「え?お袋、明日からでかけるのか?」
珍しく家族4人がそろっての夕食をとっている週末の渋谷家。
そんな中、お袋がいきなり言い出した言葉に俺−渋谷有利原宿不利・・・は思わず箸で掴んでいたエビフライを落としてしまった。
「そうなのよ。ママの友達がね、久しぶりに同窓会をしないかっていってきてね。あぁ、それはいいわね、じゃあ今週の週末に集まりましょうってことになったのよ。」
ずいぶん突拍子のない同窓会を計画したものだ。それで人は集まるのだろうか・・。
お袋は嬉しそうにそう答えながらご飯をもぐもぐと食べている。
「だから、明日の夜からはご飯は自分たちで何とかしてね。しょーちゃん、ゆーちゃん。」
「俺も明日から出張でいないから、頼んだぞ。しょーちゃん、ゆーちゃん」
それに続いて親父までが口を開いた。
・・・ってことは明日から3日間勝利と2人きりかよ!?
「悪いけど、俺明日から3日間、大学の用事で出かける・・って前にもいったはずだけど?」
しかし、予想に反して勝利はもくもくと食事をとりながらそう答える。
「え・・・?勝利までいないのか?」
思わずそういうと勝利の目が一瞬光ったのは気のせいだろうか。
「なんだ、有利。お前がそこまでお兄ちゃんにいてほしいならいてやってもいいぞ?」
にやりと意地が悪そうに笑う勝利の顔を見て俺はきっぱりと「いや、いらない」といい放った。
「勝利がいてもどうせ話とかしないし・・・」
「だから、お兄ちゃんと呼べと言っているだろう!」
「誰が呼ぶか!!」
そんな俺たちのやり取りを見ながらお袋がため息をつく。
「じゃあ明日から3日間、ゆーちゃん1人になるのね。なら、ママやっぱり行くのやめようかしら」
「俺、もう16だよ?行ってくればいいじゃんか、お袋。大丈夫、留守は俺に任せてよ!」
お袋を安心させるように自らの胸を叩きながら宣言した。
一応、これでも魔王なんだし・・・ってそれは関係ないか。でも、家事ぐらい出来るはず・・。
「でも・・・」
「大丈夫だって。いざとなったら村田に来てもらうからさ」
あっちの世界でもこっちの世界でも頼りになる奴の1人、大賢者様の名前を出すとお袋は手をパンッと叩いて頷いた。
「ゆーちゃんがそこまでいうなら・・。おみやげ楽しみにしててねv」
次の日の夕方、友人と別れた俺は特に急ぎもせず家へと向かっていた。
「今日から月曜の夜まで誰もいないんだよな・・・」
とりあえず、今日の夜はお袋が何か作っておくっていってたから家帰ったらそれを食べればいい。
でも、これってある意味でラッキーだよな。
ここ最近、あっち−眞魔国では色々あったから少しくらいこっちではのんびりしたいしな・・・。
そんなことを考えながら自転車を漕いでいた俺は段々と見えてきた自宅に違和感を覚えた。
今、家には誰もいない・・・。
なのに、なぜか電気がついているのだ。
「・・・え?あれ・・な・・なんで電気が・・?」
お袋が消し忘れてたとか?
まさか・・・泥棒!?
電気をつけて物を探す泥棒もいないだろう、というツッコミはおいといて俺は自転車から降りるとそっと玄関へと向かった。
「おかしい・・やっぱりおかしい・・」
そう呟きながらドアのノブをそっと回す。
・・・カチャ・・・
玄関には鍵がかかっていなかった。
ど・・どうする・・!?もし、このまま入っていって泥棒と出くわしでもしたら・・。でも、ここでじっとしているわけにも・・。
そう考えながらそっとドアを開けるとそこには想像すらしていなかった出来事が待ち受けていた。
「ユーリ、おかえりなさいっ!!!」
ドアを開けると同時に、明るい女の子の声が聞こえてきて何かが俺にドスンッと勢いをつけて飛びついてきたのだ。
「うわわっ!?;」
いきなりのことに驚いて俺はその何かを抱きかかえたまま後ろへと尻餅をつく。
そして、その何かに視線を移すと・・・
「グ・・グレタっ!?」
そう、そこにいたのは細かく波打つ赤茶色の髪と、同じ色の凛々しい眉と瞳、そして日に焼けたオリーブ色の体をもつ愛娘だった。
「ユーリ!ユーリ!」
喜ぶように俺の胸に頭をぐりぐりと押しつけてくる愛娘に嬉しい反面、俺はかなり困惑していた。
ここが俺の国−眞魔国なら分かる。
でも、ここは地球で日本だろ!?なんでグレタがここにいるんだよ!
「あ、やっぱり。プリンセスがすごい勢いで走っていったからもしかしてと思ったんですよ。お帰りなさい、ユーリ陛下?」
続いてリビングから姿を現したのは・・・
「サ・・・サヤさん!?」
いつものダークブルーの軍服ではなく、白と紺のチェックのワンピースというサヤさんの姿にも驚いたけど・・。
なんで皆、日本にいるんだよ!?
「な・・なんで・・」
まだ座り込んだままの俺の手をサヤさんは取ると簡単に立たせてくれた。
「私は・・・まぁ、里帰りみたいなものですね。陛下も私がこの日本にいたことはご存じでしょ?それで久しぶりにグウェンダルから休暇を奪い取って、お世話になった人たちに挨拶をしにいこうと思って・・・。そしたらそれをしったプリンセス達もついてきてしまいまして・・・」
「ちょ・・ちょっとまって?『達』ってことは・・・他にも誰かいるのかよ!?」
俺が慌てて尋ねると苦笑いをしながらサヤさんがゆっくりと頷く。
「えぇ・・・。さっきまでヨザックもいたんですが、猊下が迎えに来まして・・・。・・・あと1人は今、キッチンで料理中ですよ?」
「・・・え?」
その言葉に思わず靴を脱ぎ、キッチンへ向かう。
俺の仲間の中でキッチンにたてる奴と言ったらかなり限られてくる・・・っていうか1人しかいない。
ほとんど確信を持ってキッチンへ向かうとダークブラウンの髪をもつ青年が何かを包丁で切っていた。
その格好はいつものカーキー色の軍服ではなく、よく俺が城下に行く際に彼が着ている私服に近い感じだ。
かといっても今日はいつも腰にあるはずの剣はもっていないようだけど・・・。
「・・・コンラッド?」
小さな声で名前を呼ぶと青年が包丁を置き、こちらへと振り向く。
そこには俺の名付け親兼ボディガード・・・そして恋人でもあるウェラー卿コンラートがいつも通り人の良さそうな笑顔を浮かべて俺を見つめていた。
「ユーリ、お帰りなさい。すいません、ユーリの母上の手紙に『夕食は準備できなかったから自分で何とかしてくれ』って書いてあるって師範にいわれまして・・・。」
言われてみると彼の後ろでは鍋が火にかけられていてあたりにはかなり良い香りが充満している・・じゃなくって!
俺が何も言えずに固まっているとコンラッドがくすりと俺の方に歩いてきた。
そのままそっと頬に触れるとこつんと額と額を合わせる。
「いつも、ユーリから来てもらってばかりだからたまには俺からいってもいいかなっておもって。」
至近距離で柔らかく微笑まれ顔がかぁあっと真っ赤に頬が染まる。
さ・・・さすがコンラッド・・・。
「ユーリ・・・」
少しだけ顔を俯かせてしまうとコンラッドが名前を呼ぶ。
少しだけ伺うようにコンラッドをみると薄茶色の瞳の中に銀の光彩の星が見えた。
その瞳が愛しげに細められる。
「・・・コンラッド・・・」
その瞳に吸い込まれるように瞳を閉じる。
彼はクスリと笑うとゆっくりと俺の唇に自分の唇を重ねてきた。
「ん・・・ッ」
コンラッドの大きな手が俺の後頭部に添えられる。
そのまま唇で唇をなぞられるようにされぞくぞくと体が震えた。
「・・・ッ・・ふ・・」
微かだが口を開くとそこからコンラッドの舌が流れ込んできて・・・。
それと同時に腰に回された手が学ランの中に入ってきてシャツをひっぱりだし裾からコンラッドの手が俺の背中を直になで回す。
「アッ・・・」
舌を絡め取られ、舌の先を甘噛みされ体がびくんと跳ねる。
その間にもコンラッドの手は俺の胸板にたどり着き、何かを探しているかのように胸全体を撫でられた。
「あ・・・ッ、ま・・まって・・コンラッド・・っ」
息継ぎの合間に名前を呼ぶがコンラッドの手は止まらない。
「−−お取り込み中の所申し訳ないけれど・・・」
その言葉に俺がハッとして台所の入り口を見るとサヤさんが苦笑いしながら立っている。
「私とプリンセスは今日は私の知り合いの家に泊まるから・・・陛下をお願いね、コンラッド?っていっても、この世界じゃよっぽどのことがないかぎり大丈夫だと思うけど・・・」
そう話すサヤさんにコンラッドは微かに微笑み俺を自分の方に抱き寄せた。
「あぁ。ユーリのことは俺が命をかけてお守りするよ。任せておいてくれ」
「じゃあ・・いってきます。陛下、また後日。」
コンラッドの言葉に微笑むとサヤさんは俺に軽く会釈をして歩いていった。
やがてパタン・・・というドアが閉まる音が聞こえてあたりには静寂が広がる。
今、この家にいるのは俺とコンラッドだけ・・・。
なんか2人っきりって緊張するよな・・。
「陛下・・突然来て迷惑でしたか?」
そう言われると同時に俺の服から手を抜いたコンラッドにぎゅっと抱きしめられた。
「へ・・?何言ってるんだよ、コンラッド!?」
迷惑なわけないじゃんか!それに血盟城ではここまで2人っきりになれることなんてないし・・・。
「そんなことないって!むしろ・・・」
気持ちを伝えたくて俺はコンラッドの背中を優しく撫でる。
「むしろ・・。俺はコンラッドとこうしてこっちの世界でも一緒にいれることが・・嬉しいよ」
恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら囁くとコンラッドが嬉しそうに微笑んだ。
「ユーリ・・・ありがとう。」
彼はそう言うと俺の額に口づけを落とす。
「さぁ・・・。まずは夕飯にしましょうか?そのあとは一緒に風呂に入って・・・」
「俺んちの風呂、せまいぜ?男2人入れねぇって。風呂から上がったらテレビ見て話しして・・・−」
じゃれるように俺の顔にキスを落としながら彼が尋ねてきた。
「その後は・・・?ユーリ・・・」
「その後は・・・−−」
よけいに真っ赤になり俯くとコンラッドは俺の耳元で囁く。
「一緒のベッドで一緒に夢をみよう−−」
「・・・うん。」
そう頷くとコンラッドの唇が再び俺の唇と重なった。
「ここに連れてきてくれたサヤに感謝しないといけないな。」
「そうだよな、今度何かお礼しないとね。」
そういって2人でくすくすと笑い合う。
ただそれだけのことがこんなにも幸せだと思えるのはきっと素晴らしいことで・・・。
俺はこれから始まる休日に少しだけ胸を躍らせた。
Fin
Room To Stay With You...
〜あとがき〜
「せめて夢の中だけは・・・」がかなり切ない系になってしまったので、今度は甘々なコンユを!!と意気込んで書きましたが・・・甘いのかな、これ(汗)
あー・・・甘いのが書きたい!書けるようになりたい!
え〜・・・「眞魔国の住人IN日本」です!この4人はどうやって眞魔国からきたのでしょう?まぁ、それはきっと・・・沙耶が・・・うん(ヲィ)
では、ここまで読んで頂きありがとうございました!