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熱心な弟子は、今日も修行に没頭している。
特に、鎖の具現化修行を開始してからの入れ込み方は凄まじく、寝る時間も惜しんで取り組んでいた。
本来ならば体力が尽きて倒れてもいい頃だが、精神力でカバーしていた。
修行では適度に休むことも必要だと何度も注意したが、聞き入れようとしない。
その度にへりくつを返される。頭の回転が速く、もっともらしい言葉を返してくるのが、ムカつくところだ。
言うことをすんなりと聞くような、素直な弟子でないことは、よく分かった。
今まで教えてきた弟子の中でも、群を抜いた頑なさを持つ、生意気で扱いにくいヤツだ。
念を取得して、復讐しようというのもいただけない。
しかし、群を抜いて念の才能が高いのも事実。
順調に成長していけば、相当腕の立つハンターとなるだろう。
全く、やっかいなヤツを引き受けてしまった。
こんなに面倒くさい弟子は初めてだ。
夜が明け、朝の光が射し込もうとしている頃、
先程まで感じ取ることができた弟子のオーラが、ぷつりと途絶えた。
と同時に、ぼちゃんと大きな水音が聞こえた。
森の中で寝そべっていたオレは、ヤツが修行をしているであろう場所へと向かう。
川に着くと、オーラを使い果たしたクラピカが水に漂っていた。
水中に足を踏み入れ、クラピカを抱き上げた。
呼吸はしているが、意識を失ってぐったりとしている。
さっきまでのオーラの感じだと、具現化する感覚を掴んだか?
で、オーラを使い切って気を失い、上から水中に落下…ってところだろうな。
水位はオレは膝の下までしかない。
外傷が無いところを見ると、おそらく水深の深い所に落下し、
そこから浅瀬へと流されたのだろう。
クラピカを抱えたまま森に入り、やわらかな草が生えた場所に横たわらせる。
「ったく…ぶっ倒れるまでやるなよ」
独り言を言いながら、水で顔に貼り付いた髪を払ってやる。
夜通しの修行で体力を奪われた上に、冷たい水の中に落ちたからだろう、クラピカの身体は冷えきっていた。
夏とはいえ、流れる川の水温は低いものだ。
クラピカの衣服は、水をたっぷりと吸って、ぐっしょりと濡れている。
このまま着せておくと、確実に体力を奪っていくに違いない。
「…さて、これはどうしたもんかね」
濡れた衣服は、身体のラインをはっきりと強調していた。
胸元にはささやかな二つの膨らみが浮かび上がり、突起が確認できる。
ゆったりしたズボンはぴったりと脚に貼り付き、伸びやかな脚線を際立たせた。
こいつは弟子である前に「女」なのだということを、改めて思い知らされている気分だ。
衣服を脱がせるのに、気持ちが若干躊躇する。
だが、青白く生気が感じられないその顔色からは、
このままの状態にしておく訳にはいかない、ということが伺えた。
まず、タンクトップに手をかけるが、
湿った布は肌に密着し、一気に脱がすことはできない。
重ね着している衣服をまとめて、ずりずりと上にたくし上げていく。
万歳をさせるようにして上半身の衣服を完全に脱がせると、次にズボンと下着を下げ、足から引き抜く。
普段は決して露出することのない部分が、露わになった。
一瞬、クラピカの裸体に目が釘付けになる。
しかし、すぐにはっと我に返った。何見てるんだ、オレは。
道着の紐を解いて上着を脱ぎ、何も身に付けていない身体の上に掛けてやる。
いけないものを見てしまったような気分だ。大きく息を吐いた。
ふと顔に目をやると、唇に血が付いている。
そういえば、指先にできたての切り傷があった。そこからの出血を拭ったのだろうか。
親指の腹でそっと、唇についた血を拭ってやる。
唇に触れた瞬間、今まで反応のなかったクラピカの身体がピクリと反応し、微かに息が漏れる。
「……リ……ォ…」
唇が動き、何か呟く。夢でも見ているのだろうか。
そんなことを考えていると、不意にクラピカの両腕が宙に持ち上がった。
その腕が弧を描き、顔を寄せていたオレの首に引っ掛けられる。
「!!」
ぐっと下に引き寄せられる。不意を付かれたオレはバランスを崩し、クラピカの上に覆いかぶさる。
身体の上に掛けた道着は、腕を上げた拍子に浮かび上がり、横に追いやられた。
腕でぎゅっと締め付けられ、互いに素肌の上半身が密着する。
「…っ…おい…」
「…レオ…リオ…っ…」
今度は、耳元ではっきりと聞こえた。男の名だ。
ハンター協会から送られてきた資料で、この名を目にした記憶があった。
クラピカと同期のハンター。そうか、そういう関係の男がいたのか。
さっきからの行動は、意識を持たずに行っているのだろう。
意識があれば、オレを相手にこんなことを言うはずが無い、するはずが無い。
やはり、こいつは夢を見ているのだ。
夢の中で、求めている男と逢っているのだ。
途切れ途切れになった言葉が耳に届く。
「…レ…リオ……し…てっ…」
熱っぽく切ないその囁きは、オレの中でくすぶっている火を煽る。
身体から放たれる女の香り、しっとりとした肌の質感、胸板に押し付けられた乳房の感触、
「師匠」から「男」へと変わるには、充分すぎる条件だった。
唇で耳元に触れると、首を締め付けていた腕が緩んだ。
それと同時に、吐息が漏れるのが聞こえた。首筋に舌を這わせる。
胸元に唇を押しつけ吸い上げながら、手で乳房を覆い、指を食い込ませる。
手にぴったりと吸い付いてくるそれの先端を口に含み、舌で転がした。
「ぁっ…ん…はぁ…」
背中に回された手の指が、痛いほどに食い込んだ。
息が乱れ始める。普段のクラピカの口からは、絶対に聞くことのできない、甘い喘ぎ声が漏れる。
冷え切っていたクラピカの身体は、徐々に熱を帯びていく。
軽く開かれた脚の間に手を滑り込ませる。既に蜜が溢れ返るほど、潤っていた。
割れ目に沿って指でなぞると、身体をぶるっと震わせた。
「ふぁ…っ…」
節がささくれ立った指に、溢れ出た蜜を絡ませる。
クラピカの様子を見ながらゆっくりと、指を1本、中に沈み込ませた。
秘められた場所を探るように指を動かし、反応する箇所を攻める。
「あっ…あぁ…っ…」
クラピカは、指を締め付けながら嬌声を漏らした。
全身がうっすらとピンク色になり、汗が浮かぶ。
「レオリ…オ…っ…」
熱に浮かされながら、ここにはいない男の名を口にする。
男の名を呼ぶその声には、胸を締め付けるような、切ない響きが含まれていた。
中を探っていた指の動きが止まる。思わず、名前をつぶやいた。
「クラピカ…」
オレが声を発すると、クラピカがびくっと身体を反応させた。
次の瞬間、今まで閉じられていた目が開かれる。
その瞳は、燃えるような緋色に染まっていた。
「…師…匠…?」
正面にいるオレの姿を認識する。夢の中で抱かれていた男とは違う男が、目の前にいる。
クラピカは乱れた息のまま、瞬きもせずに、必死で状況を把握しようとしていた。
「…私っ…私…は…っ」
混乱した様子で、首を小さく左右に振る。
「いいから。目、閉じてろ」
クラピカは、はっとした表情になる。
大きな目を見開くと、オレの顔をしっかりと見据えた。
「いいか、これは夢の中の出来事だ。だから何も考えずに目を閉じろ。
お前は好きな男に抱かれてる夢を見るんだ。これとは別の、さっきの夢の続きを見てろ。
……あと、挿れたりしねえから安心しろ」
オレの顔をじっと見てたクラピカは、全てを理解したようだった。
少し哀しそうな目をして、小さく微笑む。
微かに口を動かして何か言ったが、声は聞こえない。
口の動きからは「ありがとう」と読み取れた。
クラピカはゆっくりと目を閉じる。
美しい緋色の瞳は、再びまぶたに覆われた。
その様子を見届けると、指の本数を増やし、再び中に沈める。
既に敏感になっているそこは、侵入物を歓迎し、ぴったりと指に吸い付いてきた。
さっきよりも激しく、押し広げて掻き乱すように内壁を擦り上げた。
指を出し入れする度に、蜜が溢れ出る。中をかき混ぜる音と、クラピカの嬌声が辺りに響いた。
探り当てた敏感な場所を執拗に弄り、絶頂へと導く。
「あっ、ぁあ、はあっ…ああ…っ…!!」
背中が反り返り、一際大きな声を漏らす。
身体の力が抜けたクラピカはぐったりとして、あっと言う間に眠りへ落ちていった。
規則的な寝息をたて始める。顔には、健康的な色味が差していた。
クラピカの寝顔を見ながら、小さく息を吐く。
「夢の中の出来事…か」
まあ、本当に夢だったら最後までやっちまってたが。オレの身体の方はヤル気満々だし。
道着のズボンの下で主張をする、自身の下半身を見下ろした。
「あー…、この歳で自己処理かよ。ったく…
こんなに面倒くさくて、手間のかかる弟子は初めてだな。本当に」
口元に笑みが浮かんだ。
オレは、今までもこれからも、あいつの念の「師匠」でしかない。
クラピカも、生意気で優秀な「弟子」でしかない。
お互いに、それ以上でも以下でもない関係だ。
一時の夢の中で、あいつの胸元には赤い痕跡が、オレの背中には指の跡が残された。
でも、それを目にしたところで、互いに見て見ぬ振りをするはずだ。
さっきの出来事について触れることもないだろう。
そう、全ては夢の中の出来事だったのだから。
夢の中は、現実から切り離された世界なのだから。
[ END ]