寝静まった屋敷の巡回を済ませ、次のシフトの者に引き継ぐ。それで今日の仕事は終わりだ。
先のオークションでの29億Jなどという法外な落札額の支払いに拍車をかけるようにボスの予言が発動力を失い、
それに支えられてきたこのファミリーは没落寸前だった。
商品、と呼ぶのも不快だが、あの緋の目がフェイクであると予測できた者など誰ひとりいなかったためか、
直接落札に係わった私は若干執拗かとも感じられる嫌味や愚痴を一時的に被った他には大した厳罰や叱責を受けることもなかった。
面子とやらが重要とされる世界だ。最後まで競り合ってきた相手が相手だったせいもあるだろう。
巨額の負債を作り出した罪悪感はない。いかなる額であろうと、それは死者への冒涜に注ぎ込まれた薄汚れた金に過ぎない。
その出所にしても結局は後ろ暗いものだ。
資産たりえるものは煙のように消え失せた。雇われていた多くの人員も例外ではない。
己の目的を持つ者は進むべき方向を見つけて旅立ち、
このコミュニティーで生きていこうとする者はよりよい条件を求めてこの屋敷を後にした。
そしてこの屋敷そのものも、じき人手に渡ろうとしている。
哀れな雇用主に寄生することでしか今後を見極めることのできない私にとって、現段階で仕事上警戒すべき事柄はもう皆無に等しい。
長い廊下を進み、自室のドアノブを回した手応えで施錠が解けていることを知り、神経が尖った。
部屋の中の何者かは、気配を絶つでもなく私がドアを開けるのを待っている。
そんな真似をする人間の心当たりはひとつしかない。溜息をつきながら、ドアを開けた。
「なんの用だ?」
こちらに背中を向けて窓の外を眺めている、心当たりどおりの相手に言葉を投げつける。
この屋敷が侵入者に敏感だったのは、そう遠くない過去の話だ。だいたい、この男に屋敷の主への用などあるはずもない。
対応すべき役目を負う者は片手の指も余るほどの人数になっている。この男が彼らを問題視するわけがなかった。
「つれないな。どうやって入ったかくらい訊いてくれてもいいじゃないか」
肩をすくめて、男は振り返った。
「あと数日で出る部屋だ。そんなことに興味はない。私は貴様の用件を訊いている」
この男にそれを問うことほど意味のないことはないと知りつつも、まともな用件であることに一縷の望みをかける。
「用がなきゃダメなのかい?」
男の声を無視し、開けたままのドアを抜けて部屋に入った。
失念していた。そもそも、望みを持っていい相手ではないのだ。

ドアノブを持ち替えてから、
「他人の留守中に無断で鍵を開けて居座るようなヤツに用がないとは思えないが、用がないなら出て行ってくれ」
ドアをさらに大きく開き、退去を促してやる。
と、ノブにかけた手に抵抗を感じた。
男を見ると、なにかを弾く仕草を終えた指先を軽く横に引くところだった。
耳に小さな風を受けたかと思うとノブが手を離れ、大きな音を立ててドアが閉まる。
そういえば、この男はそんな能力を持っていた。警戒を怠った自分の迂闊さを胸の中でなじる。
蜘蛛の頭を封じたことで少し気が緩んでいたのかもしれない。
男は同じような仕草を二度繰り返していた気がする。恐らく、もう遅い。
目を凝らせば、果たしてドアノブを掴んでいた手首にオーラを確認することができた。
怠慢の不運は重なるものらしい。オーラの貼り付いているのは鎖を絡めた側の手首だった。
一見単純なこの能力が、実は非常に厄介なものだと私は知っている。
「キミにあんな力があるとは思わなかった。除念師も手こずってる」
蜘蛛の頭の心臓に打ち込んだ鎖の件だ。私が予測した以上に打開に動くのが早い。
彼との実力勝負の機会を私につぶされて、唖然とする男の姿を思い出した。
「当然だ。あれが遊びじゃないことは貴様も知っているだろう」
オーラへの対処法を考えながら、言葉を紡ぐ。
「判ってるよ。ただ、それじゃボクが困るんだ」
「除念師とやらが優秀なら時間の問題じゃないのか?」
この男と距離を取ればこのオーラの力を弱めることができるだろうか。
「だから、その時間が問題でさ。持て余してるんだよね」
「それで?」
男との生産性のない会話から除念を請け負った者の力量を量るよりも、この現状を打破する対策を講じることの方が重要だった。
「他にしたいこともないから、遊んでもらおうと思って」
「二人でトランプゲームなどしてなにが楽しい?」
まだつまらない皮肉を言う余裕はある。
「へぇ、言うようになったね」
男が眉を上げて笑った。
「気付いてるだろ、それ?」
そう続けて、犬でも呼ぶように人差し指を軽く何度か動かす。
驚きもしないが、私の右手も軽く持ち上がって動いた。困ったものだ。早く身体を休めたい。
動かされたついでに”導く薬指の鎖”を放つ。男に対して使える能力はこれだけだった。

本気で攻撃するつもりはないが、本気になったところでこの男はそれを軽くいなすのだろう。
せいぜい軽く頬でも張ってやれれば、こちらの気も済むというものだ。
だが、それが叶うことはなかった。避けようともせずに、男は顔の前に手をかざす。鎖が到達する直前、ほんのわずか首を傾げ。
鎖の先端は男の頬と、かざした掌の親指と人差し指の間にできた空間を通過した。
放物線を描いて伸びた鎖はその先で、まるで柔らかな壁にぶつかったかのように捩れて集まり、一瞬動きを止めた。
全身の産毛が逆立つような緊張。戻ってくる。
いちばん男のオーラの干渉を受けにくいと思われる、右手の手首より先の動きだけで鎖を制御することは可能だろうか。
鎖の軌道を計算しながら身構えたとき、その手首がぐいっと引かれた。
体重をかけていた脚を中心に、身体が踊るように反転する。とっさに隙のできた背面にオーラを集中させた。
上へ跳んでかわせるか。膝に力を溜めようとしたとき、再び手首を引かれて軸足がバランスを崩す。間に合わない。
判断の迷いが”硬”を不完全にさせた。
「ぐ…っ!」
背中に強い衝撃を受けて、息ができなくなる。
それでも背面のどこに来るか判らない状態だったことを思えば、善処した方だ。
その場に崩れて膝を折る。衝撃への備えは不充分だったが、すんでのところで背骨の損傷は免れたらしい。
「ああ、ごめんごめん。攻撃してくるなんて思わなかったから、反動力の加減がうまくできなかったんだ」
軽薄な声がこちらに近づいてきた。
「優しいね、キミは。ボクに今の半分程度の力しか使わなかった」
床に両手をついて咳き込む私の視界に男の靴が覗き、跪くのが映った。
「それとも、一段落して鈍ったかな? ウヴォーのときは壊したくなるほど凄絶だったけど」
「見てたのか?」
苦しい息の合間で問う。
「遠目に。あまり近づいてバレると面倒だし」
最初に仕留めたあの大男との会話を聞かれていないなら、私の”絶対時間”も知られていないだろう。
「人を殺すような手には見えないな」
手の甲に男の掌が重ねられ、手首を撫で上げた。
撥ねつけたかったが、腕の支えを失えば身体が崩れ落ちてしまう。
「今…なにをした?」
一連の流れに妙な不自然さを感じる。
「ん? 遊ぶ準備だよ」
こともなげに答えられ、痛む背中に寒気が走った。両手首を拘束するオーラを”凝”で認めてしまった。
引き千切れはしないかと手首の幅を開く。だが、開いたのは両肘の間隔のみに留まった。
男が私の肩を掴んで起こし、服の襟元を留める金具に手をかける。
「やめろ」
両手の指を固く組んで、男の顔めがけて振り上げた。が、容易くかわされた挙句、片手で受け止められて腕を引き上げられる。

引き絞られる肩が背中の痛みをさらに誘発した。
自分の意思で動かすなら耐えられるが、動かされる痛みには呻き声が漏れた。
「キミもね。”硬”の防御抜きなら背骨を折る気でやったから、無茶すると痛むだろ?」
言いながら男は、私の上着とシャツをまとめて胸元まで器用に片手で捲り上げる。
なにが、反動力の加減がうまくできなかった、だ。
「相変わらず面倒臭い服だね」
男が立ち上がって服を引き剥がしにかかる。衣服に顔を覆われて、なにも見えなくなった。
このままでいるわけにはいかない。膝を崩し、脚にオーラを集めて男が立っていると思われる位置を薙ぎ払う。
予想はしていたが、手応えはなかった。見切れないほうがおかしいくらいの蹴りだと自分でも判っていた。
「往生際が悪いのも相変わらずだ」
呆れたような声が聞こえたかと思うと、強い力で服を上に向けて引っ張られた。
襟の留具が唇の近くの皮膚を浅く抉っていく。
男は掴んでいた私の手を離し、詰めた襟が耳に引っかかっているのにも構わず、まるで袋に押し込められた荷物を落とすかのように両手を使って乱暴に服を振った。
頭を激しく揺さぶられ、背中の痛みをなだめる間もない。
次に訪れる時機は、服の袖が念の絡みついた手首を抜けるときだろう。遮蔽物が通過した瞬間だけは無効化される可能性がある。
不本意だが、身体を捩って自ら衣服を手放した。
生地が手首を通ったとき、両手の自由を確認できた。床を打って飛び退ろうとして、愕然とする。
脚が動かない。そして、手も再び。自由はほんの一時的なものに過ぎなかった。
「つけるもはがすもボクの意思。心意気は認めるけど、ね」
視界が奪われている間に退路を断たれることに気付いて然るべきだった。袖が手首を抜ける一瞬を狙われることは、男も了承していたらしい。
這いつくばったまま、楽しそうに笑う男を見上げた。
「顔に傷をつけちゃったかな」
目の高さが同じになった。屈み込んだ男が私の顔に手を伸ばす。
「触るな」
顔を引いて避けようとしたが、動ける範囲が限られている。簡単にあごの下に指を入れられ、正面を向かされた。
怜悧な瞳が値踏みするように顔を眺め回す。男の唇が開いたかと思うと舌の先端が覗き、口の横にできた傷をなぞった。
「離せっ!」
首を振って逃れる。男はあっさりと引き下がり、再び私の顔を眺める。
「ふうん、もうこの程度じゃ変わらないんだ」
眼のことだ。この男はいつもそれを見たがる。
「やっぱり脱がさないとダメだね」
言うや否や、動きの取れない私の腕の間に手を差し込み下着を引き上げた。
声も出なかった。突然あらわにされた胸に空気が冷たい。次いで腰の後ろに回された手が下着ごと着衣を掴む。
「いい加減に…!」
言いかけたところで横に突き倒された。思い出したように背中が痛み始める。
「うぁ…っ」
「あんまり大きな声出さない方がいいと思うよ。あの御仁に見られてあとで困るのはキミだろ?」
最後の一言で抵抗する気が失せた。手際よく、全身が剥き出しにされていく。
「さて、どうしようか」
片膝を立てて床に腰を下ろした男は、死体のように転がる私の身体に視線を這わせた。

むだに反応するのは男を楽しませるだけだ。冷たい石の床に頬を押しつけて、ただ時間をやり過ごすに限る。
「動きを封じたまま、っていうのも悪くない」
男がゆっくりと腕をさまよわせ、勢いよく空を切った。
同時に、下から殴られたようにあごが上がる。首の内側から骨の鳴る鈍い音が聞こえた。
重力が消え、身体が浮く。先ほどあごをすくわれたときに貼り付けられたのだと気付いた頃には、天井に下がる照明器具の灯りが目前に迫っていた。
六灯分のガラスのシェード、その内側に同じ数の水雷球。下に向けて曲線を描く、それらひとつひとつの支柱。どこにぶつかっても無傷では済みそうにない。
水雷球のフィラメントの螺旋までもがはっきりと見える。不自由な手首で眼を庇った瞬間、
「おっと、危ない」
顔から手首が引き離された。手首だけを上方に取り残して、身体が落下する。
天井から吊り下げられる姿勢に背中が悲鳴を上げたところで脚が床に落ちた。
石の床に打ちつけられた足首より、体重のほとんどを受け止めてたわんだ背中への追い討ちのような痛みの方が辛い。
なによりも、ろくに身体を動かせないまま翻弄され、通電しているガラスの照明に顔を突っ込ませかけられたことが恐怖だった。
志半ばに、視覚を失うことなどあってはならない。全裸で無様な姿態を強いられている方がまだましですらあった。
腕で胸を覆い隠そうとして、それが不可能であることを知る。
まとめられた手首が男の念で天井と繋がれていた。力を入れれば多少手繰り寄せることはできるが、気を抜いた瞬間にまた引き上げられる。
「短時間に乱発するような使い方したことないんだけど、これはこれで面白いね」
目の前に男がいた。両手の間でオーラを伸縮させて弄びながら、私を見下ろしている。
その手が片方ずつ、投げつけるような動きを見せた。なにもできずにその様子を目で追うしかない。
右手からのオーラが中途半端に床から浮いた私の右膝に、左手のオーラが左の膝に付着した。
手品でも見せるように男が交差した腕を開き、オーラを手放す。
途端に両膝が大きく割れ、床に吸いつけられた。背中の筋肉が伸びて、また激痛が走る。
自分が取らされている低劣極まりない様相。血が逆流しそうだった。
今、ここで発狂してしまえたら、どんなに楽だろうか。
別にこの手の扱いを受けるのが初めてなわけではない。雇用主の戯れに素肌に縄をかけられることにも、もう動じなくなっていた。
相手は所詮、念を持たない者なのだ。最終的な優位は自分にある。耐え難いのは、この男との圧倒的な実力の差だった。
男もそれを知ったうえで、こうして虫の翅脚をもぐような回りくどい真似をして楽しんでいるのだろう。
それ以上に許し難いのは、これほどまでに屈辱的な姿にされていながら熱を孕み始める自分の身体だ。
せめてもの意思表示に男の顔を睨み上げる。
「ああ、やっと変わった」
私の瞳の色を確認した男が笑みを深くして、一歩近づいた。
もう一歩踏み出した脚が振り上げられ、私の身体の横を抜ける。その躊躇のなさと速度に、オーラの対応が遅れた。
「ぐ…ぅああ!」
遠心力を伴った男の踵が背中にめり込んだ。
弦を引かれた弓のように身体がしなり、何度目かも判らない痛みに生理的な涙がにじむ。
男が念を使わなかったことと、鎖を弾き返されたときよりも守備範囲が狭かったことは幸いだったが、否応なく突出させられた胸と尻を包み隠す術はない。
「うん、いい格好だ」
自作の彫像の出来栄えを確かめるような視線が幾度も角度を変えて注がれる。
「気は済んだか?」
耐えかねて言い放った。

笑みを刻んだままの男の目がすっと細くなり、私の前に片膝を落とした。
「気が済まないのはキミの方だと思うけど」
冷たい指が開かれた脚の奥に触れて、私は身を固くする。その先に進まれたら、自分を支えているものが音を立てて砕けてしまう。
たとえ見透かされていたとしても、事実として突きつけられなければ矜持を保っていられる。
だが、反りきった腰を引いて逃げるには私の背中は傷みすぎていた。
「…違うかい?」
指先が閉じた性器の肉を押し分け、裂く。
終わりだ。
辛うじて身体の内に留めていたものが溢れて男の指を濡らすのが判った。自分が、喉笛を食い破られ捕食されていく獣のように思える。
やがてしたり顔で再び口を開くであろう男の姿を遮断したくて、目を閉じた。
まぶたに押し出された涙が、まつげの先で落ちずに持ちこたえてくれたことだけが救いだった。
「ここまで期待されたら」
耳許で男の声がした。耳の中を這うようなその声を、頬を肩に埋めて堪える。
濡れるがままほんの入り口で止めていた男の指の両脇に新たな指が増え、性器の肉の縁にあてがわれた。
「んぅ…」
ゆっくりと左右に拡げられ、湿った音と共に粘膜が外気に晒される。身体の芯が震えて、また劣情が零れた。
「応えてあげるべきかな?」
申し訳程度に差し込まれた指が、その滴りを浴びながらちろちろと舐めるように動かされる。
「ぅあ…」
抑えた動きに、浅ましく変容した身体が焦れていた。
 欲 し い。
許されたごくごくわずかな範囲の中で、もっと確実に刺激を享受できる場所に指を導こうと無自覚に腰がうごめく。
背中の痛みさえ、すでに快楽の一部。
 欲 し い。
身体の奥に燻るもどかしさを、いつからこんな言葉で表現するようになってしまったのだろう。
「眼、見せてよ」
静かな口調が私のまぶたを薄く上げさせた。従えば身体の疼きを解放してくれるのではないかという愚かな打算と、容易に男の意に沿おうとする自分への幻滅が頭の中で渦を巻く。
「顔を上げて」
生徒の注意を促す教師が教卓を指で叩くのと同じように、男の指が私の性器を叩いた。
太ももの内側に自分の体液の飛沫が散る。
身体が、この男を待ち焦がれていた。私は諦めに近い思いで肩から頬を引き剥がす。
水面に波紋を立てるような小さな刺激をも余さず取り込もうとする貪欲な身体が、頼りなく揺らいでいた自尊心をゆっくりと窒息させていく。
後は、命令と服従の繰り返しだった。
「こっちを向きなよ」
男の顔を見ることはできなくて、視線を床に落としたまま顔だけを男に向ける。
「眼を見せて、って言ったろ?」
「っ…ああっ!」
今度は陰核を爪で弾かれた。
淫らな期待を抱かされた身体には鋭すぎる快感。思わず目を瞑る。
「それは、わざとかい? こうされたくて?」
言葉に背いたことを指摘され、拡げられた性器の襞を指の腹で撫でられた。
「は…ぅ…」
そこはもう濡れているのを通り越して、脚の付け根に幾筋もの流れを作っていた。
「ただ、ボクの目を見るだけのことじゃないか」
簡単に言ってくれる。それができないから、こんな状態のままでいるというのに。
眉間に力を入れて羞恥に重くなったまぶたをこじ開け、随分な努力をしてじりじりと男の正面に紅い眼球を据えた。
嗜虐心を隠しもせず、満足気に笑う整った顔が視界の中心に納まる。
「いいね、やっぱり。そんな表情されたら、なおさらだ」
「う…んぁ…っ」
指が、緩やかな螺旋を描いて性器の内壁を上ってくる。ようやく訪れた感覚に腰が打ち震えた。
この男に対する特別な感情などない。それでもこの男の投げ与える淫靡な餌には、どうしようもなく鋭敏に身体が反応した。

いやらしく拘束された我が身を忘れて快楽に逃げ込んでしまおうと目を閉じかけたとき、胸の先端を捻られた。
「い…っ!」
電流のようなものが、そこから腰の辺りにまで走る。腕を吊られて守る手立てもなく、大きく反り出したその小さな芽は自分で思う以上に繊細になっていた。
「同じことを何度も言わせないでくれよ?」
それは、目の前のこの顔を見つめながら男を感受しなくてはならないことを意味する。
「色情狂」
悔し紛れに吐き捨てた。
即座に胸の突起を摘み上げた指が圧力を増して擦り合わされる。
「ぁあ…っ」
途端に男の指を擁した器官が収縮し、さらに深部へと誘い込んだ。
「キミが言う?」
瞬時に反応してしまった身体を鼻で笑って、男が指を大きく回転させる。
一瞬ひどく敏感な場所を指が掠め、息が止まった。
「こんなことして遊ぶ気になれるのはキミだけなんだけどな」
独り言のように呟いて、見過ごしかけてしまうほどわずかな時間、男が視線を逸らした。
四肢のどれか一本にでも自由があったなら千載一遇の反撃の機会だったのに、と歯噛みすると共に、そのとき垣間見えた男の表情に心の表面に小石を投げ込まれたような気がした。
また指が動き始めた。
少しでも目立つ反応をする箇所や殺しきれずに声を洩らす瞬間があれば、執拗にそこに指先を押し付けてくる。
絶え間なく与えられる屈辱に眉根を寄せながら、男の望みどおり懸命にその瞳を捉え続けた。弛緩した唇が震えているのが判る。
観察するような目つきと、感心したような表情が男の顔の上に代わる代わる見て取れた。
「なかなかそそる顔するね。誰と寝てもこんなふうになるのかい?」
自分がどんな顔をしているのかなど知りたくもない。恥ずかしさで悶死してしまいそうだった。
思いついたままを口にしたらしい無遠慮な言葉に、かつて私の身体に欲望を見せた幾人かの顔が過ぎって消える。
その中のまた幾人かに、間違いなく自分は愛されていた。そんな自負を持ったままでいることは許されるだろうか。
男の指の動きを克明に身体の内に感じ取りながら思う。
もうそこには戻れない。そして、もう誰もこの男以上には私に快楽を与えることはできまい、と確信する。
どんなに求め合って受け入れた相手との行為であっても、どこか物足りなさを満たせずに終わるのだろう、と。
それほどまでにこの男に慣らされてしまった。
こちらの都合など意にも介さず、絶対の自信を持って私の身体が屈服するまで生体実験さながら自分のしたいことだけをする。
労わりは微塵もなく、興に任せて恥辱を煽り、限界まで焦らし、翻弄されて身も心もすっかり疲弊しきった頃にとどめを刺すかのごとく私の中に欲望を放つ。
そのくせ時折、全てを渇望するかのような本気とも戯言ともつかない台詞を真顔でこぼして私を戸惑わせるのだ。
赤みを帯びた世界の中で男の輪郭がぼやけ、靄がかってきた。自分の喉から絞り出される声が遠くなっていく。
こうしてまた、私は意図なくして男を満悦させる。
限界を見る寸前だった。男が一際強く指を突き上げて指先を閃かせた。
波に呑まれるのを覚悟したとき、予兆もなく指が退いた。
「は…ん」
肩透かしを食らわされた空洞が諦めきれずに粘液を垂れ流しながら、ぶるぶると尻を痙攣させる。
急激に男の顔が実像を結んだ。陰湿な光を宿した眼が私を見据えていた。
「イケなかった、かな?」
判っていることをわざわざ言葉にして、男が濡れた指に舌を絡める。
それには答えず、男から顔を背けた。どこにも触れられていないのなら男の遊びに付き合う必要もない。
感覚を確かめるように、すっかり血の気を失い痺れ始めた両手の指先を開閉する。頭の上で金属が擦れ合う軽やかな音がした。
この鎖さえ動かせれば、と思いかけて打ち消す。多少過程が変わるというだけで、結果は同じなのかもしれない。

「ボクに、ねだってみる?」
言いながら、毛づくろいでもするように男は舌で自分の指先を撫でる。
そんな下品なことを口にできるものか。無言のままできる限りの侮蔑を込めた一瞥をくれた。
「だよね」
男が喉を鳴らして笑い、舐めていた指を伸ばして私の唇をなぞった。
「この口でどんなことを言うのか聞いてみたい気もするけど…聞いたらたぶん興醒めする」
興醒めしてくれるならなにか言ってやろうとも思ったが、どんな言葉が興醒めに値するのか判らなかった。
私の横顔を見るのにも飽きたらしい。ふっと軽く息を吐いて男が腰を上げる。
その姿が消えた。後ろに回り込まれて不安になり、首を巡らせる。見えない。
背中の痛みをおし、さらに首を回して男の姿を見つけると、ちょうど真後ろに膝をついてそこを眺めているところだった。
「御仁への言い訳を考えておいた方がいいよ。ひどい痣になりそうだ」
指の背であごをさすりながら、他人事のように言う。あれだけやって痣にならないと思っていたわけでもあるまい。
「うあっ!」
突如、その背中を押し出すように掌底が入った。大した強さではないが、今は声を上げずにはいられない。
がくりと上体が下がり、腕の付け根の筋が張った。肩と背骨が軋む。
現実的な痛みよりも、脚を拡げた状態で高く尻を突き上げる姿勢にされた羞辱の方が切実だった。
「なんの真似だ?」
両肩が首の後ろで狭められ、もう背後を振り返ることもできない。目の前にあるのは石の床ばかりだ。
こんな姿になってもなお、男の一挙手一投足の意味を問おうとする自分が滑稽だった。
「なにも考えずに鳴いてなよ。どうせ動けないんだし、キミだってこうされたら気持ちいいだろ?」
ぬめった性器に指が添えられ、排泄器との間を滑って往復する。
「ふ…ざ…ぁあぁ…」
否定しようと出しかけた言葉は、情けない呻きに取って代わられた。
ようやく抑えたはずの震えが再発する。
腹立たしいほどに絶妙な強弱をつけて動く指が性器を濡らす粘液をすくい、会陰へと引き伸ばす。時折、排泄器の縁に指が触れることに苛立った。
勝手に部屋に入り、裸に剥き、念を使って卑しい姿に縛り上げる。ここまでしたなら徒に焦らすような真似などせず、さっさと済ませて帰ればいいのだ。
男が両手で尻の肉を掴み、いきなり押し開いた。顔が熱くなり、相手に届かない悪態は中断される。
「や…っ、やめろっ!」
激しく腰を振って抗った。身体中が痛い。男を煽る動きだと判ってはいたが、構ってはいられなかった。
爪が食い込むほどの強さで掴み直された。さらに拡げられるのを押し留めようと尻の筋肉に力を入れる。
それさえも、恐らく男の楽しみのひとつ。
「ん…くぅ…っ!」
親指が捻じ込まれる。先ほど性器から排泄口に塗り伸ばされた体液での潤滑が、抵抗を裏切って異物の進入を促した。
「ここ、経験は?」
訊きながら、確認するように男が中で指を屈伸させる。直腸への刺激に耐えられず、意味もなく首を横に振った。
「この感じじゃ、せいぜい舐め回されてたまに妙な道具を突っ込まれる程度、ってとこかな」
この男、最低だ。
「まんざらでもなさそうな反応するしね」
埋めた親指を支点に手をひねり、男は余っている指で性器の中を掻き回した。新たに溢れたものが、びちゃびちゃと水音を立てる。
「う…あ…」
…最低だ。
「ボクと試してみないか?」
ぞわりと全身が鳥肌立った。自分の身体は当然のこと、何度も貪った私の身体をも知っているのなら、考えなくても結論は出そうなものだ。

顔は見えないが、きっと薄笑いを浮かべていることだろう。縫うような動きで、親指がさらに押し入ってくる。
「ここと」
食い止めたいのに、その場所の筋肉が緊窄して指をさら深入りさせる。たとえ反射反応だとしても自分の身体が許せなかった。
「ボクのを”伸縮自在の愛”で繋いだら」
意味するところは理解できた。すでに言葉どおりのことをされかけているかもしれない。
「かなり楽しめると思うんだけど」
尻を掴む手が片方だけ外され、後ろで着衣を解く気配が起こった。弾かれたように喉の奥から声が上がる。
「いやだ!やめろ!」
感覚などとうに消えた腕を振り回した。もっとも、吊られた手首を一瞬だけ下に引き寄せることができる以外は、天井に貼り付けられた念を中心に上半身だけがむだに円を描くのみだったが。
あまりに非力な鎖の鳴る音が、自分を杭に繋がれて暴れる犬のように思わせる。
不意に腹の下を抱え込まれ、動きを止められた。脚の間、濡れた溝に沿って、熱を持った男の性器が当たっている。
腰の脇に回された手が、子供をあやすように私を優しく叩いた。
「おとなしくしてれば、痛みを最小限に抑えられるように努力するよ」
背中の上から降ってくる抑えた声がやけに柔らかく響く。私の排泄器に強引に差し込まれたままの指は、今度は慰撫するように内側を這っていた。
「い…やだ…」
一瞬、自分の出した声を疑った。あまりに弱々しい拒否の言葉。まるで、受け入れてもいいと言っているようなものだ。
聞いたこともない男の声音にごまかされそうになっていた。
「大丈夫、力を抜いて」
男の声が心地いい。こんなふうに、委ねてもいい、と思えるような声で話す男だったろうか。
これ以上、拒絶しきれない。流される。
性器の割れ目を擦りながら、男が腰を引いた。指が、排泄口を捲り上げるようにゆっくりと抜かれていく。
「あ!ん…っ!」
その動きに快感を見出してしまった。こんな感覚を持ち合わせた身体ではなかったはずだ。すっかり淫蕩に成り下がった自分に失望する。
男はもうなにも言わなかった。私の背後でどんな表情をしているのか、推し量ることさえできない。
形が歪むほどに再び尻を掴み直され、破れるかと思うような力で左右に割られる。その中心に男の先端が押し当てられた。
どうせ動けないんだし、という男の言葉を反芻する。そうやって自分を納得させればいい。
どうせ動けないのだ。もう、どうだっていい、と。
容易に予想できる激痛を少しでも和らげようと、肺の中の空気を吐き出す。
浅い呼吸に切り替える。静かな部屋で音を持つものが、自分の呼吸と鼓動だけのように感じられた。
入ってくる。
「く…ぅっ!」
目を固く閉じた。もう一度くらい、あの別人のような声で諦めをつけさせてほしかった。
…くだらない。
確かな決心もつかないまま、排泄器が男に貫かれる。
と、思った。
「あ…!?」
激痛など訪れなかった。男の性器は会陰を掠めて、そのすぐ下の器官に深々と突き立てられていた。
「はぅ…ん…!」
腰の奥に先端がぶつけられ、上体が前方に押し出される。
身を裂かんばかりであろうと予測していた苦痛に比べれば、背中や肩がしなる痛みなど大したものではないような気がした。
「冗談だよ」
先ほどと変わらない響きを持った男の声。迂闊にも泣きそうになった。強い緊張に晒され、とりあえず回避できたことで安心したのだろうか。
男が私の顔を見ることのできない位置にいたのは、僥倖といってもいいかもしれない。

「うぁ…っ」
拡げられていた場所が、またすぐに指で塞がれた。男のたった一言で油断した自分が愚かしい。
「ここに魅力を感じなくもないんだけどさ」
ぐいぐいと押し込まれ、男の性器との間にある薄い肉の壁が捩れる。
「ふ…ぁ!」
「性急に進めると、どうしたってキレイには済ませられないからね」
尻を離れた男の片手が私の肩と首の間にかかった。押し出されていた身体が、強く後ろに引き戻される。
すでに奥に達していた男のものが、そのまた奥にある器官の入り口をひしゃげさせた。
「んっあああっ!」
過ぎた刺激と、限度を越えた痛みのどちらに声を上げたのかも判らない。
だめ押しのように、肩口にかけた手を小刻みに引き寄せるのと同じ間隔で腰を押し付けてくる。
「あっ、あ、はっ、あっ…!」
その度に敏感な組織がつぶされて歪み、音飛びするアナログ盤じみた声が唇から溢れた。
「それでキミが壊れちゃったら飽きるのは目に見えてるし。正直、キミの身体が気に入ってるから、壊すのが惜しい」
男の声は、耳ではなく身体の奥に直接流し込まれてくるようだった。悪い夢に沈められたかのように、鈍った思考が巡る。
なぜ、私なんだ?
私より優れた容姿を持つ女などごまんといる。中には男の要求を抵抗なく受け入れることのできる女だっているだろう。
死に物狂いで拒んでも、難なく押さえ込んで欲求を果たす。それでも手間がかかることに間違いはなく、ましてやそこまでする価値が私にあるとは到底思えない。
私は、この男のなんなのだ? この男は、私になにを求めている?
身体の中身が引きずり出される感覚に襲われて、我に返る。
直後にぱん、と尻が鳴った。男に突かれた奥深い場所から広がる、切ない焦燥感に全身が細かく波打つ。
それを皮切りに、強く重厚な動きが繰り返し尻を打ち鳴らした。
壁ひとつ隔てて隣り合わせた指が、男の性器と相反しながら私の身体を出入りする。
「う…ぅん、あ…あぁ、はぁ…ん、あ…っん」
小さな筋肉の輪をめくられ、柔らかな肉が淫猥な音を立てるごとに吐き出される喘ぎは、
自分の声ではあり得ないと否定したくなるほどに変質していた。
「そんな声も出せるんだ?」
背後から問いかける呼吸が荒い。
「こんなところに指を入れられて後ろから犯されるのが、そんなにイイとはね」
言われた瞬間、意識が飛びかけた。身体がここまで言葉に影響されるのは初めてだった。
男はそれを見逃さなかった。尻を打つ速度が速くなり、男の指と性器が肉壁を挟んで強い圧をかけてくる。
しばらく続けられているうちに、刺激を受け止めきれなくなった。
延々と重ねられてきた腰や脚の小さな震えが、突然乱雑な揺れに変わる。
「あ…ぁ…ん、あ、あ、は…ぅん、ぁぁあああぁぁぁ…っ!」
尾を引くような叫びが自分の口から出ていることに気付いた。
途絶えかけた正気の内に、その声がこの屋敷の厚い壁やドアに遮られるよう願う。朝を迎えても、何事もなかったような顔でいられるよう。
ふっと肩が重くなった。眼前の床の模様が広がったような気がして、とっさに顔を横に向ける。
衝撃はすぐに来た。頬骨からの痛みがこめかみを伝い、脳を揺るがす。
肘が床を打ち、鎖が場違いに澄んだ音を石の上に響かせて痺れた指先にさらなる痺れを走らせた。手首の戒めが解けたことを知る。
結局、気を失うことさえ許されなかった。

散々に嬲られた身体は全くと言っていいほど動かせず、男の放った熱い奔流を身体の中にただ感じるままになっていた。
直腸の指が、もったいぶるように行きつ戻りつしながらゆっくりと抜かれていく。男の指を引き留めるかのように筋肉が収縮するのが、朦朧としていてもたまらなく恥ずかしかった。
それを揶揄するわけでもなく、男がその手で私の腰を掴む。両手でがっしりと挟み込まれた腰が、何度か強く前後に揺すられた。私の身体を使って性器の中の残滓を排出しているらしい。
その動きに連動して、床に密着した乳房の薄い肉に埋もれた小さな突起が冷たく滑らかな石に擦られる。
「あぅ…」
加えられる性感にいちいち掠れた声を上げながら、血が通い始めてぴりぴりする指先で床を掻く。
やがて、ずるりと蛇が巣穴を這い出るような鈍い摩擦が性器を抜けた。
長らく床に固定されたままの膝をそっとずらしてみる。動く。
この期に及んでも、ようやく戻ってきた自由に縋りたかった。拘束を解かれてまで弄ばれたくはない。
体重と反動を支えるために肘を曲げ、胸の横で掌をぴったりと床につけた。紫色に変わっていた指先に赤みが差す。
利き脚を身体に引き寄せた。至近距離だ。鳩尾かあご、こめかみ辺りが理想だが、まっすぐ後ろに蹴り上げればどこかには当たるだろう。
まだ自分のものではないような腕に力を入れて、顔と胸を少し持ち上げる。
充分に膝を胸の方に引き寄せ、脚を振り上げようとした瞬間だった。持ち上げていた頭が唐突に後ろへ引っ張られた。
それだけでは止まらなかった。肘が浮いて背中が反り、薄れていた痛みを甦らせる。
床から離れた手のやり場もなく天井が視界を通り過ぎたのは一瞬のことで、そこからは重力に従って落ちていくしかない。
やはりこの身体では無謀だったか。受身を取ることなど考えずに倒れ込んでしまえば、今度こそ意識を失えるだろう。
「意外と無粋だね。少しくらい余韻を楽しませてくれよ」
男の声で、閉じかけていた目を開ける。無防備に喉を晒して落下した頭は、大きな手に受け止められた。
今のはこの男の能力の仕業か、とぼんやり思った。
「まぁ、簡単に飼い慣らせないところがいいんだけど」
言いながら男が空いている手を軽く振る。その親指から皮膚が剥がれ落ちたように見えた。
錯覚。私の視野の端を流れて床に落ちたそれは薄地のゴムシート、敢えて例えるなら膨らませきった風船の切れ端に似たものだった。
「…立体を再現するのは苦手だな」
ぼそりと呟いた言葉の意味を理解できないほど疲れきっていた。
朧気に判ったのは、どうやら男は他にもまだ厄介な能力を持っているらしいということだけだ。
横抱きに直され、唇の間に男の舌が割り入れられる。肩を突いて押しやろうとしたが、そんな力は残っていなかった。
中途半端に上がって力尽きた私の腕には目もくれず、男が胸の隆起を握る。
口の中を舌で探索されて、指の間で胸の先端を転がされると、自分の力では大して動きもしない身体が勝手に跳ねた。
簡単に飼い慣らせない、と男は表現したが、全く以ってそのとおりだと自嘲する。本人ですら抑制できない。
唇が離れ、少し覗いた舌の先に唾液の糸が光って消えた。その舌に軽く頬を撫でられて、そこに小さな傷ができていたことを思い出す。
存外に丁寧な動作で私を床に横たえた後で男は立ち上がった。
乱れた下肢の衣服を整える片手間に、いっそ優雅にも見える動きで上体を折り私の服を拾い上げると、それを無造作に私の裸の身体の上に落とす。
「もう行くよ」
窓の方を見やった男の視線をゆるゆると追うと、明るみかけた空の雲の切れ間に、細く白い三日月が見えた。
男の気配が遠退き、ドアが開閉する小さな音が届く。どんな細工をしたのか、ご丁寧にも錠の落ちる音。
背中をドアに向けるようにだるい身体を入れ替え、背中を気遣いつつ胎児のように丸まる。肌に吸い付く石の床の冷たさが気持ちいい。
いまさら身体を起こして衣服をまとう気にはなれなかった。
このままだと風邪を引くかもしれない。そう思いながら、私はゆっくりと目を閉じる。