灰色の雲が空を覆っているある日の朝。
俺−渋谷有利原宿不利−は、身体にシーツを巻き付けただけの格好で自室のベッドの中にいた。
いつも隣で「クピピ、クピピ・・・」と寝息を立てているフォンビーレフェルト卿ヴォルフラムは、昨夜から執務で出掛けていてまだ帰ってきていない。
その代わりではないけれど・・・。
俺はちらりと自分のベットへと視線を落とす。
俺が寝ていた場所の隣ではダークブラウンの髪と左眉に傷跡を持つ青年−ウェラー卿コンラートが小さく寝息を立てていた。
こういう時、俺が起きる頃にはすでに顔を洗って服装を整えている彼にしては珍しいことだ。
「そういえば、コンラッドの寝顔なんて滅多に見ないもんな」
そう呟くと俺はコンラッドの顔をのぞき込んだ。
薄茶に銀の光彩を散らばめた瞳は今は固く閉ざされていて開く気配はない。
「・・・疲れてるのかな?」
彼の髪に触れるとコンラッドが微かに身じろぎをする。
「っ・・かわいー・・」
そんなコンラッドを見たのはかなり久しぶりで、俺は思わずくすくすと笑い声を漏らした。
その時、−ポツ−という音が耳に届き窓の外へと目を向ける。
空はどんよりと曇っているがまだ雨は降っていない。
「・・でも、今にも雨降りそうだよな」
窓の方へ身体ごと向ける。
いつもならとっくにコンラッドとランニングに出掛ける時間なんだけど・・・。
「・・・はぁ・・」
窓の外を見つめているうちに俺は小さく溜息をついた。
・・・魔鏡によって過去に飛ばされたあの日。
俺の前世・・・っていうか俺の魂の前の持ち主であるフォンウィンコット卿スザナ・ジュリア−ジュリアさんの上に広がっていた空も今にも雨が降りそうだった。
20年前の大シマロンとの戦争−コンラッド達の部隊が戦場へと向かう前の日−。
「ルッテンベルクの戦い」が起こる1日前。
「・・・コンラッド」
肩越しに彼を振り返ると彼はまだ寝息を立てている。
・・・彼の左眉の傷と腹の傷はその時ついたものだ、と教えてくれたのは誰だっただろう。
大シマロンでのテンカブの時、俺の前に「彼」が現れた時もこんな空だった。
「彼が3人目だ。」
・・・
「ユーリの魂はジュリアのものだ!」
ヨザックの・・必死に叫んだ「彼」の声が耳によみがえってきて思わずシーツ越しに裸の胸を押さえる。
そして・・・。
−「俺の主はもう、貴方では−」
「貴方です」
「えっ・・・?」
いつの間にかシーツに皺が寄るくらい握っていると、俺は自分が暖かい腕の中に閉じこめられていることに気がついた。
「俺の主はユーリ陛下、貴方です」
耳元で囁かれた声。
「・・・コンラッド?」
そこで俺はやっとさっきまで俺の隣で眠っていたコンラッドが起きたことに気がついた。
「おはようございます、陛下。」
「・・・陛下って言うな」
「・・ユーリ。」
裸のコンラッドの胸に顔を埋めていうとコンラッドの手が俺の頬に触れる。
「ユーリ、愛しています。」
「コンラッド・・・?」
彼の言葉に顔を上げると彼はどことなく泣きそうな顔のまま笑みを浮かべて顔を近づけてきた。
俺を抱きしめるコンラッドの腕に力がこもる。
「すいません、何度呼んでも貴方が反応してくれないのでちょっとヤキモチやいてしまいました。何を考えてたんですか?」
唇をそっと親指でなぞられ身体がぴくんと震える。
「ひ・・秘密!」
とっさにそう答えるとコンラッドの唇が俺の唇に重なった。
「んっ・・・」
コンラッドはそのまま俺をベッドの上に押し倒すと俺の指と絡めるようにして手をつないでくる。
そのぬくもりがとても気持ちいい。
「・・・俺は貴方の傍にいます。いつでも貴方の傍に・・」
「コンラッド・・・」
さぁあああ・・という音を立てて雨が降り始めた。
でも、さっきまでのあの胸の痛みはない。
俺の大切な人はここに・・俺の隣にいるのだから。
そう思うと俺はコンラッドの手をしっかりと握りかえした。
「ずっと俺の傍にいろよ?」
「はい、もちろんです。ユーリ」
そういうと俺たちは少しだけくすくすと笑いあう。
そのあと、コンラッドは「今日だけは、もう少し寝ましょうか。雨も降ってきましたし・・」といって俺をしっかりと抱きしめたまま俺と自分にシーツを掛けてきた。
そうだな、こんな日があってもいいかもな。
今度目が覚めた時は、青空だといいよな・・・。
−おやすみ、コンラッド−
そう呟くと俺は再び眠りについた。
<Fin>
On A Cloudy Sky Morning
〜あとがき〜
「今日からマ王!キャラクターソングシリーズvol.2 ウェラー卿コンラート」の「eternal
ring」を聴きながら書きました。「eternal ring」すごい好きなんです。
なんか本当にコンラッドそのものを歌っているって感じで。
そしてそれをイメージして書いた小説。
ぜひBGMに「eternal ring」をかけながら読んでみてください。
ここまで読んでいただきありがとうございました。