学園パラレル、クロクラ寄りのレオクラ、キルクラ…になる予定です。ヒソカ空気です。
クラピカはれっきとした女の子です。訳あって男の子になってます。
「クラピカぁぁ〜!!この世の終わりだ…慰めてくれぇ」
「フン、レオリオ、また振られたのか。」
ここはハンター学園高等学部。二年生のレオリオは狙っていた女の子にまた振られ、すっかり肩を落としていた。クラスメートで昔からの腐れ縁のクラピカは、この毎度毎度のレオリオの言動に半分呆れつつも放ってはおけず、厄介な友人を持ったものだと溜息をつくのだった。
「あ〜あ…お前が女だったらなぁ…付き合ってやってもいいんだけどよ」
「馬鹿らしい。戯言をぬかしおって。」
動揺する心を悟られぬ様、至って平常を装いながら廊下を歩き続ける。
「くっそ〜、何かいいことな…」
『ドン!!』
「いってぇ〜。ったく廊下を曲がるときは気を付けろよなぁ。おい、お前大丈夫か?」
レオリオは出会い頭に思い切りぶつかった相手に手を差し伸べたが、その手はパシッと振り払われ、そっちこそ気を付けなさいよね!と一言。走って逃げられてしまった。
呆然とするレオリオ。
「何だ、今の女は!走っていたのはそっちではないか!なぁ、レオ…リオ?」
見ていたクラピカが声を荒げ、レオリオの顔を覗き込んだが何だか様子がおかしい。
「…れた。。」
「は?」
「惚れた…。今の子、どこのクラスだ?」
「…。」
こんなベタな展開で一目惚れするとは何て単純でバカな男なのだろう…クラピカは言葉にならない思いでレオリオを見つめた。
あとからレオリオから無理やり聞かされた話。彼が一目惚れした相手はマチといい、一つ上の学年である。一目惚れしただけあって容姿端麗で学年・性別問わず憧れの的、所謂学園のマドンナ的存在の女性であった。女のこととなると目の色を変えるレオリオがなぜ今まで彼女の存在を知らなかったのか、クラピカはふと疑問に思ったが重要なのはそこではないらしい。
彼女には取り巻きがいて、それがかなりの男前でレオリオにとってはライバル、敵なのだ。それも2人。そこまで聞いたクラピカはあまりにも内容がくだらな過ぎて、ベタすぎて、うんざりしてしまった。
「とにかくお前では荷が重すぎる相手だ、諦めろ。」
そう告げてさっさと立ち去っていった。
「くっ、くっそぉ!俺は諦めないぞ!なにがなんでもマチちゃんと付き合ってみせる!!」
こうしてレオリオの仁義なき戦いが始まったのである。
「なぁなぁ、ちょっと聞いてくれよ!今日な、マチちゃんがさぁ…」
今日の被害者はゴンだった。最近のレオリオは毎日こんな調子で誰かをつかまえては意気揚々と愛しのマチの話を延々とするのでみんな迷惑していた。
ゴンは学年は一つ下だがクラピカ同様、レオリオとは幼い頃からの親しい友人で休み時間になるとどちらともなく集まって他愛もない会話をするのだった。
ゴンは心配そうな表情を浮かべ、クラピカにそっと訊ねた。
「ねぇ、何か話を聞く分だとそのマチって子には全然相手にされてない感じだよね?なのにレオリオすごく嬉しそうだけど…大丈夫なのかな?」
「…恋は盲目というからな。まぁ放っておいてもそのうちまたフラれていつもの奴に戻るだろう。」
「それもそうだね。」
−そう。いつものこと、いつもの様にまたすぐフラれて、いつもの平穏な生活に戻る。はずだった。
けれど今回のレオリオはいつも以上に執念深く、さらには己の身にまでふりかかってくるとは、当然のことながらこの時のクラピカは想像もしていなかったのである。
「あーー!!クラピカ!こんなところにいたのか!」「げっ!!」
今日被害をこうむるのは私かと諦めつつ、なんだかんだ言って親身になって話を聞いてやる自分に少々腹ただしい気持ちになる。
図書室の、ずっと貸し出しされていた本。なかなか返却されずようやく自分の手に回ってきて、さぁこれから!と心を弾ませていたところだったのに…
その時、また騒がしい集団が室内に入ってくる気配を感じた。
案の定マチとその仲間達だった。またレオリオがこんなところで会うのは運命だとか結婚しようだとか訳の分からないことを抜かし、巧みにかわされている。
クラピカは自分の楽しみを邪魔された上、本来静かで唯一心の落ち着ける空間を乱されたことに我慢ならなかったが、このくだらない揉み合いに参加するのはもっと嫌だったので本に精神を統一しようと努めた。
するとマチのとりまきの一人がクラピカの目の前の席に腰掛け、じっとこちらを見つめている。黒髪で整った顔立ち、自分に自信があることが雰囲気で伝わってくる。
クラピカは気味悪く思ったが相手にしたくないので、目を合わせぬ様、文字に目を這わせる。
「君、すごく可愛いね。名前、何ていうの?」
「…。」
「そこのメガネの彼とは友達なの?」
「…。」
「その本、面白いよね。読みたいと思って借りたはいいけど忙しくってさ、やっと最近読み終えたんだ。」「…!!お前か!返却期限はとっくに切れていたのだぞ!そのあと待っている人の気持ちも考えろ!!」
黒髪の男は微動打にせず、けれど満面の笑みでごめんね、と告げた。
クラピカははっとして立ち上がり、その場を去ろうとした。するとがしっと腕をつかまれ、さっきと同じ掴み所の無い笑顔で優しく呟く。
「名前、知りたいんだ。教えてくれないかな?」
クラピカは強引に腕を振りほどき、うんざりという表情を見せる。
「お前のような変態に教える様な名前はない!」
スタスタと歩いて去っていくクラピカの後ろ姿を見てクロロははっとした。そして咄嗟に近くにいたシャルナークに聞いてしまった。
「今の子、制服ズボンはいてなかった?!」
「え?あぁ、団長知っててからかってんのかと思ったよ。あの子、顔は可愛いけど男だよ。結構密かに人気あるみたいだけどあの性格だからさあ、周りの人たちは近寄りがたいと思ってる人のが多いよ。」
「へぇ。」
それは面白い。といった様に不適な笑みを浮かべた。
それからというものの、変な関係ができてしまった。お互いが割と仲間同士で行動することが多いからかマチを見つけるとレオリオが飛んでいき、嫌がるクラピカにちょっかいを出すクロロ。そしてさらに前々からマチのことを気に入っているヒソカが加わりレオリオと火花を散らした。
以前ヒソカと火花を散らしていたのはクロロだったのだが、新しいオモチャを見つけてしまった今、興味はすっかりそっちへ移っていた。
「可愛いなぁ、クラピカは。ねぇこの際だから付き合っちゃおうよ。」
「うるさい!!うわっ!変なところを触るな!この変態痴漢男が!!」
それを横目で見て面白く無いのはマチ。そもそもマチの本命はクロロだったのだが、プレイボーイな彼の本性を知っていた為、一途に想いを寄せる程素直にはなれなかった。又二人の男に言い寄られているという優越感もあり、そこからくるプライドも素直になれない要因であった。
クロロはというと、実の処あまり深く考えてはいなかった。女性の存在は全てそのうち過ぎ去ってしまうもので退屈しのぎでしかなかったのだ。
そしてそれはマチ、ヒソカにとっても似たようなもので結局のところ三人で恋愛ゲームを楽しんでいるのだった。
「ねぇ、最近随分とあの子にご執心じゃない。団長ってそっちのほうもいけたんだ。」
「ふふっ。まさか。俺が男の子好きになる訳ないでしょ。でもあの子、凄いからかい甲斐があるよ。…何、ひょっとして嫉妬?」
「うーん…そうかもね。だったらどうする?」
「嬉しいな。でもマチが一番だよ。」
こんなやり取りを繰り返した。
日曜日。クロロは以前から興味のあった文献を探しに隣町の古本屋まで足を運んでいた。そしてそこで聞き覚えのある声を耳にした。
「今生の頼みだ!出来る限りのことはする!その本を譲ってもらえないだろうか。」
「そうは言ってもねぇ、これは売り物じゃないんだよ。何度お願いされても困るんだよねぇ。」
一歩も譲らないクラピカに古本屋の店主は心底困り果てた様子だった。
「ねぇおじさん、どうしても売れないのなら交換するっていうのはどうかな?」
突然のクロロの登場にクラピカは目を丸くして何も言えず眺めている。
「これなんだけどさ、古代ヨークシンで唯一残された書物って言われてて…」
その後数十分に渡り交渉を続けるクロロ。ただただ見つめることにか出来ないクラピカ。
「うーん、しょうがないね。君らの熱意には負けたよ。」
「やったー!交渉成立!」店主にお礼を言い、二人は店をあとにした。
せっかく欲しかった本を手に入れたのに浮かない表情のクラピカ。
「いくらだ?」
「え?いくらって何が?」「さっき交換した本の値段だ。一度では難しいかもしれないが必ず全額返すから。」
「うーん…いくらって言っても貰い物だったから分からないや。それにどうせ返してくれるなら違う方法で返して欲しいな。」
「ち…違う方法とは何だ?」
クラピカが物凄く警戒し始めたのを感じ、あくまでも爽やかに答える。
「ランチをご馳走してくれないかな?行きたいお店がこの近くにあるんだ。」
「えっ」
意外な言葉が返ってきて一瞬戸惑ったが、返事をする間もなく、こっちこっちと手を引かれ、店に連れていかれてしまった。
そこはお洒落なオープンテラスのカフェで、元々田舎育ちのクラピカにとってなんとなく落ち着かない空間だった。
「クルタ…語だったっけ?その文字。随分古そうな本だね。」
席についた後もソワソワしているクラピカにさらなる不意討ちの言葉がかかった。
「…ずっと探していたが、見付からず諦めていたのだ。けれど今日偶然あそこで見付けて、いてもたってもいられなくなって…もう手放したくない。」
「もうって、どういうこと?」
「これは元々私のものだったんだ。ほら…」
クラピカは本を開いて隅を指さした。そこにはおそらく幼い頃に書いたであろう、拙いながらも心のこもった文字で『クラピカ』と書かれていた。
「その文字…君はクルタ人なの?確か絶滅したって聞いたけど。」
「…。」
「…それなら余計大事にしなきゃね。本も君のもとに戻ってこれて嬉しいと思うよ。」
クロロの質問に黙り俯いてしまったクラピカの心情を察し、それ以上その話をすることは無かった。クラピカもクロロの気遣いを感じながら美味しい食事に舌鼓を打った。
どれ位話込んでいただろう。好きな作家、映画、絵画、クロロとクラピカは自分達でも驚く程嗜好や感覚が似ていた。気付いた時にはもう空は暮れかかっていた。
二人はその後近くの川原を歩いた。
「あっ!クロロ、見てみろ、猫が尻尾で魚を釣っているぞ!うはは、バカだな、失敗して暴れてる。うわ!あはは。」
こんなに楽しそうに笑うクラピカを見たのは初めてだった。キラキラと光る水面、紅く染まる夕陽がさらにクラピカを輝かせていた。
「本当、レオリオみたいに間抜けな猫だな。」
レオリオ…違う男の名前を出されて今までなかった感情がクロロの中に込み上げてきたが、それが何なのかクロロには分からない。
それからクラピカと分かれて家に帰ったがその辺のことをクロロはあまり覚えていなかった。ただ、夕陽を背に笑いかけるクラピカの顔が目に焼き付いて離れられなくなっていた。
つづく