*注意書き*
執筆者は、原作が手元にありません。読んだのも結構昔。
故に、キャラの喋り方もあやふや、念に関してはもっとあやふや。
細かい設定はスルー奨励。一応レオクラ前提?です。
エロまで長いっす。





重い瞼をゆっくりと開ければ、目を開いた事さえ分からない程の闇の中であった。
私は一体何をしていたのだ?
どうやらこの状況からして意識を失っていたという事だけは分かる。だが、その過程がさっぱり思い出せない。

視界に慣れるまで幾分時間がかかるだろうと、闇の中手探りで指先を動かしてみた。
思いの外自由の利く体に拘束はされていないと理解した途端、安堵の溜息が漏れる。
だが、何やら体が重く、酷い倦怠感さえ感じる。もしかしたら知らぬ間に薬でも盛られたかも知れない。
それとも、後頭部に何か酷い衝撃を受けたのだろうか。
咄嗟に手を伸ばしそこに触れてみるものの、特に異変は感じられなかった。

何処を見渡しても視界に入ってくるのは闇ばかりで、今が朝なのか夜なのかさえ分からない。
それに拘束されているのであれば、この状況下は私にとって不利でしか無い。
私を捕らえた張本人は、うろたえる私を何処かから監視している可能性だってあるのだ。
自分の迂闊さに腹ただしくなる。

「やあ、やっとお目覚めか?」

何処からともなく降ってくる声に、一瞬心臓を鷲掴みにされたかのような衝撃を覚える。
その声に聞き覚えがあったからだ。

靄がかる意識の中、ゆらゆらと形を成して行くものは、恐らく意識を失う前に目に焼き付けた光景だろう。
蜘蛛を纏める一角のリーダーは、その名に相応しく無い程の端正な顔立ちと物静かな佇まいで、鎖で体の自由を奪っても尚、私を蔑むような瞳で見ていた。
何の恐れも抱いていない、と主張する瞳が酷く癇に障る。
形の良い薄い唇が一瞬いびつに歪んだ気がした。それが最後の記憶。そこからは覚えていない。

私は旅団のリーダー、その男に拘束されたのだろう。
だが不可解な点がある。拘束していたのは私の方だ。
念の刃を心臓に付き立て、具現化した鎖で男の体を戒めた筈だ。一体何が起こったというのだ。

「…ここは何処なのだ?姿を見せろ」

瞬間、部屋の中が急に明るくなる。
長い間暗闇に居た所為か酷い眩しさを感じたが、どうやら大した明りでは無いようだ。
天井から吊るされたランプの鈍い光が、ちらちらと視界を掠める。

まず、自分の置かれた状況を整理しようと、私は辺りを見回した。
ほんの六畳程しか無い狭い部屋には、外部との接触が皆無だと主張するように窓は一切無く、重苦しい空気を醸し出している。
それだけで此処が地下にあるのだと理解できる。
部屋の隅には太陽の光を知らないと言わんばかりの、毒々しい植物が貧相に置かれている以外には、何も無い簡素な部屋だ。

そしてその部屋の隅、壁にもたれる男の姿があった。
腕を組み私の方を見る顔は些か落ち着きを払っているように見えて、それが余計不安を煽る。
いや、そればかりかこの男を拘束した筈の鎖が跡形も無く消えている事に、私は驚きを隠せなかった。

「貴様、私に何をした?どうやって鎖を取ったのだ?」

じりじりと歩幅を詰めてこちらに歩み寄る男の唇が、僅かばかりの笑みを作る。
私は咄嗟に左手を翳し身構えた。だが、おかしい。私の意志とは裏腹に、在る筈の鎖が無い。いや、出そうとしても出ないのだ。
何らかの力を以ってして念を封じられている可能性があると踏んだ私は、近付いて来る男から逃れるように距離を取った。
そこで初めて気が付いた。自分がベッドの上にいたのだと。
まるで病院に置いてあるような無機質なベッドが、ギシリと音を立てるのと同時に私の脚も床に着いた。

「質問が多いな。色々と説明するのは面倒だ」

尚も距離を縮めて来る男が言う。
その声は一切の感情を遮断したかのような、機会染みた無機質な声色だった。

「ふざけるな。一体何をした?」
「…そうだな。一つ言っといてやろう。ここでは念を一切使う事は出来ない。俺も、君も」
「どういう―――」

問いかけた瞬間、視界にいる筈の男の姿が消えていた。
息を吐く間もなく、次に男の気配を感じ取ったのは、私の視界には入らない程の近距離。
耳元で感じる息遣いに身の毛のよだつ思いしながら拳を振り上げたものの、敢え無く阻まれてしまう。
肌がぶつかり合う音乾いた音を立てながら、私の拳は男に呆気なく捕らえられていた。

「やはり。念が使えないとなると、大した力は無いらしいな。こんなに簡単に拳を取られるとは、情けなく無いか?」

握られた拳にじわりと力が籠められるのを知って、私は大きく振りかぶろうとしたが、それさえ無駄に終わってしまう。
この男とて念を使えないのは同じである筈なのに、力の差は大きく劣ると言うのか。
余りに悔しくて唇をきつく噛んだ。

「殺せ」

喉が焼け付くような怒りを抑えながら精一杯の想いで言葉にした声は、余りに震えていた。
体全身が刃の如く威きり立っているのに、自分の非力さを目の前に、痛恨の涙で視界がぶれるのだ。
男の指先が喉に触れた瞬間、意志とは関係なく瞳が赤く染まるのを知った。一気に覚醒する体が脳に伝えている。まだ、死に急ぐ必要は無いと。
男の脇腹目がけて上げた脚は、まるで蝶が空を彷徨う如く、緩やかな動きでかわされた。
その一瞬の隙に男の頬に拳を打ち込んだ。肉が減り込む嫌な音がする。
確かな感触があったにも関わらず、男の皮膚からは一滴の血も流れていない事に、私は半ば諦めの色を宿した。

「良い子だ。そう、無駄な抵抗はしなくていい」

男の長い指が首に触れる。どの様にして殺されるのかを想像する趣味は無い。
せめて一瞬で帰結してくれたら。
願ってはみるも、この男にそんな感情など皆無だと知って、私の意志とは裏腹に口角が薄く上がった。

「何がおかしい?」
「………」

薄暗い陰湿な部屋の空気は重くは無かった。それは彼女が纏うオーラの所為かも知れない。
息を殺して俺に殺されるのを待ち詫びているかのようにも見える、その高潔な姿が何とも勇ましくて首に触れている指の力を少しだけ強くした。
僅かに小さく跳ねた体だが、恐怖を悟られたく無い故か、直ぐ平素に戻ってしまった。

「…それにしても、緋の目というものは美しいな」

だが、高潔故に、生に執着さえ見受けられない表情に些か不満を覚えてしまう。
彼女の自尊心を粉々に壊してしまいたいと、俺の中に巣食う蟲が首をもたげた。
このまま殺してしまうには、余りに美し過ぎる生き物だ。

「早く殺せばいい」
「そう死に急ぐ必要は無い」

元々殺すつもりなど無かった。“鎖野郎”を目に焼き付けた瞬間から。
純粋なまでに復讐に落ちた、清廉でいて頑なな意志をどう壊してやろうかと、密かに画策していたのだ。
それは一種の恋に似た感情なのかも知れない。

憎き仇と言うだけで、同じ空気を吸うのでさえ、彼女にしてみれば、腐った飯を食らうぐらい苦痛を伴うものだろう。
滑らかな皮膚は逆立ち、栗色の瞳は赤に染まる。
全身で俺を拒む姿を想像するだけで、背筋に鳥肌が立つような快楽を覚える。

指先で首の皮膚をなぞると、更にその緊張が増す。
だが大した反応を示さないのは、やはり彼女を縛り付ける自尊心がそうさせているのか。
ならば…と、体と垂直に垂れている手首を掴み、壁際に打ち付けたところで、やっとその瞳が俺を捕らえた。
疾うに色が戻ってしまったその瞳に、心成しか侘しさを覚えるが、そんな事はこれから幾くらだって覆せる。

「貴様…、一体どういうつもりだ?殺すならさっさとすればいい。其れとも、じわじわといたぶって殺すつもりか?悪趣味め」

棘のある言葉は酷く凛としている。
これから殺される立場にあろう者では無いその表情は、褒めてやっても良いぐらいだ。言葉にした所で、礼が返ってくるとは思えないけれど。

「生憎、そんな趣味は無いよ。それより、もっと楽しい事を思い付いたんだ」

耳元で囁くように言ってやれば、緩やかな拒絶が肌に伝わる。
近付くな、と喰ってかかりそうな程、憎悪と嫌悪を剥き出しにした瞳が、少しだけ揺れたのを俺は見逃さなかった。

「分かる?」
「…何、を?」

お互いの熱が伝わるくらい距離を近付けると、面白い程彼女は顔を背けた。
金に輝く髪は糸のそれよりも遥かに細く、指で梳いても感触が無さそうだけど、遠慮もせずに触れてみた。
やはり想像通りの感触は俺の指に絡まらずさらさらと梳けて行くだけだ。
血管が透けてしまいそうな程白い肌は、恐ろしいまでに美しく、早く撫で回したい衝動に駆られたがぐっと堪えて再度彼女を瞳に映す。

「セックス…、しようか?」

開かれた瞳は俺を映す事無く、宙を彷徨っているかのように見えた。だがそれも一瞬の事。
彼女は平素を保ったまま、俺の顔を一瞥すると、その形の良い唇を開く。俺に動揺を悟られまいと必死になっているのが可哀想な程伝わってくる。
それが愉快で堪らなく、喉奥で低く笑う声が漏れそうになるのを抑えた。

「何を馬鹿な…。私は男だ。貴様の変態染みた嗜好に付き合っている程、馬鹿げた脳は持ち合わせていない」
「貴様…じゃなくて、クロロ。俺の名前。…ちゃんと名前で呼んでくれないかな?」

刹那、彼女の手首を掴んだまま、直ぐ側にあるベッドに強く叩きつける。スプリングが軋んで彼女の体がバネのように揺れた。
呼吸をする間も無く一瞬にして回転した景色に、彼女の美しい瞳は何を映せば良いのかと焦燥の色を見せる。
一瞬彷徨った瞳が俺の姿を焼き付けるのに、そう時間は要さなかった。
天井の色さえ分からぬ程近くに居る俺の姿しかその瞳に捕らえる事は出来ないだろう。

「ふ…ざけるな!離せ!」
「君、女の子でしょ?」

無理矢理焚きつけられた恥辱が一気に解放されたらしい。
彼女は顔を紅く染め俺を睨んだ。

「…な、何を言っているのだ…。私は、男…」

まだ虚勢を張るつもりなのか。
微かに震える語尾は何とも痛々しいが、俺は呪文のように耳元で囁いてやった。

「…女、でしょ? 今の君は、どう見ても女の子だ。…ねぇ、クラピカ」

瞳を見開いた彼女はこんな時まで、何故名前を知っている?と悠長に訊ねて来る。
ずっと前から知っていたよ、と虚言染みた言葉で言ってやると、更に彼女の表情が驚愕に染まった。

「君は誰かとした事あるの?…セックス」
「…っ、離せ…!」

押さえつけた腕が急に暴れ出した。次いで自由の利く脚が俺を狙って宙を蹴る。
少々鬱陶しいので、俺は彼女に体重を預け、馬乗りになりそれを制した。
それでも必死に抗いを見せるが、そんな事は至って無意味だと分からせる必要がある。

先程まで死に近い匂いを漂わせていた彼女の唇は、少し乾いていた。
躊躇わず唇を重ねると、思いの外余りに柔らかい感触に驚く。
一瞬彼女の体が金縛りに合ったかのように硬直したのが、何とも少女らしいくて初々しくもある。
まるで失ったものを偶然見つけてしまったかのような不思議な感覚。
言葉に出来ない程の歓喜に蝕まれて行くそれは、俺の胸を心地良く締め付けた。

「殺してやる!貴様…!」

唇が離れた瞬間、辛辣のある言葉が降って来た。
まあ、想像はしていたけれど、それにももう飽きて来た頃間だ。

「だから、クロロ、だって」

今度は触れるだけのキスでは無く、固く閉ざされている唇を強引に割って舌を差し入れる。
彼女はくぐもった声を上げ、身を捩らせて抵抗した。
全く以って無意味な行為なのに、その抗いを楽しみつつ逃げる舌を捕まえると彼女の体が跳ねた。
恐らく、初めて体験するこの感触を嫌悪しているに違いない。
ましてや自分を蹂躙しようとする男が憎き仇であるのだから、体が示す反応は至って自然な成り行きだ。

唾液が絡む。息も絶え絶えに彼女を見れば、その大きな眼は固く閉ざされていた。何も映してはいけないと、自分自身に暗示をかけるかのように。

肌が拒絶している。
蜘蛛であるこの男に、良いよう弄ばれる私の心は悲鳴を上げているのに、どう抗っても全て無意味に終わってしまう。
それ以前に、握られた手首から力が奪われるかのようだった。
唇を離れた男のそれが首筋に走る事に、また嫌悪感を覚えた。
ざらつく舌が私の首筋を這い、それと同時に男の手が服の中に滑りこむ。

「抵抗するの、止めたの?」

男の声は自分がどれだけ優位でどれだけ余裕であるのかを、私に悟らせた。
服の中に這いずり回る男の手を何とかして排除しようと空いた手で男の頭を押し退ける。

「何だ、結局抵抗するのか」
「ぁっ…」

一気にたくし上げられた衣服。
すーっと薄ら寒い温度が、剥き出しの肌に伝わり思わず身震いしてしまう。

「これも邪魔だね」

そう言って胸に巻いていた晒しも衣服と同じようにたくし上げられた。
男の目に、見られたくない部分が晒されている。
それだけで、恥辱と屈辱に理性は崩壊寸前だと言うのに、あろう事に男は指で乳首を撫で回し口に含んだ。

「ぃ……あっ」

全身が栗立つようなおぞましい感触に腰が跳ねると同時に、力を奪われるような奇妙な感覚が私の体を脱力させた。
もう手首は掴まれていないというのに、男を跳ね退ける力が出ない。
閉じていた瞳を薄っすら開けると、男は唇を歪ませて薄ら笑いを張り付けていた。

「処女の割りに感度がいいな。誰かに仕込まれた?」
「はっ…やめ…!」

舌先で敏感な部分を刺激され、意志とは裏腹に漏れ出る声が酷く女のそれで、私は吐き気さえ覚えた。
剥き出しの肌を通る空気は寒いのに、体の芯が火照るような熱を連れて来る。

私の腹の上を滑る男の手が、まだ肌を纏っている下半身に降りて来た。
この先何をされるのかは想像がつく。
殺された方がマシだったかも知れないと、熱が籠った脳で考えるも、もう遅いのだ。
死以上の恐怖が迫りくる事に、私の体は予想以上に硬直していた。
もう抵抗する気力さえ無いと、半ば諦めに瞳を閉じた時、冷えた感触が秘所を刺激し、私は思わず身を捩る。
男の指が図々しくも、私の下半身を嬲っていた。

「既に濡れてるよ?…もう一度聞くけど本当に処女なの?」
「貴様に…言う必要は無い…!」
「ごもっともだ。まあ直ぐ分かる事だからいいけどね」

男の指が割れ目をなぞっているのだと分かった。感触を確かめるように何度も執拗に繰り返される。
気持ちの悪いそれに下半身が後ずさるのを男は許さなかった。掴まれた太ももが意に反して外を向く。
男の唇が再度重ねられると同時に、膣内に異物が入る。小さな悲鳴と共に腰がまた引ける。

「やめ…、ろっ…」

体内に入る指は浅い挿入を繰り返しながら私に僅かな快楽をもたらした。

「痛みは無い?ここはどうだろう?」

ここで私は、残虐な行為をしている癖に、男の声が酷く優しいと知ってしまった。
強引に捩じ伏せ、犯す事も可能な筈だ。
けれども、私の体を弄ぶその指も唇も決して粗暴なものでは無いのだ。
だからと言って何か変わる筈もない。私にとって殺したい程憎い仇に変わりは無いのだ。

「…っ、ぁっ…、あっ…あぁぁあっ」

敏感な部分に触れたのだろう。先程より遥かに鋭い快感が流れる。
私は思わず声を荒げ、男の腕に爪を立てた。

「い…やっ。そこは…っ…やめ…、あぁんっ」

何とも艶めかしい声が自分の口から漏れているなど信じたくは無い。

「ここが良いんだね?…大丈夫、もっと声を上げて」

執拗に繰り返される刺激に腰が浮き、気がつけば視界が僅かに赤く染まる。
どうやら堪え切れなかった私の瞳は、緋の目に変わったらしい。
男はそれを見て、ただ一言、「クラピカ、とても綺麗だよ」そう呟いたのだ。

その言葉に、以前私の肌に触れた男を思い出す。
もう随分と昔の事のようだが、つい先日まで顔を合わせていたその男は、何処までも澄んだ瞳で私を見詰め、うわ言のように言った。「クラピカ、綺麗だ」と。
別に嫌では無かった。彼の事は嫌いでは無かったから。
寧ろ好意を抱いていた。多分、今もそれは変わらない。
彼がもたらす熱の所為で、私は自分が女で在る事を痛い程知った。
そして同時に、これ程までに女の部分が激しく主張するのだと、一種の恐怖さえ抱いた。
だが、全てを解放するには心の準備が出来て無く、私は最後の最後で彼を拒んだのだ。
憂いの瞳を浮かべる彼は何処までも優しい声で言うだけであった。「お前が良いと思うまで、俺は待つから」と。
私の髪を梳く指先が悲しいまでに優しくて、私は堪え切れず涙したのを覚えている。

それなのに私は、この望んでもいない男に体を差し出さなければいけないのか。
心が抉られる程の痛みを抱えながら。

彼女の動きが止まった。瞳はまるで空虚を見詰めるかのように焦点が合っていない。
恐らく、何か思い出しているのか、はたまた思い出してしまったのか。
未だ紅く染まる瞳はその輝きを損ねてはいないのに、心成しか侘しささえ感じる。
長い睫毛がピクリと動いた事にも、酷い哀愁を感じる。
それさえも艶美だと思わせるくらい、彼女には底知れぬ魅力があった。

「何か、思い出したの?…好きな男の事とか?」

悪戯っぽく耳元で囁けば、別人のように彼女の顔が怒りに染まる。
眉間に皺を寄せ、真っ赤に染まる瞳で俺を睨む彼女は、鋭い棘を持つ薔薇さながらに美しい。
その美しい顔を酷くよがらせてみたいと、俺の胸中が訴えている。

「…誰?」
「そんな男などいない」

冷えた声が降ってくる。
別にこれ以上詮索する必要も無いので、俺は膣内に入れた指を更に激しくかき混ぜた。
体が電気を浴びたかのように跳ねる様が、何とも面白い。
陶磁のような肌はいつの間にか薄っすらと赤味を帯びていた。

卑猥な水音が響く。
先程の反応からして、彼女はこの現状を受け入れられない程、性に無頓着な訳でもあるまい。
恐らく、この肌に触れた男が少なからず俺以外に一人はいるのだろう。もしかしたら、処女じゃないのかも。
唇を重ねたのも俺が最初ではないと知って、僅かばかり落胆している事に自嘲の笑みを薄く浮かべた。

「…この音、聞こえる?…君が濡らしてる音だよ?」

耳たぶを舐めながら言った。彼女は上擦った声と共に、喋るな、と言葉を紡ぐ。
こんなに成ってもまだ理性を保とうとしているとは、なかなか強情な娘だ。
もう随分濡れているし、処女では無いのなら平気だろう。
別に気遣う必要も無いのに変な所に律儀な自分が可笑しくなる。

「ぁ…?…やっ…、いやだっ、いやぁ!」

屹立した性器を彼女の膣に宛がった瞬間、目には映していないものの感覚で分かったのだろう。
急に抵抗しだした彼女は腰を捩り、俺と距離を取ろうと必死に上へ上へと昇って行く。
消毒臭そうな何の色気も無いベッドのパイプに豪快に頭をぶつけたのは直ぐの事。
結構派手な音がしたけど、痛みよりもこれから行われるセックスに対して恐怖の方が遥かに勝るらしい。

「大人しくして。いちいち面倒をかけるのは、滑稽だよ」

余りに暴れるものだからつい口調が冷たくなる。
彼女は恐怖を張り付けたまま俺を睨んだが、それも一瞬の事で、無駄な抵抗に過ぎない。
華奢な腰を引きよせ、両足を抱え思い切り挿入した。

女の金きり声は一瞬にして止まった。
彼女は声を漏らす事無く、瞼を閉じ唇を噛み、酷い痛みに耐えているように見えた。
その証拠に触れるのでさえ敬遠するだろう俺の腕に爪を立てる。
何だ、やはり処女だったのか。
浅い挿入を何度か繰返し深く突き立てた。
予想以上に狭い膣内は、やがて性器に纏わり付くように肉壁が形を歪ませる。
ふと結合部を見てみると、血が滴っていた。

「初めてだったんだ。大丈夫。すぐ慣れるよ」

支配欲が一気に加速した。
自然と笑みが零れるのを抑えられない俺は、彼女の頬に唇を寄せる。
汗で濡れた頬に触れ張り付いた前髪をかき分け、何度か唇を重ねる。
硬く閉ざされた瞼からは涙が流れてた。

「う…ぅ…ん…はっ…んっ」

何とも信じがたいこの光景が夢であれば良いのにと願わずにはいられない。
否、夢であっても吐き気を覚える程におぞましい。
私の下半身は、憎むべき男によって喰いつ潰されていた。
味わった事の無い、体内を抉られるような痛みに腰が浮くのも、喘ぎのような声が漏れるのも、この男は普通だと言う。
そして憐れな私の下半身は、その痛みに耐えきれなかったのだろう、流血しているらしい。
それを瞳に焼き付けるのはもっと嫌だと、私は何も映さないように瞳をただただ固く閉じる。
その反応がつまらなかったのだろうか、男が激しく腰を突きあげて来た。
痛みが益々広がる中、私の意志とは裏腹に瞳は男の顔を焼き付けた。

男は熱に浮かされたような艶のある表情をしていた。
あの男とも少し違う、それは本能を擽られるような何とも表現し難い感情。
私を見る瞳は、情など一切籠って無い癖に、酷く優しいものなのだ。
綺麗に纏まっていた髪はそこそこに乱れており、時折私の首筋に黒その髪が掠る。
乱れた髪に色気を感じてしまう程、私の脳はまともな思考回路が遮断されているらしい。
朦朧とする頭でそんなくだらなくも、どうでも良い事を考えてしまう自分が狂っているのではないかと、恐ろしくなった。
この男は蜘蛛なのだ。殺したい程憎い仇なのだ。

だが、痛みは益々酷くなる一方だ。少しも快楽を味わえない。
いや、味わいたくも無いのだが、この痛みから逃れられるのであれば、まだ快楽の方がましかも知れないと、狂った私の脳が訴えている。
微塵も思いたくが無い故に、そんな浅ましい考えを一瞬でもした私を殺したくなった。

「辛い?こっちを見てよ、その緋の目で」
「っ…。死んで…しまえっ……」
「可愛くないね」

言った瞬間、男の指が肉芽に触れた。

「あぁっ…んっ…あぁ!」

望んでもいない甘え声が自分の口から漏れるのを知った。
男は笑みを含んだ声で「やっぱりここが良いのか」と執拗に繰り返す。
その度に腰が跳ね、聞きたくもない声が漏れる。
私は耳を塞ぎたい衝動に駆られた。

狭い室内には、粘膜が擦れる音と肌がぶつかり合う音、そして私の声が響く。
犯される体は確かな悲鳴を上げていると言うのに、自分の喘ぎに酷い嫌悪感が滲み出て来るのは言うまでも無い。

「犯されてるのに、感じてるんだ。…可哀想に」

そんな私の心情を汲み取ったかのように男が呟く。
否定をしようと言葉を発しかけた刹那、男の唇によって阻まれた。
熱い吐息と唾液が口内を蹂躙して行く感触は、性器を繋ぐより遥かに気持ちが悪いものだ。
顔を背けても、逃すまいと男の手によって掴まれる顎。
私の肌も、性器も、唇までも、この男に良いように扱われる。
まるで玩具のように。容易く、簡単に。

「ん…ぅんっ……、嫌…嫌だ……っ。もう、止めて…っ」
「可笑しなことを言うんだな。止めれる訳無いだろう?止めるつもりも無いよ」

組み敷かれていた私の体を綿毛を弄ぶように男は軽々しく宙に浮かせる。
繋がったまま男の脚の上に載せられた格好になっていた。
支えを失った私の体は、糸が切れた操り人形さながらに、自然と男に寄りかかる形となってしまう。
下から突き上げられる衝動に堪えられず、思わず男の背に腕を回した。
その間も男の舌は休む事を知らず、首筋を這い、乳房を舐められ、再び唇へと返ってくる。
何度交わしたか分からない口付に、もう抗う余裕さえ無くなってしまった。

悲痛なのか、快楽とも判断出来ない膣内は、まだ血が流れているのだろうか。
他人の温度だけが酷く敏感に感じ取れる。

「クラピカ。俺を…見て。俺の名を…呼んで」

浅く呼吸を繰り返す男は何度目かの要求をしてきたが、私が否定するのを知っていたように、唇だけ重ねて来た。
結合部が酷く揺さぶられる。もう終わりは近いのだろう。
中に吐き出される感覚は私には分からなかったが、膣内にある男の性器が小さく痙攣しているを知った。
その後も、残滓を絞り出すかのように緩やかに腰を打ち付けられる。
私は、酷い眩暈を覚えた。
このまま気を失うのではないかと思うぐらいの倦怠感が一気に体を支配する。
男の手が髪を撫でるが、もう拒絶する術は持ち合わせていない。
このまま深く眠ってしまいたいと、脳も体も意識を手放した。

「…クラピカ?」

どうやら意識を失ってしまったらしい。
酷過ぎたかも知れないと、俺の下で瞳を閉じる彼女の顔を見た。
汗で張り付いた髪を退けると端正な顔が露わになる。
彼女の全てを象徴するかのような大きな瞳は、閉ざされても瞼がその形をくっきりと残している。
華奢な体は、マリオネットのように動かなくなってしまったが、情事の痕が色濃く残る白い肌は、余りに綺麗であった。
ずっと愛でて居たいと思ってしまう程に。

結合部分はまだ濡れた血がこびり付いている。
性器をゆっくりと引きぬくと、白濁したものが血と共にポタリと垂れ落ちた。
このまま放って置くのも何だか心許ないと、俺は彼女を抱いてバスルームへと脚を向けた。

バスタブに湯を張っている最中も彼女はピクリとも動かない。
仕方無しに、意識を手放したままの彼女を湯船に浸からせた。
まるで死体と風呂に入っているような感覚だ。
そういった趣味が無い俺は、躊躇いながらも彼女の頬を何度か叩いた。

「ん…」

漸く目覚めたか。
緋の目は完全に元の色に戻っている。
何度か瞬きをした後、彼女は虚ろな表情で俺を瞳に焼き付けた。

「気分はどう?」
「私は……。何故…風呂に…?」

まだ意識が朦朧としているらしい。
彼女の手を取り、植え付けた記憶を掘り返すように耳元で呟いてやった。

「俺とのセックスそんなに良かった?意識を失ってしまうぐらい」

その瞬間、一気に蘇った記憶に彼女の瞳は再び赤を帯びる。次いで、飛沫と共に拳が飛んできたのは言うまでも無い。

「殺してやる!絶対!……貴様だけは…!」

それを受け取ると、俺は呪いのように囁いた。
彼女の中に残る悪夢を再び蘇らせるために、そして俺の存在を嫌でも刻み付けて置くように。

「ずっと愛でてやるよ。この部屋からは出さない。俺が飽きるまで、ね」

彼女の肌は、既に凌辱された後を色濃く残してはいない。
その肌に指を滑らせ、首筋に唇を寄せた。

「君が好きだと言ったら、…君はどうする?」








体の全てがこのまま溶けてしまえば良いのに。温かい湯に浸りながらそう思う。
一人バスルームに残された私は、男と顔を合わすのが嫌で、まだ湯船から出られないでいる。
穢された体に残るのは、肌の上に浮かぶ紅い痣だけであった。
自然と涙が落ちる。
この事をあの男が知ったらどうするのだろう。
私に触れるのもおぞましいと、敬遠されてしまうのだろうか。

「レオ……」

名前を言いかけて止めた。彼の名を呟いても虚しさが募るだけだと分かっていたから。

男は私をここに閉じ込めると言った。
それが嘘では無いと、少しも笑っていない黒い瞳が私に訴えていたのだ。
だるい体を持ち上げると、他人の体液が膣から流れ落ちて湯船に溶けて行った。

「……っ…、う…ぅう…」

頬を濡らす涙が止まらない。
バスルームでは酷く響いてしまう声を、私は押し殺しながら泣いた。

黒い瞳を持つ、端正でいて冷酷な笑みを浮かべるあの男を、私は愛せない。
例え長い間同じ時間を共有しようとも、私の中に残る憤怒が情に勝る事は無いのだから。

涙を拭い、湯船に映る自分の顔を見た。
朧な輪郭しか捕えられない私の瞳は、もう紅くは無い。
あの男に蝕まれて行く事は、決して無い。

「…冗談は止してくれ。…私はお前を殺すために抱かれてやるのだよ」