりの救いだった。
「もう…大丈…夫だから…。すぐ帰る…」
精一杯普段と変わらないように話すと、ゴンもとりあえず安心したのか一息つく。
『…ホントにすぐ帰って来てよ?』
まだ疑っているようだったが、自分の帰りを待ちわびてくれていることが素直に嬉しい。
「…ああ、帰るよ」
優しくそう答えた時、ふいに通話が途切れた。
電話を切ったのはヒソカだった。
「もう電話はいいだろ?」
ヒソカは役立たずになった携帯を放り投げると、項にかかる髪をかき分けて首筋に口付けた。
唐突に切れた電話に不信に思ったゴンだったが、『帰る』という言葉を信じて電話を掛けなおそうとしていた手を止めた。
様子がおかしかったのは気になるが、クラピカが無事なのならそれで良かった。
「電話、終わったのか?」
廊下の向こうから走ってきていたキルアにそう聞かれた。
ゴンは頷くと、携帯をポケットに入れた。
「ねえ、キルア。クラピカ一体何してたの?」
真顔で聞くゴンに、キルアは電話で話しても気づいてなかったのかと驚いた。
「え?……あ、そうそうなんかさ、マッサージしてもらいに行ってんだってよ。オレがこの前いいとこあるって紹介したんだ」
普通ならすぐに嘘だとばれそうな言い訳だが、ゴンはあっさり納得している様子だった。
「そっかー、だから苦しそうな声してたんだね!何だ、心配して損したー」
明るく笑うと、ゴンは一足先に部屋に戻っていった。
「…クラピカの奴、この口止め料は高くつくぞ…」
キルアはポツリと呟くと、ゴンの後を追った。
再びの情交の後、未だお互いに荒い息をつく中、私はゆっくりとヒソカから体を離す。
座位の形でつながっている秘所から、ずるりとヒソカのものが抜け落ちる。
その感覚は、幾度こうして体を重ねてもどうしても慣れぬものだった。
完全に体を離すと、傍らの衣服を手に取る。
「帰るのかい?」
背後から言われたと同時に腕を掴まれ、またヒソカの方へと引き寄せられた。
「ヒソカ、もう十分だろう」
ゴンに早く帰ると言った手前、いい加減帰らないといけない。
ゴンとの電話が終わってからかなり時間が経過しているはずだった。
もう邪魔はいないからと、あの後ヒソカは思うままに私を抱いた。
今もまだその名残が私の体内に残ったままで、体を動かすと内腿を伝い落ちていく。
「まだ足りないと言ったら、キミはボクに付き合ってくれる?」
「…戯言を」
男の顔を睨みつけるが、ヒソカは楽しげな表情で互いの体液を充たした秘所へと指を這わせた。
つぷりと難なく指が入れられ、音を立てて中から液を掻き出し始める。
「やめ…っ…ヒソカっ!」
秘所を弄ぶ指を排除しようとするも、私の腕を掴んでいるヒソカの力が強まって、そちらに気をそらされてしまう。
その痛みとかき立てられる情欲に、ヒソカの胸に額を押し当て必死に耐えた。
「ホラ、まだしたいんじゃないか◆…素直じゃないね、キミは◆」
指を抜き取ると、ゆるゆると腰の辺りをラインに沿って撫でられる。
「場所を変えようか?…例えばあの2人の寝てる部屋の隣でとか…」
「バカな事を言うな…これ以上は…」
拒否すると、ヒソカは私の手の中の衣服を奪い取ってバラバラに切り刻んでみせた。
「な、何を?!」
口端を釣り上げて鋭い眼光を私に向けた。
「ほら、これではうかつに1人で帰れないだろう?ボクがいないとね…まだ夜明けまでたっぷり時間はある◆」
ヒソカは立ち上がると全裸のままの私を抱え上げた。
「あ、部屋はもうとってあるんだ◆…さあ、行こうか?」
事前に部屋まで用意してあるという周到さに、嫌な考えが頭の中をよぎる。
まさか―――――――――
「…ヒソカ、もしかして最初から…全部…」
ここへ来る前にキルアに抱かれていた事も、電話の事も、すべて?
今更ながら、携帯電話の電源は確かに自分で切っていたことを思い出す。
キルアに自分とヒソカのこのような関係が露呈したことも、ヒソカの策略の内だったのかもしれない。
私の問いに対してただ微笑み返すだけのヒソカの様子に、それは疑惑から確証へと変わった。
腕の中で暴れる私をうまく押さえつけると、外へと歩みを始める。
「今夜は久しぶりに楽しい夜になりそうだね…◆」
そう言ったヒソカの目には、狂気の色が浮かんでいた。