第四次試験、ゼビル島。
紆余曲折を経て、レオリオと同盟を汲むこととなった私は、昼食を確保するためにレオリオと二手に別れ、
森の中を散策していた。ちなみに、レオリオが焚き木集めで私が獲物をしとめる役目だ。
既に野ウサギを二匹仕留めていたので、あとは山菜か何かを取ってレオリオと合流することにしよう。
広い草地に出る。肩が隠れるほどの丈の単子葉植物が密生していた。山菜はそこには
ないようだったので、そこからは背を向けて離れようとした。
(……?)
草地で飛び回っていた好血蝶が私のほうに向かって飛んできた。怪我らしい怪我はしていないはずなのだが。
不思議に思って見ていると、その蝶たちは私の腰のあたりをひらひらと旋回していることに気付く。
そこではっとした。
(まさか)
月の物、だろうか。予定より少し早い。
それ自体は別にどうでもよかった。問題はこれを見られて私が女だと悟られてしまうことだ。
ああ見えて医術に精通したレオリオなど、すぐに見抜いてしまうかもしれない。だが局部に厚めの布をあてがえば
血の臭いが外へ出ることもなく、好血蝶も離れていくだろう。
あいつがこないうちにさっさと済ませてしまおう。そう思い、草地にしゃがみこんでズボンに手を掛けたとき。
嗚呼、噂をすれば影。レオリオの奴が私を見とめて近づいてくる姿が。
そのままカバンの中から布を探し出してズボンと下着を下ろしてあてがいまた上げるほどの時間は
残されていなかった。というか、それ以前に身体を見られてしまう。かといって逃げても怪しまれてしまうだろう。
…結局、私は立ち上がり、レオリオに向かって歩いていった。好血蝶を引き連れて。
「よ、クラピカ。食料は採れたか?」
うで一杯に焚き木を抱えて、レオリオが言った。
「ああ、野ウサギを二匹仕留めた。あとは山菜を採るだけだ。」
顔は平静を装っていたが、冷や汗がだらだらと肌を流れていた。
ふとレオリオの視線が下へさがった。好血蝶と私の腰を交互に見やる。万事休す。
「クラピカ、その好血蝶…」
目を見開き驚いたような表情をして、口をつぐむ。ついにばれたか。覚悟を決めて、私も口を開いた。
「レオリオ、今まで隠していてすまなかった。」
「いや、いいんだ。別に恥ずかしがることでもないだろ?」
ニコリと笑う。
私が女だと知っても、その態度はまったく変わらない。
本当にありがたかった。私の方からも笑みを返す。
「ありがとう。
 だが、できればこのことは他には話さないでほしい。」
「分かった分かった。絶対話さない。仲間だろ?」
息をついて胸をなでおろした。これでレオリオが口を滑らせたりしない限り安心だ。
「しっかし意外だよな〜。
お前がまさか 痔 だったなんて!」
「はぁ?」
自分の耳を疑った。こいつ、まさか私が生理中の女だと思ったのではなく、痔だと思ったのか?
腰の周りをひらひら飛び回っている好血蝶。確かに、そう思えなくもない。思えなくもないが――
レオリオの肩にぽんと手を置いた。
「レオリオ、お前がアホで本当によかった」
表情は満面の笑顔。
「なっ、何だと…?」
いきなりアホとけなされ、レオリオが明らかにムカついたような顔になる。
かまわずに私は続けた。
「だが、医療ミスだけはするなよ?人の命が懸かっているのだからな」
ピキッ。奴の額に血管が浮き出た。みるみるゆでだこのように顔が真っ赤になる。
「さあ、昼食にするのだよ」
上機嫌でレオリオの拾ってきた焚き木にマッチで火をつける。
「おーい、クラピカ」
しゃがみ込んだ私の肩をレオリオが突っついてきた。
「ん?何だ?」
振り返らずに答えると、レオリオがあきれた口調でこう言った。
「山菜は?」
「あ…」
慌てて私は焚き火の火を踏み消した。