「ふっ……、んんッ」
あられもない声が出る。
自分の痴態を少しでも曝け出さない様にと、クラピカは人差し指を軽く噛んだ。
だが手指、そしてその白い手の甲は先程までの情事の痕跡をまざまざと残していた。
自分の唾液と、男の精液が混じった独特の匂い。
短く吐く呼吸に、忙しなく働く鼻腔がその――芳香を十二分に吸いこんで行く。
 (……染み渡る……)
たまらなくこの匂いが好きだ。
脳がジンジンと痺れ、そして身体の隅々にまでこれが意味することのサインを送り出す。
もちろんそれは身体の、一番敏感な部分にも行き届く。
 「んあ……、あ、あ、あ……」
拙いながら扱きあげた怒張が、ビクビクと亀頭の先を膨らましたその瞬間に、いきなり押さえつけられた頭。
咥えさせられた口に、勢い良く噴射してきた白い液体。
驚きに動きを止めた舌は縮こまり、唇と肉棒の僅かな間からダラダラと零れ落ちた。
粘ついた男の精子が降りかかった手指を、たれ落ちた手の甲を、赤い舌で舐め掬って男に見せ付けてやりもした。

 (これが好きだ)
これが好きだ。好きだ。おまえのこれが大好きだ。
おまえのこれは私だけのものだ。おまえの源、おまえが持つ源、だから私はこれが大好きだ。
おまえが大好きだ。
そう熱っぽく見上げれば、男は詰まった息を吐き出して、自分を寝台へと押し倒した。
捲り上げられたシャツ、素肌にあるのは小さな突起。
乙女の膨らみとは無縁な乳房だ。
 「あ、いい……っ、いい、気持ちが……いいんだ……」
音を立てながら舐る男に、乳首を唇で甘く噛むその男に、そう言ってまた吐息をつく。
 「……あのよ」
男が水音を立てて身体を少し離した。顔と顔が、瞳と瞳がふっとぶつかる。
 「ここから……出ればいいな」
 「?」
火照る頬の赤みは、とっくに男に、彼にばれているだろう。
いや、もう秘められた個所がどんなに熟れているのかも。
 「……乳。母乳って、ヤツ」
 「え……」
投げかけられた言葉の真意が飲みこめず、計れず、ぼんやりとした答えを返す。
 「それまではオレのものな」
照れ臭そうにそう言うと、男はまた平らな乳房に顔を埋めた。
暗い部屋の中、そのトレードマークの不精髭を肌に当てないように気を遣いながら。

(おまえがすきだ)

それは誰の言葉だったのか。