手が這いずり回る。
嫌悪感で毛羽立った肌の上を。
生暖かい少し湿気った人の手が
体温の高い厳つい手が
冷たい爬虫類を思わせるような手が
脂ぎったねっとりとした手が
這いずり回る。
ウールや絹の品定めをするかのように
むき出しにされた肌の上を撫で回されるのは
女にとって屈辱以外の何物でもない。
だが今、
彼女は競りに懸けられている商品でしかなく、
この男達はまさしく品定めをしているバイヤーなのだ。
ブラックマーケットに懸けられている商品。
それが今のクラピカの立場。
破産したノストラードの残務処理に出向いた先で突如拘束された。
逃げる事は可能だったのだが、
そこがネオンのリストにあった、ボスが人体収集家の組織だったこともあり、
情報を得ようとわざと捕まったのだが…
皮膚感覚が、全裸に近い姿で晒されている事を伝えてくる。
周囲の空気の澱み、どよめきから
かなりの人数がいる明るい室内なのだろうと推測する。
頭に感じる圧迫感から、ヘッドギアのようなもので顔を覆われているのだろう。
これが眼と耳も覆っていて、何も見えず、聴こえるのは耳障りな音ばかり。
微妙に調整されたそれは、獲物の集中力を奪い抵抗を封じている。
事実クラピカの精神力を持ってしても、
ぼんやりと、緋の目がばれた訳ではなさそうだと考えるのがやっと。
これ以上の考察を許さず、逃げる隙を掴む事すら出来ない。
その間も、様々な男達が彼女の身体を弄っている。
だが、なにもかも遠い世界の出来事のように
クラピカには実感がない。
ぼんやりとした夢の世界にいるようだ。
乳も腰も控えめなスレンダー過ぎる細身の体だが、
そうした女を好みの男を顧客に持つバイヤーや、自身がそういう好みである男が
クラピカに群がっていた。
顔立ちは美形、身体はよく締まっており、肌も滑らかで透き通るように白く仄かに桃色。
小ぶりながら形のいい乳房の頂には明るいピンク色をした乳首がつんと起ちあがり、
脚はスラリと真直ぐに伸びている。
秘部にうっすらと生える金色の産毛が、その頭髪が染めたものではないことを証明していた。
ヘッドギアの偏光レンズ越しの瞳は碧眼だ。
上物だ
だが感度はどうなのだ?
男達は先程からクラピカの身体を念入りに撫で回している
ほとんど舐めるが如く、首筋や乳首に息を吹きかける者や、
監督官の眼を盗み、商品を競り落とすまでは禁じられている行為、
脚の付け根付近から奥に手を伸ばす者までいる。
だが、この商品は喘ぎ声一つ上げない。
ヘッドギアのレンズ越しに見える表情にも
あまり変化は現れない。
バイヤー達の不審の目に応えるように
ニヤリと下卑た笑いを浮かべた監督官が
クラピカに被せたヘッドギアの耳の上辺りに触れた。
耳障りな音が変わった。
突然、冷水を浴びせられたのかのように
クラピカの意識を覆っていたベールが剥ぎ取られた。
ぞくぞくぞくっと、背筋を走る感覚に脚に力が入らなくなった。
がくりと、屑折れる。が、
両手が頭の上で縛られ吊り下げられているので倒れはしない。
だが、力の入らない身体の自由は完全に失われてしまった。
彼女は、色を含んだ悩ましい声を上げて叫んでいた事にも気付かない。
身体の内から込上げてくる熱いあの感覚。
以前、愛した男に抱かれた時に覚えた
体中の熱が奔流のように
ある一転に集中していくあの高まり。
追い詰められるあの感覚。
その後に訪れるあの柔らかく痺れて融けてしまう予感
それを待ち望み熱くなる身体。
意識の解放と同時に与えられた、
男の手が体中をねっとりと撫で回す愛撫のような刺激と、
耳から流れ込んでくる性欲を刺激する信号に
クラピカの意識は拡散してしまった。
世界が紅くなるのだけは理解できた。
バイヤーが気色ばむ。
今やここには発情して悶えるみだらな雌がいる。
先程までの無表情が嘘のように
紅く潤んだ瞳を向け、半開きの唇から零れるくぐもった喘ぎ声は熱を孕み
上気した肌は桃色に染まり、誘うように腰をくねらせ、脚を擦り合わせている
太股には溢れ出た情欲の液体がぬめりを光らせて伝い、床に滴る。
全身で男を求めて身悶える若く美しい極上の雌。
人形から生きた人間に戻った商品を男達は確かめようと
我先に乳房にむしゃぶりつき乳首を舐め、顔を埋める
身体が反応を返す。喘ぎと共に脚が開かれ
ぬめりを帯びた其処が晒される。
既に紅く色付きひくついて。
まるで囁くかのように愛液を溢れさせている
太股には幾重にも滴った跡がはしり、
鈍く光って飾っている。
男の一人がその跡を追うように舐める。
何人もの男が舐めあげる。
その刺激にクラピカは一際高い声を上げ応えた。
吊り下げられた格好のまま何人もの男を従えて
奉仕させているかのような錯覚を生む光景だった。
クラピカは
次から次に与えられる性の刺激に
何度か軽い絶頂を迎えていた。
連続してイカサレルのだが、肝心の刺激を与えては貰えないので
気も狂わんばかりに悶えている。
全身に全く力が入らず、身体を支えているのは纏わり付く男の身体と。
吊り下げられた縛られた手だけ。
それでも、汗と涙と愛液と自分や男の唾液でぐちゃぐちゃになった身体は
最後の刺激を欲して身悶えている。
もう他の事などどうでも良かった。
早く貫かれる快感を味わいたかった。
だが、それは落札者だけに許される事だ。
男たちは、商品の女に
己のモノを突き立てることは許されてはいない。
ギリギリの所まで高められた女を
落札者がその決定の直後に周囲の羨望の中、
犯す。
それがこのオークションの醍醐味。
落札者は競りの勝利の興奮と、性の興奮の解放とを
一挙に手に入れることが出来る。
行為はエスカレートする一方だ。
競りには行為の一つ一つに規定があるが、
そんなものは別料金を支払えば許されている。
秘部に指をいれ舌で舐め、中をかき回す事までは料金のうちだ。
別料金を次々に支払いつつも
男達は競り上げる。この女を手に入れるために。
先程までの冷ややかな容貌が嘘のような嬌声と姿態
振りまかれる甘ったるい女の匂いと競りの興奮と
緋の目の魔力にあてられた男達の狂宴。
出品主の収集家にとっても、この事態は予想だにしなかった。
まさか緋の目のクルタ族だったとは。
買い戻そうと躍起になって大枚をはたく。
己の失態に舌打ちしながら。
この獲物を手に入れるためにどれ程の額が支払われる事になるのか
いまやもうどうでもいい事だった。
勝者が決まった。
高額な入札でクラピカを手に入れた男は
息も絶え絶えで、絶頂の瞬間を待つクラピカに
己を突きたてる勝者の栄誉を手に入れたのだ。
大きく脚を開かせると、
雄の侵入を今かと待ち受ける、
充分すぎるほどぬれて息づく真っ赤に熟れた肉の花。
はやる気持ちを抑え、勝利の余韻に浸りながら
ゆっくりと猛る己を沈めていき、奥を突きあげる
脱力していた少女の身体が跳ねた。
男は徐々に激しく突き入れを繰り返した。
クラピカは
ようやく得られた、
身の内を擦り突き上げられる喜びに
一際高く喘ぎ
えもいわれぬ恍惚の表情を浮かべて落ちた。
そしてその瞬間彼の組の命運も尽きたのだ。
ノストラードのように
彼もまた没落していく。
end