「おいでよ」と時間と場所を伝えれば、必ず来る。
そこに至るまでに、どんな罵詈雑言が発せられようとも。
「ふざけるな」「いい加減にしろ」「そんな暇はない」こんなのはほんの序の口。
きっと、物理的に拒否できる明確な理由がなければ断れない性格なのだろう。
今日もまた部屋のドアを背に、これ以上不機嫌な表情はできないというほどに唇の両端を下げて、ボクの目の前にいる。
「そんなに怖い顔しないでよ」
髪に触れようと手を伸ばした途端、
「触るなっ!」
総毛立った猫のように肩を怒らせて半身を後ろに引いた。
どん、とドアに彼女の肩がぶつかる音がした。
ボクの能力なんて知らせてないけど、隠す気もない。
とりあえずのところ、触れられたら自由が利かなくなることは判ってるらしい。
こんなときにはめったなことじゃ使わないのに、すっかり警戒されている。
「いいじゃない、結局触られるんだし」
ドアにぶつかったままの肩を押さえつけ、彼女が顔を背けるよりも早く唇を合わせた。

自由になっている手が振り上げられたけれど、その手首を捕まえるのは造作もない。
一歩前に踏み出して、身体を密着させた。
高級そうな石鹸の香りが嗅覚をくすぐる。
しっかりと閉じた唇を割り、食いしばった歯をこじ開け挨拶代わりに舌を絡めると、鼻からくぐもった声が抜けた。
綺麗に並んだ歯の裏の根元を舌先でゆっくりなぞってやれば、緊張した身体にさらに力がこもる。
華奢な身体をわななかせて吐息で喘ぐから。
直立を維持できなくなるほど追い詰めてやろうと思ってたのに。
「調子に乗るな」
突然めちゃくちゃに顔を振ってボクのキスから逃れ、そう言い放った。
掴まれたままの肩や手首も振りほどこうとするけれど、ボクはそんなに甘くない。
むだだと判っているのに諦めもせず、両腕の自由を奪還すべく奮闘する彼女の、ボクを鋭く見上げる瞳の色が揺らいでいる。
ああ、だからやめられない。
彼女が理性と快楽の葛藤の最中にあるとき、紅茶色の瞳に時折深紅が波打つ。
ボクと身体を合わせて彼女の理性が勝ったことなんて一度だってないから、その瞳はやがて完全な緋色となる。
「何回見てもイイね」
不安定な色彩の潤んだ瞳を覗き込んで、思ったことをそのまま口にした。
続いて軽く意地の悪いことを言ってみる。
「キミの雇い主も夜な夜なその眼を見てるわけだ?」
「……っ!」
瞬時にして瞳が燃え盛った。
図星、あるいは限りなく図星に近いのだろう。

「貴様になんの関係がある!?」
「別に関係はないよ。ただ、イヤそうにしてるわりには前より受け入れ慣らされちゃってる感じが…ね」
ピアスの光る耳に口を寄せて囁き、耳朶を舐め上げた。
「や…っ」
びくりと全身を震わせ、自分の肩に頬を埋めるように彼女は顔を背ける。
どうせ逃げられやしないのに、本気で逃げようなんて気にもなれないくせに、一応抵抗だけはするんだ。
本当はボクの要求をここまで呑む必要なんてないはずなんだけど。
ボクと組んで、ボクからの情報で少しずつ目的を果たしていく彼女にとってはこれも報酬の一環というわけだ。
彼女の生真面目さを、義理堅さを、ボクは利用する。
「脱いでよ」
再び、今度はゆっくりと囁く。
「断る」
急ごしらえに武装したような声に少し震えがあるのは気のせいだろうか。
「なにしにここに来たんだい?」
「呼ばれたから来た。それだけのことだ」
「ボクと二人で会ってすることに、例外なんてあったっけ?」
「っ!いつだって貴様が勝手に…!」
最後まで聞く気なんてない。
彼女の足首を軽く蹴り払って開かせ、太もものあいだに膝を割り入れると、言葉はあっけなく止まった。

そのまま膝を浮かせて、ボクの脚に跨る格好になった彼女の身体を持ち上げてやった。
「それでもキミが来るのは何故なんだろうね?」
言いながら膝を上げて、下ろす。
そんな単純な動作の反復で両脚の頂点を責められ、彼女は同じリズムで短い嘆息と呻きで呼吸をつなぐ。
頬にかかった乱れ髪の毛先が、唇から漏れる吐息で揺れた。
「来なかったことなんて、一度もないじゃないか」
セックスをちらつかせただけで露骨に嫌悪を表すのとは裏腹に、刺激に従順な身体。
寄せた眉に滲ませた困惑に微かな違和感を覚えたけれど、そんなものは掌の小動物を突付く楽しみの前に消えた。
「ん…っ、うっ、はぁっ、あ…ぅ」
堪える声に悦楽が差し込み始めた頃、ボクは前触れもなく膝を抜いた。
崩れ落ちるかに見えた彼女は辛うじて踏み留まり、惚けかけた表情を隠すように顔を伏せた。
「今から力ずくでも帰るって言うなら、お相手するけど?」
前髪の隙間から、ちらりと紅い瞳がボクの顔を窺った。
けれど、それも一瞬のことだった。
ボクは相当に残忍な目をしていたらしい。
結果がどうなるかは実戦に持ち込むまでもなく、彼女の本能が知っている。
「…離せ」
うつむいたまま呟くように言った彼女の身体から力が抜けた。
「OK」
言われたとおり彼女から手を離し「今はなにもしません」とばかりに肩の高さに両手を挙げて後退する。

そのままベッドに腰を下ろして待機。
見るからに面倒そうな彼女の服を剥ぐのは手間だから必要最低限の露出で簡単に済ませることもできるけど、それは随分と無粋な行為に思えた。
整った美しい顔立ちと強い意志を秘めた顔つきを思うと、どうしても。
時間をかけてじっくりと嬲ってやりたくなる。
静かな怒りと軽蔑の入り混じった目でボクを一瞥すると、彼女は後ろを向いた。
男を焦らそうなんて考えが彼女にあるわけもない。
それなのに、ためらいがちにけれども淡々と着衣が床に小さな山を作っていく様に欲情する。
民族色豊かな上着を取ると、彼女の身体のバランスのよさが際立った。
普段は衣服を床に落とすなんてことはしないんだろうな、とこちらも服を脱ぎながらぼんやり考える。
うつむき加減にシャツを脱ぎ去る後姿にはひどく投げやりな空気がまとわりついていた。
「あ、もういいよ」
黒のハーフトップと同色のローライズショーツ姿になったところで声をかけた。
投げやりながらもわずかならぬ緊張の糸を張っていた彼女から一瞬安堵の気配が立ち上ったのは、たぶん見間違いではないだろう。
どうやら「もういいよ」に解放の意を汲み取りかけたようだった。
こっちにしてみれば、あの服は確かに面倒だけど最初から全裸なのも味気ないってだけ。
なめらかな背中に影を落とす肩甲骨のラインや高い位置にある引き締まった腰を無遠慮に眺めて、次の言葉を出す。
「そのままこっちに」
彼女の肩が微かに上がり、小さな溜息と共に落ちた。
やや間をおいて、不承不承に意を決したとでもいうように振り返った彼女がこちらに向かって歩を進める。

もう少しで素手での射程距離。
そこに足を踏み入れた刹那、手を伸ばして彼女の腕を強く引いた。
息を呑む音。
「待たされるの、好きじゃないんだよね」
ボクの膝の上に座る形になった彼女の、すでに赤みの引いた瞳に怯えの色があった。
平静を取り戻す余裕なんて与えない。さっきは振り切られたから。
後ろ髪を掴んで顔を上向かせ、薄く開いた唇に舌をねじ込んだ。
「んん…っ!」
口腔を思うがままに蹂躙しつつ、暴れる身体を背後から抱え込み薄い生地の上から胸の膨らみを掌で包む。
膨らみの頂点に爪を立てて何度か引っ掻いてやっただけで、小さな突起が浮き出てきた。
布地ごとその芽を指先で摘み、感覚が痛みに変わる寸前まで引っ張り、柔らかな圧力を加えながら捏ね回す。
「ふ…っうぅく…ん、んっんぅあ、あ…ぁうぁ…」
ボクの指が動きを変える度、塞がれた唇から苦しげな声が溢れた。
膝の上で細い腰がくねる。
「気に入った? こんなに固くして」
唇を離して笑うと、彼女は絶え絶えの息の合間になにか言い返そうと口を開いた。
「なにが気に…っ」
言葉が最後まで出る前に強く乳首をひねり、数秒かけて指の腹でつぶしてから爪の先でぴんと弾いてやる。
「くぅぅっ、はぁ…っ!」
こんな状態で生意気な台詞など吐けるはずもなく、大きく身体を跳ね上げる姿はまるで岸に揚げられた川魚のようだ。
白い喉を仰け反らせた彼女の頭がボクの肩に落ちた。
肩を上下させ、浅い呼吸を忙しなく繰り返している。
すっかり紅く染まった虚ろな瞳に背筋がぞくぞくした。

呼び出せばいつでも遊べるのに、今この瞬間もまだ全然足りないと感じる。
紅い眼で鳴き狂うのを見たい。壊れるまで責め尽くしたい。…でも、本当に壊してしまったら?
「もうやめて、なんて言わないでくれよ? 手始めにちょっとからかってみただけなんだから」
汗で肌に貼りつくハーフトップを捲り上げ、やや控えめな乳房をさらす。
さんざん弄んだ乳首は屹立して、つんと天を向いていた。
もう一方の乳房を下からすくい、親指で乳首を押さえつけてぐりぐりと円を描いてやる。
肩をよじって胸を引くのに集中するから、そこ以外は無防備同然で。
ボクはなんの苦労もなく、空いている腕を彼女の片方の膝の裏に潜らせた。
「いやだ!」
自分の脚をどう動かされるのか気付いた彼女は突如上体を起こし、身体を縮めようとする。
勝負の決まった力比べに戯れに付き合いながら、ことさらゆっくりと形のいい脚を外側に向け持ち上げていった。
彼女のひどく強い羞恥心を煽るため。
果敢にも自由の利く片足を振り回してボクの脛に踵を打ちつけてくるのが邪魔で、早々に脚を絡めて動きを封じる。
「乱暴なコだね」
いやだ、いやだ、とうわごとのように繰り返し、駄々をこねる子供さながら首を振るのを無視して、彼女の関節の限界まで脚を拡げた。
「なにがイヤなのか判らないな。こっちはいつもより…」
下着の上から秘所に触れれば、
「あ…っ」
腰を引き、脚を閉じようとする。
それを力で押さえ込み、しっとりと濡れて熱気すら放っている部分を指でなぞると、なんの抵抗もなく指先が生地越しに沈んだ。
探るように指をスライドさせる。
「んんぅ…」
先ほど声を上げてしまったことを、下着ごと指を受け入れるほどに濡らしていることを恥じているのだろう。
びくびくと腰を震わせながらも喘がないように耐えている様子が涙ぐましい。
それがボクをさらに昂ぶらせているとも知らずに。
手を尻の方に潜り込ませ、股上の浅い下着の腰を掴んで引き下ろした。
少し背中を倒せば僕に体重を預けた彼女の尻も持ち上がる。
水気を含んだ小さな布キレを抱え込んだ太ももに引っかるだけの状態にするのは、彼女の抵抗を差し引いてもそれほど苦ではなかった。
彼女の関節の柔らかさと自分の器用さに感謝。

身体を戻し、彼女の肩越しに見下ろす。
ごく薄い金色の体毛が粘液にまみれて光っていた。
掻き分けるほどの量もないそれの奥にある溝を押し広げることもしないで、無造作に指を入れる。
一度に二本。
「ん…っ」
いや、大して迷うこともなくもう一本。
「ふ…ああっ!」
蕩けた秘肉はいとも容易く指を呑み込み、奥から締め上げてくる。
遠慮もせず、順番に指を曲げて彼女の内壁を叩く。
ぐちゅ、ぐちゅちゅ、ぐちゅちゅ…。
「ふ…ぅ、ん…くぅっ!うぁああっ!」
淫猥な音に合わせて彼女が歌う。
ボクの胸で暴れる細い肩が鼻先の空気を動かし。
気付いてしまった。
掻き回した脚の間から立ち上った、石鹸の香りとも彼女の甘い体臭とも違う男の匂い。
その男の話を振ったときの反応、あからさまに行為を避けようとする態度、そして。
いつにも増してやけに敏感な身体。
引っかかっていた些細な事柄が集約され、先ほどの違和感の正体が判明した。
形容しがたい感情が霧のようにボクの中に湧いた。
「ひっ!」
突然、彼女が引き攣れた悲鳴を上げた。
ボクが力を込めて彼女の中のいちばん弱い場所を指で圧迫したから。
「ああっ!」
ぎちぎちと音がするかと思うほど強く、ゆっくりと、その場所を押さえた指で秘肉を掻く。
「い…あああっ!」
初めて彼女を組み敷いたときから、思いつく限りの手を使ってその身体を堪能してきた。
飽きることなく貪り、知り尽くした身体が直接答える、最も敏感な一点。
そこを抉って掘り返せば彼女の全てが手に入るような錯覚に陥った。
粘膜を突き、引きずり出すように、指を滑らせる。
同じところを、何度も、何度も。
自分の中の感情は、依然として判らない。
「やっ、ぃやあああっ!ああっ!ああっ!ああっ!」
悲痛な声を発しながら、封じられた脚は架されたたがを排除しようとのたうち、抱え上げられた脚の膝下は狂ったように宙を蹴る。

両腕は秘肉を責めるボクの腕に上体ごと拘束されているから逃れようがない。
激しく左右に振られる髪が時折目に入るのが鬱陶しく、かなり力を入れているうえに予想外の締め付けを食らう指には痺れが出始めているけれど、それでも止める気などさらさらなかった。
それどころか、気付けば今まで以上の力で彼女の弱点をいたぶっていた。
「うぁああああっ!あぁああああっ!」
喘ぐ声が、いつしか喉が裂けんばかりの叫びに変わっている。
やがて。
「ひぃ…っっあああああああぁっ!」
空気の震えを感じ取ることができそうなほどに絶叫した彼女の身体が全ての動きを止め、意思とは無関係な痙攣を起こした。
そういえば、我を忘れるような責め方なんてしたことなかった。
壊れて…しまう?
これまで感じたことのない不安が薄く胸をよぎって思わず指を止めたとき、彼女の奥から熱いものが押し寄せてきた。
それが触れた瞬間、反射的に指を抜いた。
手に熱い飛沫を感じたのと、ボクが指で執拗に陵辱していた亀裂から盛大に噴き出た液汁を目にしたのはどちらが早かったろうか。
手首を濡らす温かな液体の中に混入しているものに目を留めた瞬間、ボクを駆り立てた感情がなんなのか氷解した。
自分でも信じられない。
これは、嫉妬だ。
まだ収まらない痙攣を持て余しながら、彼女は不自然な開脚を強いられたまま、しゃくりあげるような声を立てて不規則に呼吸している。
絡めた脚を解放し、掲げていたもう一方の脚を彼女が体重をかけている方向の少し後ろに軽く押しやると、支えを失った華奢な身体は糸の切れた操り人形さながらベッドの上に鈍く弾んだ。
放心してなお美しい顔と、呼吸に連動して上下する胸を眺める。
ボクらしくもない。
自分で考えるよりもこの感情を鎮めるのは難しいようだ。
抑えようと思えば思うほど、深いところから染み出てくる。
彼女と視線が合ったのを機に、ボクは口を開いた。
「随分と可愛がられてからここに来たみたいだね」
そう。念入りにシャワーを浴びて匂いを消し、身体の奥深くに注ぎ込まれたものを掻き出して洗い流してもまだ男の残滓が零れるほどに。
バスタブの縁に片足を上げて余熱の残る場所にシャワーを当て、まるで自慰のように指を潜らせて残留物を始末する屈辱にまみれた姿が脳裏にちらつく。

訝しげにボクを見る眼前に濡れた手を持っていくと、そこに残る異質のものを認めた彼女の顔色が変わった。
すっと視線を流して、ボクから目を逸らす。
言わんとしていることは充分すぎるほどに伝わったようだ。
「どんな気分?」
勝手に口が動くのを止めることはできなかった。
「逆らえない相手にいいように鳴かされた後で、違うオトコに責められるのは?」
彼女の身体を半強制的に開いて楽しむ人間がボクだけじゃないことくらい知っている。
たとえその行為が著しく屈辱的な内容であったとしても、彼女が立場上それを受け入れるしかないことも知っている。
仮に誰かに指摘されても「だから?」と即座に問い返せる程度の、瑣末な事実のはずだった。
けれど。今日は、許せない。
…いったい、誰を?
「キレイにしてよ」
彼女の肩と頭の間に手をついて身を乗り出すと、ボクはもう一度汚れた手を彼女の前にかざした。
逆の方向へ首をめぐらせて顔を背けようとしたところをまっすぐ見下ろし、正面から瞳を捉える。
あと一押しすれば泣き出しそうな顔をしているくせに、彼女はもうボクの目から逃げようとはしなかった。
桜色の小さな唇に再度手を近づけて指先を向けると、白濁がゆっくりと指を伝い始めた。
唇がなまめかしく開き、赤い舌が覗く。
艶やかな下唇に爪の先で触れてそっと撫でると、長いまつげが伏せられた。
そこだけ違う生き物のように顔を出した舌がボクの爪を舐め、男の痕跡がその先端に流れ落ちる。
指に絡みつく温かで少しざらついた感触が心地よくて、僕は目を細めた。
「いいコだ」
身体を彼女の胸の上に落として耳許で労う。
滑らかな首筋に舌を這わせ口腔の指で歯列をなぞり上げると、切なげな声が洩れた。
白い腕が伸びてボクの背中を抱きかけて迷い、結局は下からボクの肩と上腕を弱々しく掴むに留まった。
彼女の指先が微かに食い込む皮膚から、誰に向けたかも判らない憎悪が徐々に抜けていく。
頭をもたげた独占欲に気付いてはいけない。
首筋から、鎖骨へ舌を滑らせながら考える。
彼女は、その取り澄ました綺麗な顔を快楽で歪ませて楽しむためのおもちゃ。
いつ堕ちるとも知れない頑ななプライドを何度でもへし折って、それに飽きたら次のおもちゃを探す。

鎖骨から、固く尖ったままの乳首へ。
「んっ」
甘さを含んだ鋭い声が上がり、ボクの胸の下で腰が跳ねた。
自分の思考を律するのが、苦しい。
唇から指を引き抜いて性器の裂け目の始点に移動させた。
「んんんんんっ!んっ、ん…っ!」
濡れそぼった突起を探し当てるのは簡単で、つぶすように押し付けて擦ればボクの指に噛み付いて快楽に耐えようとする。
追い討ちをかけるように乳首を甘噛みし、舌先で転がす。
唇の間から指を引き抜くと、
「ああっ、やっ、あっ、あああっ」
堰を切ったように悲鳴に近い声が上がった。
浮き上がった腰をわななかせ、内股をこすり合わせてその先を求めている。
指や舌で触れられているだけでは得られない感覚を。
どうして欲しい?と言いかけてやめた。
ボクの方に余裕がなくなっていたから。
上体を起こして彼女の足首の片方を掴む。
捻るように持ち上げてその膝を自分の肩に引っ掛けると、彼女の身体が横向きに転がった。
「な…っ!?」
彼女が抗議するような声を出した。
胸に抱えた引き締まった太ももに何度か軽いキスを落とすと、その声もうやむやに消えた。
彼女の脚の付け根に手をかけて手前に寄せ、自分の先端を入り口に当てる。
「あ…」
性器を縁取る淡い体毛の陰に焼印のように散らされた小さなアザの数々に気付いたけれど、見なかったことにした。
その代わりに勢いよく腰を送り出し、彼女の中心に深々と突き立ててやる。
「ああっ!」
一気に奥まで到達したかと思うと、性器の先が小さな輪のようなものを潜った。
「ぅああああっ!」
美しい緋色の目を見開いた彼女が全身に震えを走らせて鳴き、ボクを締め上げる。
…気持ちいい。
しばらくのあいだ、彼女の子宮口を突き上げて繰り返しめくるのを楽しむことに没頭した。
「ううっ、ふ…っああっ、あっ、あああっ!」
彼女は本当にいい声で鳴く。
望みもしないのに一方的に与えられる快楽から逃れられずに悶え、追い立てられて敗北していく姿がいい。
媚びて楽しんで満足気によがる声なんて聞きたくない。
彼女の身体にすっかり夢中になっている自分を自覚して、声を上げて笑い出しそうになる。

シーツを握り締め、汗に濡れた髪の張り付いた横顔を歪めて溺れている彼女を見下ろしながら、限界が近づいているのを感じた。
溜め込んだものを吐き出したいのを堪えて、つながった部分に手を伸ばす。
「はぁ…あああああああっ!」
張り詰めた肉芽に指先が触れた瞬間、電流を受けたかのように彼女の腰が激しく震え、さらに強くボクを締め付ける。
彼女の絶頂を追って、その熱く蕩けた器官の奥に自分を解放した。
腰から背中へ、寒気にも似た感覚が抜けていく。
最後の一滴まで搾り取ろうとするような彼女の内側の蠕動に一抹の名残惜しさがあったけれど、身体を離すことにした。
彼女の顔を、間近で見たい。
深く咥え込んで、まだ強い圧力を失わないその場所から自身を引き抜いて脚を手放すと、彼女は緩慢な動作でうつ伏せになった。
隣に身を横たえようとするボクから逃げるように顔の向きを変える。
加減を忘れて責め続けた身体の背中は、荒い呼吸のたびに大きく波打っていた。
断固とした拒絶の気配を漂わせるその白い背中を見ているうちに、どういうわけか反省めいた思いが湧いてくる。
「…怒ったのかい?」
背骨のラインに沿って指を這わせると、瞬時に肩を揺すって振り払らわれた。
旅団のメンバーだったら「マジギレ禁止♪」と鼻で笑ってあしらうこともできるのに。
「ねぇ?」
うなじに息を吹きかけようと顔を近づけたとき、彼女が身を翻した。
予期しなかった動きに、一瞬怯んだ自分がおかしい。
紅い双眸が、至近距離にあった。
閉塞感を伴った重い沈黙が流れる。
努めて表情を崩さないように尽力し、唇を開いた。
「どうやら他の男の匂いに左右されずにいられるほど寛容じゃないみたいだ」
言葉にしてしまってから再びの沈黙を覚悟する。
「勝手なことを言うな」
予想に反して、すぐに言葉が返ってきた。
驚いたことに、それだけでは終わらなかった。
「貴様との約束に間に合わせるためにわたしがどれだけ努力をしたと思ってるんだ?」
ボクの目をまっすぐに見つめて言うだけ言うと、彼女はあっさりと背を向けてしまった。
意味を図りかねて、少し戸惑う。

それは雇い主の匂いを消す努力なのか。
それとも、早々に雇い主を満足させる努力なのか。
どちらの様相を想像しても、まだ萎えもせずに存在を誇示し続けるものをさらに勢いづかせるだけのようだった。
ボクとの約束に間に合わせるため、ね。
頭と身体の矛盾に気付いてないならそれでいい。
後ろから抱きしめたくなったけれど、やめておく。
どうせ全身に鳥肌を浮かべて逃げ出そうとするに決まってるから。
ベッドを降りて、彼女の顔の前に立つ。
不意に目の前に差し込んだボクの影に、彼女が視線を上げた。
視線はボクの腰の辺りで止まり、次いで唖然とした表情がボクの顔を捉える。
「キミが相手だと、一回出したくらいじゃ鎮まらないんだよね」
さすがに目尻をぴくぴくと引き攣らせて身体を起こした。
「貴様というヤツは…!」
そのまま立ち上がり、脱ぎ散らした服を取りに行くのかボクの横を抜けようとする。
すれ違いざまにその腕を捕まえてベッドに引き倒した。
「…っ!」
スプリングに撥ね返されて緩んだ脚の間に素早く身体を滑り込ませ、両手首を押さえつける。
「いいだろ?今度は優しく犯してあげるから、さ」
返事を待ったりはしない。
どんなに抵抗したって、彼女がボクを受け入れなかったことなんかないんだし。