大粒の雨が窓を叩いている。あたりは早朝らしく静寂が漂っていた。まだ、城にいる者達も起きてはいないのだろう。そんなことを考えながら俺は上半身を起こし隣に眠る愛しい人に目を移した。黒い髪に黒い瞳をもつ第27代目魔王陛下は今、俺の隣でぐっすりと眠っている。
             「ユーリ・・」
優しく名前を呼ぶと微かに眉を寄せ俺のぬくもりを求めるようにして身体をすり寄せてきた。当分目覚める気配はない。


          おかえり



        「コンラッド・・・。迎えに来たよ」
   「元気そうだな、隊長。生きていてくれてよかったよ。」
昨夜遅く、すべてが終わったあと「魔族側についた人間」という理由で反逆者と見なされ捕まっていた俺を助けにきたのはサヤ師範とヨザックだった。俺が捕らえられていることを知らせてくれた者がいたらしい。
            「師範、ヨザック・・」
驚いたように格子がはまった窓に近づくと2人は鮮やかな手つきで格子を外し始めた。
 そして2人に助けられ血盟城に戻った俺を待っていたのは皆の心から安堵した表情と、それとは正反対のユーリの無表情な顔だった。ユーリは拳を握ったまま動こうとしない。
              「陛下・・・」
ヨザック達から俺を助けに行くよう言ったのはユーリだったと聞き、俺は彼が俺を受け入れてくれるのではないか・・という希望があったがそれはすぐに砕け散った。許してなんて言えるわけがない・・。当然だ、俺のしたことは彼を傷つけた。何度彼を俺のせいで苦しめたのか数え切れないぐらいだから・・。そう感じ思わず瞳をそらせるとユーリの瞳が小さく揺れた気がした。
            「・・コンラッド・・」
小さな声で名を呼ばれ俺はユーリを再び真っ正面から見つめる。やがてユーリは自分から俺の方へ歩んできた。俺たちが離れていた時間を埋めるように・・・何か重大な決心を胸に秘めているかのように・・。俺の目の前で止まったユーリの涙からは涙が次から次へと溢れていた。
               「ユー・・」
思わずその涙をぬぐおうとして手を伸ばそうとしたがその瞬間ユーリは俺にどんっと飛びついてくる。
             「へ・・陛下っ!?」
しっかりと抱き留めながらもとまどったように声を上げるとユーリは目頭をごしごしと擦り笑顔を見せてくれた。いつも通りのあの愛しい笑顔を・・・−。
         「・・・『陛下』っていうな・・名付け親!」
その瞬間、俺はすべてを理解した。この人は・・・俺を許してくれるのか・・・。
      「そうでした・・すいません、ユーリ。・・・ユーリっ!!」
たまらなくなり強く抱きしめるとユーリもそれに答えるように俺に強くしがみついてくる。彼は俺の耳元で何かを呟いた。それは小さな・・とても小さな声だったが確かに聞こえた声。


          『おかえり・・コンラッド』


向こうの方ではヴォルフラムが「抱き合うなーー!」と騒ぎまくり、それを沙耶とヨザックがまぁまぁと言って止めているのが目に入った。
         「コンラッド・・コンラッド・・」
未だに胸に顔を埋めているユーリから俺は少し体を離すとそっとユーリの頬を両手で包んだ。その頬を涙で濡れている。俺のために泣いてくれているのかと思うと少しだけ胸が痛んでユーリの目頭を親指で擦る。
          「コンラッド・・?」
不思議そうにユーリが声をかけてくる。俺はその濡れて潤んでいる漆黒の瞳をしっかりとみつめた。
  「ユーリ・・約束します。俺はもう2度と貴方のそばを離れないと・・。今度こそ決して貴方を1人にはしない。」
そう囁くとそのまま唇を重ねた。
             「・・・!!」
それと同時にユーリは目を大きく見開き俺を見つめていたが、やがてその瞳を閉じ再び俺の背中に腕を回す。次の瞬間、ヴォルフラムが指を構えこちらを睨み付けていた。
           「・・やばいな・・」
               「え?」
「この浮気者ーーー!!『炎に属するすべての粒子よ、創主を屠った魔族に従え!!』」
ヴォルフラムの手の中に赤く輝いた火の固まりが浮いていた。
    「え・・え・・ちょ・・ヴォルフラム、ストップ、ストップ〜〜!!」
ユーリのせっぱ詰まった声があたりに響き少し離れた場所でヨザックと沙耶が俺を見て「あ〜あ・・」と手で顔を覆っている。その隣にいる大賢者−猊下は楽しそうにくすくすと笑っていた。




           「・・・コン・・ラッド?」
ユーリの髪を梳きながら昨夜のことを思い出していると隣から小さな声が聞こえてきた。
        「あ、すいません。起こしちゃいましたか?」
少しだけ申し訳なさそうにそう言うと彼は首を振り俺の頬に触れる。
      「夢じゃないよな、コンラッドはいまここにいるんだよな。」
そう呟く声が微かに震えている。俺はユーリの手に触れるとその掌にキスを落とした。
     「えぇ・・夢じゃありませんよ。俺はここに・・ユーリの隣にいます。」

−昨夜、皆がそれぞれの部屋にひいたあと、ユーリは俺の部屋に尋ねてきた。−
       「一緒に寝よう」と照れたように笑いながら・・・。

久しぶりに抱いた彼の身体は前と変わらず俺を受け入れてくれて・・俺もユーリも涙を流しながら行為に及んでいた。何回ヤッたか分からないほど何度もお互いの名前を呼んでしっかりと抱き合っていた。
             『コンラッドっ、コンラッド・・・!』
俺を求めるようにしがみついてきたユーリに何度も心の中で謝罪と・・そして愛を呟いていた。

          「身体の方は大丈夫ですか、陛下?」
   「大丈夫、少しダルイだけだから・・。って陛下って言うな、名付け親。」
            「そうでした、ユーリ。」

いつも通りの挨拶をすませながら俺たちは唇を再び重ね合う。あと少ししたらユーリが自分の隣にいない事に気がついたヴォルフラムとギュンターがこの部屋に飛び込んでくるだろう。
 「さ、陛下。少し服装を整えましょうか。昨日あんな事してしまったんできっと今日は大変ですよ」
        「な・・!あんたがしたんじゃねぇか!!」
俺の言葉に耳まで真っ赤になりながらユーリが全裸のまま飛び起きる。
             「あはは・・」
そして俺は久しぶりに心から微笑みを浮かべた。
              「ユーリ。」
             「ん、なに?」
             「ただいま・・・」

そういってユーリの腰に腕を回し再びベッドに押し倒す。
         「え・・・!?ちょ・・っ、コンラッド?!」
そのまま強く抱きしめるとユーリが慌てたように俺の腕の中で暴れるが絶対に離さない。




いつの間にか雨は上がりうっすらと青空が見えていた。


                                   <fin>                        
あとがき

コンラッドが戻ってくる話ですね。少しずつ訂正させて頂きました(汗)・・・・どこに力を入れてるんだ、というツッコミは無しでお願いします(こら)きっとユーリはどんなに酷いことをされてもコンラッドを見捨てることはないんじゃないかなぁ・・と。結局はラブラブなんですが・・(笑)でも、コンラッドとユーリには幸せになって欲しいと思っていますv