*ヒソクラ前提、椅子縄縛、後ろに異物挿入
 アルコール粘膜摂取 この描写はファンタジー仕様につき、医学的なツッコミは勘弁
 当然、お試し厳禁


 その日の報告を終え、部屋を出る背中に短く告げる。
「一時間後だ」
 ドアノブを引いた手が一瞬止まっただけで、相手は返事もせず、振り返りもしなかった。それでも、部屋を出た後には身体をこちらに向け、オレの顔を見ることなく一礼を残してドアを閉めた。
 かけられた言葉の詳細を問う意味はなく、返答の有無もまた意味を持たない。そう判じたうえで、卑屈な態度に出るという選択など念頭にもないとでも言いたげな去り方に、強い自尊心が窺えた。
 初めて人形と顔を合わせたのは、ヨークシン・シティでの騒動で護衛団のリーダーを失った直後だった。若いながらも的確な判断力と揺るぎない意志を持つ、美しい顔をしているが、性の判別を下しにくい新入り。マフィアの一組織を束ねるオレに臆する様子もない言動に、言いようのない支配欲を感じた。
 無理矢理にでも従属させたくなって、人払いをしたうえで下手な脅しを使い、その身体を強奪したものの、なにひとつ変わりはしなかった。今はもう芯からの従順さなど求めてはいない。こうして私的な時間を削らせて人形の身体を貪ることに敢えて求めるものがあるとすれば、苛立ちや不安の解消のはけ口、だろうか。
 娘の機嫌を競り落としたと言い替えてもいい、法外な価格のオークション商品は、未だ行方が知れないままだった。紛失を言い訳にすることは許されないその支払いの焦げつきが、俄かに現実味を帯びてきている。当てにしていた娘の能力に起きた異変の原因も判らず、有力な資金源たちから依頼された占いの結果は、受け渡し期限を過ぎた今も保留という体たらくだ。
 妙な色をした眼球ごときの落札に常軌を逸した額を投じたのも、娘の不調を打破する具体的な善後策を口にしないのも、賢しげに冷めた顔をしたあの人形なのだ。度重なる不測の事態に対処し切れなかった己の布石の甘さに歯噛みし、先の読めない焦りに苦しむオレの側で、慌てる素振りを見せるでもなく、ただ静観するのみの人形を、気を紛らわせるための慰み者してなにが悪い。
 執務の終わったデスクの上に一人酒の準備をして、シャワーに立つ。
 数十分もすれば意のままに踏み荒らすことのできる、痛々しいほどに白い身体を思い浮かべると、ねとつくような興奮が這い上がってきた。腹の下で首をもたげ始めているモノに、無意識に手がいく。目蓋を下ろして、軽く握ってみた。頭上から降り注ぐ熱い飛沫が肌を打つ。

 重く乾いたノック音に応じる前に氷塊の沈む蒸留酒で口を湿らせ、チェイサーのトニックを小さく呷った。ほんの数秒でも相手をドアの外で待たせてやろうという魂胆のささやかな時間稼ぎが、我ながらいじましく思える。乱れてもいないガウンの襟元を整え、なおも一呼吸分の間を置いてから入室を許す声をかけた。
 滑るように部屋に入り込んできた人形の視線はオレの姿を捉えた後で、デスクの上に乱雑に置かれた品々に流れ、また戻る。そのうちの一つを見て、多少は顔色を変えるくらいの反応はあるかと期待したが、むだに終わった。それもいいだろう。事を進めていけば、今のような澄ました顔のままではいられまい。オレにしても、期待を滲ませた顔はしていないつもりだ。人形の全身を視界に収めたまま、その表情を崩さずに命じた。
「脱げ」
 溜息を踏みとどまるように軽くあごを引いた人形は、わずかに目を伏せる。線の美しい手が服の胸許へと動き、あたかもこれから浴室へ向かうような素っ気なさで青い上着を取った。続けて腰から下を覆う、同素材のものを外そうとするのを制する。
「少しは楽しませようという気にはならんのか?」
 オレの言葉に微かに唇を引き結んだのは、やはり溜息を殺すためなのかもしれない。口許を凍りつかせたまま緩やかに腰を折り、人形は床に落とした上着を拾い上げて再び袖を通した。
 数日前に呼びつけられたときに言われたことを思い出したようだ。一度限りの戯れだと、たかを括っていたか。そのときオレは、野卑になる一歩手前の言葉を選びながら、肌を晒す過程を観せるよう指示し、自分が満足するまで人形に衣服の着脱を繰り返させたのだった。
 飲み込みが悪くないのは承知、むしろ少ない情報で期待以上の結果を出すヤツだが、こういった場面では気位の高さが邪魔するらしく、何度やらせても情緒に欠ける動きを脱しなかった。その手の才のなさに呆れながらも、オレの望んだ華やかに誘うような色めきには程遠い、一種の儀式めいた人形の所作に暗く翳った官能を見出して、結局はそこを最終的な落としどころとした。
 人形は、自分の姿を正面から捉えるオレの目を避けるように顔を背ける。合わせ直した上着の胸をゆっくりと開き、腕を広げながら徐々に肩から滑らせていく。床に向けて斜めに伸びた両腕を伝って、青い織物が指先から抜けた。上着を脱ぐというだけの単純な行為も、動きの大きさと速度を変えるだけで随分と印象が違ってくるものだ。
 一方の肩を後ろへ引いて上体を捻った人形が、腰にまとった外着の止め具を外した。音もなく落ちたそれは、すでに足許に生まれている青く小さな山をうず高くする。続いて、しなやかな指先が質素な白いシャツの裾の両脇を軽く持ち上げ、やはり質素な白の下衣の腰に指をかけた。以前、シャツを先に脱ぎかけて、オレに止められたのを記憶していたのだろう。
 見事な尻をしていることは、初めてこの人形と顔を合わせた夜、解雇を脅し文句に服従させたときに知った。口での奉仕を強いて精飲させただけでは飽き足らず、オレに向けて尻を高く突き出すよう言いつけ、目当ての場所のみを露出させるという屈辱的な姿に貶めた。そのとき目の前に現れたのは、締まった肉が薄肌を弾かんばかりに詰まり、鞭を振り下ろして打擲音を楽しみたくなるような尻だった。滑らかな双丘を分かつ亀裂をいたぶり、その奥に捻じ込んでオレは二度目の欲を放ったのだった。
 人形は尻のみならず、素晴らしい輪郭を描く脚をも持っていた。それに気付いたのは、幾多の災難に見舞われたヨークシン・シティで体調不良を訴えたらしい人形が、現地で自身の回復を待ってから屋敷に戻ったその日の夜だった。有無を言わせず全裸に剥き上げ、ろくに濡れてもいない秘肉に強引に割り入った。
 司祭服じみた堅苦しい装いの下には、豊満とは言い難いが若鹿のような伸びやかな肢体があった。服を剥ぐ前からあからさまに迷惑そうな顔で、媚の欠片もなく、疲れているから休ませて欲しいと繰り返す、確かに疲労の見える蒼白い頬を張り、ベッドに押し倒した。
 足首を掴んで引き締まった長い脚を必要以上に大きく開き、その身体の柔軟性に任せて腰から半分に折り曲げてやると、肩を挟むようにして両膝がシーツに沈んだ。真上からのしかかって、天井と向き合った裂け目に捻じ込み、結合部を見せつけるようにしながらオレが腰を送り続ける間、人形は生気のない目を宙にさまよわせたまま、ただ揺り動かされていた。
 白い影が動くのが視界に入り、オレは物思いを打ち切った。影は脱ぎ落とされた人形の下衣。一瞬前まで脳裏にあった長く真っ直ぐな人形の素足がシャツの裾から伸びている。 その姿のまま夜の街に連れ出し、自分はいつでもこの美しい脚を根元から押し拡げて、その奥を自由に弄ぶことができるのだ、と道行く男どもに声高に宣じたら、この人形はどんな表情をするのだろう。愚にもつかない想像をしながら、グラスの酒に口をつけた。
 人形が、シャツの裾を捲った腕をゆるゆると挙げる。暗色の下着が覗き、続いてなだらかに張り出した腰の線が現れた。薄く平らな腹の中心に刻まれた臍は、鋭利な刃物の先を滑らせてできた傷のようだ。目を凝らせば、ごく淡い陰影の認められる腹筋が、人形の本来の職務を思い出させる。
 そこから上に目を移した先にある膨らみに関しては、少々興が失せるのを否めない。場合によっては、セカンダリーに通う「女」予備軍の子供たちの方が立派なものを抱えているのではないかと思うほどに、人形の乳房は小振りだった。それでも、胸筋が発達しているせいか形は悪くなく、その先端などは指で嬲ってやれば実に扇情的な反応を見せもする。
 やがて、シャツは鉢の小さな頭を抜け、下ろした両腕を滑るように人形の身体を離れた。人形が首を左右に振ると金糸が扇状に広がり、シャツにつられて乱れた髪がそれなりの体裁を取り戻す。服を脱ぐよう命じて以降、オレの方を窺いもしなかった黒い瞳が、ここでようやくこちらを向いた。視線が問いかけている。まだ続けるのか、と。
 素知らぬふりをして、半裸の人形を見据えた。辛うじて尻に引っかかっている股上の浅いショーツに、胸部をぴったりと一周する布に肩紐がついただけにしか見えない、簡素極まりない下着。オレの見慣れた華やかなで繊細なレースや、光沢のある素材などで作られたものとはかなり異なるそれらは、上下に分かれた水着のようでも、女子スプリンターのウェアのようでもある。
 部屋の灯りを受けて、薄闇に浮かぶ白磁の肌が仄かに発光しているように見えた。その肌に、うっすらと羞恥の朱が差している。羞恥と見るのはオレの都合によるもので、実際は立場上、決然とは表すことのできない憤懣の朱なのかもしれない。
 オレを見つめる人形が、小さく目を眇める。視線での問いに答えがないことに苛立っているのが判った。人形が自ら一糸纏わぬ姿になるまで眺めるつもりでいたが、少し考えてやめた。あごでデスク脇のパーソナルチェアを指す。人形は眇めていた目をなおも訝しげに眇め、しかし、よく訓練された犬を思わせる動きで指示された場所へと歩を進めた。
 人形がデスクの角に差しかかったあたりでオレも立ち上がる。わざわざデスクの前を回って人形の背後につき、充分に距離を縮めたところで、細い肩先を狙って開いた片手を強く突き出した。素人の動向など、背中を向けていてでも簡単に読み取れるだろうに、人形は身構えもせず、オレの力を肩でまともに受けた。
 驚くほどに呆気なく、人形の上体が捩れる。踏み出しかけた足を、予め上げてあった座面一体型のオットマンに阻まれ、崩れるようにしてパーソナルチェアに沈む。背もたれに肩がぶつかった拍子に上がった顔の中で、黒い瞳が冷めていた。オレが突き飛ばす気配に敢えて逆らわなかった、ということだ。
 海面に顔を出した岩礁にくつろぐ人魚のような横薙ぎの姿勢で倒れたまま、人形は身じろぎ一つしない。立ち位置をパーソナルチェアの正面から人形が顔を向けている側の肘掛けの辺りに移し、オレは口を開く。
「腕を」
 大幅に言葉を削ったオレの下命に、ゆっくりと瞬いた人形の瞳だけがこちらを見た。刹那の躊躇を見せた後で再び視線は外れ、傍らに立つオレの目の前に、無造作に揃えられた両腕が差し出された。
 人形の動きが止まる前に、二つの細い手首を片手で鷲掴みに奪い取る。余った勢いでその手を人形の頭上に引き上げると、薄く開いていた唇が鋭く空気を吸い込み、喉を鳴らす音が聞こえた。手首を掴む手はそのままに、オレはもう一方の手をデスクへと伸ばした。人形の目が、オレの手の行き先を追う。
 手に取ったのは、細長く小巻にされた赤の色縄。表情が変わることこそなかったが、人形がこの部屋に足を踏み入れ、デスクの上に投げ置かれた品々に目を走らせたとき、少しだけその流れを止めたものがこれだった。
 鍛えられてはいてもやはり華奢な身体を縛り上げ、縄の食いこんだ滑らかな肌を飽きるまで嬲る。それだけのために、わざわざ用意した。以前は、自分がこんなものを使って女を抱くようになるとは思ってもいなかった。
 ただし、オレの中でのこいつは、女の機能を持った人形でしかない。「女」扱いするには、愛想や色気、媚びが決定的に欠けている。もちろん、護衛団リーダーとしての評価はまた別だ。
 片手だけを使い、その勝手の悪さに苛つきつつ、まとめられた色縄を解く。優に十数メートルはあるそれの中心と思われる点を目算で探り、人形の手首にあてがう。二本の手首に幾重かを巻きつけて、まだ多分に余っている縄の両辺を軽く引き絞った。人形の指先がぴくりと動く。
「動くな」
 結び目を作りながら命じた言葉には、なにも返ってこなかった。沈黙は了承と同義だ。逆らうことを、オレは許していない。背もたれから浮き上がっている方の肩を強く突き、完全に背中を預けさせると、人形の頭越しに手首を括った色縄を後ろへ引き下ろした。高い背もたれの上辺は、寄りかかった頭の位置よりもまだ上にある。力任せに引っ張ったせいで、抵抗を見せない人形の上腕は背もたれに密着して、その上辺で肘を折る形になった。脇下の窪みが無防備に晒され、厚みのない背中がしなる。
 不当な扱いを、冷静に己に順応させようとするような深い呼吸に波打つ人形の胸をつかのま見やり、オレに反する意思のないことを確認してから、作業を再開した。パーソナルチェアの後ろに回り、匍匐に近い体勢になった。床に這うなど、随分と間の抜けた姿ではあるが、どうせ人形の死角に入っての作業だ。見てくれを気にする必要はない。
 まだ多分に余っている色縄をさらに遊びがなくなるまで引き、低い座面の裏から生えた円盤底の支柱に巻きつけて仮留めした。暑い盛りはとうに過ぎた季節だというのに、額の辺りが汗ばんでくる。手の甲で額を拭い、オレは身体を起こした。人形の正面に戻って、その顔を眺める。
「その眼、気に食わんな」
 全裸同様で椅子に手を拘束されているにもかかわらず、然したる感情もない。オレの相手をすることに慣れたというわけでもないだろう。こんなふうに身体を開かれて、なぜ動揺を見せずにいられる。
 ガウンの帯を解きながら、人形に近づいた。座面とほとんど変わらない角度に上げられたオットマンに膝をついて、身を乗り出す。両手の間に張った帯を人形の眼に押しつけ、頭の後ろに回した。細い金糸が絡むのにも構わず結び目を作り、さらにもう一度結ぶ。人形の吐息が胸にかかった。
 平然としているだけに、オレを蔑んでいるようにも見えた瞳が消えて、安心している自分に気づく。自分は、この身体を思いのままにする力を持っているのだ。そう、己に言い聞かせる。
 再び人形の前に戻ったオレは、その薄い胸部の中心を力をこめて掌で押さえつけた。愛用のパーソナルチェアは、強く体重をかければ背もたれの傾斜が浅くなるようにできている。視覚を奪われ、予期できなかったであろう圧力をかけられた人形の口から大きく呼気が溢れて、抜けるような色をした上半身が遠くなった。
オレはオットマンの横に降り、片手で軽く拳を作る。その拳を返して、
「ここへ脚を乗せるんだ」
 下着を残しただけの姿で仰臥する人形に聞こえるように、手近にある肘掛を指の背でこつこつと叩いた。
 人形は動かない。動かなくていい。言われてすぐに脚を開くような相手なら、始めからこんな戯れを思いつきはしない。
「聞こえないのか?」
 従う意思を固めるまでの心の揺れを体現するように、人形のつま先は浮きつ沈みつを繰り返す。形のいいふくらはぎが肘掛に乗ったのは、部屋の掛け時計の秒針が一周して少し経った頃だった。至当の羞恥がそうさせるのだろう。もう一方の膝が内側へ曲がり、持ち上げた片脚のももに添わされた。
「両脚だ」
 気負いを悟られないよう冷酷な声を作る。床に投げおいてあった縄を拾って、肘掛に固定するために膝頭のすぐ上に回した。
 人形の視界を塞いでおいたのは正解だった。裏社会に根を張ってはいても、今まで人間を縛り上げる事態に直面したことなどない。予想以上に難儀だと気付いたこの作業の過程を見られるのはどうにも極まりが悪い。縄運びの手順に悩みながら、なんとか膝と足首の二点を肘掛に縛り終えたときには、観念したらしい人形の残りの脚が片方の肘掛に乗せられていた。
 長く余った方の色縄をまた床から拾い、先ほどと同じようにその脚と肘掛とに巻きつけていく。要領を得たようで、こちらの脚は先の一方を固定したときよりは幾分短時間で済んだ。
 一息ついて、割り開かれた脚の中央に目を向けると、暗色の下着が覆うちょうどその箇所に、小さな染みができているのを見つけた。込み上げる笑いが鼻から洩れた。
「縛られて濡れるようなヤツに護衛を任せているようだな、オレは」
 投げた言葉に、人形は首を微かに振る。その様子は、生きたまま標本化されようとしている蝶の、最期の足掻きに見えた。
 逃れられないと知ってなおもがく姿は、それを手中に収めた者を妙に煽る。オレは四本の手指を鉤状に曲げて、人形の脚の末端に近づけた。指の腹がほんのわずか触れる程度の強さで土踏まずの窪みをなぞってやる。
「んん…ふ…っぅ」
 不意の刺激に発しかけた声を、人形は唇を噛んで抑えた。形の整った足指に力が入って、大きく反り返る。肘掛に捕らわれた脚は縄に制され、ごく限られた範囲でのたうちくねることしかできない。膝同様、縄が巻きついた足首より先だけに、自由が許されていた。触れてくる指を躱そうと縦横に暴れるその足先の動きが、オレの目を楽しませる。
 当然、笑い出すものと思っていたが、そんな反応はなかった。感覚が鈍いわけではないのは見れば判る。相当に自制心が強いのか、笑うことを知らないのか。
 残された自由を奪うために、人形の足を甲から掴んだ。シリコーンラバーでできたような、柔らかで弾力ある足裏に爪が沈む。間を与えず、鉤状にしたもう一方の指でまた同じようにゆっくりと掻いた。掌の中に捕まえた足先が抗う。
「く…ぅ…っ」
 細腰が捩れて、掴んだ足側の尻が浮き上がっていく。一掻きするごとに身体の捩れは強くなり、四肢を固定されているというのに、胸と尻が似たような方向を向くに至った。啼きはしないが、呼吸はかなり荒い。ずいぶん前から腰を中心に全身をがくがくと震わせているところを見ると、このまま擽弄し続けば腹の中を掻き回すまでもなく、ある種の限界を迎えるかもしれない。
 自分の欲や鬱積を晴らすために幾度か人形を抱いたが、時間をかけて追いつめるのは今回が初めてだ。突き入れればたまらなく具合のいい身体ではあっても、人形自身の乱れぶりはこれまで抱いたどの女よりも味気ないものだった。
 澄まし込んだ可愛げのないガキを挫いてやるつもりで、力尽くで犯してきた。その中で、一度たりとも追いつめられた様相を見せなかった人形に、一点への執拗な責めで揺さぶりをかけることができるとは。面白い発見だ。しかし、この程度で極みを与える気はない。
 大して動けぬまま、休みなく足裏をまさぐられる人形の震えが一段と激しくなってきたところで、
「淫乱め」
 掴んでいた足を捨てるように放った。片方だけ背もたれから離れた肩を押さえつけて戻してから、尻の浮いた側の脚の付け根を足で踏みにじる。
 中央に小さな染みを作っていた下着は、溢れ出た淫液を吸ってさらに濡れ色を広げ、性器の形状がはっきりと認識できるほど陰部に密着していた。
 まだ震えている人形の忙しい息遣いに加虐心が昂ぶる。
「今のがそんなによかったか?」
 ガウンの帯に目を覆われた顔が、まるで見えているかのようにオレの視線を避け、ふっと横を向いた。命令には従うが、全てが支配下にあるわけではない、という意志表示のつもりか。だったら、なんだというのだ。翅をピンで留められた無力な蝶に、なにができる。
 人形の内腿を踏みつけていた足を上げ、濡れて色濃くなった部分の中央に、素足の一指を無言で押し当てる。じとついた布地に包まれるようにして足指の先が埋まるのと、小さな悲鳴を上げた人形が腰を引くべく下肢を激しく揺すったのは同時だった。逃れられるわけもなく、なおも陰部に足指を呑まされた人形は、短く洩らした声を悔やむように顔を歪ませる。性器の内側がひくついているのが足の先から伝わってきた。
「小慣れた反応をするじゃないか。どこの男に覚えさせられた?」
 めり込ませた足指で断続的に陰部を小突きながら訊く。答えは要らない。震える唇を引き結んで耐える様を見下ろすだけで充分だ。
 オレが初めての男ではないことはすでに身体で確かめている。これだけ整った顔をしているのだ。男の一人や二人知っていても慮外ではない。だが、この人形の持つ年齢以上の落ち着きと、潔癖で毅然とした精神の中に混在する、玩弄され奪われることに対する諦めのようなものが、この熟れる前の肉体に何者かが世間並み以上の背徳的ななにかを施したことを窺わせる。
 だいたい、この年頃で特殊な嗜好の性欲に晒されること自体が異常なのだ。とはいえ、そんなことが今のオレにはむしろ都合がいい。
 足指に絡まる生地が重みを帯びてきた。性器からとめどなく溢れる淫液は小さな布切れでは吸収しきれず、座面の革を濡らし始めている。
 片足立ちの安定しない姿勢にも疲れた。そろそろ潮時か。軽く体重を前にやり、一際強く人形の中に足指を押し入れてやった。
「は…ぁっ、あ…っ」
 人形が背中を反らせ、声を上げるのを聞いてから引き抜く。性器の裂け目に、薄布が食い込んだまま残された。絨毯に降ろした素足の指に、長い毛足がまとわりつく。
 デスクに置かれたインク瓶を手に取った。浅い呼吸を繰り返す人形の、化粧気のない顔にある薄紅色の唇に目を移す。欲望の対象とするには濁りの足りない人形を、淫靡な色で彩ってみたかった。
 口紅など、娘の部屋へ行けば山ほどあるのだろうが、そんな真似ができるはずもない。だいいち、オレが連れ回す派手な女たちを毛嫌いしている娘が、赤インクで代用しようと思うようなどぎつい色の化粧品を持っているとは思えなかった。
 瓶の蓋を外してデスクに置くついでにペンを取り、インクにペン先を浸ける。そしてまた、人形の拡げられた脚の間へ引き返した。
 両膝でオットマンに乗り、腋窩を晒した人形の腕を挟むようにして肘をつくと、オレの体温を間近に感じたらしい人形が、背けた顔をさらに引く。
「こっちを向け」
 紅い石の光る形のよい耳に口を寄せて、鋭い声で囁いた。だが、人形は微動だにしない。いつものように咥えさせられるとでも思っているのだろうか。少しくらいなら待ってやってもいい。頭の中で一から数字を数える。
「こっちを向くんだ」
 十まで数えてから声を低めて繰り返した。髪の一本すら動かない。再び、一から。…五…九、十…。十五を数えることはなかった。今に始まったものでもないが、気は長くない。オレの考える「少しくらい」は越えた。
 ペンを持った手で人形の前髪を根元から掴み、無理やり正面に向けた。腹立ちまぎれにその髪を強く引いて頭を起こさせ、背もたれに叩きつける。結んでいた色の薄い唇が衝撃で綻び、食いしばった歯が覗いた。
 今度はインク瓶を持つ手で人形のあごをすくい上げる。瓶の側面が白い頬につき、その冷たさからか、人形はまた顔を背けようとする。
「ただのインク瓶だ。暴れてこぼすのは構わんが、お前の身体の汚れは自分で始末しろ。一度や二度洗ったくらいでは落ちんがな」
 強張った人形の首から、力が抜けた。
 インクを吸い込ませたペン先を人形の薄い上唇に乗せる。瞬間、その肌理に沿って暗い赤の滲んだ唇がわなないた。ペン先がぶれないよう意識を集めながらその輪郭を辿っていく。
 なにをされているのかは判っているのだろう。人形は息を殺しておとなしくしていた。下手に動けば、出来損いの道化のような顔になるのは必至、場合によっては色が落ちるまで人前に出ることもできなくなる。しかし、それもペン先が口角の辺りに差しかかるまでだった。
 赤い線が唇の上から下へ折り返そうという頃、突如、人形が眉を顰めて肩を震わせた。詰めていた息が微かに乱れる。自分でも気づいたらしい。人形は呼吸を必死に抑えようとしていた。半ば呆れ、半ば感心する。小娘風情が。こんなところでも感じるのか。
 繰り返しなぞって追い込んでやりたいところだが、インクをたっぷり含ませたペンではそうもいかない。口紅代わりに使っているインクが唇の形以上に広がっては本末転倒だ。手早く輪郭を仕上げ、その内側を塗りつぶす。
 人形の唇本来の色が、乾きかけた血のような色合いに覆われた。それだけで人形の持つ清廉な印象は一転し、仕事に不慣れな娼婦へと変貌した。似合う色ではないが、それがいい。お前の仕事を教えてやる。
 インク瓶と、まだ役目を終えてはいないペンをデスクに戻し、完成した標本を眺めやった。下着が残されているにもかかわらず、尻の下の座面まで濡らすまでに淫液を垂れ流した人形は、胸に残された下着越しにも切なげに見えるほど、ふたつの突起を屹立させていた。
 四肢を開いた半裸を椅子に緊縛され、足裏をしつこく擽弄され、下着の上から足指で性器の中を突つき回される。存分に屈辱的な行為の後に与えられた、唇への微弱な快感。
「ずいぶん焦れてるな。こんなに…」
 男を魅了するには量感が足りないが、尻同様に張りのある乳房の頂点のひとつを指先で摘み、
「固くして」
 合わせた指にゆっくりと力を入れて左右に捻じった。
「い…っぁ…」
 インクに染まった唇から押し殺した声が洩れる。椅子に張りつけられた身体を捩り、人形は背もたれの革を鳴らした。逃れることも叶わず身体をくねらせるその姿は、棒切れで鎌首ごと地面に突き刺された蛇を思わせた。どれだけ暴れても、四肢の自由がなくてはたかが知れている。
「素直に啼いたら、ぶち込んでやる」
 もう一方の突起を摘んでしごき上げた。固く尖った萌芽は、この小娘の啼きどころだ。捻じり、擦り、爪を立て、弾く。
 オレが指を動かす度に、汗ばんだ背中が本革の背もたれを滑り、引き攣れた摩擦音を幾度も鳴らす。人形は頭痛に苛まれているような顔で耐え続けた。まるで、声を出すのは罪だと盲信しているかのようだ。
「なにを我慢している。遠慮することはない」
 脚の間の奥にオレを受け入れずに済むなら、意地でも耐え抜きたいのだろうが、人形が手間のかかった快楽に弱い身体をしていると知ったオレもまた、意地でも堕とす気になっていた。こんな経過を辿るとは知らず、戯れに揃えた品々がオレの我欲を後押しする。時間はたっぷりあった。
 小さな芽を散々に捏ね回してやったが、人形は肌を粟立て、艶めかしい動きで腰を巡らせながらも、オレが満足するような囀り方はしなかった。その代わりのように、座面の濡れ染みが広がっているのが愉快だった。
 二本の指の腹に挟んだ突起を潰れそうなほど絞め上げ、捻りを加えながら引っ張った。人形が顔が苦痛に歪み、オレに引き攣った笑いをもたらす。やがて、弾力ある肉芽が指の間を滑り抜けた。
「強情だな、お前は」
 言いながら、デスクのグラスに手を伸ばし、興奮に渇いた喉をアルコールで潤す。大量に放り込んであった氷がほとんど解けた蒸留酒の上層はひどく薄く、オレはその不味さに眉を下げた。
 グラスに指を沈めて、軽くステアする。引き上げた指の先にできた雫を舐め取った。なにも加えずに呷れば焼けるような喉越しをもたらす高プルーフの蒸留酒は、普段のオレなら飲む気にもならない希薄な液体と化していた。
 強情も、引き際を誤ると後悔することになる。心の内で呟き、薄い、水同然のアルコールを一口分だけ口に含んで、グラスをデスクに置いた。
 何度勧めても酒の類を口にした例のない人形には、まだ強いくらいかもしれないが、この程度の濃度なら食道以上に弱い粘膜が荒れることもあるまい。もし、意識が混濁するようなことがあれば、オレの采配で明日は休みをくれてやる。
 オットマンの上で姿勢を低くし、大きく拡げた人形の脚の間に、アルコールを含んだ唇を近づける。不穏な気配を感じたのか、人形が後退るように身じろいだ。それには構わず、濡れた柔らかな尻の下に掌を差し入れて、持ち上げる。
 片手の親指で下着の股布を横へとずらした。淡い陰毛が張りつくほどに潤みきった性器のすぐ下に、風船の結び目のような肉穴が現れる。ずらした薄布をさらに追いやってから、その小さな穴を両の親指で軽く拡げると、粘膜の鮮やかな色が咲いた。と、
「やめてください」
 不意に、人形が言葉を発した。その冷たく鋭い声には、静かだが凛とした強さがあった。ものを頼む言葉でありながら、まったく頼まれている気がしない。自衛のためというよりは、オレの外道を未然に食い止めようとしているかのような語調だった。
 これほどきっぱりとした拒否を予想していなかったオレは、思わず尻を手放し、動きを止めて人形を見つめる。が、それもつかのまのことだった。
 裸同然に剥いて縛り上げた人形など、恐れるに足りない。こいつは念使いではあるが、それをオレに向けるような愚行はけっして犯さない。そう信じて疑わないのは、己の領分をわきまえている人形に対する甘えなのだろう。
 目を塞がれた人形に、オレの企みが判るはずはない。ただ、出し抜けに尻の穴を開かれて反発しただけのことだ。
 口の中のアルコールを飲み下し、逆手にした右腕を高く掲げた。狙いを定めた箇所へ一気に手を振り下ろす。部屋の空気が震えるほどの音がして、人形の腰が跳ね上がった。顔を歪めはしたものの、悲鳴や呻きを洩らさないあたりはさすがといったところか。
「もう一度、同じ台詞を吐いてみろ」
「…申し訳ありません」
 大きく拡げさせた脚の左の付け根、上質な練り菓子のような白く柔らかい太腿の内側を赤く染めた人形は、いささかの間をおいた後、起伏のない声で詫びた。申し訳ない、などとは露ほども思っていないことが、はっきりと知れる受け答えだった。
 オレは人形から離れ、部屋のドア近くに脱ぎ散らされた青い服の中を探った。指にジャックナイフが触れる。人形が以前、オレに難癖をつけてきた豚野郎を制したときに使ったものだ。服から抜き取り、折り畳まれた刀身を弾き出す。
「ケツの穴を弄くり回されるのは初めてか?」
 この質問には答えない。デスクへ歩を進めて、グラスを手に取る。そのまま、人形に近づいた。
「オレの遊び道具になってでも、このファミリーに身を置く気でいるんだったな?」
 やはり、答えない。実際にそんな言葉は使わなかったが、初めて犯した夜、今後の去就を問うたときには確かに聞いた。オレが望むなら、それでもここにいる、と。
「ならば、黙って股を開いていろ」
 そう言って、人形の内腿の窪みに銀色の刃先をあてがい、性器の大部分を晒して捩れた薄布の内側に潜り込ませた。青く血管の透ける太腿が、瞬時に引き締まる。躊躇わずに刃を引くと、薄布は爆ぜるように裂けた。
 腰に絡むだけとなった布切れに刃を入れてから毟り取り、透明な液体を再び口に含む。グラスとナイフを床に置くのももどかしく、人形の尻を抱えた。力の入った尻の肉を強引に掻き分けて、細かな皺に取り巻かれた小さな器官を剥き出しにし、指で拡げる。
縛りつけられた脚が、抱え込んだ尻が激しく暴れる。満身の力でそれを抑えながら、白い双丘の谷間に顔を埋めた。息を吹き入れるようにして人形の中へとアルコールを注ぐ。
 この人形に本気で抗われたら敵いはしない。四肢の動きを奪う色縄さえ、いざとなればたちどころに引き千切られてしまうのだろう。念能力を持つ部下の示す立場上の遠慮を握り潰し、心身の屈服を強いる自分が卑しく思えた。それでも、途中で退くつもりはない。
 人形の尻のから顔を離す。体力を消耗して乱れた呼吸を整えながら、口づけていたその場所を漫然と眺める。グラスの中にあったものと同じ、色のない液体が痙攣する穴から逆流して溢れ出ていた。
「だらしのない穴だ。栓がいるな」
 デスクの隅に転がしておいたペンを手にし、ペン先を外す。無用の金属片はゆるがせに放り投げた。残った軸を手の中で半回転させて、微細な伸縮を続ける穴の縁にその先端を添える。ペン軸の感触を捕らえた人形が、座面の奥へ尻を退こうとするが、脚を戒める縄がそれを阻む。
「逃げるんじゃない。ケツの中に傷を作りたくはないだろう?」
 この一言で、人形の抵抗はぴたりと止んだ。自分の口許が捻くれた笑いを形作るのが判る。オットマンの上に膝をついて座り、人形の尻を持ち上げた。座面との間にできた隙間に膝を差し入れて、そこに尻を乗せた。淫液やアルコールでいやらしく濡れたふたつの穴が上を向く。
 異物を挿されるのを待つだけとなった人形の尻の穴の周囲に沿って円を描くように、ペン軸の先を滑らせた。
「気持ちいいか?」
 オレに近いなにかに固執するがために背理を呑んでいるだけの人形は、好き好んでこの親子ほど年の離れた男の前に痴態を晒しているわけではない。
「…いえ」
 わずかな怒気を含んだ、震える声が返ってくる。耳慣れた明瞭な低音は気怠げにくぐもり、人形が酩酊に蝕まれて始めていることをオレに伝えていた。種々の自由に枷をつけられ、一方的に責められるしかない状況に迎合する様子も見せず、溺れまいと気を張るその強さが崩れるのも、時間の問題だ。
「よく言う。こんなに垂れ流して」
 しとどに濡れ、充血して光る性器に指を突き立てた。
「んぅ…っ!」
 すぐに関節を曲げ、陰核の裏を一度だけ強く擦る。
「うあぁ…っ、あ…ぅっ!」
 曲げた形のまま、勢いよく掻き出すように指を抜くと、淫液の水沫が散った。指のぬめりを尻の中心に塗りたくり、残りをペン軸に絡ませる。その軸の先を、殊更気を持たせるような遅緩さで小さな穴に挿し入れた。
「い…っうっ」
 人形が声を上げて尻を引くが、ペン軸が外れるだけの逃げ場はなかった。流し込んだアルコールを直腸で混ぜるようにしながら、オレは人形の奥へと軸を進めていく。人形の肉襞が、先をせがむようにひくついていた。
 酔いに肌の朱を増した人形は、己の反応を否定したいのか、奥歯を噛みしめ、身体を強張らせているが、その忍耐ぶりには目に見えて力がない。
「酒は、飲まないんだったな。ところで、どんな顔してケツに突っ込まれてる?」
 人形の目を覆い隠す帯紐を掴んで、喉許まで引き下げた。長引く恥辱ゆえか、粘膜に直接与えられたアルコールのせいか、周囲を赤く潤ませた虚ろな瞳がオレの顔を捕らえ、緩慢に視線を外した。
 細い首に絡まる帯紐は、杭に繋がれたままいたぶられた愛玩動物を思わせる。そうするには少し長い帯紐をもう一周首に回して調節し、ネクタイの要領で結んでみる。
 この身体はオレのものだ、と声には出さずに呟いた。うわべの忠実さで仕えられるだけでは足りない。だが、全てを自分のものにしたいのかと聞かれれば、それも違う。
 どうあっても壊すことはできないと知りつつも、いつか人形とオレを隔てる強固な壁に亀裂を入れられるかもしれないと、むきになって辱めているのだとは認めたくなかった。
 その半分近くを人形の尻に収めたペン軸を、今度は前後に動かす。酔いが回って動きの鈍くなった人形は、唯一自由の効く首をゆるゆると振って尻からの快楽になおも逆らう。だんだんと滑りがよくなっていくのは、異物を咥えこんだ器官から潤滑を助けるようなものが滲み出しているからだろうか。
 ずいぶんしっかりと締めつけているようで、引っ張り出すときには穴の内側の肉がわずかに捲れ上がる。そのタイミングで息を呑む人形が、下肢に力を入れて微かに身を捩ることに気付くのに時間はかからなかった。
 深まりゆく酔いのせいで快楽に従順になり始めたらしい人形は、続けていくうちに甘さを含んだ声さえ洩らした。
「抜かれるときの方が好みか?」
 と訊けば、少しは理性が残っているのか、蕩けかけた顔に正気を戻して、強い非難の目をオレに向ける。激しい呼吸に緩んだままになっている血塗られたような唇が、その表情をより妖艶に見せた。
「そう怖い顔をするな。もっとよくしてやる」
 床に転がるナイフを拾った。小粒の乳首を浮き上がらせる、胸の下着の裾に切っ先を引っかけ、手首を利かせて布地に刃を伝わせると、伸縮性の強い生地が真ん中から弾けて分かれた。
 控えめな乳房が現れる。勢いで跳ね上がった帯紐のネクタイが、片方の乳房の上に落ちた後でその緩い傾斜を滑り、浅い谷の中央に収まった。
 乳房のひとつを強く握る。痛みに目許を歪める人形を横目にナイフを床に戻し、入れ違いにグラスの中にまだ比較的大きく氷塊の形を残しているものを摘み取って口に入れた。
 人形に向き直り、口の中で転がしている間に冷え切った舌で、掴んだ乳房の先端に勃ち上がったところを絡め取る。
「ひ…ぅっ!」
 人形が上体を跳ね上げ、背もたれの裏で手首を束ねられて動かぬ腕を振り回そうとする。追い討ちをかけるように氷を押しつけると、肩を捩って面白いように身悶える。固くなっていた乳首がさらに固くなった。オレの腹に触れて動かされる、尻のペン軸も拍車をかけているのだろう。
 乳首の根元に歯を立て、空いている手で性器を開く。冷たくしこる肉粒を吸いながら、ゆっくりと歯でしごき上げて、顔を離した。白い乳房に鳥肌が浮いている。
 ふた回りほど小さくなった氷塊を掌に吐き出して指先へと滑らせ、親指で止めた。虚空を見つめて浅く喘ぐ人形は、オレの一連の動きに気づいていない。意識を引き戻すために、性器を拡げた指の余りで陰核を弾いてやった。
「あ…っ」
 人形が目を見開き、高く叫ぶのと同時に、温度の低い透明な結晶の乗った指を、開かれた秘裂に押し込んだ。
「い…ぁっ、や…っ、やぁっ!」
 人間二人分の重さのかかった椅子までもが揺れるほどに、人形が腰を躍らせた。気にせず、突き入れた指を手荒に回す。これまで聞いたこともない人形の嬌声に、すでに張り詰めて久しいモノが痛みに似た感覚を訴えていた。
「ああっ!ああぁっ!!」
 ペン軸を植えつけられた尻が激しく振られ、肘掛の上の太腿が狂わんばかりにばたつく。その身体に気性の荒い精霊を宿しているかのようだ。人形が暴れれば暴れるほど、上気した肌に赤い縄が食い込む。
 複雑に入り組んだ襞に埋没させるように氷を押しつけるが、摩擦が小さすぎてすぐに指先から逃げてしまう。湿った体温に包まれた指に、冷たい熱が不規則にまとわりつく。
 熱はやがて、人形の中で解けて消えた。
 繰り広げられた痴宴に、モノが耐えかねている。背もたれに這い上がるようにして、人形の身体に覆い被さった。尻に挿さるペン軸を追いやり、なにがどれかも判らないほどに混じり合った液体に濡れそぼった陰部に、怒張したモノを突き沈める。
「は…あぁぁっ!」
 切なく高い声とともに、温かさを取り戻しきれていない膣肉がオレを包んだ。その心地よさに目を閉じる。勢いをつけて腰を送ると、人形の奥にモノの先がぶつかった。人形が一際大きく啼く。
 縋るように、未熟な双の乳房を掴んだ。乳首を挟みつけた人差し指と中指を、腰の動きに合わせて擦り合わせる。その度に引き攣った声で囀る人形の中が収縮し、オレを搾り取ろうとする。後ろの穴のペン軸が、陰部から新たに溢れ伝う淫液にぬめって裏筋やタマの間を滑り、高まる快感を後押しした。
 柔らかく痺れるような衝撃が、繰り返し先端から届いている。体位の関係でたまたま当たることはあっても、オレを受け入れる人形が、ここまで断続的に身体の奥を突かせたことはない。
 壁の向こうで無関心を貫き、くだらなくとも致命的らしい脅しを甘受して夜伽を強制されているだけの人形の身体が、オレを相手に快楽を貪るような反応をするわけがなかった。
 アルコールの力がもたらした素直な反応なのか、人形にこんな乱れ方をさせることのできる男の記憶が、朦朧とした意識に錯綜しているのか。
 どちらでもいい。人形がまやかしに抱かれてよがり、喘いでいるのだとしても、現実はオレの腹の下でしかないのだ。正気でなければ征服した気がしないと思えるほど純粋な支配欲は、とうに失せている。
 さぞかし浮かされた表情で啼いているのだろうと、視線を人形の顔へと動かす。そして、図らずも期待は裏切られた。
 こんなにも悦楽の声を上げてオレを締めつけているというのに、人形は苦渋に満ちた眼を中空に向けていた。まるで、身体の芯から広がる感覚に取り込まれて溺れる自分を蔑んでいるかのようだった。この期に及んで、まだ理性にしがみつこうというのか。
 改めて人形の尻を強く抱えて腰を進め、モノをしっかりと根元まで咥えさせた。人形の内腿とオレの腹が、奥壁と先端が密着する。

 堕 ち ろ

 その状態で、人形を身体ごと大きく揺すった。
 人形の身体が硬直し、退廃的な赤に彩られた唇から深い呻きが零れる。

 堕 ち ろ
 堕 ち ろ

 薄い肉の膜を挟んで、後ろに捻じ込んだペン軸の硬さを感じた。射精への欲求が、臓腑の底から迫り上がってくる。
 だが、まだだ。呪詛のように同じ言葉を繰り返しながら、腰を叩きつける。

 堕 ち ろ
 堕 ち ろ
 堕 ち ろ

 繊細な粘膜に吸収させたアルコールは、完全に人形の自制のたがを溶かしていた。
「ああぁっ、あぁっ、い…っやだ…っあぅ…くぅ…うぁああっ!」
 憚りのない声が助けを求めるような響きを帯びて、切々とした余韻を残す。
「ぅあ…ぁあっ、あっ、あ…ぅあっ、もう…や…め…っ」
 切れ目なく啼かされ、嗄れかけた喘ぎの最後に、人形の唇から何者かの名前のようなものが続いた。はっきりと聞き取れはしなかったが、オレの名ではないのは勿論のこと、オレを指し示す呼称ですらないのは明らかだった。耳馴染みのないその名を持つ者こそが、成熟にはわずかに届かない人形の身体に淫楽を叩き込んだ男に相違ないと確信した。
 猛烈な嫉妬が湧き上がる。おかしな敗北感に急きたてられ、加減も容赦もなく、やみくもに人形の深部を突いた。白い身体が跳ね、掠れた声が押し出される。
 職権を乱用して捻じ伏せているに過ぎないと承知していたはずだった。だというのに、我を忘れて喰らいつき、結局はオレが容易く篭絡できるような、やわな小娘ではないと思い知らされる。
 途中、訪れた精の奔流に動きを止めはしたが、モノが衰える気配はない。対象の定まらない憎悪をぶつけるがごとく、オレは人形の奥壁をなおも穿ち続けた。
 隅々にまで緊張を行き渡らせた肢体は、いつしか骨が抜けたように揺れるだけとなっていた。オレではない誰かに解放を乞う懇願の声も、突かれるごとに溢れる力ない呻きも、もう聞こえない。
 すでに精を放ち終えたモノは、人形の中で徐々に猛りを鎮めて始めている。未だ蠕動の止まない熱い肉襞からモノを引き抜き、人形の首周りを飾る帯紐を掴んだ。
 片手で手繰り、背もたれからわずかに浮いた頭を手荒に揺らしてみたが、閉じられた人形の目蓋は動かなかった。意識の喪失。
 呼吸はある。首筋に指を当てれば、間隔の短い脈拍が伝わってくる。大した量でもなければ、大した濃度でもないアルコールだったが、人形にはかなりの負担になったらしい。
 脱水症状か。血の気が引いた。予め想定していたつもりの事態だった。しかし、こうして実際に起こってみると、冷静でいることはできなかった。
すぐさま、デスクに向かう。トニックの残るチェイサーで、氷が消えたアイスペールの中の水をすくい、人形の許へ取って返した。
 顔を上げさせ、両側から摘まんで鼻孔を塞ぎ、開いた唇からチェイサーの中身を流し込む。小鼻の指を離すと、人形の喉が大きく波打った。

 人形の呼吸や脈が落ち着くのを待つ間に、尻を犯していた異物を抜き去り、四肢を拘束する色縄をナイフで断ち切っていく。丁寧にほどいてやればいいのだろうが、欲を果たして間もなく目の当たりにした人形の昏睡に狼狽えた後では、根を詰めるような作業をする気は起きなかった。
 急激な疲れを覚え、縄を断つ手を止める。屈め続けていた腰を伸ばしがてら、脱力しきった人形の裸体を眺めた。図ったように、戒めを解かれた一方の脚が肘掛から外側へ滑り落ち、開かれていた脚の角度がさらに大きくなる。
 咲き綻びる蘭花めいた陰部がはっきりと見えた。その花芯から白濁が零れている。両腕を掲げられたまま乳房を晒し、脱力して顔を上向かせた淫らな姿態。首に巻きついた帯紐は、飼い犬につけた首輪と鎖のようだ。
 自分が人形をこんな姿にしたという現実感は、まるでなかった。すぐ触れられる距離にいるというのに、闇市場に出回るブルーフィルムの幕切れを見ているようにさえ思えた。
 全ての縄を解いたらベッドまで運んでやるつもりでいたが、自分とほとんど身長の変わらない人形を抱き上げて歩く気力も尽きていた。精々、腕を降ろし、脚を閉じさせたうえで、寝室のブランケットをかけてやるまでが関の山だ。
 判っている。二十九億Jという入札額に許可を下したのはオレであって、人形が独断で落札したものではない。原因が見えない以上、娘の能力の復元について人形を追及するのもお門違いだ。
 だが、潔く責任を認め、割り切ることのできないオレは、先行き不安な心の均衡を保つために、真意の計れない人形の忠実をまた、その身体に問い質すのだろう。
 たとえ、その詰問で得られるものが、陽炎を抱くような空しさだけだと知っていても。