レオクラ<告白編>
互いの息遣いと時折漏れる声だけがその空間に響く。
レオリオは彼女の鍛えられた、しかしやはり華奢な肢体を強く抱きしめる。
クラピカもそれに応え、背中に回す腕の力を強める。
そんな時レオリオは二つの思いに潰されそうになる自分を感じる。
これほどまでに愛おしい彼女が今自分の腕の中にいる幸福と、しかしすぐにまた危険な日々に戻ってしまうという不安と悲しみ、
この二つに挟まれてどうしようもなく胸が締め付けられるのだ。
そしてそのまま、レオリオはある想いを思うがままに伝えたくなる。
もういいじゃないかと。
お前の仲間たちもお前が幸せに生きることをきっと望んでいる、そう言いたくなる。
しかしすぐに別の思いが浮上しそれを留めさせる。
―――そんなことは言えない。
言えば、それまでの彼女の覚悟や苦しみを否定することになる。
*
「―――すまない」
情事のあと、クラピカがふいに謝罪の言葉を漏らした。
「は?何が……」
「私は、お前がこんなにも好いてくれているのに、その気持ちに応えてやることができない」
心底申し訳なさそうに言う彼女の言葉にレオリオは唖然とする。
「おいおい待てって今更……俺のこと、好きじゃなかったってか?」
「そういうことではないっ」
慌てたようにクラピカが言う。
「私はお前が好きだ。しかし私はお前には釣り合わない」
「それこそ今更だぜ。どうしたんだ?クラピカ」
彼女の髪を左手で梳きながらレオリオは問う。
クラピカは気持ちよさそうに目を閉じ、一呼吸置いて言葉を続けた。
「お前は、幸せになりたいのだろう?」
「……ん?そりゃ誰だってそうじゃねぇか」
「しかし私はお前にお前が望むものを何も与えてやることができない。
温かい家庭、安定した穏やかな日常……それに基づく、幸せな未来。私には無縁のものだ」
自分の中の葛藤を指摘されたようでぎくりとする。レオリオはしばし絶句する。
クラピカはそんなレオリオの胸の内を見透かすようにして続けた。
「私はお前が好きだ……しかし同胞たちの眼を取り戻し、旅団ともなんらかの形で決着をつけることの方が、大切だ。
だから」
クラピカはレオリオの目を見据えて言う。
「もし、お前が私の他に心惹かれる女性に巡り会えたらそのままその女性と幸せになってくれ。
私はお前に幸せになってほしいんだ。」
「ふざけんじゃねぇよ」
考えるより先に、言葉が出ていた。
「っふざけてなど」「いーや、ふざけてるね。クラピカ、お前が俺の幸せを決めるのか?!」
その言葉にクラピカの瞳が揺れる。
「惚れた女を一人にして!他に適当な女と結婚して!のんびりとした生活を送って、それが幸せってか!?
そんなわけねぇだろ!!」
「クラピカ、俺が好きなのはお前だ!幸せになってもらいたいのも、一緒にいたいのも!!
お前がいろんなもんを背負ってるのはわかってる。それが何よりも優先だってことも。
俺はそういうのも全部ひっくるめてお前が好きなんだ」
レオリオはクラピカの身体を引き寄せ、強く抱きしめる。
「確かに俺はそういう普通の幸せってのを望んでるかもしれねぇし、お前とではそれは叶わねぇかもしれねぇ。
でもあくまでも今は、だ。人生先は長いんだ。こんな早いうちから諦めてんじゃねぇよ」
搾り出すように、言葉を紡いだ。この、愛おしい頑固者に、少しでも自分の気持ちが伝わるように。
「クラピカ。いつかきっと、お前がお前のためだけに生きれる時がくる。
俺はそれを待ってるから。だから……そんな勝手なこと言ってんじゃねぇよ。俺が好きなのは他でもねぇ、お前なんだから」
ふいにクラピカの目から涙がこぼれた。レオリオは何も言わず、指先でそれを拭う。
互いに何も話さなかった。ただ口づけ合い、抱きしめ合った。
それが答えだった。