(ったく、あいつは根詰め過ぎだ。)
草むらに寝転んだ師匠は、木の根元に座って陽を浴びているクラピカを盗み見る。
クラピカはイメージ修行のため、必死に鎖をいじくっている。
イメージ修行開始から一週間、何としてもオークションまでに念を習得したいクラピカは、ほぼ不眠不休で修行していた。

(鎖で遊ぶこと以外するなとは言ったがな、やり過ぎだ。切羽詰まってんなー。あせってもいいことねえよ。・・・に、しても)

一心不乱に鎖をなめる仕草が艶かしい。
やわらかそうな赤い舌がちらちらと見え隠れし、鎖についた唾液が、てろりと光を放つ。
タンクトップから覗く白い肌にはうっすらと汗が浮かび、健康的な色気を引き立てる。

(・・っとやべぇ。見るの止めるか。無防備すぎるんだよ。オレが忍耐力なかったら、とっくに襲ってんぞ。)


それから数時間、クラピカは黙々と修行を続けていた。そして、日が高くなってきた頃にいきなり声を発した。
「師匠!協力してもらいたいことがあるのだが。」
「何だ? にしてもお前、ちょっとは休め。全然休んでないだろうが。長期戦なんだから、途中でぶっ倒れると余計に長引くぞ!」
「こっちに来てくれ。」(こっちのセリフ無視かよ!)ぶつぶつ言いながらもクラピカに近寄る。

「で、何でございますか?」
頭を掻きながら、ぶっきらぼうに言い放つ。クラピカは真面目な顔で答えた。

「私を鎖で縛ってくれ。」

・・・・・・・・!!!「・・何でオレが?自分でやれ!!」
「やはり自分一人でやるには限界があるからな。自分自信ではしっかりと縛れない部位もある。
 きちんとイメージを持つためには、身体で体感することも必要不可欠だろう。」

「おい、一秒でも時間が惜しい!早く縛ってくれ!!貴様は師匠なんだから、協力する義務がある!!」
業を煮やしたクラピカが、師匠にたたみかける。師匠は観念し、鎖に手をかけた。
「どこを縛って欲しいんだ?」
「まずは身動きがとれないように、両手を縛ってくれ。身体に食い込むくらいきつく頼む。鎖で動かない感覚を経験しておきたい。」
師匠は差し出された両手に長い鎖を巻き付け、ギュッと縛った。
「これでいいか?」
「ああ、次は身体を縛ってくれ。」
師匠は手首を縛った鎖の余りを頭上の木の枝にひっかけて、ぐいっと引っぱった。
クラピカの両手は、鎖に引っ張られて頭上に上がる。足は着いているが、吊られているような体勢になった。
「・・・身体が縛りにくいんでな。文句言うなよ。」
鎖を木の幹に巻き付けて固定させながら、声をかける。
「ああ、問題ない。では他のところも頼む。」
鎖の質感を感じるために、クラピカは眼を閉じた。
師匠は、改めてクラピカの身体を凝視する。全身にバランスよく筋肉がついている、しなやかな身体。
吊ったことによって、綺麗ないワキとヘソがちらりと覗く。師匠は音を立てずに唾を飲み込んだ。

胸から腹にぐるぐると鎖を巻き付け、きつく縛り上げる。鎖が身体に食い込む。
「・・っ!」
「きつすぎたか。少しゆるめるか?」
「・・いや、大丈夫だ。続けてくれ。」
クラピカは目をつぶったまま、少し苦しそうに息を吐く。

次に腰を縛り、そして太股にも巻き付けようと、足の間に手を通した。
そのときに師匠の手が内股をかすり、クラピカの身体がビクンと反応する。
「・・っ!!!・・」
クラピカの口からは、かすかに息が漏れる。

(・・・・あ――――――、ヤバいな。もう限界だ。)

師匠は縛る手を止め、クラピカの両手を吊っている鎖を切った。
「!!」
いきなり鎖を切られたクラピカは、よれけて地面に座り込む。

「お前、今日はもう休め。師匠命令だ。」
「・・!! 修行は!?」
「適度に休むのも修行の内だ。飯食ってさっさと寝ろ。」
そう言うと、師匠は後ろを向いて歩き出す。
「ちょ・・おい!!」
文句を言いかけるクラピカを無視し、この場から立ち去っていく。


(・・危なかった・・。あの姿は反則だろう・・・。)
師匠は一人、ため息をつくのであった。

[完]