You Are Mine...
「渋谷、さっきから気になってたんだけどさ・・・」
眞魔国−血盟城。
膨大な書物が置いてある図書室で、必死に文字の読み書きをしていた俺−渋谷有利原宿不利−の真正面に座っている双黒の大賢者こと村田健−通称ムラケンに声をかけられた俺は顔を上げた。
「ん?なんだよ、村田」
今、ここには俺と村田しかいない。
いつもなら、俺が文字を書く度に泣き伏せびながら褒めるフォンクライスト卿ギュンターや、それをみて大騒ぎするフォンビーレフェルト卿ヴォルフラム、そしてそれを爽やかな笑顔で見ている、俺の護衛兼保護者兼名付け親・・・そして恋人でもあるウェラー卿コンラートがいるはずなんだけど・・・。
今朝の朝食の時間、彼らの師範である漆黒の髪に群青の瞳を持つ少女−水月沙耶さんに、剣の稽古へとひっぱっていかれたのだ。
それは、フォンヴォルテール卿グウェンダルやグリエ・ヨザックも同様で・・・。
っていうかサヤさんって、もしかしてアニシナさんと同じくらい強いんじゃ・・・。
なんせアニシナさんの幼馴染みだし・・・。
「渋谷、聞いてる?」
思わずサヤさんNo.2毒女説を考えてしまった俺の目の前で村田がひらひらと手を振る。
「え・・・あ、わるい。なんだっけ、村田。」
「やっぱり聞いてなかったんだね。だから、それ、キスマークじゃないかっていってるんだよ」
呆れたような顔をして村田は俺の手首の内側を指さした。
・・・って、え・・き、キスマーク・・?
「え・・えぇええ!?」
慌てて指さされた場所を見るとそこは確かに虫に刺されたように赤くなっていて・・・。
「な、なんだよ、これっ!?い、いつのまに・・・!?」
いつも一緒に寝ているヴォルフラムがこんなことするわけないし・・となるとこういうことするのは・・・。
「ウェラー卿だね」
さらりと言われぼっと頬が赤くなるのを感じた。
「む、村田〜〜〜!!」
「いやぁ、ラブラブだねぇ、相変わらず。だって渋谷、キスマークはそこだけじゃないだろ?」
そういうと村田は手を伸ばして学ラン風のこちらの服の襟元を開けている俺の首筋をツン、とつついた。
・・・え・・・まさか・・まさか〜〜!?
思わず立ちあがると窓際にだっとかけより、そこをみる。
・・・俺の悲鳴が城中に響いたのは数分後だった。
その日の深夜、 結局一日中サヤと稽古をしてきた俺−ウェラー卿コンラート−たちは全身泥まみれの傷だらけだった。
「ヴォルフラム、大丈夫か?」
ふらふらとしながらも寝室へ戻ろうとするヴォルフラムに声を掛けると傷だらけの顔でヴォルフラムがきっとにらみつけてくる。
「だ・・・大丈夫に決まっているじゃり!こんなことでこの僕が・・・」
「ヴォルフラム、また出てるわよ。それよりか、今日はもうユーリ陛下の部屋に行くのはやめるのよ?もうこんな時間なんだから。」
1人だけ、ほとんど傷がないサヤ師範がくぅっとのびをしながら釘をさした。
「わ・・分かってるじゃり!」
「それでは私もこれで失礼します・・にょろ・・」
「・・ギュンターも、出てるわよ、それじゃあ皆、各自けがの手当きちんとすること。それじゃあおやすみね」
その言葉が合図であったかのように全員がぞろぞろと自らの部屋に戻っていった。
疲れ切った体を引きずって・・・。
「・・・結局、今日一日陛下と顔を合わせていないな。」
早朝から稽古に連れ出されたため、今日一度もユーリの顔を見ていないと気がついたのは自室の前まで来たときだった。
今からでも顔を見に行きたいがすでに時刻は深夜。
彼はとっくに眠っているだろう。
「・・・起こすのは悪いし、朝になったらにするか」
あきらめるためにそう言うと俺は自室のドアを開ける。
すると俺のベッドには意外な人物が寝息を立てていた。
「ゆ・・・ユーリっ!?」
そう、そこにはユーリ本人が体を丸めて寝息を立てていた。
いつから俺の部屋に来ていたのだろう。
「・・・そんな格好では風邪をひきますよ、陛下」
学ランのままの彼のそばにより軽く肩をつかんで揺さぶると「ん〜・・・」という低い声が聞こえてくる。
・・・俺を待っていてくれたのだろうか。
「ユーリ・・・」
ギシッとベッドに手をつき腰をかがめると、瞳を閉じているのを確認するように顔をゆっくりと近づけそのまま彼の赤い唇に自分の唇を重ねた。
「ん・・コ・・ラッド・・?」
しばらくして唇を離すと同時にユーリが目を覚ます。
「おはようございます、陛下。といっても夜なんですけどね?」
にこりと微笑みを浮かべながら言うとユーリがハッとして上半身を起こした。
「夜!?あ、そっか。俺、あんたの帰りまってて・・いつの間にか眠ってたみたいだよな。・・って、あちこち傷だらけじゃん!大丈夫かよ!」
月明かりの中、俺の顔を見たユーリが慌てたように俺の頬に触れてくる。
心配そうに見上げてくるユーリがとても愛おしくて俺はユーリをぎゅっと抱きしめた。
「ちょ・・ちょっと、何やってるんだよ、コンラッド!早く手当しなきゃ・・」
「大丈夫。全部かすり傷ですから・・・。それにユーリの顔を見たら元気になりました」
腕の中に収まってしまっているユーリにそう囁くとそっと彼の髪を梳き始めた。
「・・・恥ずかしいこというなっての。」
微かにユーリの頬が赤く染まっているのを見て俺はユーリの隣に座り、その額にキスをする。
「・・・待っていてくれたんですよね、俺が帰ってくるの・・・」
「ち・・・ちが・・っ!ただ、今日一日あんたにあってなかったな、って思ったら急に・・」
視線を泳がせながら答える彼を見て俺はよけいに笑みが溢れてきた。
なんでこの方はこんなにも愛しいのだろう。
「ユーリ、会いたかった。・・・なんせ、今日はユーリに会うことができませんでしたから。・・寂しかった。」
そういって彼の胸に顔を寄せるとユーリの心臓の鼓動が高鳴った気がする。
そのままそうしていると仕方がないな、という風にユーリの腕が俺の頭を抱きしめた。
「・・・俺も・・寂しかったよ。あんたがいなくて・・・。・・・もっと離れてる時なんていっぱいあったのに・・寂しかった」
「ユーリ・・・すみません。そのお詫びに明日はずっと一緒にいましょうね?」
耳元でそう囁き、顔を上げるとユーリは小さく頷く。
「うん、明日は一緒にキャッチボールしような、コンラッド」
・・・って、俺、そのために来たんじゃないじゃん!
思わず雰囲気に流されてコンラッドに押し倒された俺は本来の目的を思い出してハッとした。
「って、そうじゃなくて!コンラッドっ!」
「ん?どうかしたんですか、ユーリ?」
慌てて上半身を起こすと俺のシャツのボタンをはずし始めているコンラッドが不思議そうに顔を上げる。
その目の前に俺はキスマークのついている手首を差し出した。
「これ、これはなんだよ!!」
「これは・・キスマークですけど・・。たりませんでした?」
手首を掴まれ、そのキスマークを唇でなぞられぞくんと体が震える。
「違うって!なんでこんなところにつけるんだよ!!今日、村田に見つけられて大変だったんだからな!」
「なら陛下もつけてくださればいいじゃないですか」
真っ赤な顔をして一気にそこまで言う俺を見てコンラッドがその薄茶に銀の光彩を散りばめたような瞳を細めながら答えた。
「だから、陛下って・・・っ−え?」
予想外の事態に思わずきょとんとする俺を見ながら彼は自分の軍服を脱ぎ出す。
「ユーリの好きなところ、どこにでもつけてくれていいですよ?」
そ、そんなこと言われたって・・・っ。
思わず、「いえ、結構です」といいそうになる俺の手首をコンラッドはちゅっときつく吸い上げた。
「ん・・・っ・・」
唇が離されるとそこには鮮やかな赤い痕がついている。
「貴方は俺のものです。でも、それと同時に貴方は誰のものでもない。・・貴方は王だから。でも、俺は貴方のものです。」
さらりと髪を撫でられて俺は微かに瞳を細めた。
「コンラッド・・・」
「・・・俺は、結構嫉妬深いんです、ユーリ。時折、自分でも嫌になるくらいに。」
辛そうに瞳を細めるコンラッドがどうしようもなく切なくて俺はコンラッドの指を絡めるようにして手を握る。
「・・・ユーリ?」
「・・・確かに『魔王である俺』は誰のものにもなっちゃいけないのかもしれないけど・・・。でも、あんた言ってくれたじゃん。俺が魔王だから守るんじゃない。心の底から俺を守りたいと思っているから守るんだって。」
「・・・ユーリ」
「・・・『俺』はあんたのものだよ・・コンラッド」
俺はそう言うとコンラッドの手首にそっと唇を落とした。
「そうですわよね、そうですわよね!」
「あれは絶対にそうですわよね!」
「一体どこのお方かしら」
次の日、城中に『コンラッドの首筋にキスマークがある』という噂が流れ、その噂を聞く度にやけに機嫌のいいコンラッドと真っ赤に頬を染める魔王陛下がいたという。
Fin
〜あとがき〜
祝!77777Hit!ありがとうございます!
「流星雨の子守歌」を始めて早1年と8ヶ月あまりがたちます。
その間に本当にジャンルがあちこちと移動しました。
(最初はバトテニとテニプリからはじまりました。)
ここまでこれたのも皆様のおかげです。
本当にありがとうございます。
これからも「流星雨の子守歌」をよろしくお願いいたします。
*お持ち帰り期間は終了しました