「あ~・・今年もまたチョコ1つももらえないだろうなぁ・・」

2月14日。聖バレンタインデー。
ここ、日本では女の子が男の子に告白してもいい日。
そして女の子達は意中の人に思いを伝えるために思い思いのチョコレートを作って手渡す日だ。
そんな中、俺-渋谷有利原宿不利・・・-はため息をつきながらチョコを両手に持って歩いていく小学生を見つめていた。

・・・そんな風に持つとチョコはとけるぞ~・・・。

「なんだよ、渋谷。辛気くさいなぁ」

何度もため息をつく俺をみて隣を歩いていた双黒の大賢者-中学校の時、同じクラスだった村田健をみつめる。

「だってさぁ・・。やっぱり彼女からのチョコレートとかほしいじゃんか!」

「・・・『彼女』はいなくても『彼氏』はいるだろ?渋谷には」

「っ!!」

さらりと言われた言葉に頬がぼっと熱くなるのを感じた。

そうなんだ、彼女いない歴は更新中まっただ中。
なんだけど、本当言うと今は彼女はほしいとは思わない。だって、彼女はいないけど・・俺には彼氏というか・・恋人がいるから。


俺の恋人の名前はウェラー卿コンラート。
異世界の眞魔国での俺の保護者兼護衛。そして、俺の名付け親だ。
ダークブラウンの髪に薄茶色に銀色の光彩を散りばめたような瞳。
声も性格もスタイルもいい、顔もよければ腕も立つ。
本当に申し分なくいい男。
あ、でもたった一つの欠点はギャグが壊滅的に寒いってことだよな。

でも、あの目であの声で『ユーリ』って呼ばれると・・・。


「渋谷?しーぶやってば!!」

目の前で手を上下に振られハッとして村田を見る。

「な、なんだよ、村田!!」

慌てて答えるが村田は小さく肩をすくめただけで何も言わない。

「あーあ、渋谷は本当っにウェラー卿のことが大好きなんだね。僕といてもウェラー卿のことばかり考えてるんだ?」

「な・・・っ・・そっ!?」

思わず言葉に詰まり口をぱくぱくさせていると村田が俺の肩をたたいた。

「それで?渋谷はもちろんウェラー卿に何かあげるんだろ?」


「どうするんだ」

「どうしましょうかねぇ」

「どうすればいいのよ」

「どうしようか」

同時刻、眞魔国-血盟城、執務室。

その部屋の中には俺-ウェラー卿コンラート-をはじめ、サヤ、グウェンダル、ヴォルフラム、ヨザック、ギュンターが窓の外を見ながらため息をついていた。

「今日、ユーリ陛下が来てくれればいいんだけど・・」

サヤが窓から視線をはずしながら再びため息をついていた。
今、この執務室は甘い匂いに満たされている。
下手をすれば気分さえ悪くなりそうだ。

「しかし、坊ちゃんが今日帰ってきたってどうしようもないでしょ、こんなたくさんの量、1日や2日で食べきれる量じゃないんだから。」

「・・・それどころか、こんなの毎日毎日3食これでも1ヶ月はかかるわよ」

「でも、さすがは私の陛下ですね、このようにたくさん・・。陛下がどれだけこの国の国民に愛されているかよく分かります。あ~・・・陛下・・今すぐお会いしたくて堪りません」

ギュンターはそういうとクネクネと動き出した。

「・・・確かに眞魔国では『日ごろの感謝を込めて』っていう思いを込めて渡す人が多いからね、たまに恋愛感情で渡す人もいるみたいだけど・・」

そんなギュンターを完璧無視しながらサヤが綺麗にラッピングされているうちの箱の1つを取る。

「~~~っ、あの浮気者~~~!僕という者がありながら、このようなたくさんの・・っ」

ヴォルフラムの機嫌はさっきから最悪で、自分が持っていた『それ』を握りつぶす。

「でも、本当にどうするんですか?こんなにたくさんのチョコ」

ヨザックの言葉に執務室が埋め尽くされるほどの大量のチョコが山積みになっている中でその場にいる全員が、もう何度目か分からないため息をつきあった。


「そういえばさ、コンラッドはユーリ陛下に渡さないの?チョコ」

血盟城-中庭。

あのあと、さらに馬でチョコが山のように届けられた言うのを聞き、執務室を出た俺と師範は並んで歩いていた。

「あんなに沢山チョコがあるのにこれ以上チョコを渡してもユーリも食べきれないだろうから・・・」

苦笑いを浮かべながら答えると師範が首をかしげる。

「そうかしら・・。やっぱり好きな人にもらうのって特別だと思うわよ?」

「・・・何もチョコじゃなくてはいけないわけではないから。俺はユーリに違うものを渡すつもりだよ」

俺はそう言うと小さく微笑んだ。

「俺はユーリに沢山のものをもらっている。それを少しでも返したいと思うから。」

そう、彼には沢山のものをもらいすぎているとさえ思う。
ユーリはきっとそんなこと気にしないんだろうけど・・。

「で?何あげるの?陛下に」

「実はまだ決まっていなくて・・・。ユーリなら何でも喜んでくれるとは思うけど・・・」

師範は俺を見つめていたがやがてぽんっと何かを思いついたかのように手を打つ。

「私、コンラッドしかユーリ陛下にあげられないもの知ってるわ!」

「・・・俺にしか?」

「そうコンラッド以外には誰もユーリ陛下にあげられないもの」

師範はそう言うと悪戯微笑を浮かべた。


「ただいま~・・・」

「おかえり、ゆーちゃん!お風呂沸いてるから入っちゃいなさい!肩までよーく浸かるのよ」

再び地球。
もうすっかり日は落ちてあたりはゆっくりと闇に染まっていく。
俺-渋谷有利原宿不利-は、結局学校でもチョコを一個ももらうことはなく家路についていた。

村田はどうだったんだろ?

あ・・そういえば、眞魔国にはバレンタインとかあるのかな?

そんなことを考えながら脱衣場で服を脱いでいると風呂場からパシャンと水の跳ねる音が聞こえる。

「・・・あれ?」

時間的から考えても俺が一番風呂のはずなのに何で水が跳ねる音が・・?

「ま、まさか、誰か入ってる!?・・わけないしなぁ・・」

そう呟きながら風呂場のドアを開けるとそこには・・

「コ・・コンラッドっ!?」

「ユーリっ」

そこには何故か俺の護衛兼保護者兼名付け親・・・そして恋人でもあるウェラー卿コンラートが全身ずぶ濡れで浴槽の中に座り込んでいた。

「な・・・なんであんたがここにいるんだよっ!?え、ってかどうやってきたの!?」

いきなり現れたコンラッドに驚きながらも彼のダークブラウンの髪がぐっしょりと濡れていることに気がつき俺は慌てて脱衣場に戻るとタオルを一枚持ってきて彼の頭をわしゃわしゃと拭く。

「うっわ・・びっしょぬれじゃんか。なんか替えの服ないか見てくるからちょっと待ってて・・」

そこまでいうとコンラッドに腕をそっと掴まれた。

「待って下さい、陛下」

「わっ・・って、陛下って言うな、名付け親っ!」

「はい、ユーリ。・・・ユーリ、会いたかった。」

耳元で囁かれ頬がぼっと赤くなるのを感じる。

そんなの、俺だって・・

「俺も、会いたかったよ・・・。コンラッドに。」

俯きながらそう答えているとコンラッドの首に見慣れないものが巻かれているのに気がついた。

「あんた、首に何を巻いてるんだよ。これ・・びしょぬれになっちゃってるけど・・リボン?」

そう、コンラッドの首に緩く巻かれているのは水色のリボンだった。

「実はサヤ師範の計画で・・・。サヤ師範によると『俺』がユーリへのバレンタインの贈り物らしくて」

「え・・?」

眞魔国にもバレンタインってあるんだ!?

ってかそれ以前にコンラッドがプレゼントって、サヤさんっ!?

慌てる俺を見てコンラッドがクスリと笑う。

わーーー、俺絶対今顔赤いっ!

「陛下宛のチョコは眞魔国の執務室に山ほど届いていますから。チョコはしばらくいらないっていうくらいに。」

「そんなに届いてるのかよっ!?」

「はい。」

・・・なんかちょっと帰るのが嫌になったかも・・・。

「・・ユーリ・・」

コンラッドはそう言うと俺を優しく抱き寄せる。
そのままそっと頬を撫でられ顔を上げると、俺の大好きな人の顔がそこにはあった。

彼の薄茶色に銀色の光彩を散りばめたような瞳が優しく細められた。

「もらってくれますか?プレゼント」

「う、うん・・」

真っ赤になりながら頷くとコンラッドは俺をぎゅっと抱きしめる。

「愛してます、ユーリ・・・。」

「・・・っ・・お、俺も・・愛してる・・っ」

蚊の鳴くような声だったけどそう囁くとコンラッドの唇が俺の唇に重なる。

「っ・・・」

何でだろ、そのキスはチョコよりすごく甘く感じた。

・・コンラッドをプレゼントに選んでくれたサヤさんに感謝しないとな。


眞魔国-血盟城。水月沙耶の自室。
沙耶はグレタと共にホットチョコレートをゆっくりとテラスで飲んでいた。
こちらの世界でも真っ赤な夕日が今まさに落ちようとしている夕暮れ時だ。
ひんやりと冷えた風が髪を撫でていく。

「ねぇ、サヤ。ユーリ、サヤとグレタが選んだプレゼント気に入ってくれたかな?」

実は一番始めにコンラッドをプレゼントにしようと言い出したのはグレタだったのだ。

「ユーリ、きっと喜ぶと思うから!」という言葉にコンラッドは逆らえず、あんなリボンを付けたまま地球へといったのだが・・。

「えぇ、絶対。・・・大好きな人と一緒にいられるのが陛下にとっては何よりのプレゼントだと思うわよ?でも、陛下が帰ってきて、プリンセスがユーリ陛下のプレゼントはコンラッドにする!って言ったってしったら陛下はびっくりするかもしれないわね」

こちらに帰ってきた時のユーリの慌てぶりを想像してサヤはくすりと笑みを浮かべた。

明らかにグレタは毒女の影響をばっちり受けている。

「サヤ。あのね、グレタ、ユーリもヴォルフラムもグウェンもアニシナもコンラッドもギュンターも皆好きだよ?サヤのことも大好きだからね?」

グレタはホットココアから口を離すとカップをソーサーに戻し、にこりと微笑みかける。

赤茶色の髪が夕日によってよけいに赤みを増している。

「ありがとう、グレタ。私も貴女が大好きよ。」

サヤはそう答えると胸元から小さな包みを取り出してグレタに差しだした。

「私からのプレゼント。受け取って下さい。」

グレタはそのプレゼントとサヤを見比べていたがやがてプレゼントを受け取った。

「ありがとう、サヤ!」


-Happy Valentine!!-                       


                          

                                      Fin

With Love...

~あとがき~

ぎりぎり間に合った、バレンタイン特別コンユ小説です!(ヲィ)
Free小説にするかどうするかで最後まで悩んでいました・・・。
そして誕生日に続き、コンラッドがプレゼントだよ、自分(汗)

ユーリの誕生日小説の時も悩んだ気が・・。

しかし、結局サヤが登場しているため、Free小説は取りやめに・・・。
もし、「Free小説」がいい!といお優しい人がいれば言って下さい。
For Youします。あ、ちなみに返還は不可で(笑)

日本以外の国では、お互いに思い合ってる人同士がチョコやプレゼントを交換するということがバレンタインの主流だそうです。もちろん、それは家族同士、友達同士などでも・・・ということです。

ちなみにチョコは「恋の媚薬」と言われてます。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
ここまで読んで頂きありがとうございましたv