名前のない感情


ウェラー卿コンラート。

眞魔国前魔王、フォンシュピッツヴェーグ卿ツェツィーリエ−通称ツェリ様の第2子で、元プリンセス。
家族構成は、母親のツェリ様に父親が違う兄弟が2人。
ちなみに彼の父親は人間で、もう亡くなっている。
ダークブラウンの髪に薄茶に銀の光彩を散りばめた瞳を持つ好青年。
超美形揃いの魔族の中では少し地味だけど、それでも充分格好いい。
背も高いし性格も良くて声もいい。
剣の腕は眞魔国で1、2を争う。
ギャグが寒いという欠点はあるけれど、それ以外は完璧。

だからだろうか、コンラッドは恐ろしくモテる。
しかも老若男女問わずに。
しょうがないとは思う。

でも・・・何か・・・胸にチリッとしたものがひっかかるんだよな・・・




「コンラート、この書類のことだが・・・」

「あぁ、それは・・・」

「隊長、ちょっといいですか?」

「あぁ、ちょっと待ってくれ、ヨザ」

「コンラッド、ごめん、ちょっとこっちもいいかしら?」

「はい、師範」

眞魔国−血盟城、中庭。

俺−渋谷有利原宿不利−は先ほどから聞こえてくる声にそちらの方へ顔を向ける。

「はぁ・・・」

「忙しそうだね、ウェラー卿」

無意識に出た溜息に、俺と向かい合う椅子に座っていた双黒のの大賢者−村田健−通称ムラケン−が苦笑いを浮かべた。

「・・・うん。最近ずっとこんな調子なんだよな」

俺たちは今、中庭で小さなお茶会を開いている。
お茶会っていっても、出席者は俺と村田、ヴォルフラムにグレタの4人だけなんだけど。

ちなみにコンラッド達は同じ中庭にはいるんだけど、俺たちがいる机が置いてある場所からは少し離れた場所でなにやら書類の確認をしている。

そもそも最近忙しくて俺の相手を出来ないお詫びに「天気がいいからお茶会でもしませんか?」って言ってきたのはコンラッドだったんだけどな。

「ユーリ!お菓子もってきたよ!」

コンラッド達がいる反対方向から元気な声が聞こえ、そちらの方を見ると細かく波打つ赤茶の髪と、同じ色の凛々しい眉。
よく日に焼けたオリーブ色の肌の少女−俺の愛娘であるグレタが銀のトレイをもって歩いてくる。
そのトレイ上には大きなティーポットと美味しそうなお菓子が乗っている。

「ありがとう、グレタ」

そういってその赤茶の髪を撫でるとグレタが嬉しそうに笑った。

「それにしても・・・」

ティーポットなどを机に移しながら村田が声があちらを見る。

「あっちは大変そうだね」

「仕方がないだろう。元はと言えば仕事を溜めていたコンラートが悪いんだからなっ!」

「ヴォルフラム」

グレタが来た方向と同じ方向からフォンビーレフェルト卿ヴォルフラムと俺たちと同じ双黒で村田の同級生でもある門崎裕哉が歩いてきた。

「あれ?門崎どこにいたんだよ、探してたのに」

「え、そうなのか?ごめんな、ちょっとグウェンダルに頼まれて宝物庫にいたからさ」

苦笑いを浮かべる門崎の服は確かに埃で汚れている。

「そうだったんだ。あ、門崎も一緒にお茶しないか?」

「ん・・・ありがたいお誘いなんだけどさ・・・」

俺の誘いに少しだけ困ったような表情になりながら門崎はコンラッドたちの方を見つめる。

「門崎?」

「もしかして、何か見えるのかい?」

ティーポットを持ったまま村田が尋ねると、門崎は小さく頷いた。

「うん、ちょっとやばいことが起きそうなんだよな」

「何だと!?」

その言葉にその場にいる全員がそちらへと視線を送る。

次の瞬間、聞き慣れた声があたりに響いた。

「グウェンダル、ここにいたのですね!」

え・・・い、今の声って・・・

「あ、アニシナ!何のようだ!」

「何のよう?決まっているでしょう!新しい魔動装置が出来たのです。ということで、もにたあになりなさい、グウェンダル!」

「アニシナさんの声・・・だよな?」

「なるほど。確かに『やばいこと』だね」

顔を引きつらせている俺の隣で村田が苦笑いを浮かべる。

「ちょ・・・ちょっとまってよ、アニシナ!今グウェンダル連れて行かれると困る・・・」

しばらく呆然としていたサヤさんが慌てたようにアニシナさんに声をかけた。

「おや?ではサヤ、貴女がもにたあになってくれるのですか?」

「・・・え?」

その一言にサヤさんが固まる。

「・・・私、魔力ないし。っていうかギュンターはどうしたのよ?!」

そういえば・・・ギュンターはここにはいないよな?

「フォンクライスト卿にはすでにもにたあになってもらっています。先ほどまでずっと『私ではなくグウェンダルにしてください!』とか何とか騒いでいましたが、しばらくしたら静かになりましたね」

・・・

辺りがシンっと静寂に包まれた。

「・・・ア・・・アニシナさん」

意を決して声をかけるとアニシナさんがくるりと俺たちの方へ振り向く。

「あら陛下、猊下。ごきげんよう」

「う、うん・・・」

「相変わらず絶好調だね、フォンカーベルニコフ卿」

「えぇ、猊下。おかげさまで。あら、そこにいるのは裕哉ではないですか」

アニシナさんの瞳が獲物を見つけた獣のようにキラリと光ったのは・・・きのせいだよな。

その様子を見るとグウェンダルが小さくため息をついた。

「裕哉、ギュンターを放っておくと何が起こるかわからん。行くぞ」

「え・・・あ、はい!じゃあまたな、渋谷、村田」

グウェンダルの言葉にアニシナさんの視線で体をこわばらせていた門崎は慌てて頷くとグウェンダルの側へと寄っていく。

「コンラート、書類のことはまたあとで聞きに行く」

「あぁ、分かったよ。グウェンダル。」

コンラッドはおかしそうな笑みを浮かべながら答える。
それを見て小さく頷くとグウェンダルは門崎の手を取り、ものすごい勢いで歩いていった。

「お待ちなさい、グウェンダル、裕哉!こうなれば仕方ありません!ヴォルフラム、貴方がもにたあになりなさい!」

しかし、アニシナさんはすでに次の獲物を見つけていた。

「な・・・なにぃ!?」

「あはは、ここは逃げた方が良さそうだね、フォンビーレフェルト卿」

村田がにっこりと微笑んだままヴォルフラムに話しかける。

「っ・・・言われなくても分かっている!というか、お前もここにいたら危険だ、逃げるぞ!」

ヴォルフラムが村田の手を取ると、だっと走りだした。

「え・・・ちょっと・・・フォンビーレフェルト卿!?」

「え・・・げ、猊下?!ずるいですよ、閣下!俺なんてまだ猊下と手も握ったことないっていうのに!」

その後に続いてヨザックも2人の後を追おうとする。

「あ、隊長、俺もまたあとで来ますんで、よろしくお願いしますね」

そういうとヨザックはコンラッドに頭を下げて村田達の後を追っていった。

その時、俺の胸の中でまた何かがつっかえる。

何だろ、これ。

何かすごくもやもやする・・・。

だって、今日は天気が良くて。
コンラッドがお茶会をしないかって言ってくれた時、凄く嬉しくて。
でも、肝心のコンラッドが俺の隣にはいなくて・・・。
それがなんかつまらないっていうか・・・嫌で・・・。

「陛下?どうかしたんですか?」

「え・・・?」

考え込んでいた俺はその声にハッとして顔を上げる。
目の前にはいつの間に来たのかダークブラウンの髪の青年が立っていた。

「コンラッド・・・」

・・・『陛下』って呼ぶなよ・・・

コンラッドは俺の額に触れると心配そうに眉を寄せる。

「もしかして、どこか調子でも悪いんですか?」

「・・・そうじゃ・・・ないけどさ」

俺はそこまでいうとコンラッドの軍服の裾を握った。

「ユーリ・・・?」

コンラッドが怪訝そうに俺の名を呼ぶと俺はハッとして慌てて軍服の裾から手を離した。

「あ・・・ごめん、コンラッド。」

冗談交じりにいいながらも俺は、その場にいたくなくて走り出す。
背中に「ユーリ!」という声がかけられたが、俺は立ち止まらなかった。

こんな風に何かが引っかかるような感覚に襲われだしたのはつい最近だ。
コンラッドが誰かと話したり、一緒にいるのを見ると胸がもやもやして・・・。
やがて、何かがひっかかるように・・・苦しくなってくる。

そんで・・・

「コンラッドは俺のものなのに」っていう考えが頭の中でぐるぐると回って・・・。

何で・・・何でこんな気持ちになるんだよ!




「ユーリ!!」

後ろから聞こえてきた声と同時にパシッと腕を掴まれた。
振り向かなくても分かる。
それが誰の手なのかぐらい。
そのままぐいっと引き寄せられ、相手の胸の中に収まる。

「・・・コンラッド・・・」

微かに心音が早くなっている彼の胸に顔を擦り寄せた。
俺の息も上がっている。

「・・・どうしたんですか?陛・・・いえ、ユーリ」

俺の髪を優しく梳きながらコンラッドが囁いてくる。

「・・・分からないんだ。なんかさ・・・あんたが誰かと話したり笑ってたり、一緒にいるのを見ると胸が凄くもやもやして・・・。そんで、頭の中『あんたは俺のものなのに』っていう考えばっかになるんだ。あはは、ごめんな、コンラッド、俺おかしいよな」

そう話しながらも俺はコンラッドの軍服の胸元をぎゅっと握りしめた。
目の奥がジンっと熱い。

「知りたいですか・・・?」

「え・・・」

コンラッドは俺の目尻をそっと擦るとまっすぐに俺を見つめてきた。

「何でそんな気持ちになるのか、知りたいですか?」

薄茶に銀色の光彩を散りばめたような瞳が優しげに細められる。

「・・・知りたい・・・」

「なら、ユーリ、キスしてください」

俺の髪を梳きながら囁かれた言葉に俺は耳を疑った。

え、ってか今何ていった!?

「・・・え?」

「ユーリからキスしてください」

にこりと微笑みながらコツンと額と額をぶつけられる。
それだけで俺は顔がかぁあああっと熱くなるのを感じた。

「こ・・・コンラッド・・・!?」

すぐそばにコンラッドの顔がある。

「・・・ユーリ・・・」

優しく名前を呼ばれ、俺の胸が高鳴った。

「・・・わ・・・分かった」

覚悟を決め、俺は少しだけ背伸びするようにながらコンラッドの唇に自分の唇を重ねる。

「・・・ッ・・・」

コンラッドの腕が俺の背中と腰に回され、ぎゅっと抱きしめる。

「ッン・・・」

そして、俺はやっと心のつっかえがとれた気がした。




どこをどう走ったのか覚えていなかったけど、俺たちは人通りがほとんどない迎賓館の側まで来ていた。
コンラッドは俺を姫抱きにしたまま嬉しそうに微笑んでいる。

俺が感じていた感情は『独占欲』だと唇を離したコンラッドが教えてくれた。

そして、彼は「できればそこに『ヤキモチ』も入っているともっと嬉しいんですが」と照れたように笑った。

「それにしても・・・ユーリがそんな気持ちでいてくれて嬉しいです」

「・・・え?」

「そんな気持ちでいるのは俺だけだと思っていたから」

「コンラッド・・・」

「嬉しいよ、ユーリ」

そういうとコンラッドは口付けを落としてくる。

「ユーリ、今夜は俺が貴方を独占していいですか?」

「・・・それって結局、俺もあんたを独占することになるじゃんか」

その言葉に少し頬を染め、笑いながら答えるとコンラッドも同じような微笑を浮かべていた。

「ではお互いがお互いを独占するということで・・・。愛しています、ユーリ」

その言葉と共にコンラッドの唇が俺の額に触れた。


                                



                  

                                                     Fin




〜あとがき〜

久しぶりのコンユ小説です!(汗)
一応、コンラッドがユーリに対して抱く独占欲については以前書いたので(ぇ)、今回はユーリがコンラッドに対して抱く独占欲を中心に(笑)
ってか、次男出番少ないっ!!(汗)

それから、きっとユーリは「独占欲」という名前は知っていると思います。
ただ、名前は知っていてもそれがどんな感情なのか分からないんです!(ヲィ)

これ、コンユっていうよりオールキャラのような・・・。
ちなみに、大賢者については村プでヨザケン風味です(ぇ)

それでは少しでも楽しんで頂ければ幸いですv

ここまで読んで頂きありがとうございましたv