桜がだいぶほころび始めた3月のある日。空は真っ青に澄み渡っている中、氷帝学園中等部の卒業式は行われた。


GRADUATION AND CONFESSION



「ジロー、こんなところにおったんかい。皆探してるで?」

男子テニス部のすぐそばにある大きな桜の木の下で寝転がっていたジローに忍足が声をかける。
いつもと違うのは忍足の胸にも自分の胸にも大きな花のブローチが付けられその手には卒業証書の入った筒が握られていることだろう。
              
「・・忍足。」

ジローは瞳をあけるとどこか寂しげに微笑んだ。
             
「ジロー・・・?」

そのジローの表情に内心どきっとしながらも平静を装いながら尋ねるとジローはすぐにぱっと表情を変え忍足の手を掴んだ。
    
「皆、待ってるんだよね!早く行かないと跡部に怒られちゃうよ。」

いつもの表情に戻ったジローを見ながら首をかしげながらも忍足はすぐに頷き皆が待っている場所へと走り出した。

    
「宍戸さ〜〜・・ん・・卒業してないでくださ〜・・い!!」
     
「何いってんだ、長太郎!ってかいい加減に離れろよ!」

音楽室内・・。
いつも通りのやりとりをしているのは宍戸と長太郎だった。
長太郎は顔面を涙でぐしゃぐしゃにしながら宍戸の腰にしがみついている。
宍戸はそんな長太郎を何度も引きはがそうとしていた。
  
「だって、卒業したら誰が跡部さんの毒牙から守るんですか?!」
     
「あぁん?誰のことをいってやがるんだ、鳳よ。」

長太郎の心からの叫びを聞いて跡部が眉を潜めるが今日は長太郎を宍戸から引きはがしには来なかった。
      
「樺地。お前も2年間、ご苦労だったな。」

跡部がいつも通り偉そうな口調で樺地の胸をどんっと叩きながらいう。
            
「・・ウス。」

そういった樺地の声が微かに鼻声になっているのは気のせいだろうか。
   
「それにしても遅いなぁ・・。侑士とジローと神月・・」

岳人がつまらなさそうに机に座りながら入り口を見ている。日吉はその隣で腕を組んで壁にもたれていた。
          
「宍戸さん〜〜〜!!」
         
「だーーー、うぜぇ!!!」
         
「わりぃ、遅くなった!」

がらっとドアを開け音楽室に入ってきたのは聖だった。
その手には筒とは別に大きなビニール袋が下げられていた。
         
「神月、それどうしたんだ?」

岳人が尋ねると神月はそのビニール袋をあける。
中にはペットボトルのジュースが何本か入っていた。
 
「学食のおばさん達から卒業祝いだってさ。各部活のマネージャーが取りにいけって担任からいわれてさ。」
          
「おぉ、ラッキーじゃんか!」

机に置かれたペットボトルのジュースを見ながら岳人が嬉しそうに声を上げる。
  
「あれ・・・?忍足とジローはまだなのか?」

辺りを見回しながら神月がそういうと岳人が頷いた。
     
「そうなんだよ、侑士、どこまでジロー呼びに行ってるんだよ。」

岳人がすねたようにいったのを聞き、跡部と宍戸がハッと顔を見合わせる。
         
「もしかして・・ジローのやつ・・」
   
「ああ・・。やっと自分の気持ちに気がついたみたいだな・・」

跡部がそう言って肩をすくめる。
       
「え・・・え・・・?それどういうことだよ!?」

岳人が目を見開き、2人に駆け寄った。
 
「そういえば・・ジロー先輩、忍足先輩にチョコレート渡してましたよね、バレンタインの時」

長太郎が宍戸の腰にしがみついたままふと思い出す。
  
「あ・・そういやぁ・・俺も見たな、それ。確か羊型のチョコレートだったよな?」

聖も続いて確認するように跡部達に問いかける。
   
「あぁ。しかもあれはジローのお手製だぜ?・・なんか変な臭いしてたけどな」

宍戸はそう言うと遠い目をして答えた。
        
「・・じゃあジローってもしかして・・忍足のこと?」
   
「本人はつい最近まで自分の気持ちにすら気がついていなかったみたいだけどな」
                
「嘘だろ!?」

神月が納得したように頷いていると岳人が目を見開きながらいう。
そしてその後ろでは日吉が明らかに凹んでいた。

    
「桜、もうすぐ咲くねーー。桜咲いたら皆でお花見とかいかない?」

その同時刻、昇降口まであと少しの道をジローと忍足は並んで歩いていた。
           
「花見か、えーなぁ・・。いこか・・」

忍足が柔らかく微笑みながらそう答える。
やがて昇降口につき、忍足はそのまま入っていこうとするがジローはそこで立ち止まった。
               
「ジロー?」

そんなジローに気がつき忍足も足を止めるとジローを訝しげに見つめる。
     
「どないしんや?さっさといかへんとマジで跡部にどやされ・・」
              
「忍足侑士!!」

いきなり名前を呼ばれて思わず忍足が口を噤んだ。
            
「・・俺は・・俺は・・」

ぎゅっと筒を握る手に力がこもる。
 
「俺は忍足のことが好き!友達とかの『好き』じゃなくて、亮ちゃんと景ちゃんがお互いに思っているような気持ちと同じで忍足のことが好き!」

ジローは最後までいうと肩で息をしてちらっと忍足をみた。忍足は俯いたまま固まっている。
 
「・・・・な・・なんちゃって・・。冗談だC!ほら、早く跡部達のところに・・」

泣きそうになる気持ちをぐっと押さえジローが忍足の横を走りすぎようとしたその時・・・。
              
「俺もやで。」

ぼそっと忍足が呟いた。
              
「え・・?」
  
「だから・・俺もジローのことがあいつらと同じ気持ちで『好き』なんや!」

そういうと忍足の顔が一気にかぁあああああっと真っ赤になる。
         
「お・・忍足・・かわい〜〜〜!!」

ジローはそのまま忍足に抱きついた。

          
「やっと両思いになったか・・」

昇降口からそんな声が聞こえてきたのはその時だった。
              
「っ!?」

忍足がばっと昇降口を見るとそこには跡部と宍戸の姿があった。
           
「ジロー、よくやったな」
           
「亮ちゃん、景ちゃん!!」

ジローはぱぁあああっと顔を輝かせるとそのまま2人の方へと走っていく。
      
「え・・・え・・・?これ・・どういうことなん?」

その場にぽつんと残された忍足がなぜか冷や汗をだらだらかきながら2人に尋ねると2人はにやりと嫌な笑みを浮かべてこういったのだった。
        
「「ジローを泣かせたら承知しねぇからな?」」
        
「・・・なんやねん、それーーーー!!!」

忍足のむなしい叫びが青空へと吸い込まれていった。
                               




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